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(No244) 立川談春 独演会 鑑賞記その3   
          

 平成23年3月27日(日)、堺市民会館での立川談春 独演会の鑑賞メモ。

 



立川 談春 「子別れ」


 カラス、かぁ〜で夜が明けてね。
 紙屑屋の長公は、帰っちまったけど、熊は何となく居続けをして。
 三日もしますと、遣り手、おばさんてのが出てきて。

 
「あの・・・初めて上楼っていただいて、裏、馴染みとご贔屓いただいて本当にありがたいんですけど。
 花魁に聞いたら、何でもおかみさんもお子さんもいらっしゃるてから、あんまり心配かけても。
 一度お帰りになって、安心させておあげになったら。

 本当はね、花魁からちゃんとご挨拶しなきゃいけないんだけど、
顔見ると別れがつらいから、おばさん言ってきて・・・なんて、憎いですね。

 あ、これ、私の気持ち。一本つけましたから。肴は冷奴しかないけど。ね。これ呑んで。
 あの、きっと、じきにまた来てくださいよ」・・・・・なんて言うと親切そうに聞こえるけどね。

 実際は「もう、金がないんだろ?顔に書いてあるよ。家帰って、小遣いでももらったら、また来な。
 お情けで、一本だけ呑ませてやるから」ってことでね。
 

 さすがに、そのまま家には帰りにくいから、友達の家、渡り歩いて、いくらか借りて、カブト・・・立ち飲みで一杯ひっかけてね。酒の勢い借りて、家に帰って。

「ご隠居さんのお弔いって出てったきり、三日も四日も、何してたの?」
「ああ、幼馴染が集まってね。話がはずんで。これで帰っちゃあ、世話んなった隠居に申し訳ないってことになってね」
「あっ、そう。それで、どうしたの?」
「ぽんぽん言うねぃ!お前ぇは聞いてるだけだから楽だけど。で・・・骨揚げに行こうって」
「へえ、骨揚げ?いいことしたね。でも一晩で終わるね」

「・・・・おう。で、これで帰っちゃあ、ご隠居さんに申し訳ないってことになって通夜を・・・」
「え?骨揚げ終わってから、通夜?」
「おう。でさ、『今度、いつ来るの?』って、茶に梅干なんぞ入れて・・・」
「何?焼き場でしょ?誰?誰かと一緒だったの?」
「おう、紙屑屋の長公と一緒でさ。で、その女が『熊さん・・・』なんてね。
 お前の前だけどね。品川のお杉って女で。まあ、昔ひいきにしててさ。あいつを板頭
(いたがしら。吉原でいうところの『お職』。現在のクラブなどでは『No.1』の意)にしたのは俺・・・みたいなもんで。
 ま、お前と所帯を持ってからは『いたちの道』
(すっかり縁を切って音信不通となること)で。
 その女が吉原に国替えしてやがってさ。
 『お前さんと一緒になれるもんだと思ってた。手紙一つもくれやしない。もう会えないよってひとこと言ってくれたら、思い切れたのに。
 心をジリジリ焼いてた。この薄情者!』・・・・なんて言いやがるんだ。
 『何、言ってやがる。しょせん売り物、買い物じゃねえか!』なんて言ってやるとよ。
 『その薄情に私は惚れたんだよ!』なんて言いやがって。

 いろいろ話もあるから・・・・なんてやったり取ったりして呑んでる酒はうまいね。
 気がついたら、日
(し)が暮れたのか、夜が明けたのか。分かんなくなっちゃった。ずっと寝てたんだよ。

 帰ろうと思ったら、お杉の肩が震えてる。泣いてるじゃねえか。昨日は寝ちゃって何も話しちゃくれなかったじゃないか。
 ねえ、帰っちゃうの?帰っちゃうの?帰っちゃうの?って3回。

 頭ぁ来たからな。怒鳴る・・・のをやめてドドイツを歌った」
「ドドイツ?」
「♪一度はいやよ、二度、三度。ともに泥水のんだ仲ぁ〜〜♪てんで、歌いっ尻を、こう上げてやるってぇと、
『そんなだから思い切れないじゃないかね。どこまで粋にできてんだい!』って・・」

「頭、おかしいんじゃないか?亭主に・・・
(明らかな言い間違い。一瞬、息をのんだが、言い直した)女房にノロケ聞かせてどうすんだ!バカ!」
「痛ってぇ〜!何しやがんだ!」
「それにお前さん、親方にお給金前借りしてるだろ!米代や酒代、どうすんだよ!」
「どうにかなるんだよ!ったく、うるせえな!ヒマやるから出てけ!」
「・・・・・私、出てっていいの?」

(仲裁の者が入ってくる)
「待ちな!手ぇ上げてどうすんの?熊さん、あんた、お光さんに手ぇ何ぞ上げたらバチが当たるよ。いいかみさんじゃないか。
 こないだも、私ぁ寄合で遅くなって家に帰ったら、うちのかみさん寝ちまって戸を叩いても出てこない。夜中に閉め出されちまった。
 そしたら、お光さんが『どうしたんですか?』って。文句も言わずに亭主の帰りを寝ずに待ってるんだよ。
(うち)ぃ上げてもらって茶ぁ飲ませてもらったけどさ。本当にお光さんは・・」
「何でぇ、お前ぇは仲裁だろ?
 仲裁ってのは、熊さん、あんたはこうだけど、お光さん、あんたもこうだよって、お互いの中をとるから仲裁じゃねぇか。
 それを何でぇ、俺ばっかり悪く言って。
 どうせ、上がりこんで茶ぁ飲んだだけじゃあるめえ。お光に色目でも使ったんじゃねぇのか!」

(お光が仲裁に詫びて)すいません。お酒で頭おかしくなってますから。

(熊に)ねえ。本当に出てっていいの?」
「っるせえな!二度も三度も言わすない!」
「あっ、そう・・」

(息子が起き出してきて)ああ、おとっつぁん、帰ってたの?おとっつぁん、偉そうに言うのおっかさんにばかりだよね。
 米屋のおじさんが来たらぺこぺこしてる」
「亀や。おっかさん、おとっつぁんにヒマ出されたから、この家出てくんだけど、お前はどうする?
 男の子は男親につくってゆうけどね。苦労するだろうけど、おっかさんと一緒に行くかい?
 それともおとっつぁんと・・」
「誰があんな呑んだくれなんかと。ねえ、ねえ、おとっつぁん!今なら謝ったら許してもらえるよ。謝んなよ」
「何言ったって分かりゃあしない。さ、亀。おとっつぁんに礼を言いな。これまで育ててもらったんだから。そうゆうものなのよ。
 長々お世話になりました。ありがとうございましたって」
(ふて腐れて)長々亭主に患われ・・・」
「何ぃ!この野郎!縁起でもねえ。とっと出てけ!荷物なんざ、後でまとめて送ってやるから!・・・・・ははははは。
 出ていきやがった」

 胸ん中に一陣の風が吹く。さて、この親子が、この後、どうなるかは休憩の後でございます。





 まあ、ここが「子別れ」(中)ということになるのだろう。
 本来は、かみさんと息子が出て行った家に女郎を落籍(ひか)して入れたが、女にも出て行かれてしまう・・・辺までが「中」のようだが。

 熊が連泊したのを最初「何となく居続け」としか説明していなかった。
 で、お光が「三日も四日も・・・」と問い質したのに対し、「お前は聞くだけだから楽でいい」とぼやいたので、てっきり、
「何となく何日も居続けた」理由、家を何日も空けた言い訳を適当に即興ででっちあげてるのかと思っていた。
 お茶に梅干・・ってとこも唐突だったし。

 でも、かみさんにノロケの一部始終を話してしまい、破局を迎えるというのは「子別れ」(中)の本来の型であるようだ。
 ということは「お杉」(「おすみ」かもしれない)とのやり取りは創作ではなく、事実ということになるのだろう。
 それだけに「女房にノロケを・・・」を「亭主」と言い違えたのは少し残念だった。

 それと、お光がそのノロケを聞かされて逆上して殴ったようだったのだが、仲裁は、熊に「手を上げるな」と言っている。
 熊が反撃しようとしているところを見咎めたということか。

 細かくみると、気になるとこがいくつかあった。この辺が冒頭に談春自身が言っていた「中」の「面白くない割に難しい」ってとこなんだろうか。

 


 

 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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