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北京旅遊記(15)明の十三陵(神路)編−3麒麟獬豸の違い」

 さて、神路の石獣で麒麟獬豸の違い」について考えてみたい。

 まず、並んでいる石獣だが象、駱駝、馬の草食獣グループはわかりやすいので省略する。問題は、あと3種。肉食獣というか、神獣グループである。
 それで、まず、右のこいつが「獅子」 であることは間違いがない。
 「獅子」像の特徴は、そのたてがみ。
 関西風に表現するなら「奈良の大仏っつぁんのアタマ」、つまりパンチパーマ的にくりくりと細かくカールしてるのが特徴である。

 これは、故宮に限らずチャイナな場所に「狛犬」よろしく鎮座している夫婦獅子を見ればわかる。
獅子

 一つ除外されたので、残る容疑者は二つ。
 左下の写真を容疑者A、右下を容疑者Bとする。

容疑者A 容疑者B


 次に、AとBの違いを列挙してみる。

 
たてがみ なでつけられている。 はね上げられている
中央に1本 2本
全身 全体的につるっとしている(獅子に似ている) うろこのような模様あり
四肢 ところどころ丸い模様あり(獅子に似ている) 風に流れる「雲」のような模様あり
すね 特になし すね当てのような小判型の模様あり
背中 特になし 背びれのような、たてがみあり

 この中でも、大きな違いは、(1)たてがみの形と(2)角の数といえる。
 と言うのも、Aはかなり磨耗しているので、それ以下の特徴は「昔あったけど、すり減っちゃった」と言われると反論しきれないのだ。

文革期の、え〜と何だろ?  それでは、証拠物件1を。
 これは、既出の『北京』所収の写真。同書の写真キャプションを引用する。

 「怪獣 獬豸(カイチ)という、この怪獣は想像上の神獣で人の闘いを見ればその邪悪の方を角で突き、人の議論を聞けば不正の方を噛むという。
 また、一般に四不像と呼ばれているが、ウマ、ウシ、ロバ、シカに似ないという意。
 昔の裁判官の服に、この絵がえがかれていた」

 この文章を信頼するなら、この写真に対応するのは、種々の特徴から明らかにBであるから「獬豸はB」ということになる。一応、「神路」−1では、この説に拠った。

 続いて、証拠物件2を提出する。
 これも既出の『歩き方』の解説文章である。

 「石獣、石人
 〜碑亭の裏の参道両脇には、800mにわたり石獣・石人が並ぶ。これらの石像は巨石を彫り上げたもので、南から順に獅子、獬豸(想像上の動物で、もめごとのとき、不正なほうを角で突くとされた)、駱駝、象、麒麟(想像上の動物で、吉祥の世に出現するとされた。Giraffeとは違う)、ウマ、武官、文官、功臣の順に各4体ずつ並んでいる〜」

 私らは、この文章とは逆に、北から一方通行で進んだ。出会うのは、麒麟、獬豸の順である。で、デジカメの記録順を調べると、Bを撮って、象、駱駝と撮り、A、そして獅子となっている。
 ということは、「獬豸はA」ということになる。第1説と矛盾してしまった。

 そこで、いったん石像の説明から離れ、独自に獬豸や麒麟の定義を調べ、その後で石像の写真と比較してみることとする。

辞書の?豸  さっそく手元の広辞苑で「獬豸」をひいたが載っていない。で、角川新字源をひくと・・・ありました。証拠物件3

 「獬豸(かいち)は、牛に似た神獣の名。人の正不正を知り、不正な者をこらしめるという。後世、そのすがたを裁判官の服にえがいた」

 左上は、添付の挿絵だが、よくわからない。

辞書の麒麟  続いて、新字源で「麒麟」をひく。証拠物件4である。

 「中国の想像上の動物。顔はおおかみ、身体はしか、尾は牛、ひづめは馬に似て、五色にかがやき、聖人が出ると現れるという。

 おすを麒、めすを麟というが、異説もある」

 左上は同じく挿絵だが、へなへなの龍のようで、ますますわからない。 

 さすがに「麒麟」の方はあるだろうということで、広辞苑をひく。証拠物件5

 「(牡を「麒」、牝を「麟」という)中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物。形は鹿に似て大きく、尾は牛に、蹄は馬に似、背毛は五彩で毛は黄色。頭上に肉に包まれた角がある。生草を踏まず生物を食わないという。一角獣

 この広辞苑の説明で混迷が増す。背毛という点では「Bが麒麟」。しかし、一角獣という点では、「Aが麒麟」。

 次に、証拠物件6として、『中国の神獣・悪鬼たち』(著:伊藤清司。東方書店)から引用する。

 「麟も麕(のろ)の身・ 牛の尾、そして一角を頭上に飾る怪異な合成獣である」 
  麕というのは、広辞苑では「シカに似るが小さく、角が短い」とあり、新字源では「しか科のけもの。しかより小形でつのがなくきばがある」。

 右は前掲書所収の山東省武梁祠画像石の麒麟。

 やっぱ角は、耳の間に1本。となると、「Aが麒麟」か?
画像石の麒麟

 しかし、身体全体の鱗のような模様を見ると、「Bが麒麟」ということになる。むむむ。

 証拠物件7として、日本人にとって最もポピュラーな麒麟像を取り上げる。じゃ〜ん!
 出典は、キリン一番搾り缶ビールの紙ケース。

 これからいくと、たてがみの形、流れる雲のような模様(毛?)、身体の鱗のような模様、しっぽにつながる背毛。どこを取っても「Bが麒麟」という結論に至る。
あ〜、美味そう

 ただ、残る大きなネックは、右上の麒麟も1本角であること。え〜い、いっそのこと、「Aが獬豸、Bが麒麟」。でもって、Bの角は、製作者の間違い・・・・ということでいかがなもんでしょうか。

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