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(No120) 新春吉例 米朝一門会 鑑賞記その2
で、平成21年1月2日に、建替完成後のサンケイホールブリーゼにて新春吉例米朝一門会を鑑賞した・・・・・の続き。
(3) 桂米二「田楽食い」
今日は、せいざい(できるだけ)笑(わろ)て、5000円のもと、取って帰ってくださいね。
私、京都に住んでるんですが、よぉ酒呑んだら寝過ごしまして。大津とか、膳所(ぜぜ)とか、草津とか。いろんな駅まで乗り過ごしてます。
まあ、そうゆう駅へ行ってまいますと、もう電車、おませんからタクシーで帰ることになります。あ、そう、守山ゆう駅まで行ったこともありますなぁ。
こないだは、「あっ!しもた!」思て降りたら、高槻でした。終電やったのに、手前で降りてしもて・・・・。これも悔しい。 京阪電車使(つこ)て帰ることもあるんですが、昔のほんまもんの特急の時代は良かったんです。京橋出たら、次、七条まで止まりませんからね。そこで起きて、あと三条まで起きてたらええ。
この頃の特急は、どうでもええ駅に止まりますからね。中書島とか、その辺でいっぺん起きても、またそこで寝てしもたら、もう起きられへん。 こないだは阪急電車乗って帰りましてね。これもほんまもんの特急で、梅田から乗って十三(じゅうそう)出たら、次、大宮まで止まらんやつやったんですが、乗ったらすぐ寝てしもたんですな。 そしたら、どっかのおばちゃんが「着きましたよ」ゆうて起こすんです。はっ!と思て「おおきに!」ゆうて降りたら梅田やったんです。
一瞬、訳がわからんようになって「梅田から乗ったのに、梅田で降りてる。俺はどこへ行くねん?」て。
落ち着いて時計みたら1時間半ほどたってる。京都行って、戻って来たんですな。
よぉ考えたら、起こさんとほっといてくれたら、気分よぉ京都で降りれたのに・・・。困ったおばちゃんがおるもんです。
まあ、東京の噺家さんなんかに話、聞いたら向こうはもっとスケールがでかいようですな。
常磐線に乗ってる噺家さん、目が覚めたら仙台にいてはったそうです。
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「今日は、皆が珍しぃ集まったよって、ちょっと呑もか?」
「おぅ!呑も。呑んでまお!」
「呑んでまお、て、お互いが出し合いで呑もうゆうて、すっと出せる奴はおらんやろ?
実は、さっき兄貴とこに薦被り(こもかぶり。薦を被せた酒樽。多くは四斗=72リットル入り)があったんやが、ただ呑ましてもらうゆう訳にもいかんやろ。
せやさかい、今日は皆が久しぶりに集まったんで、出し合いで呑もかゆうて、一升瓶を10本手回りました(用意できました)。
せやけど、酒はあっても、皆で一緒に呑める場所がおまへんねん。どうですやろ、兄貴とこの奥の座敷広いよって、ちょっと場所、貸してもらえまへんやろか?てこう頼むんや。
ほたら、兄貴ほっとかんで。もちろん場所は貸してくれるやろし、わいも仲間に入れてくれ、一緒に呑もやないか、ときっとそないゆう。
そこでやな、誰でもええさかいに、『えらいことした〜!』ゆうて入ってくるんや」
「ほんで、どないすんねん?」 |
「わいが、そいつに『どないしてん?』て訊くがな。
そしたら、そいつは一升瓶10本、一人が1本さげて歩いたら10人の手ぇが要る。せやよって、一人で10本かたげて(担いで持って)、坊主持ちで運ぼか、ゆう話になってん。
ほんで、わい10本かたげて持ってたら、後ろから急に自動車が来たもんやさかい、びっくりして落として、10本皆割ってしもた・・・・て、こないゆうんや。
ほんで、わいが、せっかく兄貴が場所貸したるゆうてくれてはんのに、酒が無(の)ぉなってどないすんねん。しゃあないやないかい。今から走って、もういっぺん一升瓶10本買(こ)うて来い!てゆうから、わかった!ゆうて走って行ったらええねん。
そしたら、兄貴は、そんなんわざわざ買いに行かんでも、ここの薦被りが目に入らんのか。これ呑んだらええがなて、ゆう」
「そない、うまいこといくかな?」
「・・・・・・と、思うんやけどな」
「頼んないな。第一、兄貴がうまいこと待てぇてゆうてくれたらええで。ひょっと、ゆうてくれへんかったら、どこまで走ったらええねん?」
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「坊主持ち」とは、以前「天王寺詣り」でご紹介したように、誰かが荷物をまとめて持って、犬とか電柱とか、何か目印を決めておいて、それがあったら持ち役を交代するというもので、坊さんに出会ったら交代するとゆうパターン。
結局、打ち合わせ通り、兄貴の家へ。先行役の口の達者な男が、うまく部屋を借りる所までは話をつけ「ここまでは筋書き通り」とほくそ笑むが、口下手で頼りないのだが押し付けられてしまった男が「大変や〜」と言って入ってくる。 |
「いや、あの、坊主持ちで、手替わりで、後ろから飛行機が来てびっくりして割ってしもて・・・」
「お前、何ゆうてんねん?後ろから飛行機が来るかぁ?自動車と違うのんか。
まあ、ええわ。何ぃ?一升瓶全部割ってしもたぁ?何ちゅう不細工なこと、すんねん。
で、どこで割ってん?」
「ええっ!!(石野注 予期せぬ質問に、その頼りない男が派手な格好で驚いたとこで場内は大爆笑だった)
どこで割ったて・・・・・・・・・・・・日本橋(にっぽんばし。大阪の地名)1丁目の交差点で・・・・」
「何やて?日本一の交差点?そんな賑やかなとこで、そない不細工なことしでかしたんかい!」
「ええ〜?いや、別にそこやなかってもええねん。
・・・・・ほたら、こうさしてもらおか?上本町6丁目の交差点で・・」
「何?上六かて繁華なとこやないか。そんなとこで・・・」
「いや、別にそこやなかったらあかんゆうわけでは・・・・。」
「いったいどこで割ったんじゃ!」
「ええっ!そないなこと言われても。え〜と、このほんねきで(ごく近所で)」
「お前、一升瓶10本も割ったらガラスが迷惑やないか。すぐ拾(ひろ)てこい!」
「ええっ!拾てこいて、どこに行たらええねん?・・・・・あっ、せや。ガラス割れたら危ないよって、もう拾てるねん」
「ほぉ〜、そうか。そしたら、その瓶のかけら、どないしてん?」
「ええっ!・・・・・・・・ええと、ガラスは売れると聞いたことあるさかい、紙くず屋に売ってん」
「ほぉ〜。そら、賢いことしたやないか。で、なんぼで売れた?」
「(矢継ぎ早の質問にすっかり動転し、思わず涙ぐんで)お前、わいに何の恨みがあって、そない難しいことを次から次と・・・・・」
「(ネタばれになりそうになったので、慌ててごまかしにかかって)はは、兄貴。こいつ、すっかりうろが来とぉる(気が動転して訳の分からないことを言っている)
まあ、ええ。酒がのぉてはどないもならんがな。すぐに行って、もういっぺん10本買うてこい!」
「何ゆうてんねん。そんなわざわざ買うてこんでもええがな。この薦被りが目に入らんか?これ呑んだらええがな」
「ははぁ、すっくりと(すっかり、うまくいった)」
「酒呑むのには、肴がいるやろ?
実は、近くの豆腐屋が田楽屋を始めてな。試しに食うてみたんやが、なかなか美味いねん。うちは人がよぉけ集まるさかい、焼ける端からどんどん持って来いて、言い付けたぁるから、田楽、肴に呑もうやないか」
「いやあ、兄貴。酒だけやのぉて、肴まで段取りしてもろて、えらいすんまへん。
おい、みんな。せっかく兄貴がご馳走してくれはるんねさかい、ただ食うだけでは申し訳ない。ちょっと趣向して、いただこうやないか」
「趣向て、何すんねん?」
「いや、田楽てなもんは、『味噌をつける』ゆうて、あんまり縁起のええもんやないさかい、験(げん)直し、まん直しで、運がつくように『ん回し』でいこやないか」
「『ん回し』て何や?」
「そやから、『ん』と1回ゆうたら、田楽が1本食えるゆうこっちゃ」
「ええ?そんな難しいこと、わいよぉ言わん」
「よっしゃ、『よぉ言わん』で1本や」
「ほな、わいもいくで。『蓮根(れんこん)』で2本や」
「わいは『人参大根(にんじん だいこん)』で3本や」
「喜ぃ公。次はお前やで」
「ええ?わい?蓮根・・・人参大根。ああ、野菜をゆうたらええねんな?
ほな、キュウリん」
「そんなん、ゆうかいな」
「え?あかんの?ほな、ナスビん」
「せやから、あるもん、ゆえ!」
「あるもんねぇ。野菜で・・・・・ねぶか(ネギ)・・・・・白菜。・・・・・・水菜、壬生菜・・・・・カボチャ。ないなぁ」
「不細工なやっちゃなぁ。何でカボチャまで行って気ぃつかんねん?カボチャゆわんでも、ほかに、いつもゆうてる言い方があるやろ?」
「唐茄子?」
「何で、急に江戸っ子になんねん?他にカボチャのこと、言い様(いいよう。言い方)があるやろ?」
「・・・・・・・・・・・・・なんきん?はぁ〜〜、汗かいたぁ」
「わいは、ミカン、キンカン、こちゃ好かん・・・・と4本、おくれんか」
「ほれ見てみぃ。お前は汗かいて2本やけど、こいつ汗もかかんと4本、持って行ったがな」
「コンコンチキチン コンキチチン・・・・と、わいは5本や」
「祭り囃子か。上手いな」
「天、天、天満の天神さん(てんてんてんまのてんじんさん)・・・と6本もろてく(貰って行く)で」
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後は延々と
(1) 「本山坊(ぼん)さん 看板ガン!」で7本
(2) 「金神(こんじん)肝心 散乱乱心」で8本
(3) 「南京木綿(なんきんもんめん。木綿を「もんめん」てとこにやや無理あり)三反半」
(4) 「電線にでんでん虫が感電・・・」
(5) 「千松死んだか 千年万年 辛苦艱難先代御殿」(「先代萩」らしい)
(6) 「真弓阪神新監督 逆転優勝 日本一・・・・」とか何とか景気のええことを並べるが「も一つ、説得力がないな」「去年が去年なだけにな」という自虐的ツッコミが入る。
で、最後は「千年神泉苑の門前薬店 玄関番人間半面半身 金看板銀看板 金看板根本(こんぽん)万金丹 銀看板根元反魂丹(こんげんはんごんたん) 瓢箪看板灸点」と43本分を言い、「滅茶苦茶ゆうたらあかんで」とクレームをつけられるが解説し、その後にもう1回繰り返し、「2回ゆうたから86本くれ」というのがサゲ。
頼りない男が予期せぬ「どこで割った?」という質問をされ、両手を上げて「ええっ!?」と驚くシーンは最高におもしろかったが、それの繰り返しで段々笑いが少なくなったのは残念だった。 |
(4) 桂ざこば「尻餅」
場内から盛んな拍手が起こったが高座に着くなり片手を上げて拍手を制し、「暮れの噺を聴いてもらいます」と言って、珍しく全くマクラもなしに、いきなり煙管に見立てた扇子を吸って本題へ。
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「ちょっと、おやっさん。ず〜っと火鉢の前、座ってばっかしで。ちょっとは煙管を離しなはれ。
黒い顔から、煙ばっか出して」
「お前、そんな値打ちないみたいな言い方すな。わいは、夫やぞ」
「ふん!何が夫や。その下に『どっこい』付けときぃな」
「おっとどっこい・・・・・・・って、何ゆうてんねん」
「今日はもう極月(石野注 「ごくげつ」と聞こえた。極まった月ということで師走、12月のことなのだろうか?)の30日やで。正月、そこに来てるがな」
「そこに来てるて、わいが呼んだわけやない」
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「わたいが夜なべして何縫うてる思てんねん?よその子ぉ、ええ着物(べべ)着てんのに、うちの子はいつも同じもん着てんねんで。
あの子、わたいの連れ子ちゃうで。わたいとあんたの間の子ぉやないか」
「・・・・・・・いや、よぉしてなさる」
「何やの。他人事みたいに。
お餅はどないすんねん?そこのざこばゆう噺家なんて五斗もついたらしいやないか」
「あほ、ざこばみたいなもん、そないよぉけ(そんなにたくさん)、つけるかいな。
餅みたいなもん、欠き餅か何か買(こ)うたらええやないか」
「せやけど、うちの子に『うちは、いつお餅つくの?』ゆわれるたんびに、胸にぐさぁ〜っと。
せめて、音だけなと、さしてぇな」
「・・・・・・わかった。音だけは、さしたる」
「ほんま?どんだけつくねん?」
「それは、お前の我慢次第や」
「賃つき屋を頼むんか?」
「あほ。そんな金、どこにあんねん。お前の尻、手で叩いて音さすねんがな。そしたら餅ついてるみたいな音するし。
後は、こないだ親戚からかぶら、よぉけもろたやろ。あれ、切って並べてたら、外から見たら餅に見える」
「・・・・・・ほんまに、ろくなこと考えまへんなぁ。もぉ寝まひょ」
「・・・・かか、めでたいな」
「何がでんねん?」
「そやかて、今晩、うちは餅つきやで」
「わたいは、夜中に起きて、おいど叩かれる思たら、心配で寝てられへん。
・・・・・・・もぉ。そんなとこ、足、入れな。おこし(腰巻)破れるがな」
「破れたら、買(こ)うたるがな」
「・・・・よぉ、そんなことゆうわ。口のはたに交番署ない思て。(口の横に警察はない。でたらめを言っても逮捕されないと思って、ええ加減なことを言う)
あんた、わたいに何ぞ一つでも買(こ)うてくれたことあるか?
わたい、嫁入り前に働いてた時に買うてたもん、せんぐり(順番)に巻いてんねんで。
おなごは、腰に何も巻いてへんと頼んないもんやから、わたい、この頃風呂敷巻いてんねんで。それを、こないだ、およしさんに見つかって。
『おさきさん。あんたのおこし、大きな桐の紋が入ったぁる。あんた、やっぱり太閤はんの親戚でっか』て皮肉ゆわれて。 ・・・・・・・ちょっと、おやっさん?寝てるんかいな。
・・・・男の寝顔は可愛いゆうけど。不都合千万、極まりないゆう顔やなぁ。
こないだ御隠居さんが人間の先祖は猿やゆうてたけど、ほんまやなぁ。
せやけど、何でこんな人と・・・・・。(縁結びの)出雲の神さんも罪なこと、しはる。
だいたい、赤い糸とかゆうけど、もう少しゆるぅに巻いといてくれたら、しゃら抜けにでもできんのに、くそ結びに結んでからに。
あっ、鼻から提灯出してる。祭の夢でも見てんのかいな。あっ、引っ込んだ。また、出た。よぉ出すなぁ。提灯行列の夢でも見てるんかしらん。
ちょっと、おやっさん」
「おっ?何や?火事か?」
「・・・・・・何ゆうてまんねん。しまんねがな」
「(やや、にやけて)ほな、しよか?」
「何をするつもりやねん?賃つき屋でんがな」
「明日にしよ」
「はよ、行きなはれ!」
(仕方なく、表に出た親父)
「さっぶぅ〜〜!痛っ!あっ、長屋の木戸のカンヌキやな。何で、こんなもんしたぁるねん。だいたい、この長屋についぞ盗っ人が入ったことあるかぁ?出ることはあっても。こんな用心、いるかいな。すんねんやったら、カンヌキは、向こうから掛けとかな、あかんがな。
あっ、どんぱら、パタパタと賑やかなんは、横町(よこまち)の播磨屋さんやな。
夜中までよぉけの人、使(つこ)ぉて正月の仕度してるとこがあるか思たら、賃つき屋の真似して、かかの尻叩く人間もいてんねん。世間は様々やなぁ。まあ、ええわ。はよやってまお。
(戸を叩いて)こんばんは!竹内さんのお宅ですかぁ?」
「へえ、そうですけど。あんさん、どちらさん?」
「(うっかり芝居を忘れて)俺やぁ!あっ!(と、気付き、慌てて)賃つき屋ですぅ。
(横を向いて)おい、お前は田中さんとこ行け。おう。あと、山田さんとこで一緒になるやろ」
「(真顔で)・・・・・あんた、何ゆうてんねん?」
「あほやな。賃つき屋、釜二つ持ってきたんや。わいは頭領やがな。せやから、もう一つの釜の差配(さはい。仕事の手順の指示)してるゆう細かいとこやってんねがな。
よ〜っいっとしょぉ〜」
「(再び真顔で)あんた、四つばいに這(ほ)ぉて、何してんの?」
「わからんかぁ?わい一人やけど、よぉけの足音させな、あかんがな。
そやから、両手に下駄はいて、足に草履はいて、膝に竹の皮敷いて、引きずって」
(芝居に戻り)
「あっあぁ〜(と、あくびの真似)。何や、やかましいなぁ思たら賃つき屋さんかいな」
「(おかみさんは、真顔で感心して)あら!今まで長屋這(ほ)うてた思たら、もう寝間、入ってる」
「(物音に起き出してきた、この家の主人という設定で)いやぁ、うちみたいなわずかばかりの餅、何やったら、よそのん、先に回って、後でもかめへんのやで」
「(今度は賃つき屋に戻り)い〜え。一番釜、回せゆうご注文やったんで、そない手配してきました。よそ回ってますと、ずいぶん遅なりますんで、こちらで一番釜、つかしていただきたいんですが」
「そ〜かぁ。ほな、ついてもろたら、ええがな。
おい、嬶(かか)。賃つき屋さんに、酒、出したって。そう、上の樽、開けたらええねん。何?上の樽は、こないだ噺家が来て、みな呑んでしもた?あいつら、よぉけ呑むさかいな。ほな、下の樽、開けたらええがな。
肴(あて)は、煮しめがええな。いや、そんな銘々に取り分けたら、遠慮するがな。丼にど〜んと盛って、好きに食うてもろたらええねん。
あっ、それと、箪笥の上に、白い紙で包んだもん、あるさかいに」
「(おかみさんが)え?それって何?祝儀(チップ、心付け)?いやぁ、長屋でよぉけお餅つきはるけど、祝儀まで出すとこないしぃ。ちょっと、そこ、大きな声で」
「ほな、これ少ないけど」
「(賃つき屋に戻って)おい!お酒のうえに、祝儀まで頂戴した。皆、礼ゆえ!」
「(賃つき屋の小僧役で)旦さん、えらいおおきに!(少し声を変えて)親方、ご祝儀ありがとさんで。ありがとさんです。おおきに!わちゃわちゃわちゃ・・・・・」
「(おかみさん、真顔で)何、わちゃわちゃゆうてんねん?」
「(真顔で)あほ、よぉけがいっぺんに礼ゆうたさかい、何やわちゃわちゃわちゃっと分からんようになったとこやないか。こうゆう芸の細かいとこ、見てくれんと。
(芝居に戻り)
あ〜。お星っさんが高いなぁ。そう言やぁ、みんちょ(みっちゃん。美智雄とか光三郎とかを「みっちゃん」という愛称で呼ぶ場合は同輩というレベルだが、「みんちょ」の場合は、やや目下という感じ)の顔が見えんが・・・。何?みんちょ、子ぉがでけた?ほぉ〜、そら目出度いやないかい。正月と重なったんやな。
♪ 揃たぁ〜 揃いましたぁ〜 加賀越前のぉ〜 ♪」
「(おかみさん、真顔で)何、歌(うと)てんねん?」
「(真顔で)いちいち、訊いてくな。餅米が蒸し上がるまで待ってるとこやないかい。
まだ趣向があんねん。待ってる間に小僧同士が手順でもめて、つかみ合いの喧嘩が始まるゆう・・・」
「そんなんええから、はよ始めなはれ」
「(芝居に戻る。見台を両手で抱え、わざと下をごつごつ当てて音を立てながら運ぶ。臼を運んでいるとゆう見立てか?おかみさんに向って)臼、据えてもらぉか」
「な、何て?」
「臼、据えゆうてんねがな。(小声で)はよ、着物まくって、尻出さんかいな!」
「今日は、やめとこ。寒(さぶ)い」
「お前!何のために今まで四つばいに這うてたんや!」
「せな、あかんのんかぁ。せやから貧乏、いややねん。(と、おかみさん、あきらめてお尻をめくる)」
「(お尻を眺めて感心したように)白い、立派な臼やなぁ〜。
(芝居に戻り)
すんまへん。小桶に一杯、水もらえますやろか?」
「(おかみさん、真顔で)水みたいなもん、何すんねん?」
「(小声で)臼取りすんのに、水、付けなあかんやないか」
「置いてや(やめてよ)。めくってるだけでも寒いのに、水なんか付けられたら、たまらんわぁ」
「臼が文句ゆうな」
(芝居に戻る。ちり取りを目の前に捧げ持ち、息をふ〜ふ〜吹き上げながら、歩き回る親父)
「(おかみさん、真顔で)あんた、ちり取り持って、何してんねん?」
「あほ!蒸篭(せいろ)で餅米が蒸し上がったんやけど、何もなかったら頼んないさかい、蒸篭の代わりにちり取り持って、運んでるんやないか。ほんで、湯気が上がって、前が見えへんさかいに、こう、息吹いて、湯気を飛ばして歩いてるんや。
(芝居に戻る。水をぴちゃぴちゃお尻につけ、撫で回す。そして、左手を構えているところに右手を打ちつけ、かぽん!かぽん!と音を立てる。賃つき屋が、家人と会話しながら餅をついている設定)
へい。何です?はい、この長屋に来させてもらうんは初めてです。近所までは寄せてもろてたんですが。
ほんで、どないさせてもらいましょ?へえ。床の間のお鏡(餅)と、三宝(さんぽう)さんと。へい。あの、寸法は、出しといてもろたら、こちらで合わせまんのんで。あとは、小餅で。へい、わかりました。
それにしても、ええ米ですなぁ。一番釜から、こないええ米、つかせてもろたら、餅屋の腕、なまってしまいますわ。
そろそろ行こか。天井低いさかい、気ぃ付けぇよ。 はい!よいしょお!かっぽん! はぁ、よいとぉ!かっぽん! よいしょお!かっぽん!よいとぉ!かっぽん!」
「(おかみさん、泣き顔で)あんた、そないびちゃびちゃ水付けたら、冷たい。
それと、ちょっとは叩くとこ、変えてぇなあ。そない、おんなじとこばっか、叩かんと」
「臼は黙ってなさい。
(芝居に戻る。この家の子供が物音に起き出してきたのを賃つき屋が気付いたという設定)
あ、ぼんぼん、お目覚めでっかぁ?ぼん、おいくつでっか?え?三つ?ほな、来年から幼稚園ですなぁ。
あ、手が冷たいでっしゃろ?ちょっと、このお餅触ってみなはれ。温(ぬく)いでっせぇ。
せや、ちょっと、餅つく拍子、変えてみまひょか。♪ ぽっぽっぽぅ〜鳩ぽっぽぉ〜 ♪」
「(おかみさん、真顔で)あんた、何ゆうてんねん?」
「親父に祝儀もろたさかい、子供にべんちゃらゆうてるとこやないか。
あっ!痛ぁ〜。こら!けつ、動かすな!板の間、叩いてしもたやないか!」
「臼取りが弾んで、空臼(からうす)つかせたとこ」
「しょうもないこと、すな。
それ!よいしょお!かっぽん!よいとぉ!かっぽん!よいしょお!かっぽん!よいとぉ!かっぽん!
よっしゃあ!次、持ってこい!」
「(おかみさん、賃つき屋さんに訊く設定で)
あのぉ、賃つき屋さん。餅米は、あと幾臼、残ってまんの?」
「(蒸篭の数を数える芝居で)へえ、あと二臼、残っとりますが」
「(旦那に頼み込む設定で)ちょっと、こちの人。どうか、あと二臼は白蒸しで食べとぉ(残りの二臼分の蒸し上がった餅米は、つかずに、蒸しただけの状態で食べることにしましょう)」
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マクラがないのは淋しかったが、相変わらず「夫婦もの」はいい味を出しているなと思う。 |
どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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