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(No208) 立川談春 独演会 鑑賞記 その4
          

 平成22年12月26日(日)、NHK大阪ホールの鑑賞メモ。

 



立川 談春 「芝浜」(2)


(寝てる亭主を揺り起こし)商いに行っとくれよ」
「商いって何だ?」
「行ってくれなきゃ鍋の蓋も釜の蓋も開かないよ!」
「・・・・お前の用ってそれ?あるだろ?」
「何が?」
「お金はあるでしょ?」
「どこにあんの?」

「・・・・・・何がしたいの?芝の浜・・・・。42両、あるだろ?」
「誰が芝の浜に行ったの?」
「・・・・・・・お前、大丈夫か?」
「そういや、寝てて何だかうなされたり、喜んだりしてたよ。何か夢でも見たの?」
「・・・・全部、分かった。俺ぁ夢見て騒いだんだな」
「だって、起きたの?」
「起きねえよ」
「なら夢じゃないか」
「はい、はい。・・・・はは、だめだよ。あそこを見ねい。手拭いもあるし、酒の徳利も転がってるじゃねえか」
「そうだよ。起きるなり湯ぅ行くって言って出たかと思ったら、友だち連れて帰ってきて、酒買ってこいって。
 あたし、何かあるのかなって思って、頭下げて、お酒借りてきたら、俺に恥かかすのか!酒といったら肴だろ!気のきかない奴だ!うなぎ屋行ってこい!うなぎの天麩羅
(言い間違いだったのではないか?)・・・・天麩羅も誂えてこい!って。

 私、何が何だか分からないけど、あんたが怖い顔してるから逆らえなくて・・・・・・。あんた、呑むだけ呑んだら寝てしまって・・・・」
「聞いてると、お前の話が正しく聞こえるだろう!

 そうだ。思い出した。俺ぁお前に起こされて河岸ぃ行って、切通しの鐘が聞こえて、かかあ、早く起こしやがったなって・・・・・」

「今鳴ってる鐘は何?うちにいたって聞こえるんだよ」
「そんなこと・・・・・何が言いたい?
 鐘だけじゃねえ。河岸で犬に吠えられて・・・」
「寝てる時に犬が吠えていて、夢に犬が出てくるってことがあるんだよ!」
「いや、そうじゃねえんだ。まき屋のアカが俺の顔見て吠えたんだ。
・・・・・俺、そん時、魚屋が河岸の犬に顔を忘れられるようじゃおしめえだ。おめえにも苦労かけてるから、しっかりしなきゃって思ったんだよ!」
「じゃあ、しっかりしてよ!だから・・・・夢でしょ」
「・・・・・夢?・・・・夢でいいよ。でも夢なら・・・・・・・・うち、大変だぞ。大変でも・・・・夢なの?
 いいのか?お前が大変なんだよ。

 お前、何がしたいの?何でお前、そんなウソを・・・・・・・・。どんな訳があんのか。
 何か考えがあるんだろうけど。もっとマシな考えはないのか?」

「・・・・・・・じゃあ、何かい!あたしが隠したってゆうのかい?私が猫ばばしたとでも?

 広いうちじゃないよ。どこでも探しゃあいいじゃないか!
 あたしが一番欲しいんだよ!あんたのせいで世間狭くして、借金こさえて!
 見とくれよ!洗いざらしの浴衣2枚重ねて着てるんだよ!

 さあ!出しとくれ!ここに42両、出しとくれよ!!」

「ちょっと待て。分かった。・・・・・・・・・・もういっぺんだけ訊くぞ。
 夢・・・・・なのか?うちはもうダメだぞ。・・・・・・あっ、そう・・・・・・・・。

 おっかぁどうしよ!大借金(おおじゃっきん)だぞ。俺がトドメさしちゃったんじゃねえのか?

 ・・・・・・二人、一緒に死んどくれ」
「・・・・そうだね。・・・死のうか」
「助けてくれ!おっかぁ!俺ぁ死にたくねえ!」
「何だよ。生きていけるの、いけないのって。あんたは、腕のいい魚屋なんだよ。
 そりゃ1年やそこらじゃ無理かもしれないけど、働いてさえくれたら返せない借金なんかないよ」
「大借金だぞ。
(かみさんを指さし)お前、言ったな!

 俺は働くだけだからな。おう!おう!おう!借金を・・・・なんて奴が来ても、全部お前だからな」
「当たり前だよ!あんたが働いてさえくれたら、やりくりはみんなあたしがやるよ!」
「・・・・・強いねえ、おめえ。返せねえ借金はねえんだな?俺ぁ酒ぇやめるよ」
「いいよ、そこまでしなくても」
「いや、俺が気持ち悪いよ。
 酒が悪かったことにしてくれ。
 じゃ今から仕事に行くよ。・・・・・いや、だめだ。道具、手入れしてねえから飯台、水漏るよ」
「大丈夫だよ。糸底に水張ってるから、ひとったらしも漏れやしないよ」
「包丁は?錆びてるだろ?」
「ぴっかぴかのサンマみたいに研いでるよ」
「わらじは?」
「出てます」
「あっ、そう・・・・・・・・・・・
(微妙な表情)
「どしたの?」
「ん。夢にこうゆう所があったんだ。
(おかみさんは、顔をおおって泣く)
 もう言わねえ。悪かった。泣くなよ。
 いっつくるよぉ」

 かみさんがすすり泣く、いや、声上げて泣いてるのを背に聞いて、勝公は見違えるような真人間になったてぇ噺なんですよ。「芝浜」は。

 私は変わらないと思うんです。根っこは変わらねえ。怖いんだ。

 毎日、稼いだだけ、かみさんにみんな渡しちまう。

 ガラッと人が変わる。生まれ直せる、救われる。信じていい時代。一晩明けたら、すべてが変わる時代だからね。

 


 続きます。

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが録音はしてません。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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