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(No139) 落語共演会 鑑賞記 その1       

 平成21年9月12日(土)の落語会の鑑賞メモ。

 会場は、ヴィアーレ大阪。



 
桂さん都 「強情灸」

 左の写真では、目がトロンとして開いてないみたいに見えるが、今日の高座ではギョロメに見えた。

 マクラの部分では、「ほんとに」って言葉が多くて、少し耳障りだった。

 今、落語が再評価されてまして、私のようなものでも昨日は東京で仕事がございまして、夜中に大阪に帰ってまいりました。今日、午前中はABCでレポーターやらしてもろてるんで、その後、こちらに参りまして、申し訳ございませんが、出番が終わりましたら抜けさせていただいて、京都で米團治師匠が独演会やらはる前座をやらしてもらいます。で、また新幹線で今日のうちに東京に帰らなならんとゆう・・・・・・・そんな芸人に、はよ(早く)なりたいなぁ思てます。
今日はこれだけでして。もう、ヴィアーレに泊まろかな思て。 

 
 道を歩いていた辰を熊が呼びとめるのが噺のきっかけ。辰は艾(もぐさ)を持っているので「灸屋だけやのぉて家でもすえてるんか?」と訊いたところ・・・・

「わい、灸屋に顔出せんような事情があって」
「そら穏やかやないな。どないしてん?」
「こないだ頭が重いさかい関口の隠居に相談したら、そら肩がこってんねん。万病の元やさかい灸をすえろ言われて灸四郎ゆう灸屋に行ったんや」
「ああ、熱いで評判の」
「せや。その分効くらしい。えらいもんやで、わい、灸屋なんて年寄りしかおらんやろ思てたら、若い人間もよぉけいてるし、中には若いおなごも来てんねん。
中に一人だけ別嬪が。そうやなぁ、年は二十四、五、・・・六、七、八、九ぅ・・・・」
「どこまで行くねん」
「色の抜けるように白い、愛嬌のある年増。わい、このおなご見れただけで、今日、灸屋に来た値打ちあったなぁ思て。たまらんなぁ」
「よだれを拭け、よだれを」

「いまもゆうたよぉにえらい人やろ、わいイラチやさかい、イライラ、イライラァ〜しとったら、最前のおなごが『お兄さん、えらいお急ぎの様子でございますけれども、何でしたらわたしの番と代わりまひょか。いえ、わたしもすえるつもりで来ましてんけれども、どぉも熱いよぉに思えて、すえそびれてますねん』と、こない言ぅねん。
 それでは、あんまり厚かましい、ゆうたんやけど、何の厚かましいことがおますかいな。私の方からゆうたことでっさかいてゆうから、代わってもろて、わいの番になった。
『ほたら、姐さん、お先失礼いたしやす』て、ちょっとかっこつけて、シュッと着物を脱いでケツをパッとまくったとこ、お前にも見したかったなぁ」
「見とないわ、そんなもん」

「ほんだら周りの連中が焼餅半分に、『あの男えらい粋がって入りよりましたけど、よぉ辛抱しよりまっしゃろか?』、『あきまへんあきまへん、皮切りで泣き声上げよりまっせ』とかゆうてんのが、わいの耳に入ったもんやさかい、この辺の線ブチブチブチって五本ほど切れたがな。

 灸屋がモグサと線香持って後ろへ回りよったもんやさかいに『おい、お前、今日は何ぼほど据えるつもりやねん?』て、訊(たん)ねたら『へぇ、きょうはとりあえず三十三ほど』てゆうさかい『わずか三十三ほどのやいと、いっぺんに据えてくれ』と向こうへ聞こえるよぉに大きな声で言ぅたったんや。

ほたら、そのおなごが、『まぁ男らしぃ。わたしもおんなじ所帯の苦労するんやったら、こんな男気のある人と、ひと苦労もふた苦労もしてみたい』・・・て」
「何かいな、そのおなご、そんなことゆうたんかいな?」
そう言ぃたそぉな顔してたんや。
ほんで灸屋がな、『兄さん、三十三もいっぺんに据えたらかえって体に毒でっせ。悪いこと言わしまへん、そんな無茶なことはやめときなはれ』・・・・・て、ゆうてくれるか思たのに、あんなとこで迂闊に冗談ゆうもんやないな。
『さよか』ゆうなり、三十三のモグサ背中へペペペペペッ早いの何の、ものゆう間ぁも何もあれへんがな。すえた思たら今度は火ぃや。線香の火をシュシュシュシュ……

 しばらくしたらジュワァ〜ッと熱なってくんがな。熱いけれども、このおなごの手前辛抱せんとしゃ〜ないやろ?ウンウン唸って我慢してたけど、背中でとんと(焚き火)してるよぉなもんや。熱っつぅ〜!!ゆうて一間ほど飛び上がって、そこらのもん蹴り倒して表へ飛んで出た。あんときゃ、つくづくカチカチ山の狸の気持ちが分かったなぁ」
「何、しょ〜もないこと言ぅとんねん」


「そんなことして、灸屋に顔出しでけんがな。ほんでこないしてモグサ買ぉて来て、隣りのお婆んにすえてもろてんねん」
「情けないなぁ。たかが灸やないかい、しっかりせんかい」
「たかが灸、ちゅうけど、あんな熱いもんないよ。背中に爆弾が落ちたか思た」
「あんなもん皮の上チリチリッと焼くだけのことやないか」
「強情やなぁ。お前は、すえたことないさかいそんな気楽なことが言えるけど、わいら現に・・・・」
「おいおい、いま聞き捨てならんこと言ぃやがったな。えッ、わいが灸を据えたことがない?
 こう見えても、わいは子どもの時分から灸はすえ慣れてる、すえすぎてるっちゅうやっちゃ。おかしなこと言わんといてくれ」
「そぉ言や、お前、子どもの時分から、寝ションベン垂れのやいと、お婆んに据えてもぉてたなぁ」
「やかましわ。わいら、お前らみたいなあんな豆粒みたいなんと違うぞ」
「あんねぇ、その豆粒みたいなんが、かえって熱いねんで」
「まだぬかしてけつかる。よっしゃ、そのモグサちょっとこっちぃ貸せ」
「え?え?そない皆、出してしもてどないすんねん?」
「こぉ、ほぐしてやな。それを、こう丸めて・・・・。これから『ビックリずえ』っちゅうのん見したるさかいよぉ見とけ
(丸めた山のようなモグサを肘の上に何とか乗せる)

「うわぁ〜ッ、何やソフトクリームみたいなもん作ったなぁ。何かトッピングしよか?

「ちょっと火ぃ貸さんかい。こんだけ大きいと1か所では火の回りが悪いさかい、こう、まんべんのぉ・・・・
(と、何か所も線香で火をつける。立ち上る煙を目で追い)
 な、わが胸の燃ゆる思いにくらぶれば、煙は薄し桜島・・・ゆうてな。これをわいらの方では『桜島ずえ』っちゅうねや。

 おい、おい。ボォ〜っとしてんとそっちから吹かんかい、風、送らんかいっちゅうねん。

 お前らこんな灸の一つや二つでギャ〜ギャ〜ぬかすな。昔、石川五右衛門ゆう盗賊は、京の三条河原で釜茹での刑におうた。釜に油張って、そこへ入れられて、下から火ぃ焚かれんねん。いわば、人間の天ぷらじゃあ。
 しやけど、五右衛門は涼しぃ顔して辞世の句を詠んだっちゅうでぇ。『石川や、浜の真砂は尽きぬとも・・・・・・・われ泣きぬれて蟹とたわむる』」

「あの、お言葉返すよぉですけどね、それ啄木の歌と違う?
「やかましわ、おんなじ石川やないかい。ゴジャゴジャぬかすな。それから比べたらこんなもん・・・・・・屁ぇみたいなもんじゃアホ。

 お前なぁ、釜茹での刑に・・・・・。こんな灸の一つや、二つで、お前……、石川五右衛門を見習え五右衛門を。釜茹での、刑に、遭ぉて……、
 吹くなアホ!!風送るなぁ!こんなもんお前、自然と下りる火でなかったら……、はははっ、ははははははは!!!」

「何がおかしぃねんな? 熱いねんやろ?」

「な、何言ぅてけつかんねん、いまピッと来たとこじゃ。石川五右衛門はお前、釜茹での刑に遭ぉて、おうて・・・・
うぎゃぁ〜〜〜!!
(とうとう我慢しきれず、モグサをはらいのける)
「何やねんな? 熱かったんやろ?」
「あぅ、あぅ、あぁ・・・・・・・・あぁ冷たい!
「強情なやっちゃなぁ。ほんまは、熱かってんやろ、お前?」
「いや、わいは熱
(あつ)ないけど五右衛門はさぞかし熱かったやろぉ」

 


 
桂まん我 「寄り合い酒」

 

  咲くやこの花賞(大阪市の表彰)を受賞したり、乗りに乗ってる感じのまん我。

 ロビーに置いてあるチラシでも、大東市の「まん我三昧5days」、上新庄の「まん我倶楽部」、ワッハ上方の「まん我道場」など、他を圧する勢い。

 「余裕の笑み」のようなものを浮かべつつ、悠然と高座へ。

 まん我、冗談みたいな名前でっしゃろと言い、ほぼマクラなしに本題へ。

 

「こんだけの人間がいっぺんに寄ったゆうのも珍しいよって、ひとつ皆で一杯呑もうやないか」
「そらええね。で、誰のおごりで?」
「待ちいな。この面々見て、よっしゃ。ほな、わいがおごろうなんて人間が一人でもおるか?めいめい割り前で呑もうゆうてんねやがな」
「割り前ゆうと?」
「頭割りやがな」
「斧か何かで?」
「死んでまうわ。この連中に金のことゆうたんが悪かった。ほな、こないしょ。めいめい、いったん家に帰って、ゆうべのおかずの残りでも何でもかめへん。なんぞ一品持ってきて、ほんで一杯呑もか。
もし、なかったらないで、かめへんさかい、ええ加減な時間なったら、また出といでや」

「ちょっと、この鯛、取っといてくれるか」
「ほぉ、こらまた、大きな鯛やな。高かったやろ?」
「高かった・・・・やろなぁ」
「やろなあ・・・・て、買
(こ)うたんと違うのかいな。ほな、もろたんか?」
もろたか・・・とゆわれると辛い
「どないしてん?」
「そこの角で、魚屋の魚喜が飯台
(はんだい)降ろしとったんやが、横町(よこまち)の金もん屋とこの赤犬が、この鯛くわえてピャ〜ッと走って行きよってん。

せやさかい、わい、びや〜っと追いかけて行って、しゃっ!と石投げたら、この犬も洒落てるで、『クワン!』ゆうて逃げていきよった」
「無茶しよるなぁ。犬の上前はねてきとる」

「わいは、この棒だらや」
「おお、これも大きな棒だらやな。高かったやろ?」
「高かった・・・・・やろねぇ」
「そんなんばっかりやな。どないしてん?」
「そこの乾物屋で、棒だらをよぉけ並べて売ってたさかい、そん中で一番大きいやつをば、そっと左手で持って、こう背中にかついでね。
ほんで、右手で、小ぶりの棒だらをさげて『おっさん、これ何ぼや』『85銭でおます』『何?こんな小さいやつで85銭?』

そうゆうて、肩に担いだ棒だら見せて、わい、そこの店で、こんな大きな棒だら70銭買うてきたで。ほたら、その店行って、もういっぺん買うてこぉ、ゆうて帰ってきた」
「うまいこと、やりよったな」

「わいは、数の子を一つかみ」
「一つかみ?どないしたんや?」
「いや、見たら、こいつ、乾物屋でうまいことやっとるやろ?
 わいも負けてられへん思て、数の子の山の上に風呂敷広げて、『おっさん、小豆、一升ほどおくれんか』ゆうたら、店の親父が、『あんさん、何ゆうたはりますねん?うちゃ乾物屋だっせ。店、間違うてなさる。小豆、買うんやったら向かいの雑穀屋、行きなはれ』
 こうゆうさかい、わいも『ああ、小豆は向かいか。こら、えらいすまなんだ』ゆうて、風呂敷畳んだら、何でか知らんけど、数の子が風呂敷の中についてきた
「そんなもん、勝手についてくるかいな。つかんでんねがな。まあまあ、そこは、後でちゃんとしとくわ」

「わいは、鰹節が2本や」
「こらまた、立派な鰹節やな。こら、どないしてん?」
「わいも何ぞ算段せなあかん思て広場んとこ歩いてたら、近所のガキどもが遊んでるとこ、鰹節屋のせがれが一人でぽつんと淋しそうに立っとんねん。

 わい、鰹節屋のせがれが泣き味噌やさかい、遊び仲間に入れてもらわれへんのん知ってたよって、『ぼんぼん。おっちゃんと遊びましょか』ゆうたら、嬉しそうに『うん。鬼事
(鬼ごっこ)して遊びましょう』ゆうからね。
『せや、ぼんぼん。鬼やったら角がないとあかんさかい、家帰って、長い角2本持ってきなはれ』ゆうたら『わかった』ゆうて持ってきたんがこれや。

 この2本を、こう頭んとこで持って『ぼんぼん。噛もかぁ!』ゆうたら『おっちゃん、怖い!』。
 もっぺん『噛もかぁ!』『怖い!』。
 ほんで、3べん目に、思いっ切り大きな声で『噛もかぁ〜!!』ゆうたら、『怖い〜!!』ゆうて泣きながら家に逃げて帰りよった。ほんで、わいも逃げてきてん」
「子ども泣かしてどないすんねん」

「ちょっと酒が1升1合ばかり手回ったさかい」
「え?酒?そら、ありがたい。なんぼ、肴があっても酒がなかったらどもならんから、こら買わなしゃあないかな、思ててん。
 せやけど、何で酒が桶に入ってんねん?こぼれてしまうがな」
「いや、家に帰ったら備前焼の一升とっくりがあってんけどな。
 底にひび入って、あかんようになってたさかい、きれいに底に穴あけて、中、きれいに洗
(あろ)て近目の酒屋んとこ持っていってん」
「近目の酒屋て、伊丹屋か?」
「そうそう、伊丹屋。あこのおっさんにとっくり渡して、これに一升入れてんかゆうたら、向こうのおっさんズボラなもんや。
 今どき、あんまり見ぃひん一升どっくりでんなぁゆうて、じょうご置いて、酒樽の詰め、抜きよった。

 おっさん、一升枡に量らんでええんか?て聞いたんやけど、細かいことゆわんかて、一升どっくりには一升しか入りまっかいなゆうてね。
 底に穴あいてるから、入れた酒、ぜ〜んぶ、下の桶に流れたぁる。しやけど、商売人はえらいもんやな。一升一合か二合ほど入ったとこで、首ひねって、おかしいな、このとっくり、えらいよぉけ入るなぁゆうてるから、もう、そんでええわ、おおきにゆうて、とっくりを返してもろて。

 ほんで、ちょっとこれから米屋行かなあかん用事があるよって、悪いけど、しばらくこのとっくり預かっといてくれるか?ゆうて、桶持って、逃げてきた」

「知能犯やな。あ、そっちは?」
「大根が、大八車に1台」
「ええ?どないしてん、それ?」
八百屋の前に落ちてた
「置いたったんや、それは。まあまあ、しゃあない。え?根深
(ねぶか。ねぎ)もあんの?

 まあ、こんだけあったら、けっこうなもんでけるわ。しゃけど、今日は女手がないさかい、皆で手分けしてやらなあかん。

 せやな。ああた、鯛の係ゆうことで。ああたは、棒だらの係ね。数の子は塩でもんでもろて。ねぎは、細こぉに刻んで。

 鰹節はかいてもろて、ぐらぐら〜と沸いた湯に入れて。酒の燗もお願いします。
 めいめいが何ぞ手分けしてやってもらわなあきませんからね。よろしゅうお願いします。
 もし分からんようなことがあったら、この源さん。この方、なかなか物知りやさかい。万事、源さんに訊
(たん)ねてもらうてなことで。

 ほな、よろしゅうお頼み申します」

「あの、源さん、すんまへん。私、鯛の料理の係でんねんけど、これはどないさしてもろたら?」
「大丈夫でっか、いきなり?まあ、鯛ゆうたら、普通は3枚におろして、片身は造り、片身は焼き物てなことに。骨はつぶして潮汁
(うしおじる)にしたらよろしいな。
 ああ、鯛は、料理する前に、ちゃんと鱗をふいてもらわなあきまへんで。口にのこると心地悪いよってな」

「は、はぁ・・・。鱗をふく?そら、やっぱり、しぼった布巾か何かで?
「え、ええ〜?いや、その拭くと違いますがな。そこに出刃包丁がありますやろ?それで尾ぉの方から鱗を起こしていきまんねんがな」
「ははぁ。尾ぉの方から?ベリバリボリバリ・・・・・ベリバリボリバリ。
 あ、なるほど。こら、誰でもでけるわ。ベリバリボリ・・・
(鱗が飛んで顔に付く。これをはがして)ベリバリボリ・・・ベリバリボリバ・・・・(今度は眼の下に鱗が飛んで)

 わ、わぁ〜〜!シャイ!シャイシャイ!わああ、あの犬がね。横町の金物屋の赤犬が。わたい、犬怖いんでんねん。どないしたらよろし?」
「どないしたらよろし?て追わんかいな」
「追わんかいな、て、この鯛、元々この赤犬の鯛とちゃいますのんか?
「そんなんゆうてる場合やないがな。ぼ〜んと食らわせ!
(腕で殴るさま)
「ええ?食らわすぅ?どこ食らわしたらええねん?」
「どこで、て、そんなんどこでもええがな。尾ぉでも頭でも食らわさんかい」
「ええ?尾でも頭でも?まあ、尾ぉならええけど
(と、出刃で尾っぽのところを切り落として、犬に投げる)ほれ!食らえ!

 わっ!あっと言う間に食うてしまいよった。シャイ!シャイ!

 あのぉ・・・尾ぉ食らわしてんけど、逃げよらへん。どっちかゆうと、前より、寄ってきた」
「尾ぉみたいなもん食らわしたって効くかい。ごぉ〜ん!と
(腕を振って)どたま食らわさんかい」
「ええ?頭?ええのん?これ、目ぇのとことか、美味いねんけどなぁ。

 もったいないけど・・・そぉれ!食らえ!

 ベリバリボリバリ・・・ベリバリボリバリ・・・・っと、裏返して・・・わっ!あのぉ〜、まだ向こうに行きませんねんけどねぇ」
「何、尾ぉと頭食らわしても向こ行かん?こたえん犬やなぁ。しゃあない、思い切って胴体食らわせ!」
「えええ〜〜?ほんまぁ?後で怒ったりしぃなやぁ。ほんまにええねんなぁ?それ、食らえ。

 あはは、やっと向こう行きよりました」
「ああ、行ったか。そら良かった。ほな、鯛の料理にかかり」
「ええ〜〜?鯛て、もうおませんけどぉ?」
「ないて、おまはんが料理してた鯛は、どこ行ってんな?」
「せやかて、あんたが、尾ぉ食らわせゆうから尾ぉ食らわして、ドタマ食らわせゆうから頭食らわして、最後、胴体も食らわして、もうなぁ〜んにも残ってへん。綺麗におしまい。ばんざ〜い。ばんざ〜い」

「かなんな、鯛一匹、犬に食らわしてんねんがな。
 
 ところで、あぁた、最前から一生懸命カンテキ扇
(あお)いでるけど、まだ火ぃいこりまへんのんか? 向こぉでは、もぉ湯ぅがグラグラ沸いてまっせぇ。ず〜っと汗かいて扇いだはるけど」
「そぉですねん、なかなか火ぃゆうもんは、いこらんもんですなぁ」
「あのぉ・・・・、ひょっとカンテキの口が開いてへんのんと違いますか?・・・・あ、開いてますなぁ。

 まさか、炭や空消しが入ってへんとか?」
「そんな、炭も入れんと、火がいこらんてゆうやなんて、馬鹿にしなはんな」
「そら、そうですわなぁ。・・・・・・・あのぉ、間違いないと思いますけど、火の種は入ってまっしゃろね?」
「何ですか?」
「い、いや。火の種を」
「はぁ、そぉいぅものが要りますか?」
「よぅそんなアホなこと言ぅてまんなぁ・・・・。あ、徳さん。あんた何ゲラゲラ笑
(わろ)てまんねん。ああた、ずっと横におってんから、何ぞゆうてやったらどないですねん」
「いや、わたいも、おかしいなぁとは思てたんでっせ。しやけど、この男、なかなか偉い男でんねん。
 こないだも、町内のそろばん大会で優勝しよった。しやから、ひょっと、火の種なしで、火ぃいこしたら、ノーベル賞もんやなぁ思て」

「何をアホなことを・・・・。おっと、そこ、何ぞたいてるのんはええけど、ちょっと焦げくさいような匂いがしまっせ。  いったい、何たいてはるんでっか?
 え?数の子?数の子みたいなもん、たいてどないしますねん。
 何?何ぼたいても、柔らこならん?当たり前でんがな、そんなもん。数の子は、塩でもみまんねんがな。

 なに?根深を塩でもんでる?葱の漬けもん、こさえんのんとちゃいまっせ。ネギは細こぉに刻みまんねんがな。 え?棒だらをみじん切りにした?

 ちょっと待ったぁ、待ったぁ。ちょっとダシ取んのん待ったぁ。料理無茶苦茶になってしもてるねん。
 え?ダシは、もうでけた?あっちゃこっちゃやがな。ああ、さよか。まあ、よろし。

 何?鰹節二本ともかいてしもた?うち、うどん屋やんのんとちゃいまっせ。そない、ダシこさえてどないしまんねん。
 でも、まあ、あんたが一番ちゃんと仕事したはんねや。ほな、そのダシ持ってきとくんなはれ」
「へえ。やっぱ、えらいもんでんなぁ。あの鰹節二本ともなると、ほれ、こんな一杯」
「い、いや。ザル持ってきてどないしますねん。ダシを持ってきてもらわんと」
「へえ、ですから、ダシを」
「冗談はよろしぃねん。こら、ダシがらでんがな。ダシ!え?いや、ちゃいますがな。これをたいた時の汁がおますやろ?」
「え?あの湯が要りますか?
「湯ぅ?」
「ええ。私も、こないよぉさんの湯ぅ、ただ捨てるのはもったいないなぁ思て、たらいに取って、ふんどしを漬けた」
「どこの世界に、ダシでふんどし洗う人がおまんねん?」
「せやかて、ああた、鰹節をかいて、湯ぅグラグラ沸かして、そこに入れぇゆわはりましたやん。それを今さら、湯ぅの方が要るやなんて。そんなことは芸者の頃にゆう言葉。まあ、最前漬けたとこやから、絞ったら・・・」

「もう、いやんなってきたな。
 お〜い、燗番!燗、ちょっとやめて。肴の方、みな、あかんようになってしもたから」
「ええ?燗番がどうかしたのれすか?
「おいおい、えらい酔うてしもてるがな」
「そら、私も燗番としての責任がありますから、ちょうどええ燗がついたか、調べるために1杯、2杯」
「1杯や2杯では、そない酔わんで。何で1杯やねん」
「それは猪口
(ちょこ。小さい杯)れすよ」
「ええ?ほんまに猪口に1杯、2杯しか呑んでへんのんか?」
「猪口に1杯か、2杯は残したぁる」

「皆、いてしもたんやがな。さっぱりわやや。
 せや、確か味噌があったな。ほな、しゃあない、味噌をすって、田楽でもこさえて、それで一杯呑もか。

 ほな、ああた、ちょっとすり鉢出しておくんなはれ。え?そんな上、探してもありまへんがな。昔から言いますやろ。すり鉢みたいな目ぇの切ったぁるもん、目より上のとこに置いたら、その家にもめ事が絶えんて。せやから走り元の、その下のとこに立てかけてますやろ?

 いや、あんたも気が利かんなぁ。すり鉢だけ持ってきてどないしますねん。味噌をするんでっせ。昔から言いまっしゃろ?ノミといえば、鎚・・・ってほんまに金づち持ってきてどないしますねん。すり鉢、割れてしまうがな。

 すり鉢といえば、すりこぎ、レンゲ!いや、ちゃうがな?木ぃでできたやつ。そら、火吹き竹。竹やない。木ぃやゆうてますやろ。それはカンヌキ。そんな長いもんで、どないやってすりまんねん?
 もっと小さい、そう、小さい・・・・・ゆうたら爪楊枝持ってくるやろ!

 ほれ、台所の、前にぶら下がってるやろ?いや、それはお玉杓子。せやないがな。ほれ、使い込んで、先が丸ぅなった・・・・って、股ぐら覗き込んで何してまんねん

 そう!それ!それがすりこぎでんがな。いや、そのままではあきまへん。ちょっと頭を濡らして。・・・・・・あんたの頭濡らしてどないすんねん。髪の毛ぼとぼとや。そのままではあかん。

 すりこぎのあ・・・・!ふんどし漬けた湯に浸してどないすんねん!!」
と、わあわあゆうております、寄り合い酒とゆうバカバカしいお笑いでございます。
 

 


  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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