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(No106) 第30回市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記その3       

 平成20年10月1日、堺市民会館での公演・・・・・の続き。

 

 



(4)
 桂ざこば 「へっつい幽霊」

 

 足取り軽く出てきて、高座に着くなり羽織を脱いで「こないすぐ脱ぐんやったら、初めから着てこなんだらええてなもんやけど。まあ、持ってるゆうことだけでも見てもらわんと」というのは定番中の定番。
 何や荒(すさ)んできましたなぁ。
 政治もパッとせんし。
 生きてて発散しまへんなぁ。

 家に帰ってもねぇ・・・・嫁はんがね、嫌味ばっかゆうんです。

 38年前に所帯持って、2人、子ぉができて。7年前、上の娘(こ)が片付いて(嫁いで)、この8月に下の娘が片付きまして。
 結婚する前の日ぃに、うちの嫁はんが
「はぁ〜〜 明日から一人暮らしや・・・・」って。
 私、どこで暮らしたらええねん。

 こんな傷つくこと平気でポンポンゆうんだ。

 式は天満の天神さんで挙げたんでっけど、実は、私も天満の天神さんで式を挙げたんです。

 私、寺とかね、神殿とかゆうとこ、怖いんです。

 何でびびってんのか、よぉわからんのですが。米朝と、その横に私。嫁はん。師匠の奥さんと、こう並びましてね。
 ああ、これで神さんに嘘はつかれへんて思いました。

 そしたらね、三々九度のあの朱塗りの盃を持つ手ぇが小刻みに震えてまんねん。 
 

 何と私は根性のない人間なんやろう・・・・そう思いました。
 こう見えてもね、私は自分を客観的に見ることができるんです。皆さん方とは違うんです!
(注 ご存知、福田元首相の辞任記者会見での名台詞)

 ああゆうのは伝染(うつ)るんですな。見たら、巫女さんも震えとる。御神酒(おみき)もそこら中にこぼれて、もう入ってへん。
 嫁はんも震えてんのかいなぁ思て、見たら堂々としとる。何や御神酒注いでもろたら、こう会釈して、巫女はんに礼、ゆうとぉる。私、思わず訊きました。「あんた、ほんまに初めてか?」

 


「おい、道具屋。そのへっつい(注 台所の土間などに据え付ける竃(かまど)のこと)、京土(きょうつち。京都の方で産する土で焼いた高級品)とちゃうのんか?」 
「はあ、こら、えらいお目利きで。どうです、お安ういたしときますが」
「安うって、無料
(ただ)か?」
「タダゆうわけには」
「お前、こっちが値ぇ訊く前に安するゆうさかい、タダか思たんや。なんぼや?」
「3円で、どないですやろ」
「なに?この京土のへっついが3円?そら、また安すぎるやないかい。・・・・・・・・・何ぼか、まからんか?」
「安いんちゃいまんのか?」
「そこ、ものは相談やけど、3円にまからんかなぁ?」
「へ?もとから3円、ゆうてまんねんで」
「いや、このへっつい、風呂敷に包んで、提
(さ)げて帰るわけにはいかんやろ。(大八)車借りたり、仲仕頼んだりしたら、3円が3円50銭、下手したら4円から、するやないかい。そやさかい、何もかんもで3円にならんかっちゅうてんねん」
「なるほど。ほな、運び賃を入れて3円ということで。承知しました。どこへでも送らせてもらいます。あんさん、おうちはどこでやす?」
「北海道や。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘や、嘘。冗談やがな。うちは・・・・」
「へえへえ。そこやったら、よぉ存じております」

 そのへっついを訊いた住所に送りました、その日の夜中、2時をまわった時分に道具屋の戸ぉをドンドンドンドン叩くもんがおる。
「はいはい!起きてます!ご近所迷惑になりまっさかい、そないドンドン叩かんように。今、開けます」
「お、おう!道具屋。わ、わいの顔、覚えてるか?」
「はあ?あ、はい、はい。確か昼間、へっついを買
(こ)うていただいた・・・・」
「よぉ覚えとぉってくれた。あのへっつい、すぐに取ってくれ!」
「へえ、そらぁ引き取らんことはおまへんけど・・・。わたいら道具屋仲間の”決め”で3円で売らせてもろたもん、そのまま3円で引き取るゆうわけにはいきまへんねん」
「わかったぁる。わいが何ぼか、損したらええねんやろう?何ぼ損したらええねん?」
「ほな、まぁ、1円だけ損してもらえまっかなぁ?」
「おう!あれ取ってくれるんやったら、1円が2円でも損するで!」
「へ?そしたら、すんまへんけど2円損してもらえまっか?」
「そこはやっぱり1円にしといてぇな」
「・・・・・最初からそうゆうてまんがな」
「その代わり、すぐに取りに来てや」
「すぐ、て、こない夜が更けては取りに行けまへんので、朝一番で取りに行かせてもらうてなことで」
「ええ?そやかて、わい、あんな家に帰られへん。・・・・あかんの?どうしても?ほたら、しゃあない。わい、今日はどこぞ友達の家に泊めてもらうわ。しやけど、必ず、朝一番で取りに来てや。頼んだで」

 朝一番で引き取りに行きまして、店先に並べておきますと、すぐに声がかかります。
「おう、道具屋。そのへっつい、京土と違うのんか?」
「へえ、こら、えらいお目利きで。3円にさしてもらいますけど、どうですやろ?」
「ほぉ、3円?そら安いな。どや、そこ3円にまからんか?」
(小声で)何や、昨日と同じようなお客さんやなぁ。
 運び賃も入れて3円ゆうことでっか?」
「おっ、えらい話が早いなぁ」

 また、住所を訊きまして送りました、その日の夜中を回った時分に、表の戸がドンドンドン!昼間の客が血相変えて、引き取ってくれとゆうて来た。

「あの〜。実はゆうべも、せっかく買
(こ)うたへっつい、1円、損してもええから引き取ってくれゆうお客さんがいたはったんですわ。何ぞ理由(わけ)があるんちゃいまっか?よかったら、そのわけ、話してもらえまへんやろか?」
「そやけどな、道具屋。わけ、ゆうたらな、道具屋。引き取らんやろ、道具屋」
「・・・・・・・・そら、確かにわたいは道具屋でっけど、そない、道具屋、道具屋ゆわんでも」
「そやけど、道具屋。道具屋ゆわなな、道具屋。話がな、道具屋。でけんがな、道具屋」
「段々、激しなってきたな」
「昼間の内はどないもないねん、道具屋。夜中の1時を回っても、まだ、どないもないねん、道具屋。ところがや、2時を回るとやな」
「道具屋」
「お前の方からゆうな!へっついさんの方から青い火ぃが・・・・・・・うわぁ〜〜!取ってぇ〜!トッテ、トッテトッテトッテ!」
「何やラッパみたいでんなぁ。何ぞ悪い夢でも見やはったんちゃいますかぁ?」
「寝てないのに夢なんか見るかぁ!わい、あんな家に帰られへん。すぐに取りに来てくれ」
「すぐに、と言われてもこんな夜更けでっさかい、朝一番で取りに行かせてもらいます。それまで、どこぞお友達の家にでも泊めてもらいはったら」
「そやかて、わい、この辺に友達なんていてへんがな。あっ、せや。お前のうちに泊めてくれ」
「堪忍しとくれやす。うちゃ嬶
(かか)と二人暮らしでっさかい、布団がおまへんがな」
「かめへん。お前、どっかへ泊まりに行け。わい、お前の嫁はんと泊まる」
「あほなこと言いなはんな」
「ほたらしゃあない。わい、夜ぉ明けるまで、この辺歩いとくわ」


 まあ、最初のうちは、こないボロい商売はない。毎日毎日、品物が減らずに1円ずつ儲かる・・・・と喜んでおったんですが、しばらくすると、他の品もんもパタッ〜!と売れんようになった。

 

「ああ〜。こんな噂が流れてるとは知らなんだ」
(おかみさんが)「あんた、顔色が悪いで。市でケンカでもしたんか?」
「いや。世間で妙な噂が流れてるんや。こんな店先で話もでけん。ちょっと裏、行こか。

 実はな、うちで売ってるへっつい、夜中に幽霊が出るてな噂が流れてるんや」
「ええ!・・・・・・・ほたら、私も言わせてもらお。あのへっついさん、昼間は何ともないねんけど、夜中になったらぐ〜っと胸が押さえつけられるような、いやぁ〜っな気がしますねん。売れてる時は何でもないねんけど、戻ってきたら、また・・・・・。なあ、あんた。どっかにほかそ
(棄てよう)!」
「あかん、あかん。もう有名になってしもてるさかい、ほかしても『これ、落ちてましたよ』ゆうて持ってきはるわ」
「ほたら、どうやろ。何ぼかつけて、どなたかにもろてもろたら?1円くらい付けたら、誰ぞ、引き取ってくれるんちゃうやろか」
「そら、1円くらい、今まで充分儲けさせてもろたから、惜しゅうはないけど・・・・。幽霊の出るへっつい、1円やそこらでもろてくれる人おるやろか?」

 夫婦がああでもない、こうでもないと相談しておりますのを、少し離れた長屋のせんち場
(雪隠:せっちん。共同便所)の中で聞いておりましたのが、脳天の熊五郎という渡世人。

(気張って)クッソぉ〜〜  しかし、大きな声やな。ええ?1円付けるけど、もらい手ないやろかってぇ〜?・・・あるで。
 たかがへっついやろ。台は割って焚き付けに、へっついは粉々に砕いて、長屋の路ぉ地のデコボコに埋めてやったら、かみさん連中、雨降りに水がたまらんゆうて喜びよる。ほんで、わいの手には小遣いが1円入る・・・・・って、こない、うまい話はあらへんがな
(「こら、ええ!」とばかりに左掌を右拳でポン!と打った拍子に)あっ!紙、下に落としてしもた。けつ、拭かれへん」

 そこへ通りかかりましたのが、
「あ〜あ〜あ つまらん、つまらん。タバコ銭も、あれへんがな。
(たもとを探って)おっ!50銭、残ってた。(と、たもとから取り出してみて)何や、突き出しのカキモチか(注 「突き出し」は、ちょっとしたおつまみ。カキモチはおかき、あられ)
「おっ、ちょうどええわ。ちょっと、作ぼん!若旦那!」
「え?その声は熊はんやけど・・・・・。声はすれども姿は見えず・・・・・・・・。ほんにあんたは屁のような」
「紙、持ってはりまへんか?」
「ええ?何や、せんち場の中かいな。そら、屁ぇやない。正味やがな。そやけど、熊はん。あんた、せんち場入んのに、紙持って入らずか?」
「持って入ったけど、落としたんやがな」
「ははあ。熊はん、あんた、中で鶴ぅ折ってなはったんやろ?」
「子供やないわい。
(紙を受け取り、用事を済ませ)ああ、おおきに、ありがとう。ほな、水かけて」
「わいはせんち場の介抱人か?」

「そら、どうでもええけど、どや、作ぼん。二人で1円の儲け話があるんやが、乗るか?」
「はあ、やらしてもらいますけど、何しまんねん?」
「そこの道具屋のへっついもろたら1円付いてくんねや」
「ええ〜!?熊はん、知りなはらへんのぉ?あこの道具屋のへっついは幽霊、出まんねんで!」
「そんな阿呆なことがあるかいな。もし出たとしても、わいが引き受けたる。あんたは、割り前の50銭だけもろてたらええねん。


 おい、道具屋!あの1円のへっつい、わしがもろたろ!」
「・・・・・・そら、ありがたおますけど、何で、それをご存知で?はあ?せんち場の中におっても聞こえた、と?そら失礼しました」
「何でもかめへんけど、その1円ゆうのは、間違いないんやろうな?」
「へえ。1円は必ず払わしてもらいます。ただし、その代わり、後でどんなものが出てきても、一切、ごじゃごじゃおっしゃりませんように」
「そら心得てるがな。おう、ちょっと、おうこ
(天秤棒)貸してくれるか?それで二人で提げて帰るよってに。

 作ぼん、ちょっとそっち持って。ほな行くで」

 この熊五郎は普段から力仕事にも慣れておりますが、作ぼんは根っからの若旦那。この大きなへっついを縄で縛り天秤棒で提げて前後で歩き始めまして、最初のうちはまだよろしかったんですが、そのうち、足腰がふらふらよろつき出して、長屋のごみ箱にへっついの角をぼぉん!とぶつけてしまいました。

 するとへっついの角から白い塊がごろごろごろ・・・・・・・。

「うわぁ〜〜。熊はん、あかん!幽霊の卵!」
「そんなアホなもんがあるかいな。ま、とりあえずわいが預かっとくわ
(と、ふところに入れる)

 へっついは作ぼんの家に置きまして、先ほどの幽霊の卵、白い包みを調べよかとゆうことになりました。包みを封していた紙をぷつっ!と取りますとゆうと、中から10円金貨が30枚!

「わ!わ!わぁ〜!!く、熊はん!道具屋に言いに行こ!」
「何でぇ?道具屋、後で何が出てもごじゃごじゃ言わんように・・・ってゆうてたがな。

(舌打ちして、小声で)ちっ!これやったら、わい一人で運んだらよかった」
(これを目ざとく聞きつけ)熊はん、仕事は山分けでっしゃろ?」
「ああ、今になって四分六の、七三の、とは言わんがな。ほれ、これがあんたの150円!」
「・・・・・熊はん。ほんで分け前の50銭は?」
「覚えてたんかいな。しっかりしてるなぁ。
 ほんで、作ぼん。この150円、どないしはるん?」
「へへ。実はわい、新町に小里ゆう、かわいいのんがいてますねん。久しぶりに逢いに行って、喜ばしたろか、思て。
 熊はんは、その150円、どないしはんの?」
「そら、知れたこと
(丁半ばくちで壺を振る手まね)。これでんがな」

 二人は右と左に分かれて、それから二日二晩、家を空けまして・・・・。

(作ぼん)「つまらん、つまらん。遊んでたら、150円くらい、じっき(すぐ)やなぁ。また、一文無しや。まあ、ええわ。熊はんに小遣い、借りよ」

(熊五郎)「いやぁ〜、つかん時はとことんつかんもんやな。すっくりいってもた。一文無しのカラッケツやがな。まあ、ええ。作ぼんにちょっと借りよぅ。
 あ、作ぼん!」
「あ、熊はん。ちょっと、金貸して」
「先、言いやがった。何じゃ、どっちも使
(つこ)うてしもたんか」

 熊五郎は家に帰って、すぐにごろっと寝てしまいましたが、作ぼんの方は先ほどまでの遊びを思い出して、なかなか寝つけん。
「あ〜あ、さっきまで可愛い小里と、ええにおいの布団にくるまれとったのに、今は汚い部屋でくっさい布団。えらい違いや。

 しかし、いきなり行ったったら、小里、びっくりしとったな。
『あらぁ、若旦那。勘当されたはるのに、何でこない大金を?』
『いや、へっついを・・・・。まあ、そんなんどうでもええがな。しやけど、小里。お前、わいが来
(こ)ん間、浮気しとったやろ?』
『そんなん、してまへん』
『いや、してたに違いない。もう、お前の顔なんぞ、見とぉない』
 わざと、こないイケズ
(意地悪)ゆうて、背中向けて寝てやるとゆうと、
『ううぅ〜んん
(と、小里が身をよじる格好)。何で、そんなイケズ言わはるんどす?こっち向いておくれやす。
 向いてくれな、耳引っ張りまっせぇ〜』
『ああ、痛い、痛い。向く、向く、向くがなぁ〜〜』

 一人でノロけとる。そうこうしていたら、へっついの角から青い火ぃがチョロチョロ。それへさして、青ざめたザンバラ髪の男が、「金、返
(かや)せぇ〜 金、返せぇ〜」 むくむくむくぅ〜〜(と、「恨めしやぁ〜」の格好)

「う、うわぁ〜〜〜」と、作ぼん、気ぃ失のぉてしもた。
 この声聞いた熊五郎、すぐに作ぼんの家に行く。

「お?倒れとる!あ、うまいこと、水があるやないかい」
(作ぼんを抱き起こし、気付けの水を口に含むが、うっかり飲み込んでしまい「飲んだらあかん」と言って含み直し、ブゥ〜と水を霧のように作ぼんの顔に吹き付ける) 

「で、出ました!出ました!幽霊
(ゆうれん)出ました!」
「何ぃ〜?出たか?男か、女か?何ぞゆうとったか?」
「男です。『金、返
(かや)せぇ〜 金、返せぇ〜』ゆうてました」
「う〜ん。よし、ちょっと待っとれよ!」
「ええ〜?熊はん、わい、こんなとこに一人では心細い」
「わいの家、行っとり。そこなら、へっつい無いさかい、何も出る心配ない」

 飛び出して行った熊五郎、しばらくして帰ってきて
「作ぼん、あんた、うちの家は大きいてゆうてたけど・・・立派すぎるやないかい。あれだけの大店
(おおだな)、真面目にやってたら、すっくり継げるゆうのに、わいらみたいなもんと付き合(お)ぅたりして。

 しかし、親ゆうのは、ありがたいもんやなぁ。命にかかわるこっちゃ、ゆうたら300円の金、しゅっ!と貸してくれた。あんた・・・・・親不孝やで」
「ほっときいな。で、その300円の金、どないすんねん?」
「あんたの金や。あんたの手ぇから、幽霊に返しなはれ」
「ええ?わい、幽霊に裏返したり、馴染みになったりしとぉない」
 遊郭で花魁と初めて登楼するなどのことを初会(しょかい)と呼び、二回目に登楼することを「裏を返す」。三回目以降を「馴染(なじ)み」と呼ぶ。
 格式の高い遊郭では、馴染みにならないと床入りしなかったという。

 作ぼんはびびってしもたんですが、熊さんは度胸がある。作ぼんの家でどっかりあぐらをかき、酒をがぶぅがぶぅ。
「出て来い!幽霊!早いこと、せんかい!」

 幽霊は出て来たんですが、熊さんの勢いに気
(け)押されてしもた。

「お前かい!幽霊は?何ぞ理由
(わけ)あるんやろ!」
「へぇ。お尋ねにあずかり、ありがとうございます。
 わたくし、福島羅漢前で左官
(しゃかん)渡世を営むからっけつの八と申します。
 てらざいで集めた金が300円。5円回してくれ、10円貸してくれと言われるのがイヤさに、商売もんのへっついに塗りこめて隠しました。
 勝ち祝いにふぐを買
(こ)うたが、これが悪(あく)ふぐ。ふぐ(「すぐ」のしゃれ)に料理して、ふぐに食たんですが、ふぐにあたって、ふぐに死んだ。
 それからとゆうもの、ああ、あのへっついはあっこに売られた。今度は、あこへ運ばれた・・・・・と、そこばかりに気が残り、浮かびもやらでおりました」
 福島羅漢前というのは地名。現在の福島区は、大阪の繁華街キタ(梅田)のある北区の近く。福島に五百羅漢寺という寺があったそうだ。
 「てらざい」とは、よく分からないが、要はばくちで儲けた金ということか?
 「浮かびもやらで」とは浮かぶ(成仏する)こともできずに、という意味。

「お前が、からっけつの八かい。わいもばくち打ちや、名前だけは聞いてるで。わいは脳天の熊五郎や」
「ああ、あんさんが脳天の熊五郎兄さん?お噂はかねがね。ひとつ、これをご縁に兄弟分に・・・」
「幽霊
(ゆうれん)と兄弟分になったりでけるかい」
「ほな、これ、もろて帰ります」
「・・・・わい、いつもやったら、こないなことゆわんねけどな。ここんとこ、さっぱりつかずでな」
「・・・・・・・・・・・・・つまり、なんぼか、礼をゆえ、と?」
「いや、ちょっと考えてほしいねん」
「礼でっかぁ・・・・・で、何ぼほど?」
「でや、すぱっと山分け、150円ずつゆうのは?」
「山分けぇ〜〜〜?!それは、ちょっとえげつない」
「ふ〜〜ん。ほな、出るとこ、出よか?」
「わて、出るとこ出られへん。・・・・・しゃあない、
(やけくそで)もってって!」
「えへ、ほな、お言葉に甘えて」
(悔しさのあまり涙声で)こんなんやったら出るんやなかった。こんな半端やったら、出るんやなかったわ!」
「ほぉ〜、お前、150円は半端かい?いや、俺かて半端より300円すっくりの方がええ。でや?丁半ばくちで取り合いゆうのは?」
(目を輝かせて)あんた、サイコロ持ってなはんの?」
(ふところからサイコロを取り出し、何度も振って見せる)どや?自慢のサイコロや」
「うわぁ〜〜 懐かしいなぁ〜〜

・・・・・・・ちょっと振らしてもろて、よろしぃか?
(両手の甲を前に見せたままサイコロをつまみ上げ、そのまま、ぎこちない手つきで振る)
いやぁ〜〜〜    ええサイですねぇ〜〜〜    たまりませんねぇ〜〜〜」
「おかしな手つきすな!
(いつまでも振っているので取り上げ、湯呑みにほりこんで伏せる)

 さあ!お前の方から口、切らしたる」
「わたい、丁からほか、張ったことおまへんねん」
「で、何ぼいく?」
「すぱっと150円!」
(思わず顔を見て)お前、根性ええなぁ」
「いや、わたい、別に根性ええことないんです。
(後ろを振り返る。夜が明けかかっている?)もうじき、消えな、あかんので」
「よし、ほなわれが丁に150円、わいが半に150円やな?
 勝負!
(と、湯呑みを持ち上げ、中のサイの目を見る)
・・・・・五六の半!」
「ふぅ〜〜〜〜」
(と、幽霊は気を失って、後ろへ倒れる)
「ゆうれん
(幽霊)が腰抜かしたりすな!」
(意識を取り戻し)五六かぁ・・・・・。今まで、五六の半出た後は、たいがい丁が出まんねん。どうですやろ?もう一番」
「あかん、あかん。第一、お前、金、持ってへんがな」
「いや、私も幽霊。決して足は出
(だ)さしまへん」 

 「子はかすがい」でなければ良いが・・・と思ってたのだが、珍しい噺で非常に良かった。



  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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