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(No176) 第1回上方落語まつりinミナミ 三枝一門・吉朝一門競演会 鑑賞記 その2
2010年4月29日(木・祝)、動楽亭で開催された落語会メモの続き。
桂 三若 「私がパパよ」
よね吉が引っ込んだと思ったら、突如、ざこば師匠が出てきて(しかも黒セーターの私服姿)、お茶子さん代わりに座布団を裏返し、丁寧に四隅の房を整える。
そして、「孫、可愛がってもらわなあかん」と言って、引っ込んだ。
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三若は、平成19年に、所属事務所をいったん離れ、全国をバイクで落語武者修行した男。
当時、三枝師匠が夕刊に連載していたエッセーで「全国をバイクで回り、声がかかったらどこでも落語会をやるつもりと言い出した。何で?と思ったが、本人の意志が堅く・・・」と書かれていたように記憶している。 で、1年の修行を終え、20年にはざこば師匠の娘、関口まいさんと結婚。
この動楽亭はざこば師匠が作った寄席なので、師匠が席亭という強い立場なのだが、「婿」にゴマをすってるという形。 でも、嫁はともかく「孫」とは、気の早い「先行投資」だなと思っていたら、先日、お孫さんが生まれたようだ。 にわか茶子の師匠は、座布団は返したものの、メクリ(名前札)はほったらかし。
三若は、仕方なく苦笑いしながら、自分でメクリをめくった。
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「寝起きのジュリー」、三若です。
・・・・・・・・・・・・・・(ざこばは)僕より早よ来てるんです。ここ(高座)が一番リラックスできる。ここやったら、手ぇ出せませんからね。
え〜、子どもが生まれまして。(盛んな拍手)ざこば師匠にとっては、初孫で。
5mぐらいの鯉のぼり、買うてくれはった。うち、賃貸マンションでっせ・・・・・・・・・。
生まれたんは、3月25日、午前5時55分でして。
妊娠5か月くらいの時、エコーゆうんですか、おなかの中の赤ちゃんの写真、撮ってもらいまして。
あんなん、宇宙人みたいなもんですわ。
お医者さんの先生から「ここが手ぇで、ここが目ぇで・・・・」言われても、「はぁ・・・・そうですかぁ?」てなもんですな。
せやのに、師匠、「わいにそっくりやがな!」
そしたら、師匠の奥さん、「そんな験(げん。縁起)の悪いこと、言わんとってぇ〜!!」
子ども生まれたら、名前、つけなあきません。そら、当たり前なんですが、師匠と呑んでる時、つい軽い気持ちで「師匠も、名前、考えてくださいよ」と、ゆうたんですが。・・・・・・・・・・・これが、あかなんだ。
「ええ名前、考えたぞぉ!」ゆうて、師匠、本名が関口弘、弓へんに「ム」ぅと書いて「ひろむ」と読むんです。で、嫁さんが「まい」ちゃんやから、「まい」の「ま」と、「ひろむ」の「ひろ」で、「まひろ」やて。
僕、1字も入ってない・・・・・・・。
で、嫁さんが立会い出産してくれ、ゆうた。でも、怖いじゃないですか?そうゆうのん。
せやから、「分かった」言いながら、いざとなったら「仕事入った」ゆうて逃げよう思てたんです。
せやけど、さっきもゆうたけど、生まれたんが午前5時55分。
そんな時間に、仕事がある筈がない。
まあ、入った以上は応援するしかない思てね。あの・・・出てくる方は怖いから、頭の方で手ぇ握ってたら、「フンフン!フン!フン!フン!・・・・・・」ゆうて唸って・・・・。ざこば師匠そっくり。
「がんばれ〜!」ゆうたら「もう、イヤやぁ!!今度は、あんた産んでぇ〜!!」
最後、便所の「スッポン」みたいな奴?あれで引っ張ったら、ビャ〜っと30cmくらい飛んで出た。黒いのん、出てきたから、うんこかいな?思いました。
うまいこと受け止めてくれはったから良かったけど、ころん!と落ちてたら大変やった。
ちょっとしたら、私らとかにも抱かしてもらえる。
ざこば師匠も、フン!フン!フン!フン!ゆうて抱いてたら、赤ちゃんもフン!フン!フン!フン!ゆうて唸ってる。師匠、そっくり。
そしたら、師匠、「わかるでぇ!わかるでぇ!」
何もわからへんがな。
まあ、男は、実際、何も出来ませんからなぁ。
「長いなぁ・・・・・・イライラするなぁ〜。早よ、産まれたらええのになぁ・・・・・・・・」
「・・・・おっちゃん」
「はい?」
「そない、分娩室の周り、ウロウロ、ウロウロされたら、何や、こっちまで落ち着かんがな。
そこ、長椅子あるやろ?ちょっと座ったらどないや?」
「ええ?でも、今、まさに一つの新しい生命が生まれようとしてるんですよ。そう思ったら、もう、居ても立ってもいられない・・・・」
「せや、居ても立ってもおられんのやったら、座ったらええがな」
「はぁ・・・。せやけど、あんさん、落ち着いてますなぁ、見たとこ、お若いのに」
「わいか?もう歳や。もう21や!」
「ええ?私ら49でっせ。21で、歳やなんて、せわしのぉて生きてられへん。
あっ!そしたら、さっき分娩室に入りはったん、お宅とこの奥さんですか?あの方もお若い・・」
「いやぁ、もうオバハンや。19ぅや!」
「・・・・せやけど、お宅らみたいな若夫婦で初めてのお子さんゆうたら、嬉しいでしょうなぁ」
「もう3人目や」
「ええ〜?この少子化の時代に、国から表彰されまっせ」
「おっちゃんとこは、お孫さん?」
「・・・・・・い、いえ。恥ずかしながら、自分の子ぉでして」
「何人目?」
「それが初めての子ぉで」
「ああ、失礼やけど、おっちゃん、バツ1で、再婚相手とは初めての子?」
「いえ・・・・初婚同士で」
「はは〜ん。おっちゃん、わっかい嫁さん、もろてんなぁ?羨ましいなぁ。
おっちゃんやったら、20くらい下の嫁さんもろても、いっこもおかしないもんなぁ。
わいら、20下の嫁さんやったら、1つやで」
「嫁はん、45ぉですねん」
「え!うちのおかん、45やで!」
「ほんまですか?ほな、お父さんは?」
「48・・・やったかな?」
「ほな、私、49で初めての子ぉやのに、お宅とこのお父さんは、48で3人のお孫さんがいてはるんですなぁ。
あっ、申し遅れました。私、滝沢ゆうて、商店街で卵屋やってます」
「わいは、国道沿いで家具屋やってる上田や」
「ああ、あの国道沿いの・・・。私、最初から商売人やないんです。サラリーマンやってたんですけど、25ぉの時に親父が死んで、継ぐもんがおらんから・・・・。一から商売勉強すんのに忙しゅうて、結婚どころやのぉて。
ほんで、35ぉん時、ちょっと商売も落ち着いたし、まわりのすすめで見合いして・・・。
お互い30過ぎてるし、早よ子ども作らなあかん思て、がんばったんですけど・・・・。授かりもんゆうんですかなぁ。どないしても、でけん。
ほんで、もうあきらめて、まあ、子どもおらん分、子どもにかかるお金で、二人で旅行したり、美味しいもん食べたり。ちょっと寂しいけど、これも一つの人生かなぁって思た頃に嫁はんがえらい肥えてきてね。
お医者はんに診てもろたら、でけてるて。
せやけど、高齢出産やから、心配で、心配で・・・」
「なぁに、今の医学やったら、そんなん大丈夫。40過ぎて初産なんて、何ぼでもおるがな。
女優の田中美佐子が、そうや。歌人の俵万智かて、そうやで」
「ええ?あの細い人が?何や心強いですねぇ」
「あと、ジャガー横田も、そうや」
「あら、ちょっと特別・・・」
「あれ?助産師さんが呼んでるで。滝沢さんとこちゃうか?・・・・・・・あっ、上田さん、ゆうてるわ。うちや。ほな、先、行ってくるわ」
「・・・・・・・ああ、若い人は後から来ても、先、産まれるんかいなぁ。
うち、まだかなぁ。あっ、別の助産師さん、出てきはった。あのぉ・・・・・・、滝沢ですけど、うちは、まだでしょうか?」
「(ちょっと困ったような表情で)ああ、滝沢さん・・・・・。もうすぐ出ますんでねぇ・・・・・」
「・・・・蕎麦屋の出前みたいやなぁ。
せや、今は嫁さんが大変やけど、生まれたら、俺も大変やで。
あの上田さんとこの子ぉとも、同学年になる。
運動会やったら、家族対抗リレーゆうのが、あるで。そしたら、向こうは脂の乗り切った年齢。こっちは、還暦前や。最初から勝負にも何にもなれへん。キムヨナとスケートする坂田利夫みたいなもんや。滑りっぱなしやがな」
「あっ、おっちゃん。まだか?」
「あっ!上田さん?もう産まれたんですか?」
「ああ、すぽ〜んっと」
「ええなぁ。こっちは高齢出産やから、心配で」
「いや、うちかて、こうれい出産やで」
「え?上田さんとこは、お若いのに・・」
「いや、うち、いっつも今頃産んでるから恒例出産・・・・。
そらそうと、おっちゃんとこ、付き添いいてへんの?」
「ええ、みんな何やかんやゆうて、忙しゅうて」
「ほな、わい、時間まで付き添ったろか?」
「ええ?ほんまですかぁ?嬉しいなぁ。上田さんみたいな経験豊富な方に付き添ぉてもろたら、心強い。
あっ、せや。父親としてのアドバイスをお願いします!」
「えぇ?そんなん、捨て育ちゆうて、子どもみたいなもん、ほっといたら勝手に育つんねんがな。アドバイスなんてないよ」
「そんなん言わんと、是非!先輩!」
「そんな30から違う人に先輩なんて言われたらかなんなぁ。ほな、気付いたことを二つ、三つ・・・・」
「あっ、ちょっと待ってください。メモしますから」
「メモなんかせんでええよ。
子育てゆうても、あんたも初めて。奥さんも初めて。分からんことだらけや。でも、分からんで当たり前。
それで二人が喧嘩すんのが一番あかん。せやから、何ごとも二人で相談しながら子育てするゆうのが一番大切やな」
「ふんふん、なるほど。(と、熱心にメモをとる)」
「それと、おっちゃんは仕事。奥さんは育児やろ。せやけど、俺は仕事したってんねん。私は育児したってんねん。
この”したってんねん”ゆうのは、あかん。せやのぉて、仕事してもろてます。育児してもろてます。・・・・こうゆう感謝の気持ちが大切やな」
「感謝の気持ち・・・・と(うなづきながら、メモ)」
「それから、子どもの成長には個人差がある。まだ立たへんとか、言葉が遅いとか。でも、そんなことはあんまり気にせんと、のびのびと育てるのが大事やな」
「なるほど・・・・(と、メモ)」
「それとマタニティブルー、大変やったやろ?」
「え?別に・・・・・。股が青くなる病気でしょ?」
「どんな病気やねん?いや、情緒不安定や」
「ああ、それは・・・」
「産まれた後も、産後6週間から8週間くらいは、落ち着かへんねん。せやから、おっちゃんが率先して家事とか育児を手伝ってあげること」
「ふ〜ん」
「ええ?これはメモ取らんのかいな?」
「いえ。それは結婚以来15年、もう既にやってますから」
「ああ、そう。
で、おっちゃん、名前は考えてるのん?」
「はい、男やったら銀河、女やったらピアノと・・」
「ラウンジの名前やがな、それでは。
うちなんか、一郎、二郎、三郎やで。そんなんでええねん。
あ、それと女の子は結婚すると名字が変わるから、そこまで気ぃ付けなあかん。
例えば、まりちゃんとする。滝沢まり。ええ名ぁやがな。
せやけど、水田さんと結婚してみ?水たまりや。
小田さんと結婚してみぃや。お黙り!やで。
まきゆう名前もそう。滝沢まき。まるでアイドルみたいな名前や。
せやけど、原さんと結婚したら腹巻やで。
伊達さんと結婚したら伊達巻や。
もし、国際結婚したら、ポール牧・・・」
「そうはなりまへんやろ」
「いや、そうなるかも知れんちゅうこっちゃ。
わいの知り合いで一人娘を可愛がってる奴がおって、貝殻の貝に菜っ葉の菜ぁで、貝菜ちゃんてゆうた。
その子が本間さんと結婚して、ホンマかいな」
「・・・・ホンマかいな?」
「ホンマやがな」
「うちの嫁さんは光(ひかり)ゆう名前がええ、ゆうてますねん。
男でも、女でも使えるし」
「光ちゃん!そうゆうのがええねん。それに、嫁さんの言うこと聞いとき。それが一番間違いがない。
あっ!おっちゃん、悪い!上の子を迎えに行かなあかん時間や。
でも大丈夫やて。心配せんでも、きっと丈夫な子が産まれるから。
・・・・ほな、今度は子どもの運動会で会おな!」
「ええ〜〜!!(びっくりして思わず立ち上がり、挑戦的な表情になる。しかし、ふっと表情を和らげ)
せやけど、子どもの話、する時の親の顔ってええもんやなぁ〜。
(両手を握り合わせて、祈るように)嫁さん、がんばれよ〜!嫁さん、がんばれよ〜!」
(と、助産師さんが、赤ん坊を抱いて)
「滝沢さん!産まれましたよ!元気な男の子です。奥さんは、麻酔でまだ寝てはりますから、抱いたげてください」
(すぐには抱けず、顔をのぞき込んで)
「ちっちゃいなぁ〜。それに、赤いなぁ〜。・・・・・・茹でたんでっか?
・・・・・すんません。古典落語のファンやから、いっぺんゆうてみたかった。
(抱くように促され、ぎこちない仕草で)
え?首が座ってないから気ぃ付けぇ?座ってない、ゆうことは立ってる?
そうではない?座っても、立ってもおらんゆうことは、中腰みたいなもん?それも違う?
(ようやく、しっかりと抱きかかえ、顔をのぞき込み、いとおしげに)
ひかり〜!お前は、今日から光やでぇ〜。
・・・・・・どんだけ、お前に会いたかったことか。お母ちゃんが、がんばってくれたんやでぇ。大きなったら、一言、お母ちゃんにお礼ゆいやぁ。
お父ちゃんか?お父ちゃんは、お前が生まれてきてくれただけで、ええ。あとは、何にもいらん・・・・。
光ぃ〜。お前は、お父ちゃんとお母ちゃんとこを選んで、生まれてきてくれたんやろぉ?
実はな、お父ちゃんも、49年前、お前に会うために生まれてきたんや。
光ぃ〜。お父ちゃんは、ひょっとしたら、よそのお父ちゃんと比べると、お前と一緒にいてやれる時間が少しだけ短いかも知れん。
でも、その代わり、いっしょうけんめい、お前のこと守るからな。
何からでも守ったる。怖いおじいちゃんからも・・・・・。
光ぃ〜。ふふふ。目がくりくりっとしてるとこは、お父ちゃんそっくりやなぁ。
鼻が、ぺちゃあ〜っとしてるとこは、お母ちゃんにそっくりや。
口もとが可愛らしいとこは、お父ちゃんにそっくり。
あごがしゃくれてるとこは、お母ちゃんに似てる。
フン!フン!フン!ゆうて、唸ってるとこは、おじいちゃんにそっくりや。
光ぃ〜。光ぃ〜」
(いとおしくて、たまらないという表情の父に、別の赤ん坊を抱いた助産師が、申し訳なさそうに)
「・・・・・・すんません。お宅の赤ちゃん、こっちでしたわ」
初めて聴く新作落語であったが、非常に良かった。
「49年前、お前に会うため生まれてきたんや」という台詞は泣かせる。
また、一緒にいてやれる時間が・・・というのは、高齢出産の場合は、そうなのかな?と思わせた。
実は、私も、親父が年取ってからの子で、俗な言い方すると、え?○○さんとこ、まだしたはったん?てな「恥かきっ子」てやつだ。
逆に、子どもにしたら、よそより親が年取ってるのが授業参観や運動会の時に少し恥ずかしかったり、「俺が大きくなるまで大丈夫かなぁ」と不安になったり、昼寝してると、思わず「寝てるだけやろな?」と息してるか、鼻のとこに指を持っていったり。考えてみると、親不孝な話である。
でも、うちの親父も、ひょっとすると「いつまで一緒に・・・」なんて思ったかもしれないと考えると、笑いながら、ちょい、こみ上げそうになった。
どうも、お退屈さまでした。毎度のことですが、録音はしてません。殴り書きメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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