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(No122) 新春吉例 米朝一門会 鑑賞記その4
で、平成21年1月2日に、建替完成後のサンケイホールブリーゼにて新春吉例米朝一門会を鑑賞した・・・・・の完結編。
(6) 桂雀三郎「哀愁列車」
どうも最後まで残っていただきまして、ありがとうございます。
米朝師匠も出たから、もうよろしやろ?まあ、私も悪気があって出てきたわけやおまへんので。
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まあ、私を初日の出の代わりにしてください。何のご利益(りやく)もおまへんけど。
いろんな所で仕事させてもろてます。それこそ北は北海道から、南はナンバまで。
乗り物もずいぶん発達いたしました。
乗り物とゆうやつ、いろいろ向き、不向きがあるんでんな。例えば、別れに似合う乗りもんと似合わん乗りもんとがある。
似合う乗りもんとゆうと、やはり船ですな。また、船自身も、「わしは別れに似合うな」と思とる。
スピーカーから「蛍の光」が流れる。ドラがジャン!ジャン!ジャン!と鳴る。汽笛がぶぉ〜!とむせび泣いて、船の上のもんと、見送るもんとの間で七色のテープが・・・・・こうなると淡路島行くだけでも涙が出まんな。
そこいくと、似合わんのは飛行機です。あら、窓が小さいですからな。外、見送ってくれてる人の姿が、もう一つよぉ見えん。
そのくせ、空港には必ず送迎ロビーとかがあるんですな。
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見送る方も、いったいどの飛行機に乗ってるんやよぉ分からんけど適当に手ぇ振ってたら、全然違う飛行機やった・・・・・・てなことがよぉあります。
電車の旅というのも、なかなかええもんで、それもできたら新幹線とか特急よりは在来線、各停がよろしいなぁ。まあ、恋に破れた若者ゆうのは北国に向う夜汽車で、曇った窓ガラス見つめてるもんでして。
「(あくびして)今、何時や?(腕時計を見て)午後5時。ちょうど、ええ。やっぱ、失恋の痛手を癒すには、海岸線をめぐる各駅停車の旅に限るなぁ。
しかし、あのおなごに振られるとはなぁ。あら、珍しく向こうから声かけてきたんやで。
細かいとこあったけど・・・・・・・気のきついおなごやったなぁ。
口数多いけど・・・・・・・しょうもないことしか言わんかった。
・・・・・・・・・・ゆっくり考えたら、どこが良かったんや?
落ちるとこまで落ちた感じやなぁ。
べっぴんは三日見たら飽きるけど、不細工は三日で慣れる・・・・・・・てなことゆうけど、ちょっと慣れてきた時分に向こうから振られた。何や土俵の真ん中でウッチャリくろたみたいや。
誰に振られてもええけど、あいつにだけは振られとぉなかったなぁ。
わいも大学8年目や。ちょっとしっかりせんと。
あっ、雪降ってきた。国境の長いトンネルを抜けると雪国だった・・・・・・・・・川端康成先生や。この先、読んだことないけど。わい、うそでも国文科やからなぁ。卒業までにいっぺんくらい読んどかないといかんなぁ。
雪降ったら、心まで真っ白になる気がするなぁ。窓の外を見つめる、孤独な姿。何か、わい・・・・・ええんと違う?
こうやって座ってたら、同じように失恋の痛手を癒しに来た女性が乗ってくるかも知れんな。
『ここ空いてますか?』
わいはべらべらしゃべらんで。『ええ、どうぞ』そうゆうた後、深いため息をつく。
女性も、そんなわいが気になるのかちらちら見よる。ふと、目が合う。ここでにこっと笑おうかな。
『お一人ですか?』
気取ったら、どうしても標準語になってまうな。こんな時、大阪弁はムードに欠けるもんなぁ。
『自分、一人?さよか。そら、よろしなぁ』・・・・って、これではあかん。
『あの・・・どちらまで?』
『いえ、どこといって当てはないんです。一人旅がしたくて・・・・』
『それは奇遇ですね。実は、僕もなんです』・・・・・なんて話がはずむ。
列車はひなびた温泉町の駅に着いたなり、なかなか動かん。どうしたんやろ?思てると車掌のアナウンスが流れる。
『お客さまに申し上げます。この列車は豪雪のため、運転を取り止めさせていただきます』
そやけど、もともと当てのない旅や、慌てへんで。
『お聞きになりましたか?今夜はここで泊まらないといけないようです』
『そうですわね。あなたは、この町をよくご存知ですの?』
『(うわずった調子で)いえ、昨日までは知らない町でした。(昂奮して)でも、明日からは忘れない町になりそうです』 ・・・・・やなんてなぁ!たまらんなぁ!!」
「ここ空いてますか?」
「来た!(顔を上げて)うわっ!えらいお婆んや!痛っぁ〜!ごっつい荷物やなぁ。お婆さん、ちょっと気ぃつけてもらわんと」
「すんませんのぉ。嫁が弁当をつくってくれたもんで。ちょっと行儀が悪いが、小腹が空いたもんじゃけ、弁当つかわせてもらいます」
「はあ、どうぞ、どうぞ。
うわ!えらい沢庵の臭いや。ムードも何にもあらへん。おっきい握り飯やなぁ。お握り食べて、沢庵かじって。しかし、丈夫な歯ぁしたはるなぁ。沢庵、バリバリいわせてるで。
わっ、飯食うた思たら、今度は林檎か。次はミカン、バナナ・・・・。地蔵盆のお供え、食い尽くす勢いやな。バナナの皮は・・・・・・さすがに食わんか。
お婆さん、どこまで乗りはるんですか?」
「まっ!そんなこと聞いて、どないしはるんです?」
「・・・・・・・・別に、ほんまに聞きとぉて聞いたわけやないねんけど。ただの愛想なんですけどねぇ」
「この年なったら、体中がたがたですねん。腰は痛いし、足は神経痛。何より最近は胃ぃが弱って、食欲がないんで、今日も隣町の総合病院に診察受けに行くんです」
「・・・食欲がない?へえ〜。あっ、隣町ゆうてはったけど、もう次の駅に着きましたよ」
「えっ?ほんまだっか?それ早(は)よ、ゆうてもらわんと。ああ、ちょっと!ちょっと!降りまっせぇ!」
「あんな大きな荷物、担いで走って行ったがな。どこが神経痛やねん。
しかし、こないなると、どうでも次は若いおなごが来て、豪雪、運転取り止め・・・ゆうことになってもらいたいで」
「お母ちゃん!こっち!こっち!ここ、空いてる!」
「痛ったぁ!また、足踏みやがったぁ。
若いおなご・・・・ゆうてんのに、最初お婆(ば)んで、次は子供か。間は、ないんかいな。
いや、待てよ。子供が「お母ちゃん」ゆうてるのは悪ぅないで。この頃はお母はんゆうても若いさかいな。幼子抱えて苦労してる、ちょっと影のある若い未亡人・・・・てのもええがな」
「たけし〜!どこ行ってんねんな!」
「うわぁ〜!えらいこっちゃ。何や水戸泉みたいなおばはんが乗ってきたがな!」
「こら!たけし!席の上、乗るねんやったら靴、脱ぎ!ギャアギャア言いな!
うわぁ、列車ん中、暑いなぁ。あつ!あつ!あつ!死にそう!」
「うわぁ、お母ちゃん!雪!雪!あっ、海や。海!海!あっ、船!船!」
「この親子はステレオかいな?エコーかかったぁる」
「(子)♪ 海は 広いな 大きいなぁ〜 月は昇るし 日は沈むぅ〜 ♪ お母ちゃん、『む』やで」
「(母)♪ 昔、昔、浦島は〜 ♪」
「うわ!この親子、尻取り歌合戦、始めよった」
「(母) ♪ 絵ぇ〜にも描けない 美しさ〜。『さ』ぁや!」
「(子)さ?さぁ・・・・・・・・・さぁ〜らば、ラバウルよぉ〜 ♪」
「ラバウル小唄?この子、年いくつやねん?」
「(子)しぃばし〜別れの 涙がにぃじむ〜。『む』!」
「(母)また、む?♪ むっかしぃ・・・♪」
「(子)おんなじのんは、あかんで!」
「(母)む・・・・・・『む』って無い?」
「む・・・でっかぁ?む・・・・・・村の鎮守のぉ〜っちゅうのはどうでっか?」
「(母)なるほどね。♪ む〜らの鎮守の神様がぁ〜 ♪」
「人、巻き込むなや」
「(母)ドンドン ヒャララ ドンヒャララ 朝から聞こえる笛太鼓ぉ〜♪ こ!」
「(子)こ?こ・・・・・・♪ ここで一緒に 死ねたら いいとぉ〜 ♪」
「おっさんくさい子ぉやなぁ」
「(子)♪ すがる涙の いじらぁしさぁ〜 ♪ お母ちゃん、『さ』!」
「(母)さ?さ・・・・・・・・(突如、両手を広げ、朗々と響き渡る大声で)♪ サンタァ〜ルゥチィア〜 サンタァ〜〜〜ルッチィイイアアアア〜〜〜!!!♪」
「このおばはん、何もんやねん?電車ん中でカンツォーネ唄いよった」
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小和田定雄ゆうところの、「桂雀三郎は日本一落語のうまい歌手」。「ヨーデル食べ放題」というヒット曲も持つ。
場内からは大拍手。 |
「えらいおばはんやったなぁ。降りる時、子供ズルズル引きずりながら降りてったで。
しかし、この席、呪われてるんちゃうか。こら、若いべっぴんギャルが来て、次の駅で、運転打ち切りの夢を実現せんと気が済まんで。
待てよ。おばんが来て、次、おばはんやってんから、流れは来てるんや。
頼むでぇ、べっぴんで運転打ち切り・・・・」
「そこ、ええか?」
「うわ、最悪や。おっさんやがな」
「ん?何ぞ文句あるんかい!表、出ぇ!」
「そんな無茶な。もう電車動き出してんのに。うわっ、酒くさ。あ、いやいや、何でもおません。えらい、すんませんでした」
「けっ!口のきき方に気ぃ付けい!
菊代ぉ〜!!幸せになってくれよぉ〜〜!!」
「な、何や。急に」
「おい!お前、今、わいのこと笑(わろ)ぉたな」
「いえ、笑てません、笑てません」
「いや、わいは笑われても仕方のない人間なんや。
(ふところからウィスキーの小瓶を出してぐいっ!とあおり)お前も一杯いけ」
「いえ、僕、ウィスキーはちょっと・・・・」
「何ぃ?お前、俺の酒が呑めんゆうんか?『ウィスキーはちょっと・・・』って、ちょっと何やねん!」
「・・・・・・・ちょっと・・・・いただきます。
(小声で)もう、かなんなぁ。寝たふり、しとこ」
「お前、わいのこと、うるさいおっさんやな、て思てるやろ?」
「(思わず)はい!(慌てて)いや、いや・・・」
「俺は今、惚れた女を捨ててきたのよ。悲しみのしずくが、僕の心を濡らしているんだねぇ・・・・・
どうせ、お前らには別れの辛さなんて分からんやろけど。
わいは、実は板前なんや。わいが働いてた店に可愛らしい女の子がおってねえ」
「はあ。その人が菊代さんてゆうんですか?」
「(驚いて)何で知ってんねん?」
「さっき、大きな声でゆうてはったから」
「え?わい、ゆうた?取り乱しちゃったんやねぇ。
菊代ちゃんゆうのは可哀想な子ぉでねぇ。小さい時分に両親が離婚して、菊代ちゃんは母親の方に引き取られて育ったんやなぁ。ところが、この母親ゆうのがええ加減なおなごで、菊代ちゃんが小学校6年で、伊勢に修学旅行に行った日ぃに若い男とどっかに逃げてしもたんやな。
菊代ちゃんが帰ってきたら、だあれもおらへん。菊代ちゃん、可哀想に、真っ暗な中で電気もつけんと、泣きながら土産に買(こ)うて帰ってきた『赤福』(伊勢名物のあんころもち)一人で食べてたそうや」
「悲惨な話ですねぇ」
「せやけど、菊代ちゃんは普段はそんなとこ、少しもみせへん。今年18。遊びたい盛りやゆうのに、病気のお祖母さんと二人暮らしや。
わいは、何とかしてやりたい思たけど、まともに金、渡しても遠慮して、受け取る筈あらへんやろ。せやから、わい、よおけはでけんけど、郵便で、名前隠して、金、送ってやったんや。
まあ、ゆうたら、わいは菊代ちゃんの胴長短足ゆうとこやな」
「胴長短足?」
「知らんのか?ちっとは勉強せえよ。名前隠して人のために金送るのを胴長短足て、ゆうんや」
「・・・・・・・・・それ、ひょっとして足長おじさんちゃいますか?」
「・・・・何でもええがな。菊代ちゃんも最初は気味悪がってたけど、そのうち、毎月届くわいの手紙を楽しみにしてくれてたみたいやねん。・・・・・・・・・・で、その菊代ちゃんが、今度結婚するねん」
「え?どなたと?」
「わいの手紙、毎月配達してた郵便屋の兄ちゃんとや!
・・・・俺は生涯、郵便番号なんか、書かへんぞ〜!!
せやけど、わいはそんなこと誰にも言わんと黙って、一人、この町を去るんや。俺がいたんじゃ、菊代は嫁に行けない。これがわいの男の美意識や」
「なるほど。フーテンの寅さんみたいですねえ」
「(むかっ!として)何で松竹(映画)に行くの?わいは東映のファンやねん。
ゆうたら、菊代ちゃんは若き日の藤純子やないか。ほな、わいは誰や?」
「金子信雄ですか?」
「・・・殺したろか。板前は包丁で人、殺しても罪にならんねんぞ」
「そんなことない。すんません。高倉健でっか?」
「フ、フ、フ・・・・・。やっと、わかったんか。
お前に分かるかな、男のマロン」
「(小声で)そら、栗や。
ほな、どっか遠い最果ての町まで行きはるんでしょうねえ」
「いや、毎月仕送りしてたやろ。せやから、隣町までしか切符代がないねん。しゃあないから、隣町で仕事探すわ」「(小声で)しまらん話や。
あっ、次の駅に着きましたよ」
「言われんでも降りるわい!そやけど、最後にゆうとくぞ!これからも、口のきき方に気ぃつけんと、えらい目にあうぞ、あほんだら!」
「はい、えらいすんませんでした。
あ、降りていきよった。せやけど、何でわいが謝らなあかんねん。けったくそ悪いなぁ。ちょっと言い返したれ。
(窓ガラスを押し上げて、ホームの男に怒鳴る)こら〜!何が高倉健じゃあ〜!志村けんみたいな顔しやがって!女を捨てたぁ〜?お前ら、ごみでも捨てとけ、あほ〜〜!!
ははは、怒っとる、怒っとる。包丁持って、追いかけてきよった。へへん、あかんわい。なんぼ追っかけても、電車はホームを出とるわい。これから、どんどんどんどんスピードが上がって・・・・・・・およ?あれ?だんだんスピードが落ちてきたで。あかんがな。あの男、追いついてきたがな」
「(車掌のアナウンス)恐れ入ります。この電車は、豪雪のため、運転を打ち切らせていただきます」
どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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