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(No115) 桂小米朝改メ五代目桂米團治襲名披露公演 鑑賞記その1       

 平成20年11月27日(木)午後6時30分開演の前売り券を買っていた。しかし、その夜、どうしても抜けられない仕事が入ってしまった。ようやくその仕事が終ったのは8時半過ぎ。もうあきらめて帰ろうか・・・とも思ったが、せっかく前売り券まで買ってるのだから、米團治の高座だけでも聴けたら・・・・と思い、雨の中必死にサンケイホールブリーゼまで走ったのであった。




 

(1) 春風亭小朝 「ぼやき居酒屋」

 

 サンケイホールブリーゼに着くと、職員が入り口の花を片付けていた。「終りましたか?」そう訊くと「いえ、まだやっていますよ。ご案内します」と2階に案内された。

 上がると、小朝の噺が始まったところのようだ。もちろん噺の途中で客席に着くわけにはいかないので、会場の隅っこで立ち見した。

 東京落語には珍しく見台のような小机が出ている。それに加え、水の入ったコップが机の上に乗せてあり、それを時々飲んでいる。
 東京落語では、湯飲みで茶をすすることが多いが、コップに水?と訝しく思ったのであった。

 

 「スイカってのはね、盆休みとかにね、家族全員が輪になって食ってさ、去年はおじいさんがいたわね・・・・なんて話になって、ちょっとしんみりしちゃって、で、冗談で『今年は・・・・・』なんてこと言う奴がいて、で、みんながおばあさんの顔を見て。
 おばあさんが、すねちゃって『知りませんよ!』なんて言って、思わず笑って、種を吹き出しちゃったりする。そうやって食うもんなんだよ。

 こないださ、うちの犬が熱を出したんだ。犬の熱って、よく分かんないんだけど。とにかく、うちのかみさんが、医者に連れてくだの、薬のませるだの、毛布かぶせるだの、もう大騒ぎ。
 悔しくてね。うちで稼いでるのは俺なんだよ。だのにさ、何で熱出しただけで、あんなに犬が大事にされるの?で、俺、神様に祈ったの。神様、私にも熱を・・・・ってね。
 すると、祈ってみるもんだね。熱が出たんだ。かみさん、ちゃんと出してくれたよ。あの、冷たくて四角くて、おでこに乗せるやつ。何て言ったっけ?あ、そうそう。アイスノン。

 するとさ、何だか生臭いんだ。おかしいな、って思ってよく見てみたら・・・冷凍のイカのパック。顔中が日本海。ははは。

 暗かったから、よくわかんなかったの、とか言ってたけど、理由はわかってんだ。うちのかみさんは、とにかく片づけが下手なんだよ。
 うちの家に来た人は大概驚くからね。”どんきほーて”と間違えた人もいるしね。

 こないだ、あさりの佃煮を出してさ、『どう?美味しい?』って訊くから『ああ。旨いよ』って答えたら『まだ、食べられるのね』なんて言うんだ。
 どきっ!として賞味期限を見たら・・・昭和63年。うちの冷蔵庫、10年前に買い換えてるんだよ。冷蔵庫2代にわたって受け継がれてるんだ。やだよ。佃煮の世界遺産なんて。


 でもさ、こないだ近所の人が脳梗塞で倒れたら、俺のこと心配してね。病院で検査の予約をしてきたから、行ってきたらって言うんだ。
 でさ、何て検査なんだい?って訊いたら、『芋洗い』だって。
 何で病院で芋を洗わなくちゃならないんだ?って訊いたら、よく分かんないけど、ボケは手先から来るってこと言うから芋を洗わせて指がちゃんと動くか診るんじゃないかって。
 でもさ、やっぱりおかしいんじゃねえかと思ってよくよく調べてみたら・・・・・『芋洗い』じゃなくてMRIだったんだよ。


 うちのかみさんもさ、昔はスタイルが良かったんだよ。腰なんかきゅっ!と締まってさ。『笑う砂時計』なんて言われてたんだ。
 それが今じゃ・・・・・・。こないだ、茶色い服の上から白いベルト締めてたんだけど、屋久島の縄文杉に注連縄が巻かれてんのかと思っちゃった。


 そんなだから、あっちの方もすっかりご無沙汰なんだ。そしたら、かみさん、俺のナニにクララってあだ名を付けてさ。三月
(みつき)にいっぺんくらい、ナニがゆうことをきくことがあるだろ。そしたら、かみさん、『まあ、クララが立った』って・・・・・・・・。まあ、分かる人だけ分かってくれりゃいいけどね。


 うち、子供が3人いるんだよ。
 こないだ、長男がしょんぼりしてるんで、いじめにでもあってるんじゃないかと思ってね。『どうしたんだ?何か悩みがあるなら、相談しろよ』って言ったんだ。『親は何のためにいてると思ってんだ』って言ったら、うちの息子、どう言ったと思う?『念のため』って。


 下の男の子は、まだ小さいんだ。その子とこないだ動物園に行ったんだけどね。シロクマのおりでさ、この頃良くあるんだけど、ガラス張りになってて、クマが、見てる人間をエサだと思って飛びかかってくるやつ。それだったんだ。
 あれ、わかっててもびっくりするね。うわ〜ってひっくり返っちゃってさ。で、息子に『怖かったなぁ。あれ、もしガラスがなかったら、お父さん食べられちゃったねえ。もし、お父さん食べられちゃったら、お前どうする?』って言ったら、どう言ったと思う?『うん、お父さんが食べられちゃったら、僕は何番のバスで帰ったらいいの?』。


 高校生の娘は、食事の時もメールを離さないんだ。今の子は、携帯がつながらないとすごく不安になるらしいね。圏外孤独
(天涯孤独)って。


 おっ、厚揚げが来たね。さっそく、いただこう。熱っ!アチチ
(安土)桃山時代ってね」

「あっ!お客さん、それはソースです。うちじゃ、蓋の上に赤いシールがついてるのが醤油で、黄色いシールがついてるのがソースなんです」
「知らないよぉ、そんなの。初めて来た店なんだから。
 『ス』って字が見えただけでさ」
「ええ?『ス』って字が見えたらソースでしょ?」
「分かんないよ。『醤油デス』かも知んない」
「ご冗談ばかり。あっ、置いといてください。お取替えしますので」
「ああ、そうかい。ゆっくりやっとくれ。その間に、これ食べちゃうから・・・・・。ははは、冗談だよ。

 この頃、歯が悪くなってさ、豆腐とか厚揚げばっかり食ってるんだ。金歯と相性が悪くてね。
 こないだ歯医者行ったら、象のぬいぐるみ渡されてね。何かな?って思ったら、先生が『もし痛かったら、このぬいぐるみのお腹を押してください』って。まあ、手を上げるとかよりいいかなって思って、持ったけど、おかしなもんだよ。いい年した親父が象のぬいぐるみ抱いてるってのも。

 そうしたら、やたら痛いんだ。恥ずかしいなんて言ってられないから、やたらパオパオ言わせたんだけど、先生ったら『がまんして』って。なら、そんなもの持たせるなって。

 腹立ったから医者変えてさ。今度の先生は近眼(ちかめ)でね。こ〜んなに顔近づけてきてさ。で、持ってた金歯が前歯にコツン!あっ!と思ったら、その金歯、飲み込んじゃった」
「え?金歯を飲み込んだんですか?で、どうなりました?」
「3日目に出ました。・・・・・・それがこれ。え?汚いって?んなこたぁないよ、よく洗ったから。

 しかし、TVのCMとか見てるとずいぶんいい加減なのがあるよね。通販とかでさ。3日間飲めば2kgやせるジュースとかね。そりゃあやせるよ。3日間、そのジュースだけ飲んでりゃ。

 ああゆうのずるいよね。画面にちっちゃな字で、『効果には個人差があります』って出るんだ。

 寄席の表にさ、『爆笑寄席』とか出ててね。良く見ると、小さな字で『おもしろさには個人差があります』って。

 この頃の歌手はわかんないね。ケツメイシとかコブクロとか、大悟とか。大将は誰が好きなの?」
「へへ、お恥ずかしいけど、・・・・くうちゃん」
「え?くうちゃん?」
「倖田來未
(こうだくみ)ですよ」
「へえ〜?あの中国の偉い人って歌うんだ」
「・・・・・・・それは江沢民ですよ」

「昔の歌はよかったよね。どんな歌か、聞いてりゃすぐ分かる。
 ♪ 私 バカよねぇ〜 ♪・・・・・・ああ、あの人はバカなんだなって分かる。
 ♪ 15、16、17とぉ〜 私の人生 暗かったぁ〜 ♪ ひょっとして貧乏?ってね。

 そこ行くと、平井堅ってゆうの?痩せこけてヒゲ生やしてね。ヒットラーが生きてたら、生かしておかないような顔をしてる。

 『瞳をとじて』ってゆうけど・・・・・・・・閉じるのは瞳じゃなくて目蓋だよ!
 
♪ 朝 目覚める度に 君の抜け殻が横にいる ♪
・・・・って、毎朝、惚れた女に脱皮されたらたまんないよ。

 どうだい、大将。言われ放題だとストレス溜まるだろ?駄目だよ、言われてばかりじゃ。たまには、よそで発散しなきゃ」
「そうですか?ところで、お客さん。ご商売は何なさってるんですか?」
「ああ、俺?おいらは居酒屋をやってんだよ」

 途中から聴き始めたので、なかなかのみこめなかったが、要はどこかの親父が居酒屋で一人で呑みながら、家での愚痴だの何だのを店の大将を相手にぼやく、という噺だった。小朝の新作なのだろうか?

 小机の上のコップの水は、居酒屋のテーブルの上のコップ酒をあらわしていたのだろう。

 小朝の噺は、もともと小噺の連続って感があるから、このような噺は形式的にもぴったりだろう。客席もよく受けていた。「ひざ代わり」(真打の一つ前)ということで軽い噺を選んだのかも知れないが、ちょっと沸かしすぎたかもしれない。




  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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