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(No12) 堺市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記 その2

 吉例の堺市民寄席、桂米朝一門会に行ってまいりました・・・・・・の2回目。
 


(4) 桂 米朝 「鹿政談」

 
雀々がひっこむと若手が高座に赤い布に包まれた椅子をもってくる。えええ〜っと場内がざわつく中、米朝師匠登場。

「足を怪我いたしまして、治りません。正座してもよろしいのですが、3分もちまへんのんで。
 しかし、何でんなあ。こうして座ってますとゆうと、いつもより目線が高くなるんで、何やしらん、いつもより偉(えろ)なったような気がいたします」と、冒頭やたら早口でしゃべる。

「人間80ともなりますと、記憶が薄れてまいりまして、こないだも噺をしていると別の噺になっておりました。
 あれは、慌てましたな。それと、噺がなかなか出てまいりません。
 ところが、おもしろいもので、若い頃に入れたものは存外と出てくるもんです。
 こないだも三都の名物ということで、出てくるかいな?と心配でしたが、出てまいりました」

 と、先日と同じように「水、壬生菜・・・」といった具合に京都、大坂、江戸三都の名物を並べる。
米朝

 立て板に水・・・とはいかず、いわゆる「横板に餅」という感じだったが、特に、大坂編で最後の「石屋、植木屋」という前で相当長い空白があったので、会場は強い緊張に包まれた

 いつもなら、三都の名物を並べた後に、「奈良の名物」に移るのだが、今回は奈良編は、なし。思い出せなかったのか、続けて、「奈良の名物」をしゃべるということ自体忘れちゃったのか

「奈良の名物といえば、何とゆうても大仏ですな。何でも金属(かね)の仏像の中では、一番大きいそうです。
 これを聞いた熊野の鯨が、大きさやったら、わいも負けへんゆうて、大仏んとこへ来たゆう噺があります。
 鯨の方が大きかったそうですな。かねと鯨じゃ三寸違うと申しまして」

 ここは、いわゆる曲尺(かねじゃく)と鯨尺の違いを言っている。

「大仏の次の名物と言いますと、やはり鹿ですな。
 宮島でも有名なんですが、奈良の鹿の方が大きいように思います。何でも、鹿の種類が違うそうです。
 昔は、神仏習合というて、春日大社と興福寺が一緒になっておった。そこで春日大社と興福寺が放し飼いしていた鹿は大事にされていたとのことです。ありがたいことですなあ。
 放した鹿は大事にせんといかん。はなしか(噺家)は大事にせんといかん。(場内拍手)

 豆腐屋でできる『おから』のことを昔は『きらず』とゆうたもんですなあ。
 ところで、何であんなもんを『きらず』とゆうたか、とゆうと、豆腐は包丁で切りますな。ところが、おからは切らん。
 それで、おからのことは『切らず』とゆうたそうです。何で、そない手間かけて言い換えせんならんのか、と思いますが。
 まあ、これはきっと『空ら』というのが縁起(げん)がようないと考えられたんでしょうなあ」

 それで、大仏の眼が中側に落ち込んでしまって、親子連れの職人が修理を請け負った。足場なんぞはいらん、ゆうて投げ縄をかけ、それを伝って子供が、眼の穴から大仏の胎内に入り、中からぐっと目玉を元の位置へ押し込んで直した。
 それはええけど、子供が閉じ込められてしもて、出るとこがない。どないすんねやろ?と心配してたら、鼻の穴から出てきた。賢い子供やな。それから、こういうのを「目から鼻に抜ける」と言うようになった・・・といういつものマクラを話す。
 師匠、このマクラは大仏の話をしているうちにゆうてもらわんと・・・。もう鹿に話が移ってます・・・・。

 ともかく奈良の豆腐屋の六兵衛さんの話になる。
 まだ薄暗い明け方、大きな赤犬が店の表で、おからを食うておる。商売もんに何をすんねん、ということでちょっと脅かすつもりで割り木(薪ざっぽう)を放り投げたところ、当たり所が悪かったのか、倒れてしまった。
 近づいてみると犬ではなく鹿である。神のお使いである鹿を殺したというときついお咎めを受ける。   気の毒だが、仕方ない。お畏れながら、と町役一同ねごうて(願って。訴えて)出た。
 お白州で、お奉行様が、
「塚原出雲。そちはいかなる意趣遺恨があって、鹿を殺(あや)めたのじゃ」と問い質す。
 ところが、答えるのは、豆腐屋の六兵衛さん。私はどのような罪も受けるので、どうか女房、子供にはご寛大な処置を、と哀願する。う〜ん、塚原出雲という呼びかけは間違いだったのね。

 あとは、鹿の死体を検分して、毛並みは似ているが、これは犬じゃ。犬を殺しても罪ではないとほのめかし、町役一同に同意を求める。
 みんな、できれば正直者の六兵衛さんの命を助けたいと考えていたので、犬です、犬ですの大合唱。「さいぜんまで、ワンワンないてた」と言う奴まで出てくる始末。

 ところが、鹿の守り役の塚原出雲は承服しない。
 奉行が「犬である証拠に、角がないではないか」と言うと、あきれたように「鹿が春先に角を落とすのは、落とし角、袋角と申しまして、俳句の季語にもなっております」と薀蓄(うんちく)をたれる。
 奉行は、「黙れ!その方の、俳諧の講釈など聞きとうない!いやしくも、奈良町奉行の”みども”が、まこと、落とし角、袋角を知らぬとでも思おておるのか。
 神鹿の餌料として、幕府(おかみ)より3000石が下しおかれておる。本来ならば鹿は満腹をして、町方のきらずを食するなどということはない筈じゃ。
 餌料を着服し、それを町方に貸して、公儀をかさに着たきつい取立てを行っている者がおるとの噂も耳にしておるぞ。
 その方、あくまで、これを鹿じゃと申すなら、横領の取調べを先に吟味いたすが、どうじゃ。性根をすえて返答いたせ。どうじゃ、犬か、鹿か。犬か!鹿か!」
「うう〜ん、犬、鹿、ちょう・・・(猪鹿蝶。花札の役)」
 
 結局、塚原も犬だと証言し、六兵衛さんは無罪放免。お奉行様は、やさしい言葉をかける。
「きらず(斬らず)におくぞ」
「まめに(豆に。無事に)帰ります」がオチ。

 いやあ、いよいよカウントダウンですなあ。

 米朝師匠は大正14年11月6日生まれ。
 ここで15分の中入り。


(5) 桂 南光 「あくびの稽古」

 まくらは、米朝の怪我の話。
「私もねえ、実は膝の半月板というとこを傷めまして、正座すると痛いんです。それで、師匠に相談しますと『それが修行じゃ!』と一言でした。(会場笑い)
 ところが、ちょっと、師匠が足が・・・と申しますと、会場の方が、気ぃ使って、あれ、ピアノの椅子に赤い毛氈かけたもんなんです。

南光  あれかてねえ、ほんまに痛いんかどうか、わかりまへんねんでぇ。さっきかてねえ、高座に上がる時は左足引きずってましたやろ。下りる時は右足引きずってまんねんで。

『師匠。いったい、ほんまはどっちの足が痛いんでんねん?』と聞きましたら『日によるなあ』(会場笑い)」


 もう一つのまくらは楽器の話で、稽古事の話にも結びついていく。
「一つ楽器ができると、ずいぶんと人生が豊かになるなんて申しますな。
 私の場合、宗次郎さんという方と知り合いになりまして、この方からオカリナという楽器をいただきまして、何とか1曲吹けるようになりました。
 おかしなもので、たとえ1曲でも吹けるようになると、誰かに聞いてほしくて仕方ないようになるんですなあ。

 その頃、私は、あるラジオ番組やらせてもろてまして、天気予報の時間に、いつもやったらバックでクラシック流すんですが、その代わりに私にオカリナ吹かせてくださいとゆうたところ、ディレクターが、そらおもろい!ということになりまして。
 気持ちよう吹かせてもろてますと、今はラジオでも放送してるそばから、電話とかファックスとか反応があるんでんなぁ。それを見ますと全部、天気予報を聞くのに邪魔になるから、やめてくれゆうもんでして・・・・・。もうオカリナはやめてもたんです。

 その後、始めましたんがサキソフォン、サックスというやつでして。
 トランペットとかは、消音器ゆうて、先につけて音を小(ちい)そうするもんがあるんですが、サックスには、それがないんですな。
 それで、家のトイレの中でサックスを稽古してますと、やかましいゆうて、家族から総スカンをくらいました。ところが、その中で一人だけ、いや、一人ゆうか、一匹だけ、理解者がいてまして、それがうちの柴犬のゴンです。
 私がサックスを吹きますと、ゴンがこう目を閉じまして、ウォ〜ンとなくんですなあ。つまり、私のサックスが気に入っとるんです。

 ところが、うちのゴンがウォ〜ンとなきますと、どういうわけか、うちの近所の犬もウォ〜ンとなくんです。ですから、私がトイレでサックスを吹きますと、ゴンがウォ〜ンとなく。すると、うちの家を中心として、こう順番に近所じゅうの犬がウォ〜ン、ウォ〜ンと。
 それで、町会の役員の方がいらっしゃって、どうか、やめていただきたい、と」

 で、本編の「あくびの稽古」へ。 
 けっこう目新しい演出。
 よっさんに、心細いから稽古についてきてくれ、「お願いだからぁ〜」と身をよじらせる。
「腰をくねらすな、腰を」
「いや、こないだまで、女形の稽古してたから」
「知らん人が見たら、おかまの別れ話や思われるがな」

 よっさんは仕方なく、一緒に歩きながら
「お前とこのふた親も、幸せやなあ、はよ死んで。生きとったら、嘆いてるで。ええ年して、あくびなんぞ稽古しに行くゆうたら」

 あくびの師匠は、あくびには四季それぞれのあくびがある。婚礼のあくび、通夜のあくび、全部で382種類のあくびがございます。
 まずは、もらい湯のあくびから稽古してもらいましょうと言って、題目を宣言する。
「それでは、もらい湯のあくびっ〜いぃ。フォォ〜〜!」と叫ぶのだ。こんなのは初めてである。
 しかし、今のご時世で「フォォ〜〜!」は、やめてもらいたい。どうしてもレイザーラモンHGが、脳裏に浮かんでしまう。

「銭湯などでは、湯銭(ゆせん)を払っておりますでな。ぬるいの、熱いのと文句が言えます。
 ところが、もらい湯というやつは、湯銭を払っておらん。すべて、ご好意によるもんです。
 ただ、その家の方がすべてお入りになった後の、ぬる〜いお湯に、こうゆっくりとつかっておりますと、ぬるいとは言えど、人の世のぬくもりと言いますか、身体の奥の方からほこほこと温まってまいりまして、覚えず、ひたいから汗が一筋流れ落ちる。それをば、こう、手ぬぐいで下から押さえる。

 それで顔があがって、初めて風呂場の窓越しにきれいな月が出ていることに気がつく。ああ、ありがたいなあ、ふわあああぁ〜〜っとな。これがもらい湯のあくびでございます」
 こんな描写も初めて聞いた。

「ぷぷっ〜(と、ふき出す)もらい湯のあくびやなんて、やめさせてもらいますわ。もっとおなごが惚れるようなあくびはおまへんのか?
 ああ、そや。わい、将棋が好きでんねん。将棋のあくび、教えてもらえまへんか?」
「なに?将棋のあくびとおっしゃるか。それは名取りになってからでないと。
 いや、相わかりました。そのように頭をお下げにならなくとも。ただ、誓って他言なされんように。これが知れると、私は協会を破門になってしまいますゆえ」

 そして、またも題目を宣言して口伝に入る。ただ、ここの演出は感心しない。師匠の口調やたばこの吸いっぷりがやたらセカセカしているのだ。
 師匠のスピードが、ほかの人の噺だと、せっかちすぎて駄目だとされる弟子のスピード並みに速いのである。およそ「あくび」という感じがしなかった。
 
 南光は昭和26年生まれ。昭和45年、桂小米(故・桂枝雀)に入門。当時の芸名は桂べかこ。平成5年に南光を襲名。



(6) 桂 ざこば 「お玉牛」

 ざこばのまくらもやはり怪我の話。
 羽織を脱ぐなり、「こない、すぐ脱ぐんやったら、着てこなんだらええのにねえ」と笑わせ、
「南光もゆうておりましたが、私もこないだ足を折りまして、正座するのん、今日で5回目ですねん。
 私も師匠みたいに座ってやらせてもろたりもしましたが、しゃべりにくいもんでっせ。勝手が違うゆうんですかね。
 
  師匠はね、2週間前、新幹線の階段で落ちはったんです。(会場で『へぇ〜』という声があがる)
 私とね、師匠と、小米朝と、マネージャーの4人でね、名古屋の方へ行きまして、中日劇場ゆうとこで一門会をやった帰りでしてん。
 私も、それまで足折って、皆さんに気ぃ使(つこ)てもらうんが気兼ねでして、まあ、何とか歩けるようになったんで、迷惑かけんようにしよう思て、さっさか急いで歩いとったんです。
ざこば

 で、階段下りて、改札のとこで待ってたんやけど、誰も下りてこんのです。おかしいな、思いましてね。
 早(はよ)歩いたつもりやったんやけど、ひょっとして抜かれてたんやろか、とか思て。タクシー乗り場の方とかも行ってみたんやけど、やっぱりいてへんのです。
 おかしいな、おかしいな思いながら待ってましたら、駅員さんが暗い顔してやって来はって、『えらい、すんません。米朝師匠、階段から落ちて怪我しはったんです』と言わはるんですな。

 私が、『ああ、そうですか。で、どんな様子やったんですか』と聞きましたら、『米朝師匠が先に下りてはって、その後ろに小米朝さんがいてはったんです。それで、何や知らん、小米朝さんが後ろから突きはったような・・・

 私、駅員さんに近づいて小さい声で、
『で、そのことは誰かに話しはりましたか?』と聞きましたら、
『いえ、まだ』
『誰にも言いなはんな』
『わかりました。えらい、すんません。私の見間違いやったかもしれません』て、恐縮したはりました。
 皆さんも、よそでゆうたらあきまへんで。私は、理由はわかっとるんです。はよ、米朝の名前が欲しいんです。

 私は7月13日に足、折ったんです。私の足を折ったんは有川ゆう男でして、昔、『お笑いネットワーク』ゆう番組のプロデューサーしてまして、いま、『ワッハ上方』の館長やってるんです。
 その男が、7月13日に、一緒に飯でも食おうや、ゆうて約束してたんですが、間際になって電話してきて、急に東京から友達が来ることになったんで、また今度、てゆうてきたんです。

 そいつと飯食べてたら、足は折らなんだんです。急にね、身体があいたもんやから、『ほっそん』ゆう男と飲んでたんです。12時まわって、もうぼろぼろになってましてねえ。
 家で飲もうゆうことになって、家帰ったら、嫁はんがおらんのです。スーパー銭湯、行っておりまして。嫁はんがおったら、足は折らなんだんです。まあ、嫁はんのせいでもあるんです。

 家で飲んでたら、ほっそんが『えらい、ええ庭やなあ』ゆうんでね、おお、そうか、ちょっと出よかゆうて出たんですが、酔うてたんですな。足をぐきっ!ってぐねって(ひねって)しもたんです。もう2時くらいですわ。
 せやけど、酔うてるから、痛いとかどうとか感じひんかったんですな。そうこうしてるうちに、嫁はんが帰ってきて、わたいの話聞いて、『そら、お父さん、今は平気な顔したはるけど、もし、折れてたりしてたら、どないしますねん。
 もう、こんな時間やさかいに、普通のお医者さんは開いてへんけど、救急車でも呼んで、救急の病院でレントゲン撮ってもらいまひょ。な、そうしまひょ』・・・・・・・てなことは言わんのです。うちの嫁はんは。
 わたいの顔見るなり『酔うてたんやろ!』って、それだけですわ。

 何ゆうてんねん、ゆうて、まあその日は寝てもたんです。酔うて寝たさかい、次の日には忘れてたんですけど、うちの嫁はん、いきなり『はよ行きや』ゆうんです。
 『何がやねん』ゆうたら、『何が、やあらへんがな。ゆうべ、こけたゆうてたやんか。予約取ってるから、はよ行っといで』て、こうゆうとこ、なかなかしっかりしとるんです。 

 で、桃山台の大倉整形外科ゆうとこ行きましてんけど、そこの先生も顔見るなり、『ざこばさん、酔うてましたんか?』

 そこで紹介してもろて、済世会病院のこう先生(※ 固有名詞がやたらと出てくる。字がわからない)に診てもらいました。
 何で病院ゆうとこは自慢しまんねやろなあ?
『あっ、ざこばさん。どないしましてん?』
『いやあ、足折れてチタンのプレート入れて、5針縫いましてん』
『5針ぃ?そんなもん何でんねん。わたいら、骨盤、自分の骨やないのを入れてるんでっせ。30針縫ってまんねん!』て。

 まあ、病院ではそうでっけど、今、世間で話するゆうたら、どうでっか。やっぱ、村上ファンドの話しでっかなぁ?

 ほんで、若い男が集まると、やっぱ、これでっしゃろ。(と、小指を立てる)
 これゆうても、小指の話やおまへんでぇ。『あんた、深爪やねぇ』なんて話はせえへん」

 と、村の若い衆が、寄るとさわると、村一番の美人(べっぴん)の女子(おなご)、お玉ちゃんの噂話をしている場面へ。
 
「おう、お前ら、もう玉ちゃんの話はせんといてくれよ。何でや、て?そら、俺が玉ちゃんを『ウン』と言わせたからやないかい。
 俺がな、いつものように野良仕事してたんや。そうしたら、上の堤のとこを、玉ちゃんが赤い衣装(べべ)着て、弁当提げて、様子して(ようすして。ちょっと気取って)歩いとんねん。そこ、俺が下から、どこ行きまんねんて、声をかけたんや。そしたら、玉ちゃん、
『まあ、誰かと思たら、あばばの茂平さんやおまへんか。ちょっと、お父さんのとこへ弁当を届けに』
 で、俺が、弁当には、まだ間があるよって、ちょっとここ下りて、一服(休憩)したらどないです、ゆうとやな、
『ほな、お言葉に甘えて、そうさしてもらおかしらン』ゆうて、下りてくるやないかい。
 そんなん、まさか、ほんまに下りてくるとは思わなんだんや。俺はどないしたらええねん。三尺下がって土下座したがな」
「大名行列やな」

「玉ちゃん、下りてくるなり、俺の横にち〜んと座って、
『茂平はん、すんまへんけど、煙草一服よんどくんなはるか(ご馳走してくれますか)』とゆうさかい、さあ、どうぞ吸うとくなはれ、ゆうてキセルと煙草入れ渡したら、うまそうに二服吸いやがって、三服目にきざみ詰めて火ぃ点けて、吸い口を袂で、こうギュッと拭いて『どうぞ』ゆうて渡しよんねん」

 ところが、茂平は、あんたが親切で点けてくれた煙草なら、吸い口を拭かんでも、と言う。

「ほたら、玉ちゃん、
『わたい、汚い思て拭きましてん。拭いたがお気に召さんのやったら』ゆうて、こうして(と、キセルをハーモニカのように持って、吸い口全体をべろべろとなめまわす仕草)渡してくれよったんや。
 見たら、ここんとこに唾の泡が2粒付いたぁる。これ落としたらもったいないさかい、落とさんように気ぃ付けて、ずずっ〜と吸うたら・・・・・・甘露の味がしたな」

 こんなことは二度とないと思って、灰が踊るほど力を入れて吸いまくり、あげくは、残った灰まで掌にあけ、食べてしまう茂平。

 茂平はお玉に、京都の屋敷で奉公していたそうだが、こんな田舎は土臭くていやだろうと聞く。

「『何おいる(おっしゃる)。何ぼ京がええとおいたかて、住めば都、勝手知ったる我が土地ほど、ええとこは、おへんえ(ありませんよ)』
 どや、『おへんえ』やぞ」

 さらに茂平は、こんな田舎がええとゆうとこ見たら、誰ぞ好きな男がおるんでっか、及ばずながら取り持ちをさせてもらうから、思い切ってゆうてみなはれと迫る。

「『わたいの好きなお方とゆうのは、ああ、それそれ(と、茂平の鼻先で指をひらひらさせる仕草)真ぁ鼻の先で・・・おますわいなぁ』
 おます・・・おますぅ!わいのこっちゃあ!しゃあけど、わいのこってすかぁなんて言われへんがな。
 わざと、真ぁ鼻の先て松の木でっか、ほたら弁当でっかぁととぼけたると、
『こんだけゆうてんねんから、あんたもええかげん推量してくれたら、どないやねんなぁ〜』ゆうて、わいの太股をば、ぎゅっうぅぅ〜〜っと」
「い、痛い、痛い、痛い!人の太股つねるな!」
「こないなったら、もう間違いない。そう思たから、ちょっと大胆になって、玉ちゃんの胸元に、こう手の先を入れて、でや、玉ちゃん、この手をず〜っと奥まで入れさせてもろてええか、と尋ねてやったら、何とわいの手を上から押さえて、
『そないなこと、ええか悪いか尋ねんかとて、あんたに任せた身体じゃもの、どうなと』信濃の善光寺さんは、こないだも阿弥陀池でご開帳があったやないかいなっちゅうてねえ〜えへへへへ」
「いっぺんよだれを拭け、よだれを。ほんまに、そんなこと玉ちゃんがゆうたんかい」
「ゆうた思て目ぇ覚ましたら夢や」

 と、ワアワアゆうてます。なお、「どうなと信濃の」というのは、「どうとでもしなさいよ(好きにしてよ)」というしゃれ言葉。

 すると、別の男が、研ぎたての鎌をひらひらさせ、よいとさっと、こらさっと、と踊りながらやって来る。こいつも、玉ちゃんを「ウン」と言わせた、夢やない、つい今(いんま)の今、その先の土橋の上で「ウン」と言わせたとのことなので様子を聞くと・・・

「こら、ええとこで会(お)うた。雨の降るほど手紙をやってるのに、色よい返事をしてくれん。『ウン』と言わばよし、もしも、いやじゃなんぞとぬかしたら、この鎌をばお見舞い申すがどうじゃ。ウンか、グサッか、ウングサか!」

 脅迫して「ウン」と言わせたこの男、いきなり竹薮に連れ込もうとしたのだが、
「『そんな昼日中(ひるひなか)から、やらしい事せんかとて、今晩裏の切り戸を開けておくさかい、忍んで来てくれはったら、ええやおへんか』、こない言いよったんや。
 ♪ 今晩、おいらは玉ちゃんのとこへ 忍んでいくで ♪
 ああ、ハッピーだなあ。それでは、行って参ります」

 一方、泣いて帰ったお玉ちゃん、親父が「可愛い一人娘、慰め者にされて、たまるかい」と怒って、自分は塀の外で様子をうかがう、お玉は自分の部屋に寝かせ、お玉の布団には、博労して(買って)きたばかりの牛を寝かせて待つことになった。
 そこへ、手拭いで頬被り(ほっかむり)した男がやってくる。

「♪ てとろ しゃんしゃんっで ななめっこ さいさぁい
 北国屋(ほっこくや)の庄さんで、きたしょっ〜
 笹屋の佐っ助さんで、さっこらさのさ〜
 イっと、ロっと、ハっとニで ホヘトさっさぁ〜♪」と訳のわからぬ歌を歌いながら、忍んできた男、暗闇ででぼちんなどを打ちながら、取り合いの障子を開けて、お玉の部屋へ。

ぷるるるるるるぅっ〜〜
「えらい鼻息やなあ。
 ほな、布団めくらせてもらうでぇ。今さら布団めくったからゆうて、『キヤッ』とか言いなやぁ。
 ええ?玉ちゃん、えらいモヘモヘしてるでぇ。えらい毛深いなあ。
 ははぁん、布団だけで風邪ひいたらあかんゆうのんで、毛布まで掛けてもろてんのか。可愛がってもうてんねんなあ。
 ほな毛布もとらしてもらうでぇ。・・・・あれ?この毛布、端がないなぁ・・・・

 どっちやねん、頭は・・・・(と、扇子を片手でぶら下げ、それを探る仕草。どうやら、牛の尻尾らしい)
 ん?何や、これは。ああ、お下げ(髪)かいな。(と、扇子で額をぴしゃっ!)
 お下げで叩かんでも、ええやないか。(と、扇子の付け根の辺をなで回す)
 うん?お下げの付け根の辺が、何や、ニチャニチャしてるなあ。ああ、鬢(びん)付け(油)か。ええ匂いすんねやろなあ。(と、探った指を鼻先に持っていく)
 くさっ!いやいや、こら俺の鼻が下衆鼻(げすばな)やさかい、この匂いがわからんのや。

 ん、こら何や。(と、今度は扇子を立てて持ち、それを探る仕草)
 ああ、かんざしか。えらい太いなあ。一本笄(いっぽんこうがい)ゆうやつか。しかし、嬉しいなあ。一本五両はするで。俺が道楽して金が足りんようになったら、あんた、これお金に代えておくれっちゅうやっちゃな。
 おっ、もう一本あるがな。二本笄か。一本五両、二本で十両やがな。

 せやけど、何で、何もゆうてくれへんねん。なあ、玉ちゃん、玉ちゃん、て、なあ」
と、角を持って思いっきり揺すぶったから、いくら大人しい牛やゆうても、たまりません。布団跳ね飛ばして、もおぉぉおおおお〜〜!!!

 親父も血相変えてやってきて、代わりに牛を寝かせてたんじゃ、これでも、まだ来るか!と詰め寄ると、「いや、牛だけに、モウ来ません」というのがオチ。 

 う〜ん、このオチは、もうちょっと何とかならんのやろか。 


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。



 

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