移動メニューにジャンプ

(No109) 第5回「日本酒」再発見フォーラム 聴講記       

 平成20年10月10日、毎日オーバルホールでの標記集会で、冒頭「酒にまつわる落語」というコーナーがあった。




 

(1) 笑福亭小つる 「一人酒盛」

 

 まばらな拍手、ありがとうございます。日本でただ一人の笑福亭小つるでございます。

 今日は、日本酒フォーラムてな題名がついてますが、何か皆さんの視線に挑戦的なもんを感じるんですが。
 まあ、決して、何かここから学ぼうとか、あいつの揚げ足を取ってやろうとか、そうゆうことを考えんようにお願いしたい。
 何せ、落語ですから。
 ただ、ただ、何も考えずに笑っていただければ・・・と思います。

 今日は、お酒にまつわる噺をせえ、とゆうことで。まあ、後のパネルディスカッションの先生方が揃うまでの時間つなぎなんですが。

 お酒、この頃は日本酒とか言いますな。私、あら、お酒でええと思うんです。日本なんですから、ただ、「お酒」で。
 わざわざイギリスウィスキーとか言わんでしょう?まあ、バーボンなんかはゆうかもしれませんが。
 「バーボンはゆう」というのはケンタッキーバーボンなんかのイメージだろうか?
 イギリスウィスキーとは言わんかもしれんが、スコッチウィスキー(スコットランドのウィスキー)とは当たり前に言うよな。
 フランスワイン、イタリアワイン、カリフォルニアワインともゆうよな。
 まあ、複数の国でつくられる場合、国名を頭につけることがある。しかし、いわゆる「日本酒」は日本でしか造られてない(多分)から「日本酒」じゃなくて、ただ「酒」でいいとゆうことか。レストランのメニューで外国語表記する時の「SAKE」のイメージだな。
 要は、「お酒」とゆうとアルコール飲料全般を指す場合との区別がつかないから「日本酒」と呼んだ方が間違いがないというだけの話である。

「おい、ちょっとお酒、飲みに行こか?」というのは、別に日本酒に限定してる訳じゃない。
 といって、「おい、まず最初はしばらく生中(生ビール中ジョッキ)呑んで、そればっかりやったら腹が張るから、ぼちぼち焼酎の水割りに代えて、ひょっとして今日は冷えるなぁと感じたら日本酒の熱燗頼んで、ほんで気分が乗ってきたらスナックでウィスキーでも呑もか」とも言えないしね。 

「お、松っちゃん、いてるか」
「あっ、竹やん。うちの嬶
(かか)、行ったか?」
「おお。身体あいてたら、来てもらわれへんかゆうてはったからな。ちょうど、仕事出よかな、て思てたとこやってんけど、何ぞ急な用事やったらあかん思て来たんや」
 

「ええ?仕事行ことしてたんかいな。
 いや、実はな、だいぶ前やけど、うちの二階で居候してた奴おったやろ?あれが、こないだ、ひょこっと挨拶に来てな。
 何でも、今、灘か伏見かの造り酒屋で働いてるらしいねん。
 ほんで、その節は、ろくに礼もゆわんとご無沙汰してましたけど、蔵出しの酒が手に入りましたんでゆうて、置いていったんや。
 これが、ちょっと味見してみたんやけど、酒屋の手ぇが入ってない
(注 後のフォーラムでの小つる自身の解説では、酒の卸売問屋では、造り酒屋から酒を仕入れ、いろいろブレンドしたり、水を加えたりして売っていた。よって「酒屋の手が入ってない」とは、造り酒屋から出荷されたままという意味)から、うまいんや。

 いや、ようけ
(たくさん)はないんやで。五合(ごんごう)か六合ほどやねんけど、ああ、誰と呑もかいなぁ思ったら、竹やん、おまはんの顔が目に浮かんだんでな。それで、ちょと、呼びにやったんやが・・・・、ああ、そうかぁ。仕事かぁ。そら、止められんわ。えらい、すまなんだ。ほな、どうぞ、仕事行って」
「・・・・・・・・・・いや、別に、どうしても今日行かな、ならんゆう仕事でもないねん」

「ええぇ〜〜?ほな何か?竹やん、お前、仕事行かんと、俺に付き合いしてくれんの?そら、えらい、すまんなぁ。 いや、わいなぁ、いたってモノグサやろぉ?酒呑むにしたかて、燗する火ぃをいこす
(起こす)のもよぉせん性質(たち)や。
 ところが、うちの嬶、今日、ちょっと用事があってな。竹やんとこ、声かけに行ったあと、そのまま、出てしもてるんや。

 まあ、こうゆう酒やさかい、冷やでも呑めんこたぁないんやけど、やっぱ、燗したらどないなるかな、思てな。
 いや、道具は揃てるねん。へっつい
(かまど)のねき(近所)に、消し炭もみな置いたぁるし、ちろりもそこにあるやろ?
 え?竹やん、燗つけてくれんの?ええ?仕事休んで、わいに付き合いしてくれたうえに、燗までつけてくれるやなんて、ほんま、おまはんに声かけてよかったわ。

 え?もぉ、でけた?何?酌
(しゃく)まで、してくれるんかいな。えらい、すまんなぁ。いや、これ、わいが最前(さいぜん。さっき)までちびちび飲(や)ってた湯呑みやねん。これが、ちょうど一合ぴったり入る、自慢の湯呑みやねん。

 え?いや、途中でやめたらあかんがな。最前ゆうたやろ?ちょうど一合入るて。な?こぼれる気遣いないねんから。

(クゥ、クゥ、クゥ・・・・・・・) ん!ええ燗や。わい、実は、ちぃ〜と熱い目の燗が好きやねんけど、それにぴったり合(お)うとる。いやぁ、ほんま、竹やんに来てもぅて、よかった。ほんまやで。
 あぁ、せや、次の燗つけて・・・・・?え?もう、やってる?さすがやなぁ、気が利いてるがな。何?もう、でけた?え?また、注いでくれんの?えらい、すまんなぁ。

 い、いや。途中で止めんでええねん。最後まで注いだらええねがな。前もゆうたやろ。きっちり一合入るて。・・・・いっぺんゆうたら、覚えとかな、あかんで。

(クゥ、クゥ、クゥ・・・・・・・) ぷはぁ〜〜。やっぱ、こんだけの酒になると、呑も思わんでも、酒の方で、のどん中飛び込んできよるなぁ。

 あの、わかってる思うけど、次の燗、つけてるやろな。わい、呑み出したら、途中で途切れるゆうの、かなん性質
(たち)やさかいな。

 はははは。いや、わいもな、友達は、ようけぇ
(たくさん)、おるけどやな。このええ酒、誰と呑もかいなぁ思た時に、ぴ〜んと頭に浮かんだんが、竹やん、おまはんや。
 わいな、一人で呑むのん、あかん方やろ?誰ぞと、こう、陽気にな、しゃべりながら呑みたいねん。はははは。

 お、おい。もう次、ついてんのとちゃうか?せやろ?
 ん?竹、ええ加減にしいや。途中でやめんな、ゆうてるやろ。この湯呑みは、ちょうど一合入んねんさかい。・・・・何べんも言わすな!

・・・・・・・よぉ、ええ酒やったら、アテ
(酒の肴)は要らんとかゆう奴おるけど、あら、うそやな。やっぱ、ちょっとしたもんでも、何ぞあった方がええで。

 ああ、せや。ちょっと、竹やん、そこの台所のな、床板外してくれへんか。そう、そこ。その下にな、ぬかみその桶があるやろ。そう、木ぃの蓋取って。確か、そん中に、茄子と胡瓜が入ったぁる筈やねん。
 そう、どぶ漬け、どぶ漬け。

 何、してんねん?手ぇ入れな、出されへんがな。そう、底の方かもしれん。ぐ〜っと手ぇ入れて。

 え?あった?あったぁ?せやろ?ほな、それ、きれいに洗
(あろ)て、ぎゅう〜っと水しぼって、塩抜きして、ほんで包丁で細こぉ刻んでくれ。

 ほんでな、そこに醤油をな、ちび〜っとやで、ドボドボ注いだらあけへん。ちび〜っとだけ注
(さ)して。

 え〜っと、台所の隅に生姜が転がってるやろ。それ、まな板の横らへんにおろし金ある思うさかい、それでおろして、ちぃちょうに
(小さく)天盛りにして、そうそう。

 え?でけた?ええ〜?お前、男のくせに包丁使うのん、上手いなぁ。よぉ、こんだけ細こぉに刻めんなぁ。ちゃんと、生姜も天盛りにしたるがな。おおきに、おおきに。

 あ?もう、燗ついてるんちゃうか?酒が留守なったら、あかんで。

 おい!おい!ぬかみそ触った手ぇでそのまま、酒ぇ触ったらあかんがな。においが移るやろぅ!ほんま、そんなこともわからんのかいな。

 燗、ついたんやったら注がんかいな。何、ふくれっ面してんねん。
 せやから、途中でやめな!ってゆうてるやろ!何べんゆわすねん。
(くぅ、くぅ、くぅ・・・) 

 ああ、やっぱ、ええ酒は回る
(酔う)のも早いなぁ。わい、ほんまやったら、これっぱかりの酒で回るてなことないねんけど、ええ気分になってきた。
 な?竹、お前もせやろ?ん?何やねん。返事もせんと。気ぃ悪い。
 次、つけてるやろな。先、先、気ぃ回さな、あかんで。言われんでも、せえよ、それくらい。

 お前なぁ、わいが酒呑もう思た時に、ようけぇおる友達仲間ん中からお前を選んだったんやぞ。
 有り難い思え。

 ほほ、この漬けもん、ほんま、よぉ漬かってるわ。しかし、こんなぬかみそん中、よぉ手ぇ突っ込んだなぁ。わいやったら、よぉせんわ。・・・・・・・・・・・・ゆうたら、何でもしよんねん。

 ああ!こら!燗、つきすぎてんのとちゃうか?なんや白い湯気あがってんで。

 何、してんねん。こうして、湯呑み、上げてんねさかい、はよ、注がんかい!何、にらんでんねん。

 あ、熱!
(フゥ〜 フゥ〜)お前なぁ、わい、甘酒飲んでんのとちゃうぞ。何で、酒、吹いて呑まなあかんねん。せっかくの酒、わや(駄目)にしやがって。こんなこともでけんのかいな、情けない。この、どぶっきょ(「不器用」に強調の「ど」がついた形。例えば、「アホ」の上が「どアホ」)が!

 なんじゃ?なんやねん!仁王立ちになりやがって。え?お前、目ぇに涙浮かんでるやないか。せやから、人をにらむな!
 ゆうてるやろ、わいは陽気に呑むのんが好きやて。それを何じゃ、お前は。最前からぶすっ〜として。せっかく呼んだったのに、ベンチャラの一つもゆうどころか。ええ男が涙目になるな!

 ああ、おもろない!お前なんぞ呼ぶんやなかった!
(い)ね!(帰れ)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ!言われんでも帰るわい!何じゃ、お前は!お前なぁ、そんなもん、友達やったら、ゆわんでも、ちょっと一杯どないやってゆうのが普通やろ!それを、俺、仕事ゆうのに呼びやがって、さんざん使いたおしたくせに、自分一人で呑みやがって!
 もぉ、お前なんて、道で会
(お)うても友達て顔してくれな!絶交じゃ!
 お前なんかなぁ!ええ日ぃ選んで、目ぇ噛んで死ね!



「どないしたんやぁ?松っちゃん。今、竹やん、血相変えて出ていったやないかぁ?」
「ああ、梅やんとこのおかみさん。大事ないねん。
(大したことではない) あいつ、ちょっと酒癖が悪いねん」

      

 左写真が、燗をつけるための道具である「ちろり」。

 フォーラムの聴講記でも書いたが、この噺、主人公が嫌な奴なんで、私は嫌いな噺である。

 



  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

inserted by FC2 system