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(No24) 米朝一門会 鑑賞記その4 平成18年8月12日(土)午後2時よりヒルトン大阪(桜の間)にて開催された米朝一門会の鑑賞記その4。
ご存知かもしれないが、先日米朝師匠が骨折で入院され、取りあえず8月中の落語会は休演となる・・・・・という報道があった。よって、急きょ代演ということになったのである。
昼の部は小米朝、夜の部は雀々が代演する。
いわゆる今日のトリがざこばである。
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(6) 桂ざこば 「遊山船」
「落語始めて43年になるんですが、師匠は昔から寝茣蓙が好きでして、夏んなるとすぐ寝茣蓙敷きはるんです。
あれね、確かに滑って危ないんだ。茣蓙の目ぇなりにね(注 茣蓙の編んだ目に平行だと滑りやすいということ)わたいら寝茣蓙買うてくる時気いつけてまんねん。できるだけ滑りにくいもんとかね。
今度の寝茣蓙、あら小米朝がプレゼントしたもんだんねん・・・・」。
「小松左京先生、今、また『日本沈没』がブームになってまっけど、いつも米朝一門会ある時は楽屋のぞいてくらはるんです。
ところが今回はおいでやなかった。代わりに奥さんがお見えになったんで『どないしはったんです?』て、聞いたら『自分の入れ歯で胸噛んだ』っていわはって・・・
『はあ?な、何です?』て聞いたンです。わけ、わかりまへんやろ。そしたら、小松先生、いつも入れ歯いらん時は外してYシャツの胸のポケットに入れときはるそうなんです。
ところが拍子の悪い、その状態で前へぼん!とこけはって、ほんで、自分の入れ歯で胸噛んだ・・・・ゆうて。入れ歯の前歯2本折れはったそうです。これがほんまの2本沈没やなあ、ゆうて・・・・」。
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「こないだ船乗ったんです。繁盛亭の船。船はよろしいなあ、ほんま。(感激して、腕で涙をぬぐうさま)
こないだまで協会出てましたやろ。それで、船乗りとうても乗れんかったんです。で、戻っきたんで、さあ乗るぞ!思てたんですが、去年は足折ったんで乗れませんでした。
今年こそ!ゆうんでねえ。(注 よくわからないが、天神祭りで上方落語協会で船を仕立てて、それに乗る話のことだと思う。協会で天神橋に繁盛亭という落語の定席を建設中なので、船にそういう名前がついているのだろう)船に乗ってますと橋の上から声がかかったりします。『ざこば〜!』とかね。
そしたら『おおきに〜!』ゆうて、こっちも手ぇ振りまんねん。愛想よろしでぇ。
そらそうでんがな。『あいつ生意気じゃあ』ちゅうて、ひょっと上から石でも放られたら、船の上は逃げ場がおまへんさかいな。
橋の上から見てるもんにしたら、船に乗ってるもんは何やねたましいもんです。わたいがそうでしたからなぁ。(石を投げる格好をして)せんど(よく)放ったりました」
噺は、夕涼みに出た喜六と清八の二人連れが、橋の上から船をみてあれこれ会話をかわすもの。頼んない喜六(喜ぃ公)が、兄貴分の清八(清やん)にいろいろ尋ねる。
「川の上手(かみて。上流)じゃ大水(おおみず)でも出たようやで」
「何で」
「見てみいな。家が流れて来てる」
「家?ああ、何ゆうてんねん、あら、大屋形やないかい」
「ああ、清やん、お前がよお、金を借る?」
「そら、親方。大きい屋形船っちゅうこっちゃ」
「あっこにおる女子(おなご)は誰じゃ」
「あら、出てる妓(こ)や」
「出てる妓て?」
「玄人(くろうと)や、ゆうてんねん」
「くろうとて、色白いで
「褄(つま)とる女子や」
「何て?」
「わからんやっちゃな。芸衆っやちゅうてんねん」
「ああ、何や、げいしゅうかいな」
「え?お前、玄人でわからんのに、芸衆がわかんのん?けったいなやっちゃな(おかしなやつだな)。」
「わかるがな。広島(芸州)の女子やろ」
「ちゃうがな。芸妓(げいこ)、芸者やがな」
「ほたら、芸妓てゆたら、ええがな」
「いや、げいこぉ、げいしゃあ(下り調子で)ゆうたら、何やもっちゃりしてるやろ。そこ行くと、芸衆!(手を口の横に当て、大向こうから声をかけるような格好で)ゆうたら、しゅっ!としてる(すっきりしてしゃれてる)がな。芸衆!ゆたら」
「・・・・・そうかあ?何や、言い方変えてるだけのよな気ぃするがなあ」
「そないなこたぁないで。げ〜こぉ・・・、芸衆!な、ちゃうやろ」
「そうかなあ・・・あ、あの、子供みたいな子は?」
「ああ、あら、舞妓や」
「親、心配してるやろな」
「迷子やない。舞妓や」
「袖長いなあ」
「ああ、振袖やな」
「あこに南京豆入れたら取りにくいやろな」
「あないなとこに南京豆入れるかいな」
「入れへんのはわかったるがな。入れたら取りにくいやろうゆうてんねんがな」
「しゃあから、振袖に南京豆なんぞ入れへんて・・」
「入れへんのはわかったぁるゆうてるやろ!そこ、入れたら取り出しにくいゆうてんねがな!」
「(根負けして)せやな」
「・・・・わいの勝っちゃあ。まあ、舞妓やったらまい衆てなもんやな」
「そやな」
「あら誰や」
「あら、仲居やがな」
「袖短いで」
「長いやのうて、仲居や。お運びさんやがな」
「なあ衆やな」
「・・・・そうです」
「あの包丁持ってんのん誰や」
「あら板場(いたば)やがな」
「ああ、風呂場とかで盗人(ぬすっと)する」
「そら、板場稼ぎや」
「いぃ衆やな」
「・・・その通りです」
「あら誰や?扇子ででぼちん(おでこ)叩いてる」
「あら、幇間(ほうかん。太鼓もち)や」
「駿河屋の」
「羊羹ちゃうがな」
「たぁ衆やな」
「はいはい」
「あら、誰や。真中で座ってんのん」
「あら、この船のきゃあやがな」
「きゃあて?」
「客や、ゆうてんねん。きゃくぅ、ゆうたらもっちゃりしてるやろ。しゃあさかい、きゃっ!」
「これも言いよう、変えてるだけのような気ぃするけどなあ。ほな、芸妓はげ!やな。舞妓はま!」
「まぁ、何でも好きに呼んだらええがな」
「そやけど、すごいぜえたくな遊びやな」
「せやな。金の話したら、やらしいけど、まあ、一本はいくやろな」
「ラムネが」
「(呆れたように見つめ)情けのうて涙出てくんなあ。何でラムネが一本やねん。100円や、ゆうてんねがな」
「え、えっええ〜!ひゃ、ひゃっけん〜(100円)?ひゃっけんゆうたら、半年食えるがな。・・・あ、ちょっと待てよ。よお考えたら、そない(それほど)高いこともないか知れんなあ。ほれ、船の前と後ろに船頭いてるし、芸妓はいてるし、舞妓もおるし。仲居、板場、たいこ・・・皆で割ったらそない・・」
「あほ言いな。あら、きゃあが一人で持つねんがな」
「え、え〜?きゃあが一人で?きゃ、きゃあは何してるやつやねん!?」
「そんなん知らんがな」
「そんなもん汗水垂らして稼いだ金やったら一晩で100円使(つこ)てまうなんてできんぞ。今の世の中はどないなってんねん。日本もおしまいやぁ・・・・あ、ほれ、見てみぃ。やっぱり、あのきゃあ、盗人や」
「何で」
「きゃあ、芸衆のふところに手ぇ入れてる。(芸者に向かって)気ぃつけよお〜!きゃあが財布狙(ねろ)とるぞお!」
「あら、げい(芸者)にきゃあ(客)がついてんねがな」
「え?こないだ、清やんとこのおばんにタヌキがついたな」
「ほっとけ」
「何してんねん」
「・・・揉んだはんねん」
「え、ええ〜!?(両手を口の周りに当て大声で)やめてくれ〜!!」
そこへ料理が運ばれてくる。
「大きな椀やな」
「おおひらとゆわんかい」
「えらい煙や」
「湯気やがな」
「あら何や、あの黄色いのん?」
「え?ああ、あら、卵の巻き焼きやな」
「タ、タマゴのまくやくか?」
「舌まわったらへんで」
「横の赤いのん何や?」
「あら、生姜やがな」
「生姜か。あらピリッとしてうまいんや。あ、生姜食たな。あ、また、生姜食た。また、生姜や。生姜しか食わんのか」
「知らんがな」
「あ、ようようタマゴに箸つけて、食う・・・・あ、食わんと、船の外にほりよった。何であんなことしよんねん?」
「灯りで川の魚が集まってきとるから、鯉にでもやりよったんやろ」
「そ、そうかぁ・・・・・鯉になりたい。あ、あら何や?あの黒いべたっとしたやつ!」
「血圧上がるで。・・・・あら、鰻やな」
「ええ?うちの鰻と違う」
「喜ぃ公(こ)、お前とこ鰻なんて食うんか」
「何ゆうてんねん。うちとこの嫁はん、夏場は精つけなあかんゆうて、週にいっぺんは鰻出してくれんのやで。しゃあけど、鰻ゆうたらこう、くるんとした(と、親指の先を示す)」
「ああ、そら半助(鰻の頭の部分。値段が安い)やがな」
「源助はんとこで買うてんねんで」
「店の名前ゆうてんのと違うがな。鰻の頭を半助ゆうねがな」
「え?頭?鰻て胴あんの?」
「胴あんのて、お前、鰻の胴、食たことないの?」
「生まれて28年。いまだ巡りおうたことがない。できれば、いつの日か巡り会いたい・・・・あ、あれは何や」
「あら、太巻きやな。太い海苔巻」
「きゃあが食うんか?」
「きゃあは酒飲むから、あないなもん食うかいな。あら、子供、舞妓に食わすねんがな」
「そやけど、切ったらへんで」
「さあ、それや。あない太いのん、舞妓の小ちゃい口には入らへんがな。それで、舞妓が噛みきられんで目ぇ白黒すんの見ながら酒のもうっちゅうこっちゃ」
「ええ?あのきゃあは、やらしいやっちゃなあ。おお〜い!こっち、こっち!こっち見なさい!(と、舞妓に向かって)
わいが教えたる。その太巻きは海苔が上等やさかい、よけい噛み切られへんねん。もう、体裁(ていさい)かもてられへん(気取っていられない)。こ、こう。べろべろ、海苔をこうなめて、ほんで柔らこすんねん。
ほれ!ほんで、こう口でぐぐっ!と・・・・しかし、この海苔巻、えらい砂やなあ」
「お前、ぞうり食て何してんねん?」
別に、どこかの稽古屋が仕立てた船がやって来る。
女性たちが揃いの碇(いかり)の模様の浴衣を着ているのを見た清八が
「おい、喜ぃ公。こうゆうのを誉めたらな、あかん。よお!よお!さてもきれいな碇の模様!」
「へぇ、風が吹いても流れんように」
「聞いたか、喜ぃ公!」
「何ゆうてんねん」
「いや、揃いの浴衣の模様が碇やさかい、誉めたったら、碇は船つなぎ留めるやつやさかいに、風が吹いても流れんように・・て、しゃれたぁるやないかい。喜ぃ公、お前とこの嫁はん、あら、女子やったかいな?」
「そら、間違いないで」
「同じ女子でもえらい違いやなあ。お前とこの嫁はんでは、あないな洒落たことはよぉ言わんやろぉ」
「何ゆうてんねん。うちとこのん、あんなん得意やでぇ。近所でも評判やがな、雀(おしゃべり雀)のお松ゆうて」
馬鹿にする清八に腹を立てた喜六は家に帰り、うちにも碇の模様の浴衣があった筈だからそれを着ろと嫁さんに命ずる。
あれはすっかり汚くなったので雑巾にしようと思っていたというのに、無理やり着せて、さすがに船はないので、行水していたたらいに奥さんを入れる。
橋の上から見ている気分になるため、屋根の上にのぼる喜六。
「(にやにやしながら)へ、へ〜え。嫁はん、上から見んのん、初めてやなあ。あっ、えらいとこにハゲがある」
「あんた、何がおかしいのん」
「何でもかまへん。ほな、声かけるぞ。よお!よお!さてもき・・・、さてもきれ・・・・・いとは、さすがにとても言えんなあ。よお!よお!さても汚い碇の模様!」
「質に入れても流れんように」
喜六が自慢するだけあって、ずいぶんウィットのきく奥さんだ。
さて、ざこばはいつもテンションが高い噺家だが、今日は特に高く、声も大きかった。
ざこばは米朝師匠が好きで好きでたまらないので、入院している師匠が心配でならず、どうしてもテンションが上がってしまっているのだと思う。
思えば米朝師匠の休演は残念だが、カバーしようとする他の出演者の熱意が感じられ、よい落語会だったと思う。米朝師匠の一日も早い回復を祈りたい。
そして、次、10月にやはり米朝一門会の前売りを買っているので、そこでは元気なお姿を見せていただけるといいなあと思っている。
どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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