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(No15) 京都・らくご博物館 秋 〜夜長の会〜 鑑賞記その3 

 京都国立博物館で年4回開催される落語会。前回の「夏 〜納涼寄席〜」に引き続き、特別展「最澄と天台の国宝」を鑑賞するのに併せて、聴いてきました・・・・・・の3回目。
 



(3) 桂 文我 「佐々木裁き」

 さて、中入り後は文我。実に福々しい雰囲気を醸し出しながらの登場。
「今年もいろいろなことがありましたが、一番の大事件といえば、やはり選挙ではないでしょうか。
 いつも選挙の応援を頼まれても断っているのですが、どうしても義理があって断れんことが2回ございました。
 我々落語家と選挙というものは、一番遠いところにあるんでございます。
 何せ私どもは、落とすのが仕事ですから」 

 軽いマクラで、本題へ。

 嘉永年間、大坂西町奉行に赴任した佐々木信濃守(ささきしなののかみ)。賄賂(わいろ)まいない袖の下、つまり汚職が横行する世の中を何とかしようと今日も町中を見回る。

 安綿橋(やすわたばし)南詰、住友の浜で子供たちが、二人を後ろ手に縛り、「きりきり歩め」と竹の棒でどやしながら歩いている。
 お奉行ごっこである。
 で、「一から十までに”つ”は揃っておりますか」
「揃おて、おる」
「ええ?さいでやすかぁ?一つ、二つとは言いますが、十つとは言わんように思うんですが」
「確かに十つとは言わぬが、その十に付くべき”つ”を取っておるものがあろう?わからんか?一つ、二つ、三つ、四つ、いつつ・・・・・(にやっと笑う)どうじゃ」

 まあ、最初の謎もわざとらしい、不自然な謎なんだが。
 あとは、佐々木信濃守にお奉行所に呼び出された四郎吉が、いろいろと大人をやりこめるというお馴染みの噺。
 新しい演出などもしにくい噺である。詳しい内容については、上方落語メモというHPなどで紹介されておられるので、ご参照ください。
 本なら『桂米朝コレクション 6』(ちくま文庫)など。 


(4) 桂 雀三郎 「くっしゃみ講釈」

 トリをつとめる雀三郎は、見台(けんだい)、膝隠し、小拍子という道具を説明する。
「この小拍子(こびょうし)というものは、時間と空間を飛び越えることができるのでございますよ」と前置きして、
「明日は、早よ来なあかんねんで」
「わかってるがな」
「早よ来るんやで」
タン!(と、この小拍子で見台を叩いて)
「おはようさん!」

 この調子でございますとミエを切り、場内拍手と笑い。

 これもお馴染みの噺。ある男が、兄貴分から新しくできた講釈場(講談などを聴かせる演芸場)に出演している講釈師の名前を後藤一山(ごとういっさん)と聞き、恨みがあるので小屋に暴れこむと息巻く。
 聞くと、この男、町内でも小町娘と評判のおもよが逢引きに付き合ってくれたらしい。
 薄暗い路地でこそこそ話をしているところへやって来たのが、後藤一山。気付かれたくないので、「日が暮れのコーモリみたいに」塀にぺた〜っとはりついて身を隠していると一山が「雪駄(せった)の裏にニンヤリとおいでたは(ネチョっとくっついたのは)、土にしては少しく粘りがこれ有り候、犬糞(けんふん)でなくばよいが・・・・・う〜む、案に違(たが)わず犬糞、犬糞。拭くも異なもの、どこぞへぬすくっておいてやろう(どこかへなすりつけておこう)」と男の鼻先へ。

 「次の日ぃ、『ゆんべ(昨夜)はえらい首尾が悪かった。もう一晩だけつっきゃい(お付き合い)してくれ』ゆうたんやが、おもやんのゆうのも無理はないねん。 

『そら、夜店やゆうたら、もう一晩くらい出してもらえんことはないけど・・・・・ゆんべお布団の中でつらつら考えるに、鼻のあたま、犬糞の雑巾(ぞっきん)にされるような人、添うても末に出世の見込みがない。悪いけど、この話はなかったことに・・・』ってこないゆうねん。ほんまクソおもろもない」

 兄貴分の政やんが、暴れこんだりしたら営業妨害で罪になる。その代わり胡椒をくすべて「くしゃみ」で講釈を出来なくしてやろうと提案する。

 兄貴分は男に横町(よこまち)の八百屋で胡椒の粉を、二銭がん(二銭分。二銭で買えるほど)買うように命じるのだが、どこで、何を、どれだけという3要素のうち、男の脳みそには1要素分しかキャパがないようで、「何やら買うんやったな」「胡椒の粉(こ)ぉやがな」「あ、そうそう。胡椒の粉。どこ行たら売ってる?」「横町の八百屋や」「何ぼほど買(こ)うてこう?」「二銭がんも買うたらええがな」「ニ銭がんなあ。何買うんやったかいなあ」「・・・・・・・お前、”忘れ”やな。胡椒の粉ぉやがな」「ああ、そうか。どこ行たら売ってる?」「そない忘れたらどもならんがな。横町の八百屋に行たら売ってるゆうてるやろ!」「ほたら、何ぼ買うたらええねん!!」「お前が怒ってどないすんねん」という「逆ギレ」のギャグがあるのだが、ちょっと今日の演出は、引っ張りすぎ(キレルまでのボケを繰り返しすぎ)のように感じた。

 あまり忘れるので、兄貴は目安(覚えておく手がかり)まで教えてやる。男が好きなのぞきからくり。有名な演目に「八百屋お七」がある。行き先が八百屋。お七の色男が駒込、吉祥寺(きっしょうじ。きちじょうじ)小姓の吉三(きちざ)で「こしょう」を思い出せ。金額は、最初から二銭を握りしめて行けとアドバイス。
 男は八百屋に出かけたが、
「おくれんか」
「へえ、お越し。何差し上げまひょ?」
「二銭がん」
「何を?」
「くっしゃみの出るもん」
「ええ?そんなもん、おまへんでえ。薬屋でも行きはった方がええんと違いますかあ?」
「いやあ、おまはんも知ってんねん、知ってんねん。あれやがな、あれ。早よ、思い出し」
「あんたが思い出しなはれ」
「いや、あれやがな。わいも、もうここまで出てんねん。ちょっと見て、あ〜ん」
「だいぶと(ずいぶん)変わったはるなあ、この人は。そんなん、口あけたかて見えまっかいな」
「わからんかなあ、あ、せやせや。ホゥエ〜!!」(と、手拍子を打つ)
「な、何でんねん?」(と、後ろにのけぞる)
「♪ 小伝馬町より引き出〜され ホーイ!」 と「のぞきからくり」を語り始める。

 結局、胡椒は売り切れていたのだが、八百屋の主人に唐辛子の粉を火鉢にくすべても「えぐ、えぐ〜いくっしゃみが出まっせ」と教えられ、兄貴に報告。

「一段、すっくり語ったった」(八百屋お七の「のぞきからくり」を一幕分すっかり語ってやった)
「八百屋の親父、笑(わろ)てたやろ?」
「いいや、誉めてたで。あんさん、今時(いまどき)のお方や、おへんな、ゆうて」てなやり取りを経て、講釈場の最前列へ。

 唐辛子の粉が有効かどうかは、兄貴への人体実験で実証し、いよいよ憎っくき後藤一山の登場。
 一山は、えへん、えへんと大仰なせき払いの後に、「難波戦記」を語り始める。

 目を輝かせ、一心に聴き込んでいる男。兄貴分があきれたように、「おいおい」と声をかけると「やかまし!」と怒る。「何ぞ忘れてへんか?」と注意を促すと、はっ!と気付いたように一生懸命に手を叩き始める。
「忘れてたくらいやったら、もう堪忍したったらどないやねんな」と言うのだが、「そうは、いかん」と、「思い出した」男はアホほどトンガラシの粉ぉを火鉢にくすべて、煙が舞台の方へ行くように、さかんに扇ぐ。

 最初の1、2回は、「やつがれも転寝(うたたね)をいたしまして、夏風邪を引いたものと相(あい)見えます」などとごまかしていたが、アホが、アホほどくすべたものだから、くしゃみが連発して、講談を語るどころではない。

「なぜ、今宵はこのようにくしゃみが出るのであろうか。
 皆さん、半札(はんふだ。半額優待券)とは思いますれど、丸札(無料招待券)を差し上げます故(ゆえ)、何とぞ本日のところはお引取りを」
「ここや、ゆうたれ。こらぁ!講釈師、お玉杓子、貝杓子(かいじゃくし)。おどれは粥もすくえん(掬えない)貝杓子やのお!わいら講釈聴きに来たんじゃあ、くっしゃみ聴きに来たんと違うぞ。わいら、お前の唾でべとべとじゃあ。こんなん食ろうとけ、かぁ〜ぺっ!おい!お前もゆうたれ!」
「いわいでか。(言わずにおくものか)こらあ、エヘヘ、こらあ、エヘヘヘヘ」
「笑いながら怒るな」
「わいらなあ、わいら、お前のくっしゃみ聴きに来たんじゃ、講釈聴きに来たんと違うぞ」
「あべこべや」
「え?そやけど・・・そうやで」と正直な男。場内も爆笑。

「こんなん食ろとけ。ちゅっ!」
「子供か、お前は。去(い)の(帰ろう)、去のう」
「♪ オケラ 毛虫 ゲジ、蚊に ボウフリ(ボウフラ) 蝉 蛙(かわず)。ヤンマ 蝶々(ちょうちょ)に、キリギリスに ハ〜タハタ。 ブンブ(カナブン)の背中はぴ〜かぴか♪」
「けったいな(変な)唄やなあ」
「あの、もし、そちらのお二人さん。ほかのお客様は、みな、気の毒じゃ、気の毒じゃゆうてお引取りいただいたが、あなたがたは何ぞわたくしに故障(文句、苦情のこと)でも、おありですかな」
「いいや、胡椒がないさかいに、トンガラシくすべたんや」がオチ。

 ちょっとくどい部分はあったが、熱演であった。

 のぞきからくりの口上や、講釈の文句など、詳しい内容については、上方落語メモというHPなどで紹介されておられるので、ご参照ください。 

 

 

 


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
 



 

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