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(No16) 平成紅梅亭 上方落語vs江戸落語!! 鑑賞記その1 

 平成17年11月1日(火)午後6時30分より大阪読売TVにて収録された平成紅梅亭の鑑賞記の1回目。
 



(1) 桂 吉坊 「つる」

 開口一番、「落語界のお茶汲み人形です」、「落語7年やってます。これでも二十歳(はたち)超えてるんです」、「おいくつですかと、よお『ひらがな』で訊かれるんですが、なかなか『何歳ですか』と漢字では訊かれないのがつらいんです」、「落語会の帰りタクシーで助手席に乗ったら運転手さんに『小学生ですよね?』と訊かれ、『いやあ、小学生やないんですけど』ゆうたら『あっ、中学生でしたか』いわれて、結局駅まで中学生で通した」てな、外見に関するマクラが続く。
「先日和歌山の方で落語会をやらせてもろたんですが、吉坊さんの予約なんですがとゆうお客さんがいらっしゃいました。
 しかし、わたくしは一切予約をお聞きしておらないんです。
 ところが、しばらくすると、また別の方が吉坊さんの予約、また他の方も吉坊さんの予約とおっしゃってくださいまして、ああ、嬉しいなと思っておりました。
 さて、客席からわたくしどもはよくお見えでしょうが、高座は客席よりも高うございますから、こちらからお客様のご様子も、非常によくわかるのでございます。
 で客席の方を落語やらしてもらいながら見回してみますと、先ほどの予約された方々がいっさいいらっしゃらないんですね。

 おかしいな、おかしいな思て、よおよお聞いてみたら吉坊さんの予約やのおて七五三の予約やったんです。それやったら窓口を別にしといてくれっちゅうねん」

 今回、会場で配布されたプログラムには演者の名前だけで、写真はなかった。吉坊の写真は、田辺寄席HPから。

「おお、喜いさんかいな。まあお茶でも飲みいな」
「何でやす、茶ぁのあては?」
「お茶受けと言いなはれ。ほな、羊羹でも切ろか」
「ええ?羊羹なあ・・・」
「嫌いか?」
「3本も食たら胸がやける」
「誰がそないに食わすかいな」
・・・・・てな、話を経て、近所で甚兵衛さんの噂話をしていたという話題に。

「横(よこまち)町の甚兵衛は”知れん”なあ、ああ、せやせや。”知れん”、”知れん”ゆうて」
「何やねん、その”知れん”ゆうのは」
「いや、なに、盗人(ぬすっと)やも知れん」
「何をゆうねん。せやけど喜ぃさん。あんさん、普段から私と付き合いしてるのに、皆がそんなことゆうてんのを黙って聞いてたんかいな」
「何ゆうてまんねん。わいかて腹が立ちまんがな。おい、こら!お前ら何ちゅうことぬかすんじゃい!
 あの甚兵衛はんが盗人するような人か、そうでないか、向こ先見てものをゆえ!ちゅうてねえ」
「ああ、嬉しいな。”皮引きゃ身ぃ引く”ゆうたとえもあるが、そうゆうてくれたんか?」
「さいな。わたいも男や。腹にもっても口には出さんぞ」
「ゆわんかったら、何にもならんがな」
「いやいや、男は口数が多かったら、あかん。たった一言でどーんと胸に応(こた)えるようにゆうたりました」
「それが肝心やがな。どないゆうてくれてん?」
「へえ、一言、『違いない』ゆうて」
「何をゆうてくれてんねん。わいの胸に応えてるがな」

「ほたら、六さんが、何をゆうてんねん、あの甚兵衛さんとゆう方は、この町内になくてはならんお方や。何ぞわからんことがあったら、甚兵衛さんに聞かんならん。甚兵衛さんは町内の生き地獄やゆうてねぇ。甚兵衛さん、あんさん生き地獄でっか?」
「それもゆうなら、生き字引やろう。いや、まあ自慢するわけやないが、おまはんらの訊くことぐらいやったら、返答に困るなんてことはないと思うで」
「ええ?大き(く)ではったなあ。ほたら、蛇が肩こりしたらシップはどこに貼る?」
・・・・・てなやり取りを経て、鶴が日本の名鳥と呼ばれる所以、そして昔は首長鳥と呼ばれていたが、「つる」と呼ばれるようになったいきさつを聞く。

 「よそ行って言いなや」という制止を振り切り、喜ぃさんは表に飛び出す。
「せや、徳さんは、普段から、わいのこと町内のアホやゆうて馬鹿にするよって、これ徳さんにゆうたろ。徳さん!居てるか?」
「おお?誰か思たら、日本のアホやないかい」
「・・・・・いつもよりキツイがな」

 徳さんは大工らしい。見台を、カンナに見立てた小拍子を両手に持って手前に引く。本当に材木にカンナをかけているような、いい音がする。
 「つると呼ばれるようになったいわれを教えてやろう」と騒ぐ男を無視して、今度は小拍子を左手に持ち、片目をつぶって角度を変えながら眺め、金づちに見立てた右手の扇子で、小拍子の尻を2、3度ぱんぱん!と叩く。カンナの刃の出具合を調節しているところである。
 そして、うるさそうな表情で、右手の扇子で追い払うような格好をして、ひとこと。「去(い)に」(帰れ)

 しかし、それで大人しく帰るような男ではない。オン(雄)の鶴が「つる〜〜」っと飛んできたと語って絶句したのにもめげず、いったん出直し、甚兵衛さんに再度教えを乞う。そして、再び徳さんのもとへ。
「それへさして、オンの鶴が『つ〜〜〜』っと。ちゃうやろ?『つ〜〜〜』っと。これやあ。『つ〜〜〜』・・・。ええなあ」と、陶酔している。

「オンの鶴が『つ〜〜〜』っと飛んできて、松の木の枝に『る』っと、とまった。メン(雌)の鶴が・・・・」
「メンはどないしてん」
「・・・・・黙ってとまった」というのがオチ。

 何か、近くで見ると、顔がますます幼く、かわいらしくなってきたように感じた。


(2) 春風亭 昇太 「壷算」

 出囃子に乗って肩で風切るように元気よく出てきた昇太。自分で拍手しながら座布団に座る。

  顔写真は、(社)落語芸術協会 会員紹介ページで。

 マクラは愛・地球博の話。
「あれは一体何だったんでしょう。行かれた方、いらっしゃいます?(数人が挙手)これだけいらっしゃって、この程度・・・。でも、それぐらいでよかったんじゃないですか。決してみのりのあるものではなかった・・・・。
 あれは『万博』という言葉を聞いただけで胸がときめく年配の方か、考える力のない子供だけが行きたくなるもので」

「私は、番組の取材で行ったんです。ですから開場前に入れてもらって、いろいろと見せてもらいました。すると『昇太さん、開場の時が一番おもしろいんですよ』と言われました。どうしてかな?と思ってたんですが、平日で1万人、土日は2万人、閉幕間近になるってぇと3万人もの人が開場を待ってるんですね。
 『早く入れてくれ』ってオーラが出てんです。それで、『本日は開門を30分早めます!』なんてアナウンスをすると、ゲートん所へわさわさわさと。
 で、ゲートが開くと、みんなお目当てのパビリオンめがけて走るんですな。あんなところで何万もの人が走ったのは小牧・長久手の合戦以来のことで」

「そんなたくさんの人が来るんだけど、パビリオンじゃ整理券を500枚ばかし配って、もう入れません。あとは並んでくださいってんで、4時間待ちとかいうんですよ。
 ところが、年配の方々は、何せ戦前・戦後の激動期を生き抜いてこられた方だから、それを待つんですねえ。あの会場ときたら、陽をさえぎるものが何一つないんですね。炎天下のもとで4時間。
 さすがに一人倒れ、二人倒れ・・・。『寝ちゃだめだ』とか」

「でもね、日本人が見て『ええっ〜!』と驚くようなものはありません!
 何だか知らないけど、ロボットがね、ゆっくり歩いてくるんですよ。これだけ待ってたんだから、さっさと出て来い!って思うんですが。
 で、そのロボットが『やあ、みんな。よく来たね』とか言うんですが、あれだってロボットがしゃべってんじゃないんですね。よそでお兄さんがマイクでしゃべってんです。科学は進んでませんよ!」

「そこいくと、マンモスの展示は良かったですね。やっぱなまものに限ります
 キバがね、こんなんになってるんです。でもね、私、思うんですが、キバってのは、相手を攻撃するだとか、何かをほじくり出すとか、そうゆう時に使うんじゃないですか?(またも、マンモスのキバの手真似をして)どうしようというのでしょう。これで攻撃するったって、自分の目ぇ突いちゃいそうだし、こんなので地面ほじくるってもねえ、こう、こんなんなっちゃう」・・・と、そっくり返ったキバの先を地面に刺そうとするので、座布団の上で前転しそうな格好になる昇太。

「わたしゃ思いましたね。『こいつら、滅びるな』

「マンモスは普通に見せてくんないんですよ。人間がベルトコンベアに乗せられるんです。で、しゃがんだり、背伸びしたりすると後ろの人が見えにくいってんで、こう(ぴしっと”気を付け!”をしているような格好)、まるで工業製品みたいにね。
 で、段々近付いていくんですが(期待感にあふれた表情で前方に視線をやる。正面に来て、「うわあ」と嬉しそうに眺める。ところが、すぐに段々離れていき、寂しそうに目で追う。たまりかねて、追いすがるように手を伸ばし)ああああ・・・・っと。で、もう一度見たきゃ、また4時間並べ、とこう言われるんです」
 
「私はね、昭和34年生まれなんです。当時はね、大阪の万博のことを、毎日テレビでやってましたからね。静岡の清水市ってとこにいたんですが、いよいよ町内会の旅行で行くことになりました。
 夜行バスです。もう、行く前から、どんなに楽しいだろうと思って、眠れないんですね。で、ちょうど着いた頃に眠くなってきて、おふくろに『早く起きな!』って怒られて。
 どこ行く?てんで、アメリカ館!月の石ってものが展示してるってゆうんですね。そんなもの見たことない。まあ、当たり前ですが。ところが、アメリカ館に行くってえと、もう、建物の周りをお客がぐる〜っと4周くらいしてる。こりゃだめだってんで、次、どこ行きたい?ソ連館!ソユーズか何かが展示してるってんで行ってみたら、また、ぐる〜っと。次は?イギリス館、ぐる〜っと。カナダ!ぐる〜っと。
 で、とうとうおふくろがキレちゃって。どこでもいいから行ける国!ってことになって、忘れもしません、カンボジア館。何か緑だか青だかで、三角の建物で。
 次!行ける国は?てんで行ったのがタンザニア館。で、二つ見て終わり」

 マクラで会場を湧かせまくって、本編へ。

「兄ぃ!兄ぃ!」
「何だよ」
「うちのかめ(甕)なんだけど、水を入れてしばらくするとなくなるんだ」
「そりゃ漏ってるんじゃねえのか」
「見てたのか」
「わかるよ、そのぐれえ」

 いきなり、こう始まった。上方の「壷算」という話だが、「かめ」と言っている。水がめだから「かめ」といっても不思議じゃないが、これじゃ、「それが、こっちの思う”壷”」というオチが使えない。どうなるのか心配しながら続きを聴く。

「おめえ、まけてほしけりゃ、どうする?俺を店員だと思ってやってみな」
「わかった。・・・・・まけてくれよぉ」
「・・・何だよ、引っ張るなよ」
「おい、まけてくれよぉ」
「よせよ、こら、首をなめるな!」
「なあ、なあ、まけてくれよぉ、なあ」
「(袖を引っ張られ、それを払って、大立ち回り)・・・・・うるせぇ!!この野郎!!!(ハアハアと、肩で息をしている。心底疲れた表情で)・・・・・使えるぞ、それ。俺がやれってったら、やれ」

 二人は店の前に行き、一荷(いっか)入りのかめが、たくさんある店の中で選んでもらったし、初めてのお客様なので3円50銭だと聞く。
「じゃあ、ちょっと訊くんだけどさ、これが、おめえん店(ち)1軒しかなくて、選ばなくてさ、俺達が初めてじゃなかったら、いくらなんだい?」
「え?・・・・そりゃあ、値段が全く違うんです。・・・・・・・・サエン ゴジュッシェ〜ン」
「言い方が違うだけじゃねえか」

 兄貴分は、50銭まけてくれと頼むが、「利の薄い商売なので、誰にどう言われても無理でございます」とすげなく断られる。兄貴分は「そうかあ・・・。この野郎に頼まれたら、えれえことになるんだぞ」と警告しつつ、「おい、俺が頼んでもダメだそうだ。行け」とGOサインを出す。

「・・・・・・あの、手をびらびらさせないで・・・・引っ張らないで!あっ!首をなめないで!・・・ああっ、もう!!(これまた、心底驚き消耗しつくした表情で)・・・・・こんな情熱的なお客様は初めてです。いえね、50銭まけるって、それはできないんで・・あっ!手ぇ離しちゃだめ!!わかりました・・・ここはお客様の熱意にうたれたってことで」
「ええ、そうかい。悪りいなあ。何か無理にまけさせたみたいで」

 二人はいったん店を出て、戻ってくる。
「ごめんよ」
「(ぎょっ!とした表情で)あ、先ほどのお客様」
「おっ、覚えていてくれたのかい」
「そりゃあ、忘れようにも」
「じゃあ、話が早えや。実はな、この野郎、ほんとはニ荷(にか)入りのかめが欲しかったのに、間違って一荷入りを買っちまったってゆうんだ。ニ荷入りはいくらだい?」
「左様ですか。間違いはどなたにもあることでございます。ニ荷入りは、一荷入りのかめの2倍入りますので、お値段の方も、ちょうど倍ということで・・・・・・・うわぁ〜、いけません、いけません。50銭でも無理なのに1円もまけるなんて」
「いいじゃねえか、一荷入りを3円で売ったんだから、6円で」
「いえ、お客様、それは無理でございます」
「・・・・・俺じゃダメなの?この手を離してもいい?」
「(あわてて制して)・・・・・こうゆう商売をしてますと、たまに魔日(まび)という日がございます。何をやっても駄目な日ってのがあるんでございます。今日が、その魔日だと思えばいいので・・・・・わかりました。6円でお売りいたします」
「え?6円で売ってくれるの?いい店入っちゃったなあ。でさあ、もう一つ頼みがあるんだけど」
「はあ?(と、怯えた表情)」
「こいつんち、一荷入りと二荷入りのかめ、並べるほど広くねえんだ。一荷入りのかめ引き取ってもらえるとありがてえんだがなあ」
「はい、これが、お売りして日がたちますといけませんし、よそで買ったものを引き取ってくれといわれてもいけませんが、たった今、うちでお売りした品ですから、3円で引き取らせていただきます」
「そうかい。さっき、3円渡したよな」
「はい、まだ、ここに」
「じゃあ、かめの3円とで都合6円、あのかめ持って帰らせてもらっていいな?」
「(キョトンと)何でございます?・・・・・・・・・そ、そういうことに、なりますねえ・・・・」

 兄貴分は急いで帰ろうとするのだが、男が「兄ぃ、おいら、よくわからねえ」と騒ぐものだから、「お客様あ〜、勘定が合わない!」と呼び止められる。

「何なんだい?」
「あの、ここに3円しかない」
「わかってるよ。で、かめの3円を忘れてないかい」
「(ぱあ〜っと表情が明るくなり)あ〜〜、申しわけございません」
「わかりゃ、いいんだよ」

 再び出ようとする二人。
「兄ぃ、やっぱ、おいら、よくわからねえ」
「いいんだよ。(会場の)お客さんの中にも何人かわからない人がいるんだから」
「あのお!お客様!」
「うるせえな、聞こえが悪いだろ。何だっていうんだよ」
「それが・・・立ち去るお客様の後姿を見ても商売をしたという喜びが感じられない

 兄貴分は算盤を出しなと命じる。
「3円。これはすぐに入ります」
「次にかめの3円を入れな」
 番頭は、3円を入れそうになっては、ためらい、手をびらびらさせる。何度も迷って、そのあげく、
「ああ〜っ!6円になってしまったあ!!」と、あわてて、両手で算盤を揺さぶり「ご破算」にする。

(店に別の客が来て)「はい?はい?土瓶ですか?はい!1円です。1円。ああ〜っ!7円になってしまったあ!!」
 と、またも激しく「ご破算」。

「はい?もうちょっとまからないか?いえ、うちは、もう、まけたり、引き取ったりはやめるんです。まけてほしぃんなら、よその店行ってください。はい?わかってますよ。小僧!表、閉めな!6円、6円。あせらせないでください。ああ〜っ!12円になってしまったあ!!」

 最後は、「そのかめ、持って帰ってください。で、見てるとモヤモヤするんで、その3円もお持ち帰りください」ってのがオチ。

 オチの出来はよくないが、全く新しい演出で新鮮だった。初めて聴いたが、すげえな、昇太は。

 


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
 



 

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