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(No18) 平成紅梅亭 上方落語vs江戸落語!! 鑑賞記その3 

 平成17年11月1日(火)午後6時30分より大阪読売TVにて収録された平成紅梅亭の鑑賞記の3回目(完結)。
 



(1) 「上方落語vs江戸落語 徹底討論!落語界の将来はどうなる」

 
「徹底討論!落語界の将来はどうなる」という対談が、三枝の司会で、小遊三、小朝、昇太を迎えて行われた。
 それぞれの発言の詳細は省くが、昇太は「落語は、みんなが同じことをやっていると思われているのが悔しい」と言っていた。
 だから、一度、落語を聴いて「つまらないな」と思った人は、「落語って面白くないな」と感じてしまう。これが映画などの場合なら、「たまたま、今回観た映画はつまらなかった」とは思っても、映画というジャンルそのものがつまらないとは思わない筈だと言うのである。
 これは要するに、つまらないベテラン落語家連中に足を引っ張られたくないという思いなのだろう。 

 小朝はもっと端的に、今の寄席というシステムは、一人の聴きたい落語家の噺を聴くために、15人の聞きたくない落語家の噺を聴かなくちゃならない。ルミネ吉本みたいに、若手だけの場をつくりたいと言っていたのが印象的だった。



(2) 三遊亭 小遊三 「幇間腹」

 「私の出囃子はバッテンボウでして、昇太の出囃子はデイビークロケットなんです。いったい何の音楽なんだか」
 「バッテンボウ」とは、「腰抜け二挺拳銃」という昔のコメディ西部劇映画の主題曲。「ボタンとリボン」というのが正式名称だが、発音から「バッテンボウ」という愛称がついた。なお、リボンというのは、原題では「ボウ(タイ)」つまり蝶ネクタイのことである。

 道楽者の若旦那が、人がやってないような遊びをしたいというので、鍼(はり)の稽古を始める。誰かに頭を下げて入門し、辛い修行を・・・なんてタイプじゃないので、金にあかせて道具を買い揃え、自己流で最初は畳や壁、柱なんぞにうっていたが、何か柔らかいものにうちたいということで空気まくらにプスリ!腫れはひいたが、おもしろくない。
 何か鼻から息をしてるものにうちたいねえ、ということで猫にうったが、手をひっかいて逃げてしまった。

 「人間にうちたいもんだねえ、やっぱり。でも、そんな、うたしてくれるような人間はいねえよなあ・・・・・  あ、いたよ。幇間(たいこもち)の一八(いっぱち)。あいつは、いつも若旦那のためなら、命はいらねえ、たとえ火の中、水の中って言ってるんだよ。火ん中入るんだから、鍼くらいうたせる筈だ。そうだ、そうだ。あいつに決めた」

 お座敷がかかった一八、あの若旦那はしゃれがきついからいやだ、こないだも、酒に金貨を入れるってんで必死に飲み干したら足袋のコハゼだった。
 ああ、やだやだ、昨日の夢見が悪かったんだよ、小泉首相と卓球している夢を見たからねえなどと散々ぼやきながら、二階へあがる。
 しかし、障子を開けたとたんにこぼれるような笑顔。階段あがる途中で、「幇間やめたくなる」ってとこを「噺家やめたくなる」ととちり、「つい、本音が出ちまった」と照れ隠しでごまかすアクシデントが、おもしろかった。

 「はり?粋だねえ、若旦那は。芸者衆を呼んで、おっ、ここかい、どれ、おいらが繕ってやろうてんで」 「おいらはお針子じゃねえ。身体にうつ鍼だ」
 「ああ、鍼ね。身体の疲れがすっと取れますからね。そいつを芸者衆に・・え?わたくし?また、そんな大胆な。やめときましょうや、陽気もはっきりしねえし」
 「だから芸人はいやなんだ。いいよ、何も幇間(たいこ)はおめえだけじゃない。1本うつごとに羽織1枚っていやあ、いくらでもうたせる幇間が・・・」
 「え?羽織?いやだねえ。そういうことは先に言ってもらわないと。あっしゃぁ、1本や2本なんてのはめんどくさいから10本くらいまとめて、ね?
 そのかわり、場所決めましょう。場所限定。かかとなんてどうです?だめ?じゃ、こうしましょう。手の甲。
 それで、わたくしが、こうつまんで、引っ張りのぉ、富士山みたいな形をこさえてね、針も縦はいけやせん、縦は。横に、こう
 「うなぎに串うってんじゃねえ」
 「ところで、若旦那、鍼はずいぶんとご経験がおありなんでしょうねぇ。え?畳や柱?いや、そうゆうんじゃなくて。
 鼻から息をするものには?ミケ?ええ?猫の次がいきなり私ですかぁ?猫と私の間にゃあ、余命いくばくもない親戚とか、いくらもあったでしょう?

 結局、腹にうたれることになり、後ろに手をついて、腹を出す一八。

 「ええ、ええ、わかりました。こうなったら、覚悟決めますよ。(後ろを振り返り)ベンチ、声出していこうぜ!」
 「何て声出してる。そうじゃなくて、苦しそうな声を出せ」
 「いろいろ言うねえ、どうも。こうですか、う〜〜ん」
 「おおっ、ずいぶんお困りのようですな」
 「困ってますよ!早くやっておくんなさい。・・・・ん?何だ、若旦那、お上手じゃないですか、うってるかうってないか、わからない。何?まだうってない?え?い、痛い!だめだ、若旦那、痛い!痛い!!」 
   「駄目だよ、一八、そんなに暴れちゃあ。ほれ見ろ。針が折れた」
 「お、折れたぁ?どうすんです?」
 「大丈夫だ、脇にこうして、迎え針ってのをうつと、すっ!と出てくるんあだ」
 「ほんとですか、若旦那?うまく迎えてくださいよ。やだよ、押し込んじゃ。え?痛い!また、痛いよ、痛い!」
 「暴れるなったら!・・・ほら、また折れた

 若旦那は一八を置いて逃げ出してしまう。
 腹から血を出している一八に、女将(おかみ)が
 「あんたもちったぁ名の売れた幇間(たいこ)だよ。(指でお金の格好をつくって)いくらかにはなったんだろうね」
 「いえ、(太鼓の)皮が破れて鳴りません」というのがオチ。

 小遊三は、幇間の、至って調子がいいとこはうまく表現しているが、悪坊主みたいな風貌なので、あまり哀れさは感じられない。そこが救いといえば救いだが、味わいに欠けると言えばそう言えるかもしれない。(←どうもはっきりしねえな。ありていに言えば、あまり好みじゃない。ちょっと”かむ”場面も多かったし)

 写真は小遊三HPにて。



(3) 桂 三枝 「お〜い、キャディさん」

 トリは三枝。まくらは、最近こっているゲーム機の話。

 「N天堂の・・・まあ、全部ゆうてるようなもんですが、ゲーム機で大人の脳力開発というのがあるんです。
 東京行く新幹線の中でいつもやってるんです。足し算とか掛け算を暗算で素早くやっていると脳年齢が若くなるというんですね。
 新幹線の車中ですから周りに気を使って、ピコピコゆう電子音なんかは消してやってるんです。そうゆうとこ、マナーはちゃんと気をつけてるんです。でも、気ぃついたら5足す17は!とか大声出してまして・・・」

 「いろんな熟語をね、続けて表示されるんですが、それを暗記するなんて問題もあります。
 こうゆうのは割と得意なんです。やっぱ、落語家ですからね。いろいろ関連付けたりして覚えるんです。
 その甲斐あって、こないだ、ついに脳年齢21歳!という結果になりました。(会場から拍手)
・・・・・でも、そのゲーム機を車内に忘れましてね・・・」

 「いつも思うんですが、なぜ女性はあのように元気なんでしょうね?環境に恵まれているんでしょうか。
 例えば、ゴルフのキャディなんて仕事がありますが、あれなんかいいですよね。自然に囲まれて、適度な運動ができて、ほんと健康にいい。
 そこ行くと、男性はなかなかええ仕事がないんです、年取ってからやる仕事でね。あるゆうたら、例えば高速道路の係員。じぃ〜っと座って、切符出して、ぶわ〜っと排気ガスかけられて・・・大変です」

 とあるゴルフ場、支配人がベテランキャディのもとに3人のおばあちゃんを連れてきた。近々大きなコンペがあるのだが、キャディが足りない。仕方なく老人ホームから来てもらったので、教育してほしいというのだ。

 「皆さん、ゴルフの用語とかは知ってるんですか?」
 「ようご?いえね、わたしらの老人ホームは擁護ホームやのうて普通のやつ」
 「いや、違うんです。そう、バーディとか、アルバトロスとか」
 「え?入れ歯落とす?」
 「・・・誰か名前は知ってますか、タイガーウッズとか」
 「タイガーバームやったら、時々使いますけど」
 「じゃあ、賞金女王の不動さんなんかは?」
 「お不動さんは、よう、お参りに行きまっせ」

 いよいよ大会が近づくが、どうしてもトメさん一人だけは、箸にも棒にもかからない。
 仕方ないので、彼女は最終組のキャディにすることとした。できるだけ人目に触れないようにしようというのと、VIPは最終組には入らないだろうと考えたのだ。
 ところが、悪いことに一番重要な社長が仕事の都合で、最終組でスタートすることとなってしまった。

 「君、いったいどうなっているんだ。前の組はすっかり空いてるじゃないか。どうしたんだ、うちのキャディさんは」
 「あ、社長。どうもすみません。いえね、私たちのバッグがそこのカートに乗ってるのは見えてるんですが、キャディさんがおらんのです。それで、他の組のキャディさんにうちのキャディさんのことを聞いても、何やおびえたような顔をして多くを語ろうとせんのです。
 あっ、社長。キャディさん来ました・・・・何やカートにもたれかかってますよ。お〜い、こっち、こっち・・・・・・って、通り過ぎてしもたで。あっ、やっと戻ってきた」

 「あ、皆さん。お揃いですか?」
 「私らは揃てんねん。早く、うつもん貸して。いや、それ違う。それはパター。そんなんで打ってたら、80回くらい打たんならん。ドライバー!」
 「ねじ回し?」
 「そこ、カバー付いてまっしゃろ。1番と書いたやつ。あっ、カバーほったらあかんがな。キャディさん、グリーンは?」
 「そこらじゅう、グリーンです」
 「いや、旗の立ってるとこ」
 「あっちゃこっちゃ」

 「君、いいから早く打ちたまえ」
 「あ、すんません。社長。キャディさん、風は?」
 「こないだ治りました」
 「・・・・・キャディさん、たまをよく見ておいてくださいよ
 「ま、いややわ、そんな恥ずかしい
 「何言ってるねん」

 「君、もういいから早く打ちたまえ」
 「はい!えい!ああ・・・キャディさん、どこへ飛びました?」
 「何が?」
 「だからたまをよく見ておけと・・」
 「私はちゃんと見てました!それやのに、あんたが打ってしまうから!

 「君、球は右の木の手前だ、それと君、次、早くうちたまえ」
 「これは社長にキャディのような仕事をさせてしまってすいません。キャディさん、あんた黙ってたらあかんがな。打ったらナイスショット!って声をかけて私らをええ気持ちにしてくれんと」
 「内証?
 「ナイスショットや」
 「わかりました。ナイショ〜!!
 「打ってからゆうねん。打つ時は黙っとくもんや」
 「なんや陰気な遊びやねえ」

 「君、あんまりぽんぽんゆうたげるな。こんなお年よりが仕事したはんねや。この人見てると何や、故郷の母親を思い出す」
 「まあ、ええこと言わはる。あんた出世するで」
 「もう出世したはんねん。この方は社長さんや。さあ、うつで」
 「わかってます。たまを打ってから、よう見てまんねやろ。あっ、打った!飛んだ、飛んだ、飛んだ・・・・・・って、ああ、あれは鳥か」

 「君、たまはバンカーの手前だ」
 「誰が馬鹿ですねん?」
 「・・・・・・社長、いよいよ社長の番です」
 「どうも集中でけんなあ。えい!」
 「社長さん、ナイショ〜!!」
 「ナイスショットやない、OBや。黙っとき。社長、もう一球お願いします」
 「わかってる!えい!あっ、またOBや。キャディさん、ボールがなくなった。ちょっと、バッグからボール取って。いや、そのバッグは私のんやない」
 「よろしいやん、どうせ、またなくなるんやから、人のん使ってたほうが」

 ボールが飛んだら飛んだで、苦労をする。

 「あっ、9番しか持ってこなんだけど、思ったより遠いなあ。こら9番では届かんわ。
 お〜い、キャディさん、6番持ってきてえ・・・・って、えらい遠いなあ。スタートんとこから進んでへんがな。お〜〜い、ろくば〜ん!!・・・・・って、むこ向いてるわ。耳悪いんやろなあ。
 お〜い、ろくば〜ん(手で「6」を描く)こっち見てるみたいやねんけどなあ。あかん、目ぇも悪いんやろなあ。しゃあない、遠いけど戻ろか・・・・・・・・・・・・はあ、はあ、はあ。あ、キャディさん・・」
 「あ、高橋さん。はい、6番」
 「なんや、聞こえてたんかいな」

 「やっと、グリーンまで来たなあ。初めてやなあ。明るいうちから始めたのに、4ホール残して日が暮れるゆうのは。さあ、君からだ、早くうちたまえ」
 「はい。ですが、社長、まだピンがささったままなんです。お〜い、キャディさん。ピン抜いてぇ
 「は〜〜い!(小声で)何でこんなことすんねやろう」(と、うつむいて髪のピン止めを抜く)

 「キャディさん、スライスか、フックか・・・ってゆうてもわからんわなあ」
 「これは右に曲がります」
 「ええ?どない見ても左やろ?」
 「いえ、右です。私、こう見えてもゲートボールやってるから傾き見分けるのん得意なんです」
 「ほんまあ?右かあ・・・えい!ああ〜、やっぱり左やがな」
 「それも作戦ですわ。社長さん、どうぞ!ね、あの通り、左に曲がりますから、この辺にうってください。あっ、ちょっと足りへん。大丈夫。私が入れときます」

 「社長、今日は、ほんま、すいません。こんなことでは接待にも何もなりません。
 また、日を変えてセットさせていただきます。
 ええ、オーナーにゆうて、あのキャディさんにはやめてもらいます。え?あまり事を荒立てるな?いえ、あのキャディさんはあんまりです。本当に、えらい、すんませんでした。」

 この辺から会場がくすくすくすくす笑っている。心なしか三枝もにやにやしている。

 「いやあ、社長。こないだはすいませんでした。今日は、またうってかわって、絶好のゴルフ日和ですなあ。ああ、トメさん!!」
 オチがミエミエだったのである。もっとも古典落語やったら、どれもこれもオチはミエミエやけど、誰も文句はゆわんわなあ。その辺も新作落語の難しいところかもしれない。

 桂三枝のHPはここ

 

 


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
 



 

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