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(No209) 立川談春 独演会 鑑賞記 その5
          

 平成22年12月26日(日)、NHK大阪ホールの鑑賞メモ。

 



立川 談春 「芝浜」(3)


 魚を選ぶ目のいい魚屋はいる。包丁さばきのうまい魚屋もいる。ただ両方備えてる魚屋はめったにいないそうで。勝公はそうゆう魚屋だったんですね。
 包丁を入れると金気が入るんだから、味が落ちるに決まってんだが「何だね。勝っつぁんが包丁入れると味が一段上がるねぇ」なんて言われるようになった。

 その勝公が正直に商売に励むものだから、段々お得意が増えていく。だが、勝公には儲かってんだが、借金が減ってんだか最初のうちは、まるっきり分からねぇ。

 2年目の大晦日、そして3年目の桜が散った頃、おかみさんが
「あんたにウンと言ってほしいことがあるの。あたし、店を持とうと思うの」
「何の店?」
「何の店って、魚屋に決まってるだろ?」
「誰がやるの?」
「あぁたとあたしのほかに誰がいるんだい」
「ええ?無理しなくていいよ。ゆうだろぉ?小さなことからコツコツとって。
 大丈夫なの?まあ、俺ぁ今までと一緒だからな」

 狭いけど一軒の店を構えて、「魚勝」って看板をかけて。若い者は置けませんが、かみさんと二人で懸命に働く。

 大晦日、商売を終えて湯に行った勝公。

「あっ、あんた、帰ったの」
「ああ。いいもんだなぁ。押入れ入って風呂敷かぶって、おめえの言い訳聞いてるのとえれえ違げえだ。

 芋を洗うようだとは、あのことだな。半分がつかって、半分が立ってるんだ。

 いっぺんにつかると湯船がはじけちまう。あ、寒そうだなって半分が立ったら、半分がつかるんだ。
 立つ、座る。そん時触れ合うからきれいになるんだな。

 さびたの隠居がいてよ。あの隠居、知らねぇって言わないんだ。言ぃやぁ楽になるんだがなぁ。

 除夜の鐘はなぜ108つくんですかって訊かれて、四苦八苦てゆうだろ?四九36と八九72。足して108。

 何でも四苦ってぇのは生老病死(この「生老病死」が出てくるまで、ずいぶん言い淀んで時間がかかった)の四つで、その枝葉が八苦だそうだ。

 で、俺にこう言うんだ。

 勝っつぁん、お前は店まで持てるようになった。あの呑んだくれが大したもんだ。
 人間、ついてないなぁて奴ぁ忘れようとする。だが幸せな奴はまた来年も・・・なんて思うんだ。年明けたら春だよ。春んなったら、みんな忘れて一からやるんだぞって。


 俺ぁ世間じゃ幸せだと思われてるらしいよ。おめえの店で、え?あら、おめえの店だよ。いっしょけんめえ働くよ。で、さびたの隠居に今年もがんばったなと言われるように」
「私もいっしょうけんめい忘れなきゃ。こんなに幸せなんだから」
「違うんですよ、おかみさん。今が並なの。昔がひどすぎたんだからね。振り返らなきゃいい。

 大晦日だから、大抵のことは照れずに言えるけど、座りしょんべんするくらいの幸せを授けるからな」

「・・・・ねぇ〜〜」
「どんな縁起の悪い声だよ!」

「あの・・・見てもらいたい、聞いてもらいたいことがあるんだけど。
 お願いだから聞いて・・・・」
「ヤな話か?春の着物?いいよ。金額だけ言うな。

 今聞かないとだめ?
 正月だ、夫婦だからって言わなくていいこと、あるんだよ。

 革の財布?へそくりだろ?いいよ。しなきゃいけねえんだろ?女房の務めらしいじゃねえか。 
 中改めろ?重いねえ。本当にいいの?今なら見なくていいよ。

 え?二分金じゃねえか。
(勘定して)42両じゃねえか。何かわけがあるんだろ?何だい?」

「何だいて何?革の財布に42両で思い出すことはないのかい?」
「え?革の財布に42両?・・・・・何で、あんなことを思い出させるんだ、あれは夢・・・・・・
(下の財布に目を落とし)えぇ〜〜〜!!何でこれがここに?何これ?(左右を見て)夢じゃないの?

 話ってそれか?約束は守りましょ。言えるもんなら言ってみろ」

「嬉しかったんだよぉ。でも、あんた借金払ったら、みんな酒呑んぢまうって。落とした人がいるんだろ。すぐに届けなきゃって思って、隠居さんに相談したんだ。
 そしたら当たり前だ。十両盗めば首が飛ぶってのに、42両なら、おめえの亭主の首は、胴体とつながっちゃいない。1両たりとも手ぇつけちゃいけないって言うんだ。

 奉行所には俺が届けとく、亭主にどう言うかは自分で考えろって。あたし、どうしたらいいか分からないから相談に来たんだって言ったら、今、亭主はどうしてるって訊かれて夢見てる、寝てるって言ったら、そりゃいい、夢にしちまえって。(おかみさんが「夢見てる」と言っちゃったのは、言い間違いか?)

 子どもじゃないんですよ。そんなこと信じますか?って言ったら、その金で呑んだら亭主の命がなくなるんだぞ。お前が夢と信じなきゃ亭主がいなくなってもいいのかって。

・・・・・・あたし、お前さんがいなきゃ、やだ。
 お前さん、人がいいから信じてくれた・・・・」

「ああ、そうですか。・・・・・・女房にウソつかれて、はい、そうですかってわけにゃいかねえんだよ!

 で、何で、そのせぇふがここにあるんだ?」

「1年たった時、奉行所から落とし主が現れねぇから取りに来いってお下げ渡しになったんだ」
「それが何で今なんだ・・」
「怖かったんだよぉ!」
「何でもかんでも怖かったで済ますな。何で出せなかった?」
「あたしが一日だけ寝過ごした日があったろ?」
「ああ、風邪ひいて熱ぅ出した日だろ」
「つまらねぇ苦労かけてすまねぇ、早く治しとくれよって言って、あんた一人で支度して出かけてくれた。
 雪のいっぱい降る日だった。・・・・あたし、ウソついてるのよ。あんた、帰ってきてからも、ぐえぇはどうだ?熱は下がったかって、お粥炊いてくれて、精のつくようにって魚まで焼いてくれた。

 これでいい。あたし、一生ウソをつき通していこうと」

「じゃあ、何で今日出した?」

「あんた言ってくれたじゃないか。来年の春には、幸せ授けるからなって。・・・・・・もう、しょうがない。

・・・・虫がいいのは分かってる。・・・・でも・・別れないで!」

「・・・・分かった、分かった」
「何が、どう分かったの?」
「もういいよ。・・・あっ、除夜の鐘だ。今年は多いんじゃねぇか?」
「全部言ってよ。あたしは死ぬ思いで言ったんだから」
「・・・・・つきあたりまで言うんですか?

・・・・・何で夢にしたのか、なぜ出さなかったのか、どうして今出したのか。全部分かったよ。

 俺が悪かったよ。分かった。ありがとう。おめえのゆうとおりだ。よく気づいてくれた。ありがとう。おめえのおかげだ」
「・・・・・・許してくれるの?じゃあ、あたしもあんたのこれまでむちゃくちゃを許したげる」
(どん!と床を叩き)図に乗んじゃねえ!」
「ねえ、お酒呑む?お酒呑も。呑みたいだろう?」
「んなこと言ったって、うちに酒なんぞ・・・春だから、お客様の年始用に用意してた?おめえ、時々またぐらから手ぇ突っ込んで背中かくようなことするね。
 そうと決まりゃあ、
(財布を女房に押し返し)42両はおめえにやるよ」
「42両あれば、ずいぶん呑めるよ」
「理を言うんじゃねえ。ああ、そうなの?いいにおいだな。俺ぁ42両だの財布の夢はいっぺんも見なかったけど、酒の夢は何べん見たか。・・・・・胸襟開くけど
(胸の前で手を両横に開くさま)夢以外に手はなかったのか?

(手にした杯に)ふふふふふ、こんちわ。また、つきあっていいようだょ。
(女房に)お前が呑めっつんだよ。あ、そうだ。二人で呑もぉ」
(少し照れて)三々九度みたいだね」
「何、言ってんだ。こんなもの、ときの声上げて呑むんだよ。
(片手を突き上げ)えい!えい!お〜!って。

・・・・・・ありがとう。今年もよろしく。
(と、杯に口をつけようとして)よそう、また夢になるといけねぇ」
 


 緞帳がおりかけたが、談春が途中で「上げろ」と手で指示した。

 何を言おうと思ったのかな?あ、そうだ。3月に堺でやらせてもらいますので、よろしくお願いします。
 落語はもうやりません。今年は。

 勉強になりました。

 

 三本締めをして、皆さんの永遠の幸せを祈ります。私は、大病をしないこと。それだけでいいです、と言って、今度は本当に緞帳がおりた。

 素晴らしい公演だった。

 


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが録音はしてません。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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