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(No242) 立川談春 独演会 鑑賞記その1   
          

 平成23年3月27日(日)、堺市民会館での立川談春 独演会の鑑賞メモ。

 



立川 談春 


 舞台左手から登場。
 
 この独演会は、ラブ・サウンズコンサートシリーズの一つだそうでして。何で混ざってるんだ?

 せっかくだから「無縁坂」歌おうかって言ったら、昨日聴いたからいいって言われました。(注 ラブ・サウンズコンサートシリーズ2010とは、堺市民会館で美輪明宏、平原綾香、葉加瀬太郎、加山雄三、谷村新司、南こうせつ、財津和夫、森山良子らを順次招いて開催された。さだまさしのコンサートは昨日開催)

 私が参加して唯一役立ったのは・・・・・・出演者の平均年齢を若干下げたかな、と。

 加山雄三さんなんか50周年ですからね。うちの師匠(立川談志)と同期なんですよ。師匠と、笑点の(桂)歌丸師匠と加山さんが同期だなんて笑っちゃいますよね。

 笑点の木久翁さんの師匠の林家彦六さんは、宮沢賢治と同期ですから。

 まあ、私がラブサウンズコンサートのトリなんて考えると緊張しちゃうから、後夜祭のつもりでいてください。自分自身の緊張が治まんないですよ。危険だから放水しないと。・・・・・・やっぱり予想していたリアクションですね。笑っていいものか、と。
 ここは、非日常ですから。

 落語界でも、「我々も助けなきゃ」なんて話になりましてね。ある人がね、こんなこと言うんですよ。
「こうゆう時、しみじみ思うね」
「どう?」
「我々は、無力だなって」

・・・・・普段からだよ!生産を拒否した人生を選択したくせに何言ってんだ。

 私が被災者なら・・・・エンターティメントに「頑張れ」と言われるのはイヤですね。それより聴いてくれる方がいい。こんな辛いことがあったんだよ、とか、津波はこんなに怖かったんだ、とか。

 みんな、助けなきゃって雰囲気になってる。・・・・・・こんなこと言うの、私だけですけど。

 何か触れてはいけない方向へ向かってますね。

 助けるより今は見守る時だと思う。助けてやんなきゃいけないのは、東京電力の日本語の不自由な社員たちだと思いますね。ていねいに言ってるつもりなんだろうけど、何だ、あのカチンとくる敬語の使い方は。

 菅総理もそうですね。何とか我々を鼓舞しようとしてるのは分かるんだけど・・・・・。偉いのは枝野さんだけだね。やっぱ、弁護士はうまいわ。答えてるような、はぐらかしてるような。でも、ここっ!てとこはしっかりした感じで。ブレスの使い方が上手なんだろうね。大したことは言ってないんだけど、説得力はある

 ・・・・・・・今朝、こうゆうことは言わないでおこうと思ってたのに。こうゆうのを口が滑るって言うんだろうね。「天罰だ」って言った都知事さんがいるけど。我々を守ってくれるのは、あの人なんですよ。

 ・・・・・・・やめましょう、この話題は。じゃあ、前座代わりに一席、軽いのを。

 こうゆうと、落語に詳しい人はどきっ!として腕時計を見たね。今日は、「子別れ」の上・中・下を通しでやろうって言ってるのに、サービスにもう一席やろうと言うんだから、こりゃ5時には終らないな、と。そんなことはないんですよ。・・・・4時50分には終る。まあ、帰りに美味しいものでも食べようと思ってる人は、休憩中に「予約が延びるよ」って電話しといた方がいいと思いますよ。



立川 談春 「粗忽の使者」


「弁当!弁当はおらぬか!」


「・・・・治部田の旦那、俺たちを呼んでるよ」
「俺たちゃ舎人別当
(とねりべっとう)だぜ」
「だけど、治部田の旦那は弁当って覚えちゃったんだよ。もう誰にも直せないよ」 

 
俺たちが怪しいってことは分かってんだね。こっちをすがるような目で見てるもの
「どうしたの?」
「他家に使者ってゆう大役を仰せつかっちゃって」
「何でまた、治部田の旦那が?」
「お殿様、赤井御門守
(あかいごもんのかみ)様が、ご家来衆の中でも、どういう訳だか治部田の旦那がお気に入りでね。何とか手柄を立てさせてやりたいと思われててさ。誰を使者に立てようか話し合っていたら、いきなり鶴の一声『治部田にせい!』とおっしゃったそうだ。
 ご家来衆はみんな、肩ぁ落としたそうだよ。でも本人はやる気”満ちく”
(満々ということか?)さぁ」
「そうかい。じゃあ、そろそろ返事をしてやろうか。

 はい!治部田様、何のご用事でしょうか?」 

「おお、やはりその方たちであったか。拙者、このたび使者の大役を仰せつかってな。乗り物に乗らねばならぬ。何に乗るのだ?」
「お当てください」
「ほぉ、さようか。牛か?」
「違います」
「なぜ?」
「使者というのは火急の用件があって立てるもの。牛では、ちと歩みがのろうございます」
「なるほど。正しいのぉ。では・・・・・鹿か?」
「鹿では・・・・。確かに鹿は、はよぉございますが、いささか
(角につかまっているような手真似をして)乗り辛い」
「ふ〜む。その方の申すことはいちいち正しいのぉ。では・・・・鷹か?」
(びっくりして)飛びますか?」
「飛ばぬ。相手が門で待っておるのに、上から、こう
(羽ばたく真似)飛んでは礼を失する。では、何に乗ればいいのじゃ?」
「馬にございまする」
「そうか。では、馬ひけ!」
「既に横に」
「ふむ!う〜ん、この馬はひ弱いのぉ。またがったとたん、『キャウ』とうめいて、口からブクブク泡を・・・・」
「それはお殿様の愛犬にございまする。下手をすればお手討ちに。馬は、その横にございまする」
「大きいねぇ」
「それは、今、治部田様が地べたに座っておいでだからでございます。立てばそれほど大きなものでも」
「なるほど。ほほぉ、またげるか?」
「そこまで小さくは・・・」
「どうすればよい?」
「あぶみに足をかけて・・・」
「左様か。うん?おい!弁当!この馬には首がないぞ!」
(同僚に、うんざりした口調で小声で)受付、代わってくれよ。

(治部田に)逆さまでございます。後ろをご覧下さい」
(振り返って)ほほぉ。この粗忽者め」
「お乗換えを」
「武士の面目、意気地にかけて、一度乗ったものをやり直すという訳にはまいらぬ。どうじゃ。こうして腰を浮かせておるので、馬を回してくれ」
「そんな訳には」
「では、首を切って前に付け変えろ。今日は天気が良いので乾きも早いであろう」

 もう、別当はいやになっちまって、返事もせずに馬の尻をぴし〜!!
 いくら侍の時代だって言いましても、江戸の町ん中、馬が突っ走るなんてことは、そうそうはなかった。それが大変な勢いで走るもんですから、町民の目をひく。さがって見つめて驚いたね。
 さむれぇが馬の尻に逆さ向きに乗って、涙ぐんで尻尾をつかんで「止めてぇ〜」って叫んでるんですから。

 武家屋敷の門は「八」の字に開くってぇのが礼だそうでして。利口な馬で、ちゃんと相手の屋敷まで走って行った。着いた馬には柄杓で水を与えるのが、馬へのご馳走だそうで。


 何とか屋敷に着きまして使者の間、つまり応接間に通される。応対に、向こうの家の重役が出てきます。

「拙者、当家の用人、木村権太夫にございまする。以後、お見知り置かれまして、ご別懇に願います」
「これは丁重なるご挨拶。拙者は、当家の用人、木村権太夫・・・」
「は?」
「ん?・・・・・・・では、ござらん。手前は違う。ふふふ・・・・ん?拙者、赤井御門守・・・・」
「何?殿、自らのご出馬か?」
「・・・・・が家臣。治部田治部之進・・・・・・・は拙者の父でござる。治部田・・・・治部之輔は、いとこ。・・・・拙者は誰でござろう?」
「いや、それは・・・・・」
「あ!そうそう。治部田治部右衛門と申す」
「ご高名は、かねがね・・・・・。して、使者のご口上は?」
「ご当家に使者がお見えか?」
「は?」
「い、いや。拙者が使者でござった」
「しからば、ご口上を承ります」
「ふむ。口上!」
(平伏して)ははぁ〜。(礼をしたが、一向にしゃべらないので)どうなさいました?」
「忘れた!」
「・・・・・・また、ご冗談を」
「使者に来ながら口上を忘れるなど武士にとってこれ以上の恥辱はござらぬ。それを冗談にするとは何事か!」
何でござるか。その逆ギレは?何とか思い出していただきたい」
「拙者、一度忘れたものは思い出さぬ!」
「・・・・力強いお言葉でございますな。では、どうなさいます?」
「拙者、ここにおいて一服いたす」
(やや驚き)では、ここに煙草盆を・・・」
「何じゃ、木村氏。そなたは、拙者が武士の面目、意気地にかけた一言を、先ほどから冗談だの、煙草盆だのと・・・・・あ!切腹だ」
「こんなところでお腹を召されては、こちらも困る。何か思い出す手立てはござらんか?」
「左様、恥ずかしながら、拙者、幼少のみぎりから物忘れをしては『いしき』をつねられ、痛い!と思った瞬間に思い出すことが度々ござった。どうであろう、いしきをつねってはもらえまいか?」
「いしき?」
「簡単に言えば、尻でござる」
「え?じかにつねるんでございますか?お、おう。出しましたな。・・・いや、それほど近づけなくても。それでは、おつねり申す。いかかでござる、治部田氏?」
「蚊が止まったほどにも・・・」
「左様か。それでは・・・・・
(思い切り力を込めて)いかがでござる、治部田氏?」
最早、おつねりか?

(木村氏は、あきれ返ってへたり込む)
「ご当家に、指先のみ並外れた力量を持つ御仁はおられぬか?」
「そのような者を探したことがござらん。しばしお待ちを」

 

(一方、こちらは、この武家屋敷に出入りしている植木職人2人の会話)
「わはははは」
「何笑ってんだ?」
「いや、今日は、俺ぁ使者の間んとこの植木を手入れしろって言われてたんだが、どっかから使者が来てよ。
 どんなこと言うんだろ?と思って、木の上からこっそりのぞいてたら、木村の旦那が自分の名前を言ったんだ。
 そしたら、その野郎、自分も『木村権太夫だ』って」
「二人か?」
「『は?』、『ん?』ってなってよ。で、向こうが一瞬早く我に返って、てめえの殿様の名前だの、親父の名前だの名乗ったあげくに、自分は誰だって言いやがる。
 しめぇにゃ、用件を忘れた。尻をつねって痛けりゃ思い出すから、つねってくれって尻を出した」
「そんな侍はいねえよ。おめえ、夢見たんだろ」
「俺も、あの二人は俺が見てるの知ってて、わざと笑わせようとしてんじゃねえか、と。
 で、結局、木村の旦那がつねっても効かなくてよ。指先に力量のある者を探してまいるって。侍ってのは、俺たちより面白いね。ひとつ、俺が行ってやろうかと思って」
「よせ、よせ。木村の旦那ってのは、お年は召してるが武芸百般に通じたお方だぞ。そのお方でダメなもの、おめえが行ったって・・・」
「だから、これを使うのよ」
「え?ばか、そりゃ閻魔
(えんま。ペンチ状の釘抜き)じゃねえか。なぜ、それを閻魔って言うか知ってるか?地獄の閻魔様が舌ぁ引っこ抜くのに使うから閻魔って言うんだぞ。そんなもんでひねった日にゃあ、尻がちぎれる・・・」
「一貫目や二貫目、尻の肉が引きちぎれても、命がなくなるよりいいじゃねえか」

(強引に木村権太夫を呼び出し)
「へへへ。お疲れ様でした」
「何が?」
(つねる身振りで)いかがでござる?治部田氏?・・・」
「貴様!どこで!」
「指先の力量が並外れたご仁ってのは、いやしたか?」
「そのような者がおる筈はない。途方にくれておるところじゃ」
「実はあっしゃぁ、ちょいとした釘なら、指先でちょいちょいと抜いちまうような人間でして。何ならお力を貸そうかと」
「何?その方のような下世話の職人をお屋敷に上げられるか!」
「・・・・・ふ〜ん、そうですか。なら、いいんですよ。別に来たくて来た訳じゃ・・・」
「ま、待て!う〜ん、服装
(なり)がなぁ。(通りかかった若侍を呼び止め)おっ、その方、そこで着物を脱いで、この者に与えよ。
お前も半纏、腹がけをこの者に渡すのじゃ。着替えて、そう、まげも・・・・うん、何とか当家の若侍のように見えるぞ。
で、その方、名を何と言う?」
「名前?とめっこでさ」
「とめっこ?留吉か?」
「いや、とめっこ」
「留三郎か?」
「何で長くするんだよぉ!俺ぁ、『とめっこ!』て言われたら、『お〜〜!』って行くんだ」
「犬か、お前は。『とめっこざむらい』・・・・拙者が木村ゆえ、村木、その方はしばらく村木留太夫ということにいたそう。
言葉遣いも分からんじゃろう。拙者が案内するゆえ、ついてまいれ。

(ふすまを開け、治部田へ)
お待たせいたした」
(無邪気に)どなたでございましたかな?」
(さすがにむっとして)木村にございまする」
「おお、これは木村殿。おなつかしい」
「いや、実は探していた者が見つかりまして。
村木殿。・・・・・留太夫殿!
(困った様子で)村木留太夫殿!!
(いくら呼んでも留は、あいまいに笑って頭は下げるがやって来ない。困り果てて、小声で)
・・・・・とめっこ」
「うわぁ〜〜いい!!いやあ、あっしかな?とは思ったんだけどね」
「早速始めよ」
「え?ここで?横にいるの?そりゃダメだ。仕事がやりにくい。ふすまの向こうに行って、二人きりにしてくれないと」
「しかし、粗相があっては・・・」
「んなものはねぇよ。のぞいてはいかんでござるよ。ふすまに穴ぁ空けたら、指ぃ突っ込むでござる。

(治部田に)ったく、どじな野郎だな。さっさとこっちにケツ出せぃ!・・・ふんどし、きつく締めろよ。プラン、プランさせやがって。
・・・何で、こうケツに毛ぇ生えてんのかね?コオロギでも飼うのか?
さあ、始めるぞ」
「・・・冷たい指でござるな」
「なこたぁどうでもいいんだよ。どうだ?こんなもんで?」
「うむ!なかなかのお力!・・・もそっと強く・・・」
「ああ、ガキの頃からつねられてるからタコになってんだ。よぉし、じゃあ思いっきりいくぞ!」
あ〜あ〜、この痛み、耐え難し。ああ〜、ああ〜ん

 木村殿は、このふすまの向こうで一体何が起こってるのか、気が気でならない。
「ああ〜、ああ〜、この痛み、耐え難し!!あっ!思い出した!」
これを聞くなり、木村殿、ふすまをがらっと引き開け、
「して、ご口上は?」
「屋敷を出る折、聴かずにまいった」

 


 「粗忽の使者」は、ネットなどを見ると主人公の「じぶたじぶえもん」を「治武太」とか、「治武田」と表記していることが多いようだが、石田治部の連想から治部田と表記させてもらった。

 また、通常治部田は杉平柾目正の家臣で、使者に行く先が赤井御門守、そして治部田の粗忽を知っていて面白がって使者に遣わす・・・という演出もあるようだが、今回は違った。
 最初から笑いものにしようとしてるんじゃなく、何とか大役を果たして取り立ててやろうという「善意」の演出の方が聴いていて気持ちがいい。

 


 

 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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