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(No159) 第31回市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記 その3        

 2009年10月2日(金)開催の堺市民会館での鑑賞メモの完結編。



桂米團治「親子茶屋」


 米團治になってから初めての堺でございますと礼をして、盛んな拍手。77回の襲名興行に堺は含まれていなかったのだろうか。

 襲名のきっかけはざこば兄さん。ムムムムム・・・とエンジン音が、といったいつものマクラ。
 
 去年の今頃は、あいさつ回りでしんどかったんです。

 ある日、住吉区の春團治師匠、神戸の文珍師匠、豊中の仁鶴師匠を回らなあかん日がございまして、ざこば兄さんから、お前よそへ挨拶に行く時ちょいちょい「今度、春團治を襲名します」ゆうてるけど、絶対春團治師匠んとこでは言い間違えるな!って言われまして。

 春團治師匠、私みたいなもん迎えるのに、黒紋付に袴で待っててくれはったんです。
(礼をする前に一拍置いて、上の方を見て、復唱するような仕草)「米團治を襲名させていただきます」
 

 ああ、言えた。良かったぁ思てね。今度、文珍師匠とこやから急いで高速乗ったら、携帯がないんです。
 自分の携帯にかけたら女の人が出て、春團治師匠の家の前で拾たて言わはる。

「すんません。それ僕のなんですけど、高速乗ってて取りに行けませんねん。すんませんけど、前の春團治師匠とこ預けてもらえませんやろか?」て頼んで。
 また、春團治師匠に電話して「今晩取りに行きますので・・・」てゆうたら、「君はいろいろとやってくれるねえ」。

 一方、文珍師匠は今か、今かと待ってはるのに来ぃひんから「う〜 遅いねえ う〜 う〜」て、私の携帯に電話しはったんです。
 それを春團治師匠が取りはって「はい。春團治です」「また、自分、いちびってからに!あんたは米團治!」「いえ。私は春團治です」「何ゆうてんねん!アホ!」・・・・・・・二人の師匠、しくじってしもた。

 先日聴いたマクラと同じなのだが、少し説明が詳しい分以前よりおもしろかった。

 親子茶屋自体は、以前にも聴いた。
 ただ、ちょいちょい「可愛い芸者の市豆と、入退院繰り返す、5分前に食べたかどうかも忘れてるような親とどっちが・・・」とか、「こう申しますと、このおやっさん、固い固いお人のように聞こえますが、なかなかどうして、せがれの何枚も上手の道楽もんでして、えてして、真面目そうな人に限って裏回ったら何してるか分からん。・・・・・うちの人間国宝も、どこで何してるやら?」などと親子ねたを織り交ぜる。

 最後の狐釣りの踊りでは、手のひらめかしようで老齢の親父さんと元気な盛りのせがれの違いを演じ分けるのが常だが、元気の良さをアピールすることに神経が行き過ぎたか、ちょっとリズムに合っておらず雑な感じであった。

 サゲは、扇子を外して息子と分かった親父が、芸妓遊びをとがめるわけにもいかず、「女遊びはともかくも・・・・・ばくちだけは、ならんぞ」
 そう言って、右手の親指と人差し指で丸を作って出す。サゲの所作が、一つ前のざこばのそれと全く同じなのが、何かおもしろかった。




桂南光「義眼」


 
トリを努めるは、桂南光。何とも特徴的な声で語り始める。
 

 今の米團治君は皆さんご存じの通り、人間国宝、米朝師匠の長男でして、お母さんは踊りの師匠。ええDNAばっかりもろてるんですな。

 輝いてます。しかし、噺家の顔やない。整いすぎてるんです。

 噺家の顔は、見ている皆さんが優越感を抱けるような顔。例えてゆうたら、先ほど出られたざこば兄さんなんかが最高の顔なんですな。

 米團治君の襲名披露は全国77か所。私が襲名させてもろた時は全国・・・・・4か所でございました。これすべて、親父さんの差ぁなのでございます。

 83歳の米朝師匠がこの襲名披露について回った。
 あれも、北海道行って、南に順々・・・とはならへんのです。会場取る都合で、あっちへ行ったりこっちへ行ったりする。
 一番ひどい時なんか、松江の次が富山でした。中途半端な距離でしょ?

 私、いっぺん大阪に戻ってサンダーバード
(北陸に行く特急電車)か何かで行くのか思ったら飛行機で行くと。
 島根の松江からね、バスで鳥取の米子空港まで行くんですよ。
 で、そのまま富山まで飛ぶんかいな・・・・思ったら、羽田行きまんねんでぇ。どない思いはる?

 米朝師匠なんかは、「ここはどこや?」。もう、分からんようになってしまうんです。ほんで「わしは誰や?」・・・・。


 羽田着いたら、富山行く飛行機が、もうこないして
(両手を後ろに伸ばして震わせ、離陸目前の飛行機の真似)待ってるんです。
 で、私らのことを空港の放送で、早く乗れとアナウンスする。それも芸名やのうて、本名なんです。
 何で本名で乗ってるかゆうと
(先ほどのざこばのように、客席の方に体を乗り出し)・・・・マイレージ貯めるためです。

 私の名前が森本良三・・・・・ここは笑うとこちゃいまっせ!何がおかしいんだんねん。
 これで笑ってたら、ざこば兄さんの時はもっと笑いまっせぇ。何せ関口弘
(ひろむ)・・・・・もっと笑いなはれ!
 米團治君が中川明、米朝師匠が中川清だっさかいな。

 私らが走ってると、後から米朝師匠も杖ついていっしょけんめい歩いてる。そしたら、空港職員の人が「中川清さん、モタモタしないでください!」・・・・・。
 人間国宝のこと叱りつけまんねん。そしたら、師匠、怒りもせんと「えらい、すんません」ゆうて、必死で・・・。

 搭乗口の関係で1階に着いたんでっけど、そこから3階へ上がれってゆう。その間が、らせん階段しかおませんねん。
 うちの師匠・・・・はっきりゆうてヨボヨボですわ。

 せやから空港の人に「あぁた知らはれへんか知らんけど、あの人は人間国宝ゆうて偉〜い人でんねん。私らはよろし。私らはよろしいけど、師匠だけはエレベーターでしゅっと上げてもらいたい」

 そう頼んだんでっけど、エレベーターはありませんの1点張り。
 見たら端っこに小ちゃいエレベーターがあったんで「あれで・・・」てゆうたんでけど、あら荷物用ですから、人間を乗せるのは規則でダメです!て。

 そしたら、米團治、米朝師匠のこと、ぐう〜っと押しだして「この頃、お荷物でんねん」・・・・・・・・・・・・。

 まあ、彼にしたら精一杯機転をきかしたんでっしゃろけど。


 次のマクラは南光襲名直後に声が出なくなり・・・というもの。

 これは以前聴いたので省略。

 要は、米團治とのつなぎで最初のマクラ。本編「義眼」につなげるために二つ目のマクラということだろう。



「え〜、こないだ入れた目ぇの具合はどんなもんですかな?」
(突然、片目をつぶり、何かをのぞき込むような格好をしながら、ややのんびりした口調で声を上げる)

 あの〜・・・・・もう落語は始まっておりますので。
 今、何人かは、「こいつ、突然何を言い出してんねん?」というような顔をなされてましたが、落語というのは、いろいろなパターンの始まり方があるのでございます。

 これは、目の悪い人に、医者が義眼を入れて、その目の具合を聞いているというところでございます。
(身を乗り出して)こんな説明をする落語ゆうのも珍しいですが。
 どうか付いてきてください。よろしくお願いします。



「はい、先生。そら、もぉピッタリで。

 え?自分で見てみぃ?あっ、先生、ほんまの目といっこも変わりませんな。
 え?誂え?オーダーメイドでやすか?なるほど。

 ちょっと動かしてみぃ?あっ、動きます、動きます」

「具合がええようで、けっこうです。
 ただ、まだ十分なじんでおりませんので、激しい運動なんかは避けてください。特に、あんま、マッサージの類ですな。
 後からとんとん!と叩かれると、前にずぽっ!と飛び出る恐れがありますので。

 それと、目てなものは昼、物を見るために必要なもので、夜は必要ございません。
 ですから、夜、おやすみの時は、取り出して、大きな湯呑に水をお入れになって、そこへ漬けておいてください。
 そうしますと、翌朝入れる時にヒンヤリとして、まことに気持ちがよろしい。
 また、そうしていただくと保ちがよろしいのでな」

「あっ、さいでやすか。
 ほな、先生。わい、松島にちょっとええのがいてますので、この顔見せて喜ばしたろ思います。
 どうもありがとうございました!」

 この松島と言いますのは、かの松葉芭蕉の有名な俳句、松島や ああ松島や 松島やの松島とは・・・・・・・・全く関係がございません。
 今で言う九条の近くにあった色町でございます。

「おい、どうや?俺の新しい目?」
「いんやぁ、よぉ似合
(にお)てるしぃ。わたい、あんたの顔に惚れたわけやないけど、目ぇ患いはってちょっと男前落ちたかなぁって思てたけど、前より男前上がったしぃ。
 わたい、惚れ直したわぁ。今夜は泊っていっとくんなはれ」・・・・・と、ばかなモテよう。

 ところが、その隣の部屋の男、よそで呑んでへべのれけれけで入りよった。こうゆう客は一番嫌われます。

「ちょっと。・・・・まあ、があがあイビキかいて寝てるわ。いったい、何しに来たんやろ。あほらし。帰ってしもたろ。
 ちょっと。すんまへん。わたい、ちょっとお便所行ってくるよって」・・・・きゅっきゅっきゅう、と去
(い)んでしもた。

 夜中、
(と、男があくびをかきながら、ようやく目を覚ましたさま。何か伸びをしたり、腕を前に突き出したり)
「ふぉい、きゃ?きょう〜、ふへ、ひゃあ、ひゃひゃひゃ、ほぉうぅっむ〜??」


・・・・・日本人ですから。ここは、目ぇ覚ましたばっかの酔っ払いが、何かわけの分からんことをゆってるとゆうコーナーですので。

「わいとこのおなご、どこ行ったんや?便所行くぅゆうて出ていったけど・・・・あれから二時間は、たってんで。
 ここの便所はカムチャッカにでも、あるんかいなぁ?

 しかし、ゆうべはむかついたなぁ。

 会社帰りに後輩が『先輩、たまには酒呑みに連れて行ってくださいよ!』ゆうから『よっしゃ、ほな行こか』『先輩は頼りになりますなぁ』って行ったんは、ええけど・・・・・。

『今日は無礼講やぁ!』ゆうたら、皆、わいの悪口しかゆいよらへん。
 腹立ったから『帰りたい奴は帰れ!』ゆうたら・・・・・皆、帰ってまいよった

 うちと引き換え、隣はえらい賑やかやなぁ。『男前、男前』ゆうて。

 おっ、静かになった。とんとんとんとおなごが階段降りる音がして。何や、男の方は、もぉイビキかいて寝とるで。

 どんな顔しとんのやろぅ?・・・・・・私も見ず知らずの人の部屋を開けたりしてはいけない・・・・とゆうことは分かっているのれす。ただ・・・・私の体内にあるアルコールが・・・・・・のぞきなさいと命じておるのれす。私は、それに従います。

 よぉ〜〜っと。
(静かにふすまを開け、隣の部屋に入り、男の顔をのぞき込む)

・・・・そない大した男前でもないで。
 おっ、枕もとに湯呑が置いたぁる。
 隣のおなごは、よぉでけたおなごやなぁ。
 夜中に起きた時、のどが渇くやろぉと湯呑を置いておく。・・・このホスピタリティ。

・・・・・私、大変、喉が渇いております。呑んでもたろ。
 酔いざめの水、千両てなことゆうてな・・・・
(ごきゅごきゅとうまそうに飲んでいき、最後の方で、ぐっと湯呑を持ち上げ一気に飲み干そうとした時、驚いたように目を白黒させ)
え〜!!水のかたまりがありましたよ!」

 それからとゆうものお通じがぴたっ!と止まってしまいました。
 1週間、10日。男は油汗をたらりたらりと流して苦しんでおります。お医者に担ぎこみまして、
「これは何かが、腹の中に詰まっておるのかもしれません。
 この望遠鏡のようなもの、腹中鏡とゆうのですが、これをお尻に当てて腹の中を見て調べましょう。

 はいはい。恐がらなくてもよろしい。ここへね、四つん這いになって、お尻を突き出して。そう、子どものよぉやる『もぉ〜』の格好をしてください。

 あ、奥さんもどうぞこっちに来て、一緒にご覧ください。ご主人のこんな格好、めったに見られませんぞ。

 しかし、奥さんの前で失礼ですが、汚い尻ですな。何や吹き出物がいっぱいあって。
 それと毛むくじゃらじゃ。そこでコオロギでも飼ったらどうですかな
 こういう尻を我々では『フケツ』・・・・と申します。では・・・」




   と、腹中鏡を尻に当ててのぞき込む。と、ぎゃぁ〜〜〜!!!と叫んで表に飛び出してしまった。「先生、どうしました?」「どうしたも、こうしたも・・・・。腹ん中から誰かがこっちをにらんでる」というのがサゲ。



 私の席は、かなり前の方で、舞台向って右端に近い席であった。よって演者が、高座に座り上下(かみしも。左右を向いて登場人物を演じ分ける)で左側を向いた時の顔をほぼ正面から見る感じ。

 で、舞台の照明の加減が良かったのか、特にまん我、宗助と米團治の顔が、非常にきらきらっと、内側から輝いてるように見えた。勢いというものなのだろうか。

 この落語会を一言でいうと「非常にあったまってる」と感じた。非常に雰囲気があったかくて、で、演者の方も、少しでも会場を沸かそう、みんなに笑ってもらぉとノリノリで噺をする。会場もどっかん、どっかん沸く。

 問題がないことはなかった。
 最初のひろばは、土俵際に追い詰めて・・・という繰り返しがややくどかったし、米團治は、私はかなり聞き飽きてきた内容だった。

 ざこばは、マクラは聴いたばかりの蒼国来ネタだし、本編は、やや小ネタのうえ、運びがけっこう雑だし(まあ、ざこば師匠は、もともと寸分狂いのない精巧、緻密というタイプではないのだが)、第一、公演中に携帯電話が2回も鳴った。

 しかし、まん我がやり過ぎ?なくらいの軽妙な芸で会場を沸かし、宗助もそれを冷やさず、もはや円熟といって良いほどの「押し引き」の巧みさで観客を惹きつける。

 宗助の酒のネタ(「親子酒」)からざこばの酒にまつわるマクラへ。本編「始末の極意」では、尻に栓をしての油汗から、親指・人差し指の「銭」でサゲ。

 米團治はマクラで、襲名の挨拶まわりの時、「一人で回るのではなく、ざこば兄さんと、南光兄さんがついて回ってくれはるんです。せやけど、両師匠が両脇ついて回ってたら、何や護送車に乗ってるみたい・・・」と言っていたが、今回も、ざこばと南光にはさまれ、得意のネタをのびのびと演じる。

 で、サゲの部分はざこばと同じく、親指・人差し指の「銭」。

 南光は、ネタの導入で米團治襲名のあいさつ回りのことを取り上げ、本編では、「義眼」で、ざこばと同じく「油汗」。

 さすが一門会!と言いたくなるほど、偶然の一致なのだろうが、みごとなシンクロ、絶妙な連携プレー。

 堺市民会館の大ホールというと、2回席まである大ハコ。しかし、ざこばも、南光も、ちょいちょい、ラフな感じで身を乗り出し、直接一人ひとりに語りかけるような、実に一体感のある雰囲気で、私は近来にないほど、あったまった、いい気分で会場を後にした。


 


 


  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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