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(No25) 堺市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記その1 

 平成18年10月17日(火)午後6時30分より堺市民会館大ホールにて開催された、恒例堺市民寄席の桂米朝一門会の鑑賞記その1。

 私がここに顔を出すようになって3年目である。

 会場で配られたパンフレットには先日骨折された米朝師匠の名前はなく、月亭八方師匠の名前が印刷されていた。
 別に事情が事情だし、八方師匠がどうこう言うわけではないのだが、会場には「米朝師匠が怪我のため代演で・・・」といった貼り紙は一切なかった。
 それこそ米朝師匠の骨折について事前には知らず、当日まで楽しみにしていた人も一人や二人ではないと思う。
 「何だかなあ。誰だって師匠の骨折は知ってると思ってるのかなあ。パンフもちゃんと八方師匠を入れて印刷してるんだから、文句はないだろうと思ってるのかなあ」といささか釈然としないまま、席に着いた。

 

 



(1) 桂雀太 「道具屋」

 緞帳が上がった。舞台左手の「めくり」(出演者の名前を書いた日めくりカレンダーのような看板)には「桂ざこば」と出ている。
 しかし、手元のパンフレットには、ざこば師匠は中入り前の位置で書いてある。

 ああ、米朝の一番弟子といえばざこば師匠だから、順番を急きょ入れ替えてでも、まず師匠の欠場をお詫びするのか。やはり惣領は責任感が強いなあと、いささか感じ入り、姿勢を正して座り直した。が、出囃子に合わせて出てきたのは、見たこともない若手である。

 本人は「めくり」の状態には何も気付いていない様子だ。
 「皆さん、私は修行僧ではございません」と、多分、髪の毛をごく短くしているので自分のキャッチフレーズにしているのであろうギャグをかまして、「道具屋」の噺に入る。
 「道具屋」という噺である。ブラブラしている、ごく頼りない男が勧められて縁日の古道具屋をやるという典型的な前座噺である。

 「鯉の滝登り」を「鯔(ボラ)が立ってそうめん食てる」とボケる噺である。

 「鯉が滝登りますか?」
 「登らいでか。(登らないということがあるものか)えら登りや。(やたら登るよ)」
 「え?鰓(エラ)で登るんですか?」というギャグは多少珍しいか。

 「そこのノコ見せてくれ」
 「え?のこ(どこ)にある?
 「いいえな(違うがな)、そこのノコギリ見せてくれ、ゆうてんねん」
 「何や、ノコギリでっかいな。人間、ギリ(義理)欠いたらあきまへん
 「う〜ん、こいつは焼きが甘いな」
 「焼きが甘い?そんなことおまへんやろ。こいつはおっさん(私の叔父さん)が、火事場の焼け跡からひろて(拾って)きて、サビやみなペーパー(紙やすり)で落として、油塗って、柄ぇ挿(す)げ替えたら、どこぞのアホが買うていくかわからんゆうて並べてまんねん。・・・・あんた買うか?」と尋ねる噺である。

 掛軸を見せて、
 「え?谷文晁(たにぶんちょう)の作?はは、文晁はキツイな。こいつは何でしょ、偽物(ぎぶつ)でしょ?」
 「何ですて?偽物?あっ、そうそう、偽物、偽物。こら正真正銘の偽物です。請合います。これ偽物やない、ゆう奴がおったら、わたい怒ります
 「偽物を請合われたら、どもならんな。ほなさいなら」とションベン(客に冷やかしで逃げられてしまうこと)される噺である。

 短刀を見せてくれと言う客に「たんと(たくさん)も、ちょっとも、こんだけしかおまへん」とボケ、「抜けんぐらいのやつの方が、思わん掘り出しもんがあるんや」と客に言われ、必死で抜こうとする客を手伝って端を持ち、
 「ク〜、クッククク・・・ど、道具屋、抜けんなあ」
 「・・抜けまへんやろぉ」
 「な、何で抜けへんのやぁ・・・・」
 「木刀ですう」と答えてずっこけ、
 「何で最初から言わんねん!」
 「い、いやあ。抜けん筈の木刀が、ひょっと抜けたら中からどないなもんが、出てくるかしらん、思て
 「あほ!他になんぞ、抜けるもんはないんかい?」
 「おひなさんの首やったら抜けまっせ」と答える噺である。

 続けざまにションベン(客に逃げられること)されるので、今度はのっけ(最初)から「ションベンできまへん」と念を押そうと考え、「そこのパッチ(股引)見せてくれ」と言った客に、
 「最初にゆうときまっけど、そのパッチ、ションベンはできまへんで
 「ええ?このパッチ、ションベンでけへんの?何や、でけそうに見えるけどなあ」
 「いいえな、でけそうに見えても、これでションベンされたら困ります」
 「・・・・ションベンのでけんパッチ買(こ)うてもしゃあないし・・・また、来るわ」と逃げられ、
 「いえ、いえ、違いますう。オシッコはでけるんですよお、ションベンはでけんけどオシッコは・・・・」と追いかける噺である。

 最後に、笛を手に取った客が、あまり汚いので掃除をしようと指を中に入れ取れなくなり、やむなく買い取ることを申し出る。
 主人公は、「え?買うてくれはんの?・・・・元値は25銭やけどなあ。なんぼにしよ?帰りにちょっと寿司でもつまんで、酒も呑みたいしなあ。着物もだいぶ、くたびれてきたし。おかんも、いっぺん芝居観に連れてってやりたいし・・・。家も古なってきたから、ぼちぼち、やり替え(修繕)んとあかんしなあ。そや、そしたら、いっそのこと、家一軒建て替えて・・・・・・・、あら?えらいこっちゃ、あいつ、おらんがな」
 「もし、どないしはりました?」
 「家一軒、盗まれました」・・・というオチの、クスグリもそこそこ多い前座噺。まあ、無難にこなして、雀太が高座をおりた。

 こういう落語会では開口一番で出た若手が、以後「めくり」を、次の出演者の名前が見えるようにめくり、座布団を裏返し、見台(けんだい)、膝隠しといった小道具を運ぶ雑用をするのが常。
 雀太も、「めくり」に近づいて・・・・ここで初めて、自分が「ざこば師匠」の看板を出して噺していたことに気付いたのである。
 その瞬間の狼狽振りは見ていておかしかった。

 雀太は昭和52年生まれ。平成14年に桂雀三郎に入門したそうである。

 

 



(2) 桂出丸 「酒かす」

 雀太の「めくり」事件をさっそく取り入れ、「名前を間違えんように」と、冒頭にまずボケをかます。

 「私の名前は桂出丸(でまる)と申しまして、ありがたいことに”しゅつがん”と読まれる方はめったにおらんので、あまり間違えられんで済んでます。
 もっとも、こないだ、引っ繰り返ったんか、『丸出しさんでっか?』と聞かれたことがございました。
 
本日は堺の市民寄席で、非常にありがたいことにポスターやパンフレットに私の名前もちゃんと印刷していただいております。
 先日も山口県で米朝一門会をやったんですが、ポスターには米朝!ざこば!南光!・・・・・・・・・・ほか、と書いてあるんですねえ。

 まあ、楽屋では”ほかほか”弁当を食べましたが。まあ、こん時は”ほか”仲間がようけおりましたさかいに、そない気になりませんでした。
 その後、師匠のざこばと落語会をさせてもろたんですが、そん時のポスターには『桂ざこば・・・・・・・ほか1名』と書いてあるんです。「ほか1名」て書くんやったら、「桂出丸」と書くんも印刷屋さんの手間にしたら変わらん思うのですが」

 「いろいろお得な落語会ゆうのがございまして、野田阪神の方で、『おそばと落語の会』と申しまして、落語を五席聴いて、おそばをいただいて1500円と、非常にお得でしょ?

 利久寄席というのは寄席を三席聴いて、後でお鍋料理がついて5000円です。これもよろしいでしょ?(石野注 「利久寄席」というのを検索してみたら、堺東の寄席で蕎麦付きで2000円だった。私の聞き間違いかもしれない)

 京都の方で”かねう”ゆう店がございまして、ここでは、落語三席聴いたうえに、うなぎ丼がついて1300円です。
 こないだ、昼間にご飯食べに行って、メニュー見て、びっくりしました。うなぎ丼1300円。我々は”さんしょ”やないっちゅうねん。
 ポスターには”出演者 うなぎ丼・・・・・ほか”とございました」。

 「ある男が山ん中で道に迷いまして、まあ、遭難したわけですな。と、そこに出てきたのが、大蛇、ウワバミでございます。こら、あかん、呑まれる!と、思いのほか、この大蛇が、ご飯を食べさせてくれ、介抱してくれたうえ、何と、山のふもとまで送ってくれよった。
 どない礼をゆうたらええんでしょう。そうゆうてると、その大蛇が、別れ際に、さわやかに一言。
 『じゃ!(蛇)』・・・・・・・(会場より拍手)いえ、拍手いただくような噺やない。
 まあ、これはあくまでも作り話ですから、どうしても”作為”が感じられますな。ほんまにあった話の方が、おもしろいことがございます。
 こないだも、天神橋の商店街を歩いてますと、前を歩いているおじいさん、水でもまいて下が濡れてたんか、ずでっ!とこけて、えらい膝を打ちはった。
 『い、痛・・・・』とぼやきながら、何とか起きはった。ああ、よかったなと思て、後ろから見てますとゆうと、拍子の悪い、ちょっと歩いたとこでまたこけはったんです。
 そしたら、そのおじいさん、地べたこけたまんま何ゆうてるかゆうと、
 『くっそぉ〜・・・・・こないなことになんねんやったら、さいぜん(さっき)起きるんやなかった』」

 「世界中にお酒がいろいろございますが、そん中でも東西の横綱といいますとビールと日本酒やそうですな。
 まず、東の横綱がビール。これはとにかく歴史が古うございます。何でも何千年も前の古代エジプトの象形文字の中にも書かれているそうです。
 『今日はピラミッドの工事で疲れたさかいに、帰りにエジプトの”養老の滝”(居酒屋のチェーン店の名前)で、ビール飲んで帰る』・・・・って書いてたとか。
 西の横綱、日本酒は飲み方として横綱やそうです。冬のさぶ〜い時は熱燗(あつかん)でよし。夏の暑い時は、冷やでよし。こんな酒は、ほかにおまへんな。
 ちょっとお酒の燗のことをご説明しますと、5度おきに名前がついてるんです。
 まずは30度。これを日なた燗と申します。火ぃ使わんでも、このくらいにはなるんですな。次に35度。これが、いわゆる人肌燗ゆうやつです。そして、40度がぬる燗。このぬる燗がどんなんか、ゆうのを体験したかったら、ぜひいっぺん、風呂に入って、湯ぅを飲んでみてください。肌にあつうて、舌にぬるい。これがぬる燗です。
 続いて45度。これが上燗です。次に50度が熱燗でございます。そして、さらに熱燗好きの方がいらっしゃいますが、55度のお酒、これをとびきり燗と申します。とびっきりの熱燗でございますな。
 さらにもう5度熱いやつ、60度。これを・・・・・あ燗と申します。飲めませんな、これは」

 「最終電車での酔い方を再現いたします。あれ、面白いもんで、脇に女子大生とおばさんがおったら、酔っ払いは不思議とおばさんの方へは行かず、女子大生の方へ行きまんなあ。
 がくん、がくんと何べんも寄ってくるもんやから、女子大生の方もいやがってしもて、とうとうがまんしきれんと文句を言います。『もう!やめてよ!酔っ払い!!』
 これはあきませんな。酔っ払いの方も、心のどっかでは、ああ、えらい酔うてしもたという反省をしとるんです。しかし、その引け目をぐさっ!とつきますもんで、ついつい反発して言い返す。『じゃかましい!ブス!』
 これもゆうてはならん言葉です。お互いにそんな急所の突き合いをするもんやさかい、酔っ払い!ブス!という言い合いになる。
 これも不思議なんですが、酔っ払いは酔うてるようで、不思議と理屈は言いまんなあ。
『そら、俺は酔うてる。しかし、俺の酔うてんのは、明日なったら治るけど、お前のブスは治らん』」

 「酒の強い方は、とことん強い人がいらっしゃるかと思うと、弱い方はとことん弱いんですな。
 たる酒の香りがぷ〜んとただよってきただけで真っ赤になる人がおる・・・・・・・・・・という話を聞いただけで酔うてしまう人がおられます。

 ここにいてたんが、そうゆう至って酒の弱い男でして、その男が親戚から送られてきた酒かすを食べてるうちに、えらいええ具合に酔うてしもた」。

 「うわあ、えらい酔うてしもた。酒かす食うただけで、こない酔うてしまうとはなあ。まあ、ええわ。せや、普段、わいのことを酒も呑めん、情けないやっちゃゆうて、散々馬鹿にしとる奴らにこの顔見せて自慢したろ。
 どれどれ、あっ、おった。お〜い、万さん!万さん!こんちわ!でや、この顔。赤いやろ?」
 「おう、どないしてん?じんましんか?」
 「ちゃうがな。酒呑んで酔うてんねがな」
 「え?ほんまか?何や、お前呑めるんかいな。ほんならゆうてえや、また誘うねんがな。で、どのくらい呑んでん?」
 「どのくらい?ええっと・・・このくらいのんが2枚」
 「・・・・何じゃ、しょうもない。お前酒かす食うたなぁ」
 「わかるか?」
 「わからいでか。どこぞの世界に酒2”枚”ゆうて呑む奴がおんねん。ははあん、お前、いっつも酒が呑めんゆうてわいらに馬鹿にされるさかい、見返したろ思てんねんな。
 わかった、わかった。そしたら、今度から、なんぼ呑んだて聞かれたら、これぐらいの丼鉢で2杯てゆうたれ。そしたら立派な酒呑みや」

 こうアドバイスを受けた下戸が、次は何をアテ(酒の肴)にしたかと聞かれ、「黒砂糖」と答えて酒かすとバレ、今度は「鯛のぶつ切り、わさびのぼっかけ」と答えろとまたまた親切なアドバイス。

 三人目。酒の量も、アテも無事クリアした。これで感心してもらえるかと思いのほか、
 「で、どないして呑んでん?冷やか?熱燗か?」と聞かれ、
 「いや、よう焼いて」、というのがオチ。

 昔笑福亭松鶴師匠で聴いたときは、「これくらいの武蔵野で」と言っていた。武蔵野って、よくわからないんだが、松鶴師匠の手振りや噺の雰囲気から、黒田節に出てくるような大きな平杯(ひらさかずき)かな、と思っていた。丼鉢というのは、わかりやすいのはいいんだが、何か品がなくて、あまり好きじゃない。

 出丸は、昭和39年生まれ。昭和60年に桂ざこばに入門。
 


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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