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(No245) 立川談春 独演会 鑑賞記その4
平成23年3月27日(日)、堺市民会館での立川談春 独演会の鑑賞メモ。
立川 談春 「子別れ」
「棟梁(とうりゅう)、いるかい?すまないね、無理言って」
「いえ、ちょっと待っておくんなさい。
(近所の者に)あ、すみません。お店(たな)の用事で、少し木場に。
いつもの水屋が来たら、入れといてもらって。銭は蓋の上に置いてますんで。
じゃ、よろしくお願いします」
「行くのはいいけど、男の一人暮らしは大変だね。
吉原から引っ張ってきた女は、いついなくなったの?」
「ともかく朝から晩までずっと寝てる。安い馬、飼ってるようなもんでして。
女一通りのことは何もできませんからね。めし、つくれよと言っても、あたしゃ、三度三度店屋物でいいって。
こっちゃあ、たまらないや。何かあれば叩き出そうと思ってたら、やっぱり男の顔を読む商売してる女だ。
向こうの方で若い男こしらえて。俺らが帰ったら、俺のもんまで根こそぎ持って、出ていっちまった」
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「おみっつぁんの話、してもいいかい?あらぁ、いい女だったね」
「いい女でしたね」
「・・・ふ〜ん。そうゆうこと言うんだ」
「あんたが、そう言うから言っただけで。
貧乏慣れしてるってぇか。できた女でした」
「どこにいんの?」
「知らねぇ。江戸には、いるんでしょ」
「亀ちゃんは、いくつになる?」
「出てく時5つで、3年たってますから8つです」
「会いたいかい?会いたいだろ?」
「どっちですか?」
「え?子どもには会いたいけど、おかみさんには会いたくないってこと?」
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「会いたいも何も、会わせる顔がないでしょ。
かかあのことは、たまに考えるけど、ガキは夢に出る。
亀の野郎、出てく時、押入れから何か引きずり出してた。
玄能でさ。包んでくれ、持ってく、持ってくんだ・・・って火のついたように泣き出して。
お光の奴、戸ぉ閉めないで出ていった。
今なら分かる。そんなことする女じゃない。
あん時、俺が追っかけてって、すまねぇって言ったら二人は帰ってきただろうけど、その時ゃ酒の毒で分からなかった。
夢ってのは、こっから先。
かかあに手ぇ引かれて亀がね、玄能の風呂敷、手に提げて、こっち振り返って見てんでさ。でも、あっしが声かけないもんだから、あきらめたように、また歩く。
かかあの姿は黒くて見えねえ。
で、あっしが『亀、亀ぇ〜!!』って声掛けて目がさめるんです。
かかあにゃあ、会わせる面ぁない」
「別れた女に恨まれるのは、男の器量だと思うよ。
私の歳んなったら分かる」
「そうゆうもんですかね」
「仮に二人の行方が分かったらどうする?戻ってくれってゆうのかい?」
「そんなことはないですから。世の男はバカじゃねえ。ほっときません。
幸せに暮らしてますよ。
あれだけの女が、子ども抱えて苦労してんだ。何とかしてやろうと思いませんか?」
「よそう、よそう。
うちのご隠居も年だろ?お前さんの仕事が増えてるから、ちゃんと今の仕事片付けたらかかってくれるって
言ってますよといっても、きかないんだ。
じゃあ、せめて木口だけでも決めてくれたら、後の楽しみができるからって」
「いえ、あっしが今日ある・・・・・ってぇほど立派なもんじゃねえが、人でいられるのは番頭さんのおかげだと思ってやすから。
品川のお杉引っ張り込んで、三月もしねぇうちに逃げられて・・・。これからは仕事、一所懸命やりますってったって、誰も信じてくれない。
そんな中で、番頭さんだけが、そうか、ただ、一つだけ条件がある。酒、やめろって言ってくれた。
誰も拾ってくれないのに番頭さんだけが」
「・・・まあ、ありがたがってくれるのはいいが、酒やめるって言って、ぴたっとやめられる奴ぁいねえんだ。
きっかけは私かもしれないが、酒やめたのもおめえなら、頼まれて、喜ばれる以上の仕事をしたのもおめえだ」
「いや、ありがたいと思ってますよ。だから少々無理な仕事の方が嬉しいんだ。
番頭さんがありがたがってくれると、少しは恩返ししてるような気がする」
「・・・まあ、しっかりおやり。何のきっかけで戻ったりしないとも限らないんだし。
痛っ!」
「何してんだい!大人だろ!よけろよ!」
「番頭さん、大丈夫ですか?(ぶつかってきた子どもに)何て言い草だ。謝れ!」
「・・・・・おとっつぁんか?」
「・・・・・・・・・・・・亀か?」
「へ〜。覚えてんだ」
「ああ、驚いた。痛かった。
じゃ、熊さん、あたしは木場で二、三軒用足しをしなきゃいけないから、先ぃ行っとくよ。
話もあるだろ?でも・・すっぽかしだけは無しだよ」
「いえ、話なんかありません」
「話さなくていいのかい?・・・神様がいるんじゃないのかい?」
「・・・すみません。(番頭を見送り、息子に向き直って)・・・・元気そうだな?」
「元気だよ!」
「大きくなったな」
「・・・・他にセリフはねえのかよ!大きくならなきゃ、なくなるだろ!」
「おっかさん、元気か?」
「おいらより元気だ」
「そうか・・・。なぁ・・おい、あの・・・おとっつぁん、おめえのこと可愛がってくれるか?」
「お酒の毒が頭に来たのか?おとっつぁんはおめえだろうよ」
「口の減らねぇガキだな。
だからよ。・・・」
「何?」
「だから・・・・俺は先(せん)のおとっつぁんだろうよ。前の・・・元のおとっつぁんだよ」
「子どもの後に親はできないんだよ。ヤツガシラじゃねえんだから」
「その・・・何だ、おめえには分からないかも知れないが、お前が寝た後に入ってくるおじさん・・・」
「他に男がいるかって訊いてるんだろ?
いないよ。あんまり、見くびんない方がいいよ」
「おっかさんな。おとっつぁんのこと、何か言ってるか?」
「あんな呑んだくれ、こりごりだって。頭がおかしいんだって」
「恨んでるのか?」
「恨んでないよ!へへ、喜んでやがら。子どもだね。
その後のセリフ、聞かせてやりたいね。泣くぜ。
恨ませてくれりゃいいのに・・・って。
どんな意味か、おいらにゃ分からねえけど。
それ言う時、いつも泣いてるよ・・・」
「・・・どうやって食ってるんだ?仕事は?」
「お針。近所の仕立物や繕い物とか」
「ああ。お光は針が持てるからな」
「で、おいら学校も行かせてもらってるんだ。
おとっつぁんみたいに、腕は一流でもカラ馬鹿はだめだって。
あっ、カラ馬鹿ってのは隠しといた方がよかったね」
「いいよ。で、成績はどうなんだ?」
「心配するほど、できなくもないよ。
おいら、絵ぇ描くのが上手いんだ。ってか好きなんだ」
「ん?お前、そりゃ墨の跡じゃねえな?傷か?
眉間に向こう傷って・・・」
「分かっちゃった?ちょいと訳ありでさ。
おっかさん、言ってるよ。おとっつぁんはお酒の毒が頭に回って、吉原の花魁ってお狐に化かされたんだって。
まだ住んでんの?」
「何が?」
「これ!これ!(と、小指を立てる)」
「指ぃ立てるな!
吉原の・・・・おばちゃんだろ。で、別におじちゃんてのがいてな。で・・・」
「分かるよ」
「おめえは一人か?さみしいだろ?」
「さみしかねぇよ。男だもん」
「酒は、やめた」
「やめた?おととい?」
「もう3年か」
「偉いね。臭かったもんね。変な匂いした」
「んなこたぁどうでもいい。その傷はどうしたんだ?」
「いいよ。言いたくねえよ。大丈夫。
ちょっと痛くしただけ。油断したんだ」
「おとっつぁんにも話せねえようなことか!」
「・・・・・・斎藤さんのお坊ちゃんて子がいるんだよ。お金持ちで。
ベーゴマでいつも負けてるんだ。悔しかったんだろうね。こないだ、ずいぶん高いんだろうけど、すごく大きなベーゴマ持ってきて、これでやるって。
でも、おいら上手いから、やっぱり勝っちゃって。
勝負ですから、もらいますよ・・・ってそのベーゴマ懐に入れたらね。
急に『わぁ〜〜!!』って言って、持ってた別のベーゴマを・・・投げた。
よけりゃよかったんだけど。ぱくっ!って音が聞こえたね。
斎藤さんのお坊ちゃんは、自分で投げて、ぶつけたんだぜ。なのに・・・・・・わ〜って泣いて、逃げ出しちゃった。
しばらくしたら、血相変えた斎藤さんのおじさんが、ぼっちゃんの手ぇ引いて、やって来て
『うちの息子に何をした!!』ってゆうんだよ。
だから、ベーゴマの勝負に勝ちました。だから、もらいました。そしたら坊ちゃんが投げてぶつけましたって
話をしたんだ。
そしたらおじさん、『・・・・・悪かったな。何かあったらきちんとするから言ってくれ』って言って、帰っちゃった。
そりゃいいんだけど、血が止まんねえんだよ。仕方ないから公園の水道でじゃぶじゃぶ洗って、少ししみたけど、何とか血が止まって。
そしたら・・・悲しくねえのに、声あげて泣いちゃった。泣いたらね、何かさっぱりしちゃって。家に帰ったんだけど、おっかさんが怒ったんだよ。
いくら片親だからって、こんな事黙ってたら、末に何されるか分からない。誰がやったんだ?って言うんだ。
黙ってたら、玄能持ち出してさ、これはお前が前の家から持ってきたもんだ。
これを持ったおっかさんが言うことは、おとっつぁんが言ってるのと同じことなんだよって。
おっかさんの切り札なんだ。
じゃあ、言うよ。斎藤さんのお坊ちゃんだって言ったら、『じゃあ痛いだろうけど、我慢おし』って」
(おっかさんの口調が、やたらあっけらかんと、いきなり手の平を返した風だったので会場大爆笑)
「何ぃ?お光は、そうゆう了見なのか!」
「よく言うね!一番のお得意なんだ。おっかさんが、あんな役立たずでも、居てくれたらカカシの代わりくらいにはなったのにって。
どうせこうなると思ったから言いたくなかったんだけど、玄能出されたから仕方なく言ったんだよって。
そしたら、おっかさん、亀ごめんね、亀ごめんねって。おいらの脇に手ぇ、回してさ。顔、突っ伏して。
おいらの胸までおっかさんの涙がしみてさ。
そしたら、おいらも涙が止まんなくなって・・・。おっかさん、大丈夫だよ、大丈夫だよって・・・・二人で泣いたんだよ!・・・・・・で、寝たの。
あくる日、何か脇が痛くてね。どうしたの?医者行っといでって言うから診てもらったら、アバラが2本ひびが入ってた」
「何やってんだ、このバカ親子!」
どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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