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(No170) 新春吉例 米朝一門会 鑑賞記 その5         

 2010年1月2日(土)のサンケイホールブリーゼであった米朝一門会のメモの続き(完結)。




桂 雀松 「星野屋」


 米朝師匠を囲んだ対談のセットから、再び高座を設置しなければならないためいったん緞帳がおりた。

 そのため下記の冒頭の台詞につながる。

 
 よく残っていただきました。

 噺家にとって、自分の噺の前に緞帳が閉まるゆうのは非常に不安なものでございまして、上がったら誰もおらへんのちゃうかと・・・・。

 まあ、皆、帰ってもろたら、私もせんと帰れたんですが。

 ちょっと違う仕事もさせてもろてまして、去年10月にお芝居を。舞台俳優ですねん。

 織田作(之助)の「わが町」という芝居で、主人公の車夫は森繁さんの当たり役、佐渡島太吉ゆうんですが、それを赤井英和さんが演ってます。

 で、私は主人公の親友で、隣の長屋に住んでる売れない噺家の〆団治・・・・・イヤミか!

 ともかく落語とは、楽屋の雰囲気が違いますねぇ。女優さんがいっぱいですからねぇ。萬田久子さんて、ほんとおきれいですから。

 で、私、安達祐実さんと一緒に登場するんです。もう、お人形さんみたいですよ!その安達祐実ちゃんがね。ここに、
(と、自分の横をさし)いてるんです。

 まあ、最初のうちは他人行儀でしたけど、そら、何日も仕事してるとね、いろいろ話もするようになってね。親しくなってきて。
 それで、祐実ちゃんが、ステージに出る前、こう、二人で出を待ってる時に「雀松さん・・・・・・好きになってもいいかな?」・・・・・・・・・・・・・・・・・って、目がゆうてるような気ぃがしたんですけど。

 

 最近では女性もいろいろな仕事に進出されるようになってきましたが、伝統的な職業としてはお妾さん。・・・・まあ、職業とゆうてええのんか、どうか分かりませんが。

 このお妾さんのことを、関西ではお手かけさんと申します。関西は直接的て、ゆうんですかな。

 今はマンションなんかが多いでしょうが、伝統的なとこでは黒板塀で、飼うペットは「狆」(ちん)と決まっております。
 なぜ、狆を飼うかというと、女性がお得なんですね。・・・・・・中には、この女性が狆を生んだんかいなと思うこともございますが。


 お手かけさんが、旦さんを膝まくらして、「あぁ〜ん、旦さん。白髪(しらが)おすえ。抜いたげますぅ」
(と、色っぽい仕草と声を出し)・・・・・・あの、ゆうときますが、我ながら恥ずかしいんでっせぇ。

 そしたら、今度は奥さんが本宅で、

「あら?何ですのん、旦那さん。白髪減ったんやおませんか。商売人てなもん、歳よりも上に見られるくらいやないと、人さんから信用されまへんで。
 ちょっと、黒い髪、減らしましょかな。こっち、おいなはれ」

 そしたら、今度は、お手かけさんが、白髪を抜く。また、次は、本妻が黒い髪を抜く・・・・・・・・・・結局、二人して、旦那を坊主にしてしもた・・・・・ゆう話がありますが。


 手かけのお花のところにやって来た旦那、いきなり手切れ金として20両を渡す。

 うっかり「たったの?」などと口をすべらせたお花だが、旦那に訳を聞くと、相場で失敗して三代にわたる店が来月人手に渡ってしまうのだと打ち明ける。

 いっそ死んでしまいたいと旦那に話を合わせると、心中しよ、浪速橋、九つすぎに・・・・・と段取りを決められてしまう。

 ほんの愛想でゆうただけやのに・・・・と困ってしまったお花は、母親に相談すると「死ないでええ心中の仕方」を教えてもらう。 


「手ぇ合わせて南無阿弥陀仏てゆうやろ」
「うちは、法華やで」
「あれは、だんだん元気になるさかい、向いてへんねん。

 で、手ぇ合わせて、一、二の三!で旦さんが前に飛び込むやろ。そん時、お前は、その拍子で、後ろへ飛ぶんや」
「お母ちゃん、えらい詳しいなぁ。やったこと、あんのん?」
「5、6ぺん」 

 
 そうこうしているうちに、時間が来て、旦那が迎えに。 

「お花、何してんねん?」
「いえ、表、冷えてまっさかい、ちょっと羽織を探して・・・・」
「そんなもん、どっちゃでもええやないか」
「いえ、どうせやったら、達者で死にたい」

 お花は、母親に教えられたとおり、うまく事を運び、旦那だけが川の中へ。

 お花は「きれいなお月さん・・・・」などとつぶやきながら、家に帰る。

「ああ、お花、お帰り。うまく後ろへ飛べたか?」
「そんなんする前に、旦さん、先に飛び込んでしまいはって。旦さん、いっつも早いの。

 でも、何か旦さんに悪いよぉに思えて」
「初めはそんなもんや。二、三人こなしたら慣れてくる」
「ふふ、そんなぁ。せやけど、何や安心したらおなかすいてきた。お母はん、ぶぶ漬け、こさえてくれる?」

 
 と、のんきな会話をしていると、お花を旦那に紹介した幇間の藤助が、やって来て、旦那が来なかったか尋ねる。

「いっぺん来はって、帰りはって、はまりはって・・・・・・」と要領を得ない答をしていると、妙な夢を見たのだと語り出す。

 寝苦しくて目をさますと、行灯の横にざんばら髪の旦那が立っている。そして、お花にだまされた。おかんも一緒に、じわりじわりととり殺すと言ったというのだ。

「もう出はったん?」と慌てるお花に、藤助は「怨みがのぉなったら成仏しはる。髪おろして尼になりなはれ」。

 奥に引っ込み、髪を差し出したお花に藤助がネタばらし。

 旦那は妻を亡くしていたので、いよいよお花を直そう(本妻に迎える)としたのだが、藤助が心底を確かめるために仕組んだ心中話であったのだ。

「あの川には腕利きの漁師、船頭の乗った船が控えてたんや。お前がもしほんまに川に飛び込んでたら、すぐに救い上げて、今頃、お前は大家(たいけ)の御寮人さんゆうことになってたのに」と悔しがらせる藤助。

 すると、今度はお花は頭に巻いた手拭いを取る。そこには元通りの髪が。

 先ほど差し出した髪はかもじ(かつら)の毛、旦さんは最近目がかすむと言っていたので、これでごまかせるだろうと母親が知恵をつけたというのだ。 

「お前はそうゆう奴か。まあ、ええわい。最前、旦さんが渡した手切れ金の20両。お前、もし、あれを1枚でも使(つこ)てみい。たちまち、手ぇが後ろに回るぞ。あら、芝居の小道具で使うニセ金じゃ!」

「ええぇ〜??まぁ悔しい!こんな金、返しますわ!!」

「はははは。旦さん、見てみなはれ。女子
(おなご)てなもん、したたかなようでも、たわいないもんですなぁ。

 こら、お花!贋金なんぞ使たら、旦さんの手ぇが先に後ろに回るわい。この金は正真正銘、ほんまの小判じゃ、どあほ!」

「まぁあ〜〜!!どんだけ騙したら気がすむんやろぉ!お母はん!最前の小判、ほんもんやってんてぇ!」

「あぁ、せやと思たから、ここに3枚、取っといた」 


 虚々実々、狐と狸の化かし合いであるが、その中でお花は小ずるくはあるが、可愛らしいところもある。

 しかし、何といっても、お花のおかんが凄い。

 で、最近繰り返している感想だが、雀松の語り口が、このドロドロした噺を実に平明に、あっさりと解きほぐしてくれる感じで、とてもなじんでくるように感じる。



  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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