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(No249) 京都・らくご博物館【春】〜新緑寄席〜 鑑賞記その2   
          

 平成23年4月22日(金)の落語会のメモ。

 



桂 塩鯛 「ひとり酒盛」


 鯛蔵はお茶子さんとして出てきたが、メガネをかけていたのでますます神経質そうな雰囲気に。

 中トリ(前半の最後)は塩鯛。

 
 こんな名前になってしまいまして。
 四代目ゆうことで。三代目は67年前に亡くなってるんです。ですから、誰も先代の落語聴いたことがない。まあ、気楽っちゃ気楽なんですが。

 いやでしょ?こんな名前。人間から遠ざかるみたいで。こないだ裸になったら、脇の下にウロコ3枚はえてた。・・・・・うそですよ。

 この塩鯛ゆう名前でがんばってまいりますので、よろしくお願いします。
(あらためて礼をすると盛んな拍手)
・・・・では、今日はこの辺で。


 まあ、今日は酒のお噂で。
 酒は百薬の長なんて言いますが、ほんまに健康にええ量ゆうのが決まってるらしいですね。その量やったら、毎日呑んでもええ。
 どのくらいやって訊いたら、これくらいの
(両手で小さな丸をこさえて)チョコで2杯。・・・・・・・呑まん方がましや。

「よぉ会いますね。ご近所ですか?」

 と、酒飲みに関する小噺へ。居酒屋で隣り合わせた二人、家を尋ね合って、「そこはわしの家や」、「ちゃう、わいの家や」と喧嘩になる。
 心配した別の客が店の主人に言うが、「ほっときなはれ。あら、親子でんねん」

 そんな酒を時には一晩中呑むてなことがありますが、そないなると頭おかしゅうなって、頭ん中に花咲きまんなぁ。何や、笑(わろ)てなしゃあないてな気分になる。

 と、次の小噺へ。

 夜通し呑んでいた二人連れ。したたか酔った二人が空を見上げ、あれはお日さんや、いや、お月さんやでと言い争いになる。
 ほな、誰か他の人に尋ねてみようということになり、向かいから歩いてきた人にどちらが正しいか尋ねてみる。
 やはりしこたま呑んでいた通行人「いや、わい、この辺のもんやないから」

 
これは二つともよく桂宗助が「替わり目」とか「親子酒」のマクラで使う小噺。私には新鮮味がないが、会場ではよく受けていた。

 私の師匠は、桂ざこばでございますが、皆さんよぉご存知のように、普段から酔ぉてるような人間です。
 えらい見栄っ張りでね。いつも財布をお尻んとこに入れる。あんなとこ、一番感覚の鈍いとこやから、抜かれても分からへん。
 警察の人もゆうてたけど、背広の内ポケットにしまうだけで被害はずいぶん違うらしいです。

 師匠に、内ポケットに入れたらどうですか?ゆうたら、「この緊張感がええねや」て。

 せやけど、歩く時こんな格好で(手を振って歩くが、その度にお尻のポケットを触って無事を確認する)

 こないだ知り合いの結婚式に出たんですがね。あの・・・・・ウェルカムドリンクてゆうんですか、あの制度はあきませんなぁ。時間前にお酒をどんどん出してくれるもんやから、パーティが始まる頃にはボロボロになってる。

「こうゆうとこは、会費のほかに、どのくらい包んだらええんかなぁ?」

・・・・・・そんなん、大きな声でゆうこっちゃない。ちょうど鶴瓶兄さんも来てはってね。

「おい!鶴瓶!お前、なんぼ包んでん?」
「え?5万ですけど」
「・・・・・・わし3万や。・・・・・・・・おい!もう3万」
「大人げないことしなはんな!師匠とわいと芸歴何ぼほどちゃう思てまんねん。・・・・・・・・・・あと2万」

 そこで、祝い金のオークションが始まってね。

 何せ酔うてるからね。

「おい、俺と鶴瓶と、どっちがよぉけ出してるねん?」
 鶴瓶師匠の方が1万多いのも分からへん。

 そのうち、手持ちがなくなって、ほなJCBで・・・、わいはアメックス・・・・・。会場で、えらい、受けて。

 師匠、「でや、盛り上がったやろ?」て。 

 マクラが終ったところで、塩鯛は羽織を脱いだ。

 ずいぶん地味な着物と羽織だなと思っていたが、はらりと脱いだ羽織の裏地は真っ赤な鯛が何匹も描かれていた。

 脱ぎ捨てた羽織がべちゃっとならずに、折り重なった形で半ば立っていたので、裏地の模様がちょうど「にらみ鯛」のように客席を睥睨しているのであった。


 噺は、以前にも書いたが、私の嫌いな噺。

 前に聴いたのは、ええ酒が手に入った・・・・といわば積極的に誘いに来たのだが、今回の噺は「たっつぁん」が引越しの手伝いに来てくれたという設定だった。

 で、訪ねられた男が、引越しは終ったのだが、前の借主が子どもでもいたのか壁に落書きが残っているので、そこに紙を貼ろうと思う。
 手伝いに来てくれたとは嬉しい。ええ酒があるので、呑んでいってほしいと言う。

「何〜んにもしてもらわんでええねんさかいな。酒だけ呑んでいってくれたらええねん」と言いながら、自分は紙を貼る作業の手を休めない。

 で、まだ荷物が片付けられてないので、座ってもらうとこもない。ちょっと、そこの風呂敷包み、二つ、三つ、押入れに放り込んで、「空き地」ゆうのもおかしいけど、座る隙間をつくってもろて、押入れからわいの分も一緒に座布団を出して・・・・といろいろ用事を言いつける。

 茶ぁ飲んでもらうこともでけんさかい、揚げ板上げて炭俵から炭出して、かんてきと、火消壷から「空消し」出して、火ぃいこして(起こして)、で、ヤカンに水入れて、火の上に・・・・・え?水壷の中の水が汚い?そら、次のもんのために水替えとく奴はおらんからな。ほな、水壷、外の共同水道んとこ出して、わい、癇症やみ(神経質)やさかい、キレイキレイに洗(あろ)て、水入れといてくれるか?

・・・・・と茶の用意をさせる。

「せや、鍋焼きうどん、頼も。あら、上の具ぅで酒のアテんなるし。

 この先にうどん屋あるやろ?そうそう、この辺やったら、たっつぁんの方が詳しいねや。ほな、ちょっと行って、二人前ゆうてきてくれるか?

 あ?行ってきてくれた?もうじき終るさかい。
 もう、たっつぁんは、今日は何もしてもらわんでええ。大きな顔して、食べて呑んでしてもらたらええねんさかいな。 」

 前方と両脇は貼り終えたらしく、大きな紙にハケで糊をぺたぺた塗って、両手で持って、客席に完全に尻を向け、後方の壁にぺたっと貼る。

 その後、シワにならぬためか、同じように紙の上をハケでぺたぺたなぞっている。特に「最後」ということか、それまでよりも数多くハケでなぞっているが、あれじゃ紙がボロボロになりはすまいか? 

「おまっとはん。

 ところで、おまっつぁん元気か?あっ、そう?そら女房は元気が何よりやで。いくらべっぴんでも、青い顔してひ〜ひ〜ひ〜言われたらたまらんで。
 べっぴんは三日もしたら飽きるねん。なんぼ不細工でも、そのうち慣れる・・・・・・・・・。

 おまっつぁんと同んなじ顔した娘、どないしてる?領収証みたいな親子。そう、カーボン紙で写したみたいな。あ、そう?元気?」

 と、先ほどたっつぁんに用意させたやかんの中の徳利を「少し早いかなぁ?」とつぶやきながら取り上げ、自分の湯呑みに注ぐ。

「やっぱり早いわ」と言いながら、自分でくいくい空け、なくなったのを確認すると「次、入れといてや」と命じる。

「あ、せや。そこの水屋ん中に柴漬け入ってるさかい、出してくれるか?鍋焼きゆうてるけど、それ来るまで、何ぞないとな。

 せやけど、やっぱ漬物は京都やな。大阪でも柴漬け、売ってないことはないけど、こないだ食べたら、何やシバシバした。いくら柴漬けやゆうてもなぁ。

 そこいくと、これは京都で買(こ)うた柴漬けやさかい・・・・(と、口にして)ん!瑞々しい!

 ちょっと熱いかなぁ・・・・?(と、徳利を取り上げ、自分の湯呑みに注いで)あ、熱いわ。

 いや、もちろん、ええ酒やさかい、これくらいでも呑んで呑めんこたぁないで。せやけど、どうせやったら、たっつぁんには、一番美味しい燗で呑んでもらいたい。・・・・・・・・ということで、こうゆう悪もんは私が退治して・・・・・
(と、これも空けてしまう)

 しかし、何やな。朝から引越しして、ようやく一息ついたとこに一杯呑んださかい、フ〜っとなってきた。

 次はどうかな?(又も自分で注いで)ア〜〜!!惜しいなぁ!もうちょっとやぁ。上燗は人肌なんてゆうけど、ほんまは人肌よりちょっとぬくい方がええねんけど、その”ちょっと”が足りん。惜しいなぁ。

 あ、柴漬け、手ぇ出してや(柴漬けは勧めるが、酒は「惜しい、惜しい」と言いながらこれも空けてしまう)

 次は、でやろ?ええんちゃうか?(と、注いで、くくく・・・と飲み干し)やったぁ!(と、右手を突き上げる)

 これぞ上燗。上燗ゆうのは、呑もう思わんでも酒の方で勝手に喉ぉ通っていくねぇ、クククっと(少しのけぞって、のどの辺りを「クククッと」という声に合わせ、空手チョップのような形で軽く叩く。セリフと所作をもう一度繰り返し、美味い、美味いと飲み干していく)

 さあ!たっつぁん!これが上燗や!(と、ようやく注ごうとするが、空になってるので出てこない。「あらあらあら?」と言いながら徳利を逆さに振るが、出ないので、次を用意しろとばかりにたっつぁんに徳利を突き出す)

 柴漬け、手ぇ出してや。遠慮したらあかんで。わざわざ、引越しの手伝い(てったい)に来てくれたんや。そんな友だちめったにいてへんで。

 さて、湯ぅが温(ぬく)もってきたさかい、ぼちぼちええんちゃうか?続いて上燗ちゃうか?(と、注いで飲み干す。)ん!続いて上燗!調子、乗ってきた。さ、たっつぁん、いこ!(と、注ごうとするが、見咎めて)

 ん?何やねん、その湯呑み。さっき茶ぁ呑んだ湯呑みやろ。茶かすついてるやないか!お前なぁ、酒てなもんは、水一滴まじっても味が変わるんやで。洗(あろ)てこい!


 ったく、酒呑みの風上にも置けんやっちゃで。(と、ぼやきながら、ぐいぐい呑む。と、湯呑みをすすいで戻ってきたたっつぁん)

 え?怒ってへんよ!怒ってへんけどな、礼儀や!っちゅうてんねん。俺が、燗が熱過ぎた時、『わいがこの悪もんを退治・・・』てゆうた、その気持ち、ちょっとでもええ酒を呑んでもらおという気持ちをやな・・・・(と、ぐいぐい呑む)

 しかし、たっつぁんの家は明るぅてええなぁ。嫁はんが、あの顔で・・・・・娘が同んなじ顔で・・・・・ははは、笑(わろ)てなしゃあない。ははははは。今度、落ち込んだ時、行かせてもらうわ。はははははっ・・・・・おい!お前、今、徳利、勝手に取ろうとしたやろ?

 呑むのはええけど、お前ばっかり呑んだらあかんやないか。こうゆうものは、替りべんたに呑まな。差しつ差されつ・・・でいかな。

 ん?何ぶすっ〜っとしてんねん。楽しいにいかな。歌でも歌お!いつものあれ、うとてぇや!いつもの・・・そう、君が代、君が代。直立不動で。♪きぃみぃがぁあ〜よぉおはぁ〜〜♪・・・・・・・不細工なやっちゃ!

 もうええ!俺が歌う。♪ぽっぽっぽぉ〜 はとぽっぽぉ〜〜♪・・・・だはははは。

 ・・・・・・・何ぞ不足なことでもあるんか!そんな陰気な面見てたら、酒も、うもない(美味しくない)
(い)ね!!・・・・・・・・・あれ?帰ってしもた」

「まいど!」
「まいど、て、馴染みないで」
「うどん屋です」
「・・・遅いわ。まあええ。腹減ってるから二人前でも食えるわ」
「・・・・あのぉ、さっき出て行きはった人、最前注文に来てくれはった人とちゃいますのんか?えらい怒ってはりましたで。頭から湯気出して、こんなとこ二度と来るか!ゆうて」

「かめへん、かめへん。あいつ、ちょっと酒癖が悪いねん」

 


 前に聴いた小つる(図らずも、今日の落語会で、後で枝鶴として出てる)の噺と比べると、シチュエーションそのものも違うのだが、「被害者」に一言も語らせないところが大きな特徴だと思う。

 きっちり覚えてないが、小つる以前に聴いた「一人酒盛り」でも、最後、「怒らいでか!自分ばっか呑みやがって!こっちにはいっこも注がんと!」というセリフがあったように思う。
 しかし、塩鯛は、被害者たっつぁんにそればかりのカタルシスも許さない。

 それだけに、被害者の怒りがより伝わってきて、演出的には今回の塩鯛は「丸」だと思った。


 塩鯛は楽屋に引っ込む時、脱ぎ捨てた羽織を持っていかなかった。で、座布団の上では(もちろん、鯛蔵が後で片付けるのだが)羽織の裏の鯛が、客席をにらみ続けるのであった。

 



 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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