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(No246) 立川談春 独演会 鑑賞記その5
平成23年3月27日(日)、堺市民会館での立川談春 独演会の鑑賞メモ。
立川 談春 「子別れ」
「おい、小づけぇ、やろうか?」
「今まで、金くれって言ったら、いきなり怒ったじゃねぇか」
「俺はならず者じゃねぇ!ほら」
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「うわ!すげぇ!50銭銀貨だ。・・・・・先は、1銭くれって言ったら、壁まで飛ぶくらいひっぱたかれたのに。
・・・・・おとっつぁんも苦労したんだね。
あの・・・・買いたいものがあんだけど、買ってもいいかな?色鉛筆欲しいんだ。
青の色鉛筆、買っていいか?空、描きてぇんだ。他のは何とでもなるんだけど、空は・・・・。(父親が涙ぐんでいるのに気づき)あれ?おとっつぁん?」
「いいよ。ありったけ買え!・・・・でも、何で空なんだ?花だって、青でもアジサイなら描けるだろ?」
「・・・・面白いね。おっかさんの一番好きな花はアジサイなんだよ」
「そうかもな。うなぎ好きか?」
「ちっとは考えろよ!こっちゃあ、食うや食わずなんだぞ!」
「うなぎ、ご馳走してやるよ。食いたいか?」
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「食べたい!でも、小づかいとかうなぎとか、どっか何か心にやましいとこが・・・」
「よせやい。じゃ、明日、今時分にここで・・・」
「もう行っちゃうの?うちは、このすぐ近所だよ。おっかさん、喜ぶよ」
「今ぁだめだ。必ず迎えに行くから。
内緒だぞ。ああ、小づかいだけじゃなく、会ったことも、うなぎも内緒だ」
「大丈夫だよ。いろいろあるよね」
(と、亀は駆け出そうとする)
「家は、あっちだろ?」
「鉛筆買ってくる!」
「あいよ、あいよ・・・。(と、亀を目で追う。涙をおさえ)
・・・・・・おっそろしいガキに育ちやがったな!」
(亀は自宅に戻る)
「ただいま!」
「帰ってきたら、仕立物届けに行こうと思ってたのに、遅かったね。・・・・・何してんの?」
「空ぁ描くんだよ」
「紙もどうしたの?亀?その鉛筆どうしたの?もらったの?」
「青鉛筆ばかりくれる人がいるもんか。買ったの」
「お金はどうしたの?」
「しょうがないんだ。それは言えません」
「・・・・・・・本当にいいんだね?」
(と、母は玄能を持ち出してくる)
「ヨッ!ヨッ!持ってきたんだ。ヨッ!十八番!
ゆうよ。玄能が買ってくれたの。おとっつぁんだよ」
「誰?」
「案外、薄情なんだね。大工の熊さんだよ」
「酒臭い息して、汚い服装(なり)で酔っ払って歩いてたんだろ?」
「ううん。酒は三年やめてる。吉原の女とは別れたって」
「(ちょっと表情を変え)酒さえ呑まなきゃ、あんな結構な人はいないんだよ。
(着物の襟元を直し、息を整え)ふふふ・・・・亀!おとっつぁんは・・・・おっかさんのこと、何か言ってたかい?」
「ものすご〜く言ってたけど、一切教えない!」
「もう!」
「50銭小づかいくれて、うなぎご馳走してくれるって言ったんだ」
(あまりにも亀の口が軽いので、場内に笑いが起こる)
女親は嬉しかったんでしょう。一晩、夜っぴて仕立ておろしの服を縫う。
せがれも、遅くまで絵を描いている。
(落ち着かない様子で)
「亀?そろそろ行った方がいいんじゃないかい?」
「おっかさんも一緒に行く?」
「そうゆうことじゃないの」
「お土産で、うなぎ持って帰るからね!」
(待ち合わせ場所で)
「おう!こっちだ。分かるか?」
「大丈夫だよ!
(うなぎ屋の親父に)
二階の座敷、空いてたら頼みます。いろいろ、こみいった話もあるんで」
「へい」
(息子が常連客のような話し方をするのに驚きながら)
「お前は、う巻きがいいんじゃないか。肝焼きも頼もう。酢の物もいいな、うざく・・・・」
「余計な物を頼むのはヤボだよ。こうこ(漬物)で、焼けるのを待たなきゃ。
(親父に)土産で、イカダを二人前・・・」
「どこで覚えたんだ?え?切らないのをイカダって言うの?」
女親は、そわそわと落ち着きません。
「あっ、青い空の絵・・・・。
おとっつぁんに見せるって言ってた。忘れちゃいけないよね。
・・・届けに行こうかしら」
(うなぎ屋の店先で)
「ごめんくださいまし。
うちのイタズラがお邪魔してませんか?」
「ああ、亀ちゃんの・・・。
いや、亀ちゃん、いつもうちの客と話、したりして焼けるまでつないでくれてるんですよ。
礼に、うなぎ食べなよって言っても絶対食べないから嫌いなのかな?と思ってたけど、今日は二階のお客さんといっぱい食べて。今、魚、吟味してるとこ」
(母は、2階の亀に)
「亀、どうしたの?
うなぎ屋さんの大将に聞いたけど、高価なもの、ごちそうになってるって」
(熊は、慌てて)
「下に来てるじゃねえか!何で来てるんだよ!」
「(平然とうなぎを食べながら)いい焼きですね」
「早く帰せよ!・・・・(亀をにらみつけ)お前、どうして普通でいられんの!」
(階下に向かって)
「おとっつぁんが話があるって!」
「(パニック状態で)ええ!?」
「おいらの目ぇ見て言ってるから、しゃべれってことかな?って。
(上がってきた母に)
こちらが大工の熊さんです。
・・・・(自分の湯呑みをちらっと見て、ぺこっと一礼し)ちょっとお茶、取ってきます。(と、階下におりてしまう)」
「あるじゃねぇか!
(妻に向き合い)
・・・・・よぉこそ。・・・・・へへ」
「・・・お久しぶりです。どなたか分からなかったんだけど、まさか、あんたとは」
「いや、そうじゃねぇんだ。
昨日、あの路地んとこでぶつかって。言うなって言ってたんだけど・・・」
「ごめんなさい。実は、昨日亀から話は聞いてたの。
見せたいものがあって。・・・・・これなの。(亀が描いた絵を取り出す)
見てよ。空が好きなんだって」
「(手に取って眺め)絵が好きって言ってた割にゃあ、あんまり上手くねぇな。
まっつぁおだ。雲とか家とか描けよ」
「・・・空はおとっつぁんなんだって。
小さい頃、建前の時かな。梁の上か屋根の上で、あんたに肩車してもらったんだって。
見上げたら、一面真っ青な空だったって・・・・・。
だから、おとっつぁんは空なんだって・・・・・」
「(涙を押さえ、手で「待て」というような仕草で)わかった。わぁった。・・・・・本当に、ありがとう。
学校まで出してもらった。
酒やめた。女も別れた。
折りを見て・・・・と思ってたが、亀のおせっかい、いや、親切か。
・・・・こんなこと言えた義理じゃねぇが、俺ともう一度苦労してくれねぇか?
おめえがどれだけ、ありがたかったか。亀がどんだけ可愛いか。やっと・・・」
「男のお前さんから、そんなことまで言わしちゃって・・・。
あたしが短気起こしたから・・・。ごめんなさい」
「(亀に)お茶屋!そんなとこに隠れてないで出てこい!
おっ、おめえでも泣くのか?
(亀はこらえきれず、わ〜っと泣いて抱きついてくる。その肩や背中をぽんぽんと叩いて)
泣くな、泣くな。おとっつぁんが悪かった。
(しかし、再度いたずら心がわいたか、亀をのぞき込み、からかうような調子で)
どうした?いつものように、うまいこと言ったり、毒づいたりしろよ」
「でも、亀ちゃんのおかげで、親子三人、元通り暮らせるようになった。
子は鎹(かすがい)って言うけど、本当だねぇ」
「(精一杯強がって)子は鎹か?道理で、おっかさん、おいらを玄能でぶとうとした」
盛大な拍手の中、緞帳がおりていく。談春が必死の表情で指先をぐるぐる回し「上げろ!」って言ってんだが、なかなか意思が疎通せず、ほとんど閉まりかかる。ようやく、あがって、締めのごあいさつへ。
もっともっと良くなる気がするので・・・(ここで「よっ!名人!」という大きな声がかかった)
市長に感謝すりゃいいのか、理事長か、とにかくラブサウンズコンサートに落語を入れてくれた。
これだけ大きな会場に一杯入ってもらって。2階の後ろ!(と、指差す)
さっき、中入の時に行ってみたけど、あたしゃ、顔が大きいので、そこでも輪郭はぼやけることはない。
逆に苦労して前の席を取ってくれた人だと、不必要にでかい顔を・・・。
歌舞伎座はね。3年前の6月頃にやらせてもらったけど、あくる年、つぶれちまった。
フェスティバル・ホールは、12月31日、大晦日でなくなるって時の12月25日にやらせてもらった。
新宿コマは、3月31日でなくなるって時に、3月29日にやった。
ま、そうゆうとこは日本が世界から招いた人が出るとこだから、私も爪跡を残したいって気でやったんですが・・・・・落語界のおくりびとって言われてまして。
杮落としは志の輔なんですけどね。
7月ぐらいから、東京の落語家がこっち(関西)へ来たりして。
逆に大阪から東京へ行くツアーなんてどうですか?(場内から拍手)
小松菜とかお土産に渡したら・・・・・。変!変!さだまさし流の芸風ですみません。
しかし、話は戻るけどラブサウンズコンサートって、よくこれだけの人間を呼べましたねぇ。芸能界はよっぽどキョードー・オーサカに借りがあるんですね。
本日はまことにありがとうございました!
冒頭で「こりゃ5時には終らねぇなって思ったでしょ。そんなことはない。4時50分には終る」と言ったが、実際そんな時間となった。
「子別れ」には、いくつか謎がある。いくら何でも、親子が再会するなんて偶然があるのか?よりを戻させようと考えた番頭さんが仕組んだ芝居(亀は「ぶつかる」ために待っていた)ではないのか?
今回もやたら思い出話を振ってきたりしてるので、これは否定しきれない。
しかし、逆に言うと同じ町内に住んでたようだから、いつ偶然にぶつかってもおかしくない、というか見つかる気は満々だったとも言える。
後の謎は、なぜお光さんは、熊には呼ばれていない、亀ちゃんは誘ったけど「行かない」と答えてるのに、うなぎ屋に行ったか。一般には「何となく気になって」くらいの理由なのだが、談春(談志)子別れでは明確だ。亀が父親に見せると言って、前の晩遅くまでかかって描いた絵を忘れていったから届ける。
となると、おそらく亀はわざと(届けてほしくて)忘れたんだろうなって想像も働く。
以前、春風亭小柳枝で「子別れ」を聴いた時、ざこば「子はかすがい」と何点か比較した。別にこれがオーソドックスではないだろうが、ざっと江戸落語と上方落語の比較をしたつもりだった。そこを談春子別れはどう演出しているか観てみたい。
論点 |
小柳枝 |
ざこば |
談春 |
「涙」 |
父親、母親、息子、ともかくやたら泣いている。 |
ほとんど涙なし。 |
直接泣くところもあるし「泣いた」、「涙が出た」と語る場面もある。 |
仕事の催促 |
番頭は日程を聴きに来ただけ。 |
最初から木場に行くことになっている。 |
ざこばと同じ。 |
再婚ミエミエ度 |
(1)番頭は再婚仲人に立候補宣言
(2)夫は先妻が自分を恨んでないと聞いている。 |
息子は、父に、あまり母の感情を伝えていない。 |
(1)番頭は、再婚に関する話はしたが、世話をするという話まではしていない。
(2)「酒のせいだ」、「恨んでない」と息子から聞いている。 |
うなぎ好き |
息子は以前から好きだった。 |
頭しか食べたことがない。 |
「食うや食わずなんだぞ」と言うが、以前は好きだったが今は食べてないのか、そんなぜいたく品食べたことがないのか、ややあいまい。 |
金づち |
たまたま荷物に入っていた。 |
妻が持って出た。 |
息子の希望で持ち出した。 |
母のうなぎ屋への行き方 |
直接行って、息子を訪ねる |
気になって、店の前をうろうろし、二階の息子に見つかる。 |
上記の通り、亀の忘れ物を届けるために行く。 |
母の安否 |
言葉は出ず、やたら煙草をふかす。 |
まず「元気やったか?」と訊ねる。 |
一応、言葉はかける。煙草もふかす。 |
なお、上の表では、夫婦喧嘩の描き方(地のセリフでさらっと済ますか、会話にするか)とか、名前の比較は、今回は意味がないから省略した。
談春子別れでは「亀ちゃん、いったいいくつやねん?」と思う場面が多かった。「おっさんくさい」と言っていいくらい訳知りのセリフ、生意気な言い方が多いのである。
再婚した夫婦を結びつける言動を取る子どもがあまり小さくては、と考え「5歳の時別れて、3年後で8歳」という年齢設定をもう少し高くする演出もあるそうだが、談春はオーソドックスに8歳で演っている。
勝手な想像なのだが、談春や談志は、噺の中で「あ、ここは矛盾してるな・・・」と思ったら何らかの解決をしておきたくなるんじゃないだろうか。
例えば、談春の亀ちゃんは、「食うや食わずでうなぎなんか・・・」と言っておきながら、「こみいった話があるから二階の座敷で・・・」とか、注文の仕方、「イカダ」などやたら通ぶる。それは聴いていて面白いんだが、「あれ?何で?」と疑問にも思う。すると、後で母が店を訪ねた時に主人から、店の仕事を手伝っているなんて話を聞くので、ここでようやく納得できるのだ。
別れた妻が自分のことを恨んでない、嫌いきってはいないというのを息子から聞いて父が喜ぶ。そんな父を息子がからかう。これは東西にかかわらず「子別れ」の中にあるギャグだが、談春の亀ちゃんは、それくらいで喜んでるなら、これ聞いたら泣くぞと言って、「恨ませてくれたらいいのに・・・」ってセリフを聞かせる。でもさすがに談春もここまでは・・・と思ったのだろう。亀ちゃんに「おいらには意味は分かんない」と言わせている。聞いてるこっちとしては、ジェットコースターで上下してるような、大人なんか子どもなんかどっちやねん?って気にもなる。
そんな訳知りセリフ、大人ぶり亀ちゃんを全部精算しようということか、最後、ようやく両親が仲直りした、それを見届けた亀ちゃんは、本来の8歳の亀ちゃんに戻って、手放しで泣いて、おとっつぁんの胸に飛び込んでくる。ここはいいね。一緒に「よかったね、亀ちゃん」と言いたい気分になる。
玄能を亀ちゃんが持ち出そうとした。泣くほどこだわったという点は、最初聴いた時にはやや違和感があった。5歳の子どもがそんなことするかね?って疑問。それと、「中」の最後では、荷物をまとめようとする二人に、「後で全部まとめて送ってやるから、今すぐ出てけ!」と追い立てていたから、そんな時間なかったじゃないかとも思った。
後で考えると、亀には父に肩車してもらった思い出がある。(だから、「おとっつぁんは空」というセリフになる)
なら、父を示す何かにこだわったのかな?と想像できなくもない。(それが玄能なのか?って考えるとやや疑問だが)
で、これを言うと談春(談志)子別れそのものを否定することになりかねないので、書くべきかちょっと迷うのだが、「青鉛筆」のくだりは創りすぎだと思う。
ここが素晴らしいんじゃないかって人は多いだろう。私も文学としては美しいと思うが「落語」としては皮一重で「創りすぎ」と感じた。
どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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