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(No175) 第1回上方落語まつりinミナミ 三枝一門・吉朝一門競演会 鑑賞記 その1          

 2010年4月29日(木・祝)、動楽亭で開催された落語会。




桂 三ノ助 「お忘れ物承り所」


 上方落語まつりは7か所16公演やってるそうですが、中でも、この会が一番売れ行きがよぉて、即日完売やったそうです。
 何で私は、こない人気があるのか?・・・・・違いますかね。

 こう見えても、私、TVのレギュラー番組持ってます。どんな番組か、知ってはる人?(会場、無言)

・・・・・・でしょうねぇ。毎週土曜日。放映時間がちょっと遅いんです。深夜の0時50分。起きといてくださいとは申しませんので、ビデオにでも録っていただけたら、と。

 まあ、私、レギュラーゆうても毎週出てる訳やないんです。(会場から失笑気味の笑い)

 そない、おもろいですか?コメンテーターの一人として、何かあった時、落語家としての立場でコメントするんです。

 番組名はTVなんですが、TVラジオジャングル。そうそう、肝心なことを言い忘れてました。チャンネルを言わんと録画していただくこともできません。

 チャンネルは・・・・・・びわ湖放送・・・・・。滋賀県しか映りません。どうか滋賀県に引っ越して、見ていただきたい。
 私、神戸に住んでるんですが、電車で滋賀まで、旅行みたいにして行って、30分、番組の収録して帰ってくるという・・・何のこっちゃわからんことしてます。

 しかし、電車なんかに乗ると、ついついしてしまうのが忘れ物。こうした忘れ物を届けてもらえるのがお忘れ物承り所という便利な所でございまして、JRですと、大阪とか天王寺のような大きな駅にございます。
 これこれの忘れ物をした、と届けると、見つかっておれば返してもらえるとゆうことで。

 やはり一番多いのは傘やそうです。日に何十本、何百本と集まってくる。後は、財布に鞄。最近では携帯電話にノートパソコンなど。
 珍しいとこでは、入れ歯なんかもあるそうです。外して忘れるんでしょうなぁ。床に落とす本人は、まあしゃあないですが、かなんのは見つける車掌さんでして、夜中に見回りをして、懐中電灯で照らしたら、床がこっち見て笑
(わろ)てる・・・・・・。

 

「あの〜、傘の忘れ物をしたんですが」
「傘?多いんですよ。どんな傘ですか?」
「どんな傘て・・・こう・・・
(と、手で傘のシルエットを示し)真ん中がこう、しゅっ〜と伸びて、最後がクルン・・・」
「いや、形は、傘てなもん、大概そうです。せやのうて、例えば色は?」
「グレーがかった黒で。いや、元々は黒やったんですが、長年の間に埃や泥で汚れて灰色に。強ぉこすったら、下地の黒が見えまんねん」
「名前なんかは書いてないんですか?柄のとこに彫るとか」
「ええ、こないだも彫ろう思てたら、隣の尾崎さんが『ビール呑みまへんか』て来はって、『よろしぃなぁ』ゆうて呑んで、ついでに『将棋、指しましょか』ゆうて、結局、3番指して、私が2勝1敗。私が勝ち越して、それから風呂入って・・・・」
「もうよろしぃわ。結局名前は彫ってはりまへんねんな?そんなこっちゃったら、どこで忘れたかも覚えてはりまへんわなぁ?」

(ところが、この男、何時発の何線、どこそこ行き、何両目の進行方向向かって右側の何番目の座席の端の手すりに掛けていた、とスラスラ答え、係員は「よぉ覚えてはりますなぁ」と驚く)

「へえ、私、電車乗ったら、忘れ物したらあかん思て、どこに乗ってるか忘れんようにしてますねん。これ覚えとかな、思て・・・・傘忘れた」
「忘れ物は、大体、線ごとに分けてますねん。環状線のんは、この辺ですわ」
(ある傘を手に取り)ああ、こら、上等やな。(開いてみて)おっ、ワンタッチで開くがな。つくりもしっかりしてるし。すんまへん。これにしときますわ
「うちは傘屋ちゃいまっせ。本人のものと確認できな渡せません。他に特徴は?」
「傘が広がらんように留める帯みたいな奴・・・」
「はあ。そこに名前が刺繍してるとか?」
「いえ。取れて、おまへんねん。それと、傘の先についてるキャップ。あれも取れてますねん。それから骨が2本折れて・・・・」
「ボロボロやな。ああ、これちゃいますか?」

「これや思います。これね、私やないと開かんのです。こう・・・回しながら開くのがコツでして・・・、ああ開いた。開いただけでも私のんや思うんですが、こう中から見たら、さっき2本て言いましたけど、3本折れてますわ。せやけど、まず間違いない思うですが・・・・」
「いえ、間違っててもけっこうですよ。どうぞお持ち帰りください。あれ?どうしはったんですか?泣いたりされて。よほど大事な傘なんですか?」
「いえ、嫁はんがね。これがなくなったら次のん買うたるゆうてくれてるんですが・・・・何べん失くしても出てくるんです。これで8回目くらい。・・・・・こうなったら10回にチャレンジ」

 

「けったいな人やったなぁ。あっ、わいも忘れもんした。会社の食堂が不味いから、ゆうて嫁はんに、せんど(何度も)頼んで弁当作ってもろたのに。嫁はん、怒ってるやろなぁ。あっ、嫁はんから電話や。(と、携帯を取る)
 ええ?こっちに来る用事があるから弁当を届けてくれる?今からやったら昼に間に合うがな。すまんなぁ。これに懲りんと、また作ってや」
「と、届いてないですか!!」
「あの、ちょっと落ち着いてください。何を忘れられたんですか?」
「さ、300万円の小切手です。これがないと会社がつぶれるゆうて、昨日、駈けずりまわって、ようやく金、工面して、この小切手、朝一番で届けなあかん思て、ゆうべは、寝んと番してたんです。
 そしたら、あんたとこの電車が、ガタンゴトン、ガタンゴトン、子守唄みたいに『はよ寝ぇよぉ、はよ寝ぇ』て揺れて。
 はっ!と気ぃついたら、もう遅い。小切手は、鞄にも、ズボンのポケットにも、上着の内ポケットにも、腹巻の中で後ろ側に・・・・・・・・・・・・
(と、手で探って)回ってた。さいなら」

「すまんのぉ」
「おじいさん、どうされたんですか?」
「孫がのぉ、メガネをプレゼントしてくれたんじゃが、届いておらんかのぉ?」
「あのぉ、どんなメガネですか?」
「おお、銀ぶちでのぉ、少し青い色がついたサングラス風のメガネじゃ」
「・・・・・・・・・ひょっとして、今、頭の上にかけてはるそれと違いますか?上にあげたんを忘れはったんじゃ・・・」
「わしゃ、それほど耄碌しとらんわい。失敬な。きっと、親切な人が、わしの頭の上に届けてくれたんじゃな。さいなら」

「カニ届いてませんか。鳥取に出張に行った時、相手先が土産で持たせてくれたんですが」
「今日は、客が多いな。はいはい。カニですか。そうゆう人からのもらい物は忘れることが多いんです。で、カニの特徴は?」
「ええ?まあ、顔は赤かった思います。メガネはかけてなんだように・・・」
「いえ、箱の特徴を訊いてますねん」
「ああ、箱ですか。青い発泡スチロールで、外に、大きく『カニ』と」
「ちょっと、待ってくださいね
(と、届けられた品のリストをめくる)おかしいなぁ、カニの届け物はないですねぇ。あの〜、忘れはったんは、今日ですよね?」
「いえ、13年前です。冷蔵庫があって保管してくれてると聞いたんで」
「確かに冷蔵庫はありますけど、2週間と期限が決まってるんです」
「そうですか。今日ら、ちょっとカニで鍋して、一杯呑みたいな思て。ほな、出物がありそうな時分に、また来ます」

 

「ほんま、今日はけったいな客ばっかりやな」
「ちょっと、あんた!」
「あっ、嫁はんや。すまんかったなぁ。あれ?弁当は?」
「電車に忘れてきてん」
 


 ちょい、全体的に上滑りな調子。でも、開口一番で出てきた噺家としては、まずまずと言えるのではないか。

 

 


 

桂 よね吉 「七段目」


 どうですか?暑いですか?(前の方の客に訊く)
 一人だけ「暑い!」とおっしゃってますが。まあ、落語の時は言わんと、間の時にゆうてください。

 ここ、真ん中がすぱ〜っと空いて。モーゼの十戒みたい。ちょっとやりにくいですが。

 会場の動楽亭とゆうのは、桂ざこばが、新世界にあるビルのワンフロアを寄席に改造したもの。
 ここのブログに、会場の様子が写真で出ている。

 ちょうど演者の前が客席の通路として空けてある。

 この日も、ブログの写真のように、後ろ部分は縁台風の腰掛だった。私も座布団でなく腰掛に座った。

 三枝一門・吉朝一門競演会ですか・・・・・・微妙な感じですねぇ。(会場、大爆笑)何となく、皆さんも感じておられる。

 落語界の一門ゆうてもねぇ・・・・・必ずしも仲がええ訳ではない

 楽屋なんて殺伐としてますからね。

 吉朝一門の歳かさのあさ吉兄さんと三枝一門の歳かさの三風兄さんなんて、今にもつかみ合いの喧嘩しそうな雰囲気ですから。 

 楽屋の隅には、ざこば師匠が座ってるんです。実に毒の吐きづらい雰囲気でして。

 

 そろそろネタの方に入れ、て言われました。今日は、ここで夜席もあるので、時間は守らんとあかんのです。

 あのぉ・・・・・・・・ウソでございますよ。ほんまは、至って和気あいあいとしてるんです。
(と言いながら、笑ってるんで、どうも「本当は仲がいい」というのがウソくさく聞こえる)
 ええ加減にせんと、引きずりおろされますんでねぇ。

 上方落語まつりには宣伝隊が6名おりましてね。
 銀瓶、こごろう、文三、吉弥、八光・・・・・・・・・・・・あと、一人誰やったかな?・・・・・・・
(誰かが、横から教えたのか)あ、そう、春蝶、春蝶。

・・・・また、亀裂を起こすような発言をしてしまいました

 私、「ぐるっと関西 お昼前」という番組(桂米團治司会のNHKの番組)をやらせてもろてまして。びわ湖放送ではございません。・・・・・・・何で笑うんですか?

 こないだ、そこに、その宣伝隊が来たんです。
 で、番組の女子アナが「こんなにたくさんあると、どれに行くか迷いますよね?」なんて言うんです。
 噺家としては、私は「そんなもん、これ
(自分が出る三枝一門・吉朝一門競演会)以外、行かんでええですよ!」って言いますよね?

 そしたら、他のもんが、「おい!おい!わいの出てるとこもあるんやで!」とつっこむ。落語界の流れて、そうじゃないですか?
 実際、リハーサルでは、そうやってたんです。

 ところが、本番で僕が「三枝・吉朝一門会、これ以外行かんでよろしいよ!」ってゆうたら、「うん。売れてるし、そんでええんちゃうか」って。
 ほんま、あの銀瓶、こごろう、文三は何、考えてるねん!
  めっちゃ、僕が悪者みたいやないか!

 もう、そろそろ本筋に入れというサインが出ました。今日は芝居のお噺でございます。芝居と言いましても歌舞伎でございまして。

 歌舞伎と言えば、歌舞伎座がビルに建て替わるらしいですなぁ。歌舞伎座と言えば米朝師匠も落語会をやった由緒ある劇場ですが・・・・。
 松竹もよっぽどこれ
(と、指でお金を示すサイン)に困っているのでしょう。

 歌舞伎も昔は一番ええ席でも1万円台やったんです。それが誰それの襲名や、ゆうたびに2000円ずつ上がって。今や2万円台ですよ。今日は、2500円でしょ?
 10倍ですよ。出てくる人は、そない変わらんのに・・・・・・。いや、変わる、変わる。

 ここは真ん中ですが、歌舞伎は七三のとこに花道があって、役者はそこからしか出てこない。私らみたいに横からは出てこない。決して、もみ手しながらは出てこないんです。

 役者が出てくるとゆうと、3階から「てやぁ〜〜〜!!!」。大向こう、ゆうやつです。びっくりされましたか?結構、声、出てますねぇ。

 これは屋号を呼んでいるんです。今、話題の海老蔵でしたら成田屋。マクドナルドをスポンサーにしてアメリカ興行をした勘三郎は中村屋。関西発の二枚目といえば片岡仁左衛門の松嶋屋。

 あと、高島屋、大丸、そごう・・・・・・西松屋

 成田屋でしたら「てやぁ〜!!」。中村屋でしたら「てやぁ〜〜!!」・・・・・・皆、一緒なんです。

 「まつしまや!」と全部はっきり言う場合もありますし、台詞の間(あいだ)の小さい間(ま)の時は、後半だけを呼ぶことがあります。「しまや!!」・・・・・・だしの素みたいですが。

 こないだ、3階席で観てますと、年配のおじさんが二人で来ておられまして、聞いてたら、えらいことゆうてた。
「坂東玉三郎って知ってるか?」
「ああ、べっぴんの女形」
あら、板東英二の弟なんやで

 

 昔は、歌舞伎の入場料は1万円もせず、商家の丁稚さんも少し小遣いをためれば安い席なら行けるぐらいの料金だった。
 あまり娯楽のない時代だから、どの丁稚さんも一幕くらいの台詞はソラで覚えていたもので、大家の若旦那ともなると、すっかりはまる人も多かった・・・・ということで「いよいよ」本編へ。

 後の本編は、いかにも手慣れた「よね吉の七段目」であった。

 以前に書いた内容がほとんどだが、「よね吉(・・・というか吉朝一門の)七段目」という特徴的な所を登場人物別に列挙してみる。

1 旦那
(1) せがれは、巡礼の「目ぇ突きよった」。

(2) 刻み煙草を煙管にねじ込み、ぱっ!ぱっ!と吸い付け、ふ〜っと煙を吐き出し、煙管の雁首をぱん!とはたいて灰を出す仕草が絶妙。

(3) 「お次に控えおりました」という息子に「あほ〜〜!何や、それ!」と軽くジャブを。

(4) 「そりゃ、わらわとて・・・」と女形の声を出した息子に対し、上下左右を見回し「お前か?今、変な声出したんは?」と確認。

2 息子(若旦那)

(1) 殴られて、「覚えてろ」とゆうとこを「おびぇ〜〜〜てろい!!」と絶叫。

(2) 一連の騒ぎの後、番頭に可愛く小首を傾げて「ごめん!」。続いて「でも、盛り上がったな」と小さくガッツポーズ。

3 番頭
(1) 若旦那を早く二階に上げようとして、「どうぞ二階へ、二階へって、お前は料亭の仲居か!」と叱られる。

(2) 梯子段を見て「人形振り」を実演してみせる若旦那に「背中さすりまひょか?」と冷静なツッコミ。

4 丁稚(定吉)
(1) 呼ばれて、芝居調子で「何、御用にございまする?」と答え、旦那から「うちゃ化けもん屋敷か?まともな奴ぁいてへんのか?」と叱られる。

(2) 旦那に「あの阿呆を止めてくれ」と頼まれ「あの阿呆を?」と聞き返し「お前が言わんでええ!」と叱られる。

(3) 二階へ上がると若旦那は一人芝居にもう夢中。
 定吉は、旦那の注意を復唱し「芝居を止めるねんで。一緒にやるんやないんやで!って失礼な。そんなん、一緒にやる筈がないのに・・・。
(言ってすぐに)やあ!やあ!わかだぁあ〜〜んなぁ〜〜!!」と芝居に入る。

 

 

 私が以前、「これは無駄なんじゃ?」と言った、旦那が定吉気付けの水を飲んでしまうというギャグも健在だった。

 なお、オチは、「勘平〜〜」と言った定吉に旦那が「忠臣蔵の芝居をやってて落ちたな?三段目か?五段目か?」とかぶせて、「てっぺんから落ちました」というものだった。

 会場はめちゃめちゃ受けていた。私も大ファンなのであるが、よね吉は最近「悪達者」というような表現ができるのではなかろうか?




 

 どうも、お退屈さまでした。毎度のことですが、録音はしてません。殴り書きメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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