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(No252) 立川談春独演会 鑑賞記その2   
          

 平成23年4月30日(土)、京都府立府民ホール アルティで開催された立川談春独演会のメモ。

 



立川 談春 「棒だら」


「どしたんだよ?」
「・・・・気に入らねぇことがある!」
「何だよ?」
「鯛の塩焼き!寅さんのは立派なのに、俺のは皮ぁ破れてるし、骨が見えてるし」
「そら、おめえが食ったんじゃねぇか!」
「・・・・この小鉢もそうだよ。寅さんのは芋と蛸の煮物なのに、俺のには芋しか入ってねえ」
「さっき、おめえ、美味い、美味いって蛸ばかり選って食ってたじゃねえかよ」
「そんなのだめだよ。とにかくさ、こうやってさ、野郎ばっかりで呑んでるのと、きれいなお姐さんにお酌してもらって呑むのとどっちがいいのかって言ってるんだよ」
「何でぇ、結局、女がいねえって文句言ってるのか。じゃあ、いいよ。芸者呼ぼう」
「へへへ、それが、ここんとこふところが秋の夕暮れでね。寂しいんだ」
「いいさ、四人も五人も呼ぼうってんじゃねえだろ?一人くれぇなら、おごってやるよ」

 
「いいのかい?(ぱん!ぱん!と手を叩いておかみを呼んで)おい!おかみ!芸者!イキのいいとこ、一匹生け捕ってきてくれ!」
「おほほほ。面白いおっしゃりよう。まるで猫みたいにおっしゃるんですね」
「猫?芸者だけにな、うめえこと言うじゃねえか。芸者だぞ。酌婦呼ぼうってんじゃねえから。若いだけで芸のないのは要らねぇからな。年増の腕っこき頼まぁ!」
「はいはい、承知しました・・・・」
(と立とうとする)

「おいおい、大事なことを聞き逃してるよ!

 男の思う年増と女の思う年増にゃあ大きな隔たりがあるんだよ。

(しわがれた声で)こんばんは〜』って声からしておかしいからね。

『犬が人より大事にされてた時代をご存知ですかぁ?』って、何でそんな哀しい時代の話をしなきゃいけねえんだ。

 泣いたって涙がつつっ〜と下までつたっていかないからね。
 目じりのしわにひっかかり、ほっぺたのしわを乗り越えて・・・・・あごに着く頃にゃ乾いちまってる。

 そうだな。27、8。30凸凹・・・・」
「では、さっそく・・・・」
「座れよ!何でそう急ぐんだ。やたら、酒の強い女はだめだぞ。
『はい、じゃあお言葉に甘えて・・・・』って、誰がお言葉をかけた?酒ぇ呑まなくても、胃が丈夫で、勝手に料理頼んで、3人前食うような女はだめだよ」
「それじゃあ・・・・」
「だから座れって。あと金をねだる女もだめだぞ。酒を呑まずに飯も食わねぇで、そうだな、帰りにこづけぇでもくれるような妓
(こ)がいいな。・・・・・って早く立てよ!何、落ち着いてんだよ!言うことは全部言ったよ!行け!牛馬の如く働け!」 

「あ、姐さん。すまねえな。こいつバカなんだ。(と、祝儀を渡す)
 いけねえぞ!おめえは。姐さんは、話の切れ目におめえに酒ぇ注ごうとしてたのに、そのたんびにおめえが止めるから仕方なく腰、落ち着けたんじゃねえか。それをおめえは!」
 
「・・・・寅さん、俺は面白くねえ」
「何がだよ!」
「向こうの座敷に芸者が3人入っていったんだ。俺ぁさっき見たんだよ。あの座敷にゃあ客は1人しかいねぇんだ。こっちゃあ2人で芸者1人なのによぉ」
「いいじゃねえか、そんなの」

 


「鮫塚さま!ご無沙汰してます。お見限りで。浮気されたんでしょ?もう、憎い人!」
「俺ぁ浮気なんぞ、してねぇだよ。で、何だ、その娘らは?」
「ええ、こっちが、みーちゃんで、こっちは、はーちゃん。今、修行中で私が面倒見てるんです。鮫塚さまのお座敷は勉強になるんで、連れてきました。
 お料理は、どうしましょう?」
「んだば、赤ビロビロの醤油づけ」
「・・・・・赤ビロビロの・・・・・醤油づけ?」
「分からねぇか?まぐろのさすむだ!」
「まぐろの、さすむ?ああ、刺身?
(横の芸妓に)勉強になるでしょ?
 他には?」
「えぼえぼ坊主のすっぱつき」
「・・・・・・・・・・蛸の三杯酢?」
「うん!
(両脇の芸妓に)学べ!」

 


「寅さん〜〜!隣は田舎侍(ざむれぇ)だよ〜!
 赤ビロビロ〜?”さすむ”だとよ!
 えぼえぼ坊主?気味悪くて、俺ぁ蛸が食えなくなるよ!あのバカ!!」




「ん?どこかの客が、わがへぇのことをバカと・・・」
「え?そんなの聞こえた?
(と、両脇の芸妓に)聞こえなかったわよねぇ?

 そんなことより、粋なおのどを聞かせてくださいな」
「んだば、”もつのくつばす”をやるぞ。目を閉じて聴け。

(両手を縦に食い違いに交差させる。百舌鳥のくちばしを表現しているのだろう)
♪もぉ〜つのく〜つばす! 〜   たぬきゃあ〜の腹鼓 ぽんぽこぽん!♪」

 

 

「寅さぁ〜ん!!」
「分かるけど・・・・・」
「たぬきゃあ〜〜の腹鼓って。どこの国の歌だよ!!」

 

 

「鮫塚さま。受けてます」
「よす!んだば、”十二かげち”を歌うぞ」
「”十二ヶ月”?」
「つがう!十二かげち!

♪一がち〜は松かざり!
 二がち〜は、テンテコテン
 三がち〜は、ひなまつり♪」
そのままのお歌でございますね
「♪八がち〜は、あっちっち〜

 十二がち〜は、大晦日。

ご〜〜〜ん おめでとうございます♪」

 


「寅さぁ〜〜ん!!」
「今度は俺も分かるぞ」
「俺ぁ、今の歌覚えちゃった」
「覚えたのかよ!」
「何だ、十二がちは大晦日。ご〜〜ん、おめでとうございますってぇのは!
 俺ぁ一緒にお辞儀しそうになっちまった。

 都々逸でも歌えねぇのかよ!
♪西国 四国の島々までも都々逸ぁ 恋の橋渡し〜♪てぇじゃねぇか。

 どこの田舎侍でも、西国、四国のどっかにゃいるんだろ?

 何でぇ、あの”歌い終えた感”は?”俺はやった!”みたいな。」

 


「鮫塚さま、ここぞって歌はないんですか?」
「そうか。んだば、”利休”を。

 ほれ!そりゃぁ〜!はっ!はっ!
(と手拍子)

 

「何が始まったんだ?

 寅さん、あの田舎ざむれぇ、俺に気合かけてやがる。
 一つ、面ぁ見て・・・」
「やめろい!あっちはあっち、こっちはこっちでやりゃあいいだろ!

 よせってんだろ!どうせ後始末するのは俺だ。ぶっ飛ばすぞ!」
(寅さんの剣幕に驚いて)・・・・・分かったよ。行かないよ。 


 あの・・・・・寅さん、おしっこ行っていい?ダメなら、ここでもらすけど」
「しょんべんだな?なら、いいよ。行ってこい」
「うん、大丈夫だから。


・・・・・・障子が少しばかり開いてやがら。俺にのぞいてくれってことだな。どれどれ・・・・・・・。

 ああ、ああゆう奴か。何だ、芸者の白けきった顔は・・・・・。あ、あ、ああっ〜〜!!!

(寄りかかり過ぎて、侍の座敷の中に転がりこんでしまう)

こりゃ、どうもご無礼を・・・」

「何じゃ、その方は。他人の座敷に乱入しおって。人の降ってくる天気でもあんめぇに」

「何ぃ?わけの分からねぇ歌ぁがなりやがって!ええ?さすむ?江戸じゃ、ありゃ刺身ってんだよ!
(うんうん唸りながら、刺身舟盛りの舟を両手でつかんで)
これでも食らえ!」 

「ぐぐ!乱入の無礼をはたらいた上に、武士の面体に・・・」
「お〜?何でぇ、刀の柄に手ぇかけやがって、どうすんだ?斬るのか?面白れぇ。こちとら、切って赤い血が出なきゃお代はいらねえ、西瓜野郎ってのはおいらのこった。

 ふんふん唸りやがって、おめえは糞づまりの狆か!どうせまともな刀も持っちゃあいめぇ。竹光って、木に銀紙貼ってやがんだろ!」

(うんざりした表情で)あの野郎、弱いくせにタンカだけは切れるからなぁ。

(襖を開けて、侍の座敷に入り)どうも、すいやせん。こいつバカなんです。勘弁してください」
「こ、これ!その者を連れて行ってはいかん!その方は誰じゃ?その者の朋友か?」
「ほうゆう?いえ、違います。ただの友達で」
「何?バカにしおって!一人斬るも二人斬るも同じこと。そこに直れ!」

 乱暴な侍で、長いやつをずらっと抜き放った。驚いたのが座敷の芸者で、階下に向かって「大変です!お客様が喧嘩を!お侍さまが刀を抜かれました!」

 ちょうど、下では調理場で料理人がタラもどきの仕上げで胡椒をこう、気取った形でかけていまして。
 板場も慌てて胡椒持ったまま上に上がって、
「まあ!まあ!お侍さま!どうか、落ち着いて!」
「こちらのお客様も!どうぞ!どうぞ!」
「芸妓さんも何してんだよ!ほれ!お侍さんと!お客さんと!お止めして!」

 胡椒の入れ物を持ったまま、手をぱ〜ぱ〜振るので、侍も町人も芸者も、しゃべろうとするが、くしゃみが出てしゃべれない。

 殺気立っていた侍が「やめにしよう」と刀をしまう。

「どうしたのですか?」
「故障(胡椒)が入った」がサゲ。

 「くっしゃみ講釈」のサゲも、
「何ぞ故障があるのですか?」
「胡椒がないさかい、とんがらし、くすべたんや」

 つまり、「故障」とは、苦情とか差し障りといった意味なのであろう。

 あと、いくつかの点について。

(1) 私は「利休」と聞こえたのだが、「琉球」が正しいようだ。
(2) 私は、談春が長〜いものを、しかもかなり重そうに引っくり返したので勝手に「舟」と書いたが、マグロだけなら、舟盛りじゃなく、ただの皿かも?
(3) 「タラもどき」って料理はどんなものか分からない。仕草の感じでは、いくつか並んだ小鉢に、ていねいに、少しずつ胡椒を振り掛けていた。
 「〜もどき」というのだからタラそのものじゃないんだろう。魚のタラじゃなく、山菜のタラの芽なんだろうか?それなら、「棒だら」ってタイトルにならないか?
(4) 「棒だら」ってタイトルの意味もよく分からない。本来の「棒だら」ってのは、鱈を3枚におろした干物。
 伝統的な京料理で「芋棒」というのがある。桜などでも有名な祇園の円山公園にいくと「いもぼう」という看板がかかっているのを見たことがある。(食べたことはないが)
 これは、海老芋と棒鱈の炊き合わせである。

 棒だらとは俗語で酔っ払いという意味らしい。酔っ払いが出てくる噺が「棒だら」だから、酔っ払いそのものを棒だらというようになったのか、別に理由があるのか?

 「タラもどき」って料理が出てくるから、適当にこの噺は「棒だら」とついたらしい。

 何かはっきりしてないとこが多くてすんません。




 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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