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(No124) 米朝一門勉強会 鑑賞記その2       

   平成21年1月11日に、ヴィアーレ大阪での米朝一門勉強会を鑑賞した・・・・・の続き。



 

(3) 桂宗助「替わり目」


 
先ほど拍手をいただいたお客様に限り・・・・・・厚く御礼申し上げます。
 本来ですと、皆様方のご自宅にお伺いして直接お礼を申し上げねばならないところでございますが・・・・・・まあ、本当に来られても迷惑でしょうし。

 私が終れば、楽しい休憩ですので、お後、お楽しみで、もうしばらくお付き合い願いたいと存じます。 


 お酒ゆうのは、まことに結構なものでございまして、気の合うもんで呑むのも良し、また、一人で呑むのも風情があるものでございます。

 と、申しましてもちょっとお酒が進んでまいりますと、相手が欲しなるもんでして、居酒屋なんかで、どちらとものぉ(どちらともなく)「・・・・・・お一人・・・ですか?お近づきのしるしに、どうです、一杯?」てなことがよぉあるもんで。

 ところが甘いもんでは、そうは行きまへんなぁ。

「こちらはぜんざい。そちらは・・・・・・みつ豆ですかぁ。・・・・・・・・どうです?餅、半分!
(餅をはさんだ箸を突き出す)」・・・・・・と、これでは、あかん。

 酒呑むと、今日会
(お)うたのに、何十年の付き合いがあるような気になることがありますなぁ。

 中には、手と手を握り合(お)うて涙流しとる人もおる。
「わしゃあ、今日、こうして、あんたと会えたことが嬉しい!兄弟分になろう!
 せや、あんたの娘、せがれの嫁にくれ!」
「おう!おう!もろたって、もろたってやあ!」・・・・・・・と、娘の縁談決めて、帰ったら、どこの誰や思い出せんてなことがあります。 

「うわ。前から来る人、誰やったかいな?顔を知ってるんやが、酔うてるさかい、名前が出てこんがな。
 あかん、間に合わへん。笑いながら、近づいてくるがな。

 あの〜、すんません。お宅、どちらさんでしたかな?」
「あほ!お前の親じゃ」


「おい!人力!俥屋!」
「へい!」
「そっちに寄れ!」
「え?大将、今日はついてまへんねん。助ける思て、乗っとくんなはれ」
「頼まれりゃ仕方ないが・・・・・・・どこまで行くねん?」
「どこまででもお供さしてもらいまっせ」
「そうかぁ・・・・・。こないだ、うちのおばはんが病気やゆう報せが来て、また見舞いに行かんならんなぁ思てたとこやねん。ほな、ちょっとおばはんとこまで行ってくれるかなぁ」
「その、おばさんのおうちちゅうのはどこでっか?」
「札幌やけどな」
「え?札幌?札幌は、よぉ行かん」
「そやけど、お前、どこまででも行くゆうたやないか。・・・・ははは、冗談や、冗談」
「どうですやろ、大将のおうちまで、送らせていただくゆうのは」
「おう。そらええな。そうしてもらおか」
「へい!ほな、気ぃ付けて乗っとくんなはれや。

 で、行き先は?」
「我が家!」
「・・・・・いや、住所とかゆうてもらわんと」
「ここは、どこや?」
「ええ?分からんと乗ったはるんかいな。ここは上町
(うえまち)でっせ」
「ほな、まっすぐ行け。
(走り出したかと思うと、すぐに)止まれ!

 そこの左側の家、ばんば〜んと叩いて、起こせ」
「ええ?知り合いのおうちでっしゃろなぁ?こんな夜中に人違いやったら、怒られるでぇ。

こんばんわ!こんばんわ!」
「はいはい。どちらさん?」
「・・・・・・どちらさんゆわれても、名前も聞いてへんがな。

 あの、大将。出てきはったんで」

(奥さんが、客の顔を見て)まあ、あんたでしたんか?」
俥「え?こちら、お宅のご主人でっか?」
男「おお、嬶
(かか)。俥賃、払(はろ)といて」
奥「おいくらです?」
俥「いえ、けっこうです。そこの電柱から、ここのごん
(ごみ)箱まで乗ってもろただけでっさかい。まだ、車輪、二回りほどしか回ってまへん
奥「何で、家の前から乗んねん?」
男「こいつが乗ったら助かるゆうから、人助けで乗ったんや」
奥「えらいすんまへんでした。いえいえ、ご迷惑かけたから
(と、遠慮する俥屋に俥賃を渡す)
男「こらこら、こいつがいらんゆうてんのに、何で払うねん?

(家に入って)
♪ 狭いながらも 楽しい我が家〜 ♪」
「歌いなはんな。ご近所、やかましいゆうてぼやいてはりまっせ」
「ええ?ご近所は大事にせなあかん。やかましゅうてすんませんでした、て一軒ずつ謝りに行こ」
「そんなん、せんでええから寝なはれ。おやすみ」
「おやすみ・・・・ません!一本つけてぇな」
「こんだけ呑んでるのに、体に毒や。寝なはれ」
「不細工
(ぶさ〜く)なやっちゃなあ。外でなんぼ呑んでても、家で、ちょっと欲しいもんやねん。
 そこ『外は外、うちはうちでお酒の味が変わるとか申します。うちのお酒、一口召し上がってからおやすみになったら、いかがでしょう』てなことゆうてみぃ?『ああ、すまなんだなぁ。もう寝るわ』って、こないなんねや。
 それを寝なはれ、寝なはれって安もんの女郎みたいに」
「何?そおゆうたら、ええのん?」
(棒読み調子で)外は外、うちはうちですから、うちのお酒、一口召し上がりはったら、どうですか?」
「頼まれたら、しゃあないなぁ」
「もう!嘘つき!」
「お燗してや」
「でけへん。もう火種、落としてしもた」
「え?ほな、近所行って、借りて来い」
「そんなことゆうたって、こんなに遅いのに、近所や皆、夜中の夢やしぃ」
「あれ?最前、俺の歌がやかましいゆうて、ご近所の人ぼやいてはったんと違うの?
 それが火種借りに行こう思たら夜中の夢?この近所は、みな、器用な寝方しはんねんねぇ。

 ほな、冷やでええわ。おう!一升瓶貸せ!お前に注いでもろたら盛りが悪いさかい。
 何ぞアテ
(酒の肴)は?」
「何もない」
「肴は気取り・・・とかゆうて、ちょっとしたもんでええねん。お漬けもんは?」
「みな、食てしもた」
「食うてしもた?それがおなごのゆう言葉か?お前も区役所行ったら、女の籍、入ってんねんやろ?せめて、いただきました、て言えんか?味付け海苔は?」
「いただきました」
「らっきょは?」
「いただきました」
「よぉいただくなぁ。そしたら・・・」
「いただきました」
「ええ加減にせえよ。干し鱈、ゆうてんのとちゃうぞ。
 水屋に何ぞ、ないんか?」
「冷やご飯やったら、おまっせぇ」
「喧嘩売ってんのか?何ぞつまむもんはないか?っちゅうてんねん」
「茶瓶の蓋は、どないや?」
「・・・・・・・・お前なぁ。俺は茶瓶の蓋、つまんじゃあ呑み、呑んじゃあ、茶瓶の蓋、つまむんかい?
 あっ、せや。俥乗る時に見たけど、角のおでん屋、まだ灯りついてた。何ぞ買
(こ)うてこい。お前の好きなもんも買うて来たらええがな。

ん?何で鏡の前でパタパタしてんねん?化粧なんかせんでええねん。誰も見てへん。おでん屋、去
(い)んでまうやないか。早よ、行ってこい!


・・・・・・・・・あいつと一緒になって25年。呑まんと帰ったこと、一日もないなぁ。よぉ、呑んだくれの世話してくれてる。もし、あいつが愛想尽かして出ていかれたら、たちまち困んのはわいの方や。どこに何が入ってんのか、さっぱり分からん。
 よぉやってくれてるで。あんなええ嬶、もう来てくれんで。・・・・・もっとも、あいつも今からでは、もらい手はないやろけど。
 心の中では、いつもかかあ大明神て、手ぇ合わせてるんやけど・・・・・顔見たら、むかつくんやなぁ。油断したら、尻に敷こう、尻に敷こうとしよるさかいなぁ。

・・・・・・・・って、まだ出てへんのか!えらいこと、聞かれてしもた。明日から示しがつかんがな。

 ははは、財布、帯の間に挟んで、買いに行きよった」

(家の前を、うどん屋の屋台が通りかかる)
「うど〜んやぁ そばや、う〜」
「お!うどん屋!」
「へい!あれ?誰もおらんな」
「おい!うどん屋!」
「あれ?あの〜、うどん屋は、どちらですか?」
「うどん屋は、お前じゃ」
「あっ、家の中にいたはったんですか。そら分からん筈や。
 毎度おおきに」
「お前は初めてじゃ」
「そうでんなぁ。ほな・・・・初めておおきに」
「おもろいうどん屋やな。湯は沸いてるか?」
「へい、商売もんでっさかい、チンチンに沸いてまっせ」
「・・・・・・・・それが言葉数が多いっちゅうてんねん。わいが、『湯ぅ沸いてるか?』て訊いてんねんから『へい!』。この一言でええやないか。わいは、別にチンチン沸いてようが、ワンワン沸いてようが、どっちゃでもかめへんねん。
 フン!
(と、黙って徳利を差し出す)フン! ・・・・・・・・・鈍い男やなぁ。うどん屋に徳利出したら、燗するもんやて、常識で考えたら分かるやろぉ」
「へっ。別に酒の燗しよう思て湯ぅ沸かしたんと違うわい。
 待てよ。これも、うどんが売れるきっかけになるかもしれへん。
(と、団扇で火をバタバタ扇ぐ)
「こら!そないバタバタ扇ぐな!チンチンに沸いてるゆうのに、扇いだら煮え燗になってまうがな。
 ちょっと、そこで待っとれ。もし煮え燗になってたら、弁償さすさかいな。
(小さな猪口に注いで、味見をする)ありがたい。上燗、上燗。ほな、大きな湯呑みでいただくとしよう。
 う〜ん。燗がええと、酒がどこにも引っかからんなぁ。燗はうどん屋に限るなぁ。どや、うどん屋、一杯いけ!」
「いえ、私、不調法でっさかい。・・・・そうでっかぁ?ほな、真似事だけ。
・・・・・あっ、不調法やゆうてますのに、こない仰山
(ぎょうさん。たくさん)
 いや、いただきますけど。ゲホゲホ」
「うわ!騙された!不調法やゆうから安心して一杯注いだのに、きれいに呑んでしまいよった。こら、えらい調法な不調法やなぁ。・・・・・・・・・嘘や、嘘や。ほんまは呑んでくれて嬉しいねん」
「いや、残したら怒られる思て。ほんで、これがご縁で、ごひいきにしていただけたら思て」
「ええ事、ゆうた。何でも縁やで。♪ うどが 刺身のつまになるぅ〜 ♪ ゆうてな。
♪ 去年の今夜は知らないどうし 今年のぉ〜今夜ぁ〜は〜うちのぉ〜人ぉ〜〜 ♪
 ああ、こりゃこりゃ。うどん屋、お前も歌え」
「堪忍しとくんなはれ。それより、うどんはどうでやす?」
(あっさりと)うどんは嫌いや。気ぃ使うな。
 縁ちゅうたら、お前、左官の又兵衛、知ってるやろ?え?知らん?ほな、又兵衛の一人娘がこないだ嫁入りしたんは?え?それも知らん?何も知らんやっちゃな。
 又兵衛、嫁さんに早よから死に別れてな。男手一つで育てたんや。
 小さい時分、わいが又兵衛んとこ遊びに行って、帰る時、うっかり帽子忘れたら、あの子、わいの後、とことことこて追いかけてきて『おっちゃん、ぼうち』・・・て。
 何、そわそわしてんねん?」
「へい。うどん屋の道具、表に置いたなり
(置いたまま)でんねん」
「かまへん。置かしといたる。誰があないなもん盗るねん?

 その娘の祝言の時のこっちゃけどな。又兵衛、慣れん紋付袴で座ってるとこへ、娘がきれいに手ぇつかえて
(手をついて)長々お世話になりました、ゆうて立派な挨拶すんねや。
 俺は、てっきり又兵衛泣く思てたんやけど、泣きよらへん。割と平気な顔して『また二人で遊びにおいでや』とかゆうとんねん。偉いやっちゃなあ思てたら、今度、娘が俺の前に来て『おじさん。うちのお父ちゃん、一人で淋しがるから、たまにはお酒の相手、したってくださいね』ゆうたら、ぶわっと泣きよった。
 今日も又兵衛誘て2軒行って、もう1軒行こう!ゆうたのに又兵衛、どうしても帰るゆうて・・・」
「あほらしい。こんなん相手にしてたら、湯ぅが冷めてしまうがな」
(と、こっそり逃げ出すうどん屋)

「お、おい!こら待てぇ〜!泥棒〜!

(奥さんが帰ってきて)
「ただいま。あれ?お燗ついてますやないか?どないしたん?え?うどん屋?ほな、ちゃんと注文したったんでしょうなぁ?何?してへん?
 そんな可哀想な。うちが何か注文したげますわ。

(表に出て)あ、あれやな。うどん屋はん!うどん屋は〜ん!」

(通りがかりの人が、うどん屋に)
「おい、うどん屋。あの家、呼んでるで」
「いえ、あこだけには、行かれしまへん。ちょうど、銚子の替わり目です」

 「替わり目」は以前都んぼで聴いた。よく聴く志ん生のは、おでんを買いに出かけたと思って、女房への感謝をつぶやき、まだ出ていないと分かって慌てる・・・というとこまで。都んぼのが、どうだったかはメモに残っていないので覚えていない。

 落ち着きはないが、いろいろオリジナルの演出をしていた都んぼの「替わり目」に比べると、最後のサゲまで演るとこといい、全体的に落ち着いた感じの、オーソドックスな「替わり目」のように感じた。

 宗助は、いつもながら艶のある高座である。ただ、客席に女性が多いせいか、「寝なはれ、寝なはれて、安もんの女郎みたいに」とゆうとこで一瞬場内がヒヤリと空気が冷めたように感じた。




(4)
 桂歌之助「桃太郎」

 わたくし、桂歌之助と申しますが、どこの誰やねん?とお思いでしょう。わたくし、3代目でございまして、師匠の歌之助は6年前に亡くなりました。師匠の名前を継いで2年目の正月ということになります。
 師匠の師匠、これを大師匠と申しますが、これが桂米朝。・・・・・ご存知ですか?逆に、米朝を知らんと、この落語会に来てたらすごいですけどね。

 ご存知のとおり、米朝は落語界唯一の人間国宝でございまして、人間国宝になると本人もそうでしょうが、周りが大変なんですね。
 それまでは、ゆうたら普通のおじいちゃんやったんです。
 夜でも、人間の間は、布団入って寝てたんですが、国宝になってからは夜は桐の箱に入りますからな。あ、蓋はしませんよ。蓋すると、意味合いが違ってきますから。
 で、2時間ごとに水を取り替える。乾燥したらいけませんからな。

 それまでは落語会も入場料ゆうてたけど、国宝になってからは拝観料に名前が変わった・・・・って、こら冗談ですが。
 落語は伝承芸能で、師匠から口伝えで教(おそ)わるんですな。初めは小噺。それも、右向いて左向いたら終る一口小噺ゆうやつからです。

「鳥が何ぞ落としていったでぇ」
「ふ〜ん」

 ・・・・・・これは、鳥の糞と、返事の「ふ〜ん」をかけているわけでございまして。こない分析しても、おもろいことも何ともおませんけども。

「裏の空地に囲いができたってなぁ」
(と、場内の客が、「へ〜」)

 先、言わんように。知ってるから偉いんやないんです。皆、知ってるんです。大人やから言わんだけですからね。

 次、行きます。

「お母ちゃん、パンツ破けた」
「又か」

・・・・・ぐっと笑いが少なくなりましたね。大丈夫ですか?

 笑いが少なくなったのも当然だろう。
 バレバレの小噺だと、客が先に言うのは定番である。
 「笑点」の大喜利で木久翁(ラーメン屋の木久蔵)が答を言う前に司会の歌丸が「〜だろ」と言われるようなもの。

 むしろ大阪の人間としては、そないバレバレの小話をぬけぬけと言われると、逆にツッコミを入れんと義理が悪いと感じるほどだ。
 それを、大勢の前で批判されてしまった。ええ?ゆうたらあかんかったん?と、すっかり「変な空気」になってしまったのである。


 ちょっと慣れてくると、少し長い噺も教えてもらいます。

「おい、お前とこ花屋やな?どんな花でもあるか?」
「へえ!どんな花でも木ぃでも、おまっせ!」
「そうか。ほな、物ゆう花、あるか?」
(小声で)物ゆう花?はは〜ん、こいつ、からかいに来やがったな。

 へい、おまっせ!」
「え?あるか?

(ある花を指差し) お前は何や?」
(裏声で)バラです」
「ほんまや!
(別の花に)お前は?」
「チューリップ」
「お前は?」
「牡丹」
「お前は?・・・・・・・・・・ん?あれ?花屋、この花は物言わんな?」
「へい。その花はクチナシです」

・・・・・・・これが落語なんです。笑うとこです。納得しないで下さい。
 花屋は、からかいに来たなと分かっているのだから、花の声は、花屋の腹話術なのだろうか?

 ある新婚さんが、仲良く枕を並べて寝よか、とゆうとこで何の拍子か、お嫁さんがプッ!と、まあゆうたら屁ぇこいたんですな。
 お嫁さんの方は旦那さんに気付かれたかどうか、気になって仕方ない。しやけど直接訊く訳にも行かず・・・
(寝てる旦那を揺り起こし)
「ちょっと、あんた。ちょっと、あんた」
「ん、ん?何や?」
「あの・・・・・・今の、地震、気ぃ付きはった?」
「え?地震あったんか?それ、お前の屁ぇの前か、後か?

・・・・・・・・・まあ、これが考え落ちゆうやつですな。

 学校にも落語しぃに行ったりするんです。若いうちから落語のファンにしといたら、今後、商売がうまいこと行くゆうことでね。
 中学、高校とも落語がどうゆうもんか分かりますからね。一人で何もかんもやるっちゅうことがね。しかし、小学生はそれすら分かりませんので、想像しながら聴いてくださいね・・・と先にゆうとくんです。

「おい!けん坊。もう、寝なさい」
 はい、これは誰でしょう?て訊きますと、ハイ!ハイ!ハイ!て手ぇ上げて「お父さんです!」

 そうですね、では「いやや。まだ眠たないもん」。さあ、これは?と訊くと、また、ハイ!ハイ!ハイ!「こども!」。

 ほんで、次に
(落語らしく、着物の襟を直す格好をしながら)「もう!あんた〜。何ゆうてんのん?」。はい、これは?て訊くと「オカマ〜!」。なかなか手強い。

 その後に、舞台に上がってもろて、落語の体験してもらうんです。うどんの食べ方なんかを指南して、横から茶々を入れるんですな。
 やはり、素人の方は、箸
(扇子)の方ばっかりに気ぃが行って、左手の鉢がお留守になるんですな。最初、こう手ぇ曲げて持ってたんが、段々手ぇがまっすぐになるから「それじゃ皿うどんですよ」とか、箸の位置がずれてくるさかい「今、目ぇから食べましたね」とかゆうんです。

 そしたら、前におったツッパリ高校生が「うどんくらい、好きに食わしたれや!」

 

「けん坊!けんちゃん!いつまでも起きてたら、怖〜いお化け、幽霊が出てくるで。そ〜ら、布団かぶってたら大丈夫や。お父ちゃんが、面白い話、聞かせたろ。
 昔、むか〜し、あるところにおじいさんとおばあさんが・・・・・・・・・・大きな桃が流れてきて・・・・・・・・・・ははは、おい、嬶、寝てしもた。子供ってのは、罪がないなぁ」・・・・・・・・・・ってゆうてたんは昔の話です。
 吉田茂が首相やってた頃の話。今は、孫の麻生さんが首相やってますからね。

「おい!けん坊。早よ寝ぇや」
「何で?」
「何で?夜になったら寝るのは不思議ないやろ?」
「だって、眠とないねん」
「眠とぉのうても寝たらええねん!」
「眠とぉないのに寝ろや、なんて・・・・そらぁ君ぃ」
「君?嬶、こいつ、親のこと、友達みたいに思てやがる。

 いつまでも起きてたら、怖〜いお化けが出てくんでぇ」
「・・・・・・・お父ちゃんは無邪気やねぇ」
「ろくなこと考えんなぁ、こいつは。

 寝床ん中で、お父ちゃんが面白い話したるさかい、それを聞きながら寝たらええのや」
「そらぁ無理や。話、聞きながら寝ぇやなんて、聞くなら聞く、寝るなら寝るとどっちかにはっきりしてもらわんと。

 ほな、いっぺん、やってみ」
「やってみ?こいつ、親のこと、安もんの噺家みたいに思てけつかる。

 昔、昔・・・」
「何年ほど?年号があるやろ?」
「年号なんてもんがないくらい、昔じゃ。

 ある所に・・・」
「どこや?住所は?」
「そんなもん、ない」
「住所なかったら、郵便屋さんが困るがな。大和とか摂津とか和泉とか・・・」
「そんなもんのないくらい昔じゃ。

 おじいさんと・・・」
「名前は?」
「名前なんかない!」
「名前ないのん?よっぽど昔やな?」
「よっぽど昔じゃ」
「歳は?」
「どつくで。歳ない」
「歳ないのん?」
「最初、あったけど火事で焼けた。

 だいたい、お前みたいにいちいち引っかかってたら話が前に進まへん。
 ふ〜ん、てゆうて聴いてたらええのや!

 おばあさんにきび団子を作ってもろてやなぁ」
(馬鹿にしきった調子で)ふ〜ん」 
「犬と猿と雉が・・・」
「ふ〜ん」
「手がつけられんなぁ。嬶、どないぞせぇ。

 とにかく桃太郎は鬼が島で山のような宝物を手に入れて、エンヤラヤと持ち帰って・・・・・

 寝んかいや!大きな目ぇ剥きやがったなぁ!」
「あんまりアホな話するさかい、目ぇ冴えてきたわ。

 こら世界的名作やで。それをこんなデタラメな話し方したら、作者が泣く。

 昔昔、ある所に・・・これはわざとこうしたんねんで。そら、そうやろ。これを東京の話にしてみぃ?東京の子ぉは馴染みがあるけど、大阪の子ぉは馴染みがない。
 そやさかい、わざとぼやかして、大きな話にしたぁんねん。 

 おじいさんとおばあさん、こら、父母のことをゆうてんねん。それが証拠にぢぢ、ばばのにごり
(濁点)取ったら、ちち、ははになるやろ?
 おじいさんは山に柴狩りに、おばあさんは川に洗濯に・・・・・ゆうのは、海では洗濯ができんさかい川にしたぁるけれど、実は山と海をゆうてんねん。つまり、父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深い・・・・・ゆうことがゆうたぁるわけやな」
「ふ〜〜ん。それから、どないしてん?」
「子供が桃から生まれるやなんて、そないなことがあるかいな。そんなんあったら、果物屋の店先、やかましゅうてしゃあない。こら、神からの授かり者ということを表してるねん。
 鬼が島に行くゆうのは、世の中に出て苦労をせえゆうことや。

 犬、猿、雉が出てくるやろ?
 犬ゆうのは、三日飼
(こ)うたら一生、その恩を忘れんとゆう、仁義に厚い生きもんや。
 また、猿は猿知恵なんて馬鹿にするけど、けものの中では一番知恵がある。
 雉は、あれで勇気のある生きもんらしいなぁ。蛇に襲われても、体に巻くだけ巻かせといて、後で羽根を広げて蛇を引き裂いてしまうゆうで。
 つまり、これは『智・仁・勇』とゆう、人間に必要な三つの徳目を表してるわけや」
「ほぉ〜〜。おい!嬶!お前もぼ〜っとしとらんと、ちょっと座って、こいつの話、聴け。ええこと言いよる」
「きび団子かて意味があるねんで。きびは五穀ゆうて、稲、麦、粟
(あわ)、稗(ひえ)、黍(きび)ゆうて一番粗末な雑穀や。
 つまり、これは贅沢を避けて質素な生活をし、智・仁・勇という徳目を身に付けて、世の中に出て苦労をしたら、信用やら名誉、地位、財産なんかを手に入れられるゆう教えや。
 それをお父ちゃんみたいに何もわからんとゆうてたら・・・・・家の中やったら、ええけど、よその人の前でゆうたらあかん。僕が恥かくわ。

 ・・・・・お父ちゃん?あれ?寝てしもた。今日日
(きょうび)の大人は、罪がない」

 
 私の中での「歌之助だだ滑り状態」は続く。

 マクラの時の変な空気になってしまった辺りから、もう一つ立ち直りきれないまま(「うどんくらい好きに・・・」のくだりなんか、面白かったが)本編に入った。

 「桃太郎」は、以前小朝で聴いた。小朝の「桃太郎」は、既存の「桃太郎」に飽き足らず、新しい形に改造してしまったものだから、もともと比較するのに無理がある。
 しかし、あえて比べると、歌之助は元々あるように演ってるだけに感じられるのは仕方ない。
 さらには「クサイ感じ」は悪化している。
 要は、親父のリアクションの仕方が、やたら目をむいて、眉を上げ、大きな声を出して・・・・・・と大げさ過ぎて、また、そのたんびに噺の流れがちょこっと止まってしまうような感じ。
 聴いていて少し疲れる。歌之助、何とか頑張ってもらいたい。 



  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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