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(No156) 日本の話芸 TV鑑賞記         

 2009年5月5日(火)?(多分)に放映された鑑賞メモ。



三遊亭圓窓  「水神」(作:菊田一夫) 


  逃げた女房を探して、乳呑児を抱え、今日も縁日をうろつく嘉平。

  そのみすぼらしさに、近所の者が「いい加減にあきらめろ」と
諭す。

 呆然としている嘉平に、「赤子が泣いている。乳をあげよう」と声をかけた女がいた。最近、子を亡くした。近くに家がある。独り身だから寄っていけと誘う。

 水神さまの境内に、こんなこぎれいな家があったかなと思うような家があった。
「捨てなくてよかった」とつぶやいて子供用の布団を出し、赤子を寝かせ、嘉平には酒、肴を勧める。

「子供の名前は何てんだい?」
「お峰。あっしが屋根屋なんで、あっしより高くなるようにって。
・・・・・姐さん、ずいぶん親切にしてくださいますが、どっかでお会いしませんでしたか?」
「思い出してくれたかい?」
「あ、縁日だ。逃げた女房を探しに、何度も縁日に行ったけど、端の方で川魚の干したのとかを売っていた。
 黒の着物、黒の羽織、黒の帯に、黒の足袋。全身が黒いから、顔の白さがぽ〜っと際立つ。そうだ、黒の姐さんだ。
そうか、じゃあ、縁があったんですね」


 そんな大した縁でもないと思うが。

 嘉平は女からさらに酒を勧められ、私は独り身だから遠慮することはない、泊っていけ、一緒に暮らせば乳の心配をすることもないと誘われる。
 ずいぶん積極的な逆ナンパである。

 「・・・・が」と突然円窓が絶句したので何事か、と思ったら「後で名前を聞いてみますと、お幸が・・・」と続けた。
 女の名前を言わなければいけないが、まだ、噺の中で名前を言わせていないことに気づいたのだろう。



 初めて泊まった晩、お幸が『絶対に私の寝顔を見ないでくれ。きっと守っておくれよ。でないと、お峰ちゃんが不幸せになる』と申しました。

「ああ、わかった。あっしゃあ寝るのが大好きだ。起こされなきゃいつまでだって寝てたい方だから大丈夫だ」と答えた。
 それからというもの、毎朝、お幸は朝早く起きて食事の支度、そして、縁日へお峰を連れて行って店を出す。

 そうなると嘉平も遊んでられないので、屋根屋の親方に詫びを入れて、心を入れ替え真面目に働く。お峰もすっかりお幸になついてスクスク育つ。

 4年ほど経ったある日、夜中にふと目をさました嘉平。

「おや、お幸はまだ寝てるよ。珍しいな。風邪ひくといけないから、布団掛け直してやろう」と布団をめくり、
「あっ!顔はお幸だが、全身が黒い羽根。・・・・からすだよ。・・・・・・・・・・・・・見なかったことにしよう」

 翌朝、お幸が、
「見ましたね?」
「え?何だい?何も見てやしねぇよ。お前がから・・・あっ!」
「何もかもお話します。
 実は私は水神さまにお仕えする女ガラスなんです。
 ある日、お使いに出されたのに河原で遊び呆けてしまい、勤めを果たせませんでした。
 野ガラスに落とされるところを特別に人間界で5年修行したら許してやると言われました。
 それからお幸という人間に姿を変えていたのですが、乳呑児かかえてウロウロしてるあなたを見かけて、人助けをすれば水神さまも誉めてくださるかも、と。

 ただ、正体が見破られるようでは修行が足りない未熟者として野ガラスに落とされることになっていました。
 私は、野ガラスの中に入ろうと思います」
「ええ?そりゃあ困るよ。第一、お峰はどうすんだい。
 俺だって困る。そうだ、水神さまに掛け合うよ。俺は何も見てない。どうか今まで通りにって」

「水神さまはすべてお見通しです。それに、お峰ちゃんなら、もう乳は要りません。
(羽織を脱いで)もし、私に会いたくなったら、この羽織を着てみてください」

 お幸は、「ごきげんよう」と言うなり、ばたばたはばたいて飛び立つ。


 
うわあ、凄い風だと倒れ伏す嘉平。と、「おとっつぁん、どうしたの?大丈夫?」と揺り起こすお峰。


「え?あっ、お峰か。おい、どうした、おっかさんは?」
「おっかさんは、お峰が小さい時にいなくなっちゃった」

「え?いや、おめぇを産んだおっかあはそうだが、育ててくれたお幸ってゆうおっかさんがいるじゃねえか?」
「お幸?おとっつぁん、何言ってるの?悪い夢でもみたの?」
「おめえこそ何言ってるんだ。でぇいち、この家だって、お幸が・・」
「この長屋がどうしたの?」
「長屋?水神さまの境内じゃねえのか?」


 嘉平は、表に出て、長屋の連中に声をかける。
「ご隠居、ご無沙汰してます。4年ぶりですね」
「・・・・何言ってるんだ、昨日も会ったじゃねえか。
 どうした?悪い夢でもみたのか?後ろでお峰ちゃんが心配そうな顔してるじゃないか」

 お峰は12で呉服屋に奉公に行った。気立てがいいうえに働き者なので、お店の人にも可愛がられる。
 年に二度の藪入りを楽しみにしていましたが、二十歳で、奉公先の若旦那に見染められて嫁入りすることになった。
 嘉平は嬉しいような、寂しいような。

 それから5年ほどたって、ある秋の日の夕暮れ。西日の射し込む家の中に、一陣の生臭い風が吹いた。
 うたた寝ををしていた嘉平、
「うう。あ〜、寝ちゃった。何か掛けよう」と箪笥を探す。と、黒い羽織が。
「あっ、黒い羽織。これがあるってことは・・・・・やっぱりお幸のことは夢じゃなかったんだ。
(羽織ってみて)あったかい。(両袖に鼻をつけ)お幸の匂いがする。
・・・・・こうやってると、お幸に抱かれているようだ。・・・・・お幸ぉ〜!」

 ふりしぼるような嘉平の声に呼応する如く、遠くでからすの鳴き声が。

「お幸かもしれない!」
 嘉平はあわてて表に飛び出し、屋根へと上がる。
 おりしも夕焼けで西の空は真っ赤に染まっている。

 そこに墨を一つはねたようなかたまりが。


カヘェ〜〜 カヘェ〜
(円窓は、両手をクロスさせ指先を小さく羽ばたかせながら、「嘉平」と鳴かせる。
 嘉平は、お幸に語りかける)

「羽織、着てみた。
あったかい。
お前の匂いがした」

カヘェ〜 カヘェ〜

「この羽織だよ!
この羽織!」

 円窓は、膝立ちになって、嘉平が思わず伸びあがっていく様を示す。そして、羽織の袖を手でつかんで、はばたかせ、
「飛べる!飛べる!お幸!飛べるぞ!」

 最後、完全に膝立ちになり、両袖口を手でつかみ、ぐっと引っ張って羽根のようにして、その羽を大きく上に差し上げる。
 そして、高らかに、一声鳴く。

オコォ〜〜〜

 そして、さらに一声、

オコォ〜〜

 場内暗くなり、そのまま緞帳がおりる。



 圓窓曰く、以前はそのまま嘉平が舞台袖に去ってしまう演出だったが、足を悪くしてから、現在の演出に変わったそうだ。

 先日、枝雀師匠の対談ビデオで、めちゃめちゃをやっているようですが、足の指の先だけでも高座の座布団にかかっている、それを自分の制限としているんです。いくら、高座で動いても、座布団からは外れないということを、自分の基準にしていますという言葉があった。

 別にそれを基準とすべき・・・とは思わないが、圓窓も、現在の演出の方がいいのでは、と思う。

 


 


  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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