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京劇の世界(9)中国京劇院大阪公演鑑賞記その2

5 閙天宮(1)
正装の悟空   幕が開く。舞台中、サルだらけ
  前方に手を伸ばしコサックダンスしてるサル。ボール(桃)の取り合いをしてるサル。「自分の腕で縄跳び」(←わかりにくいが、観劇した人はわかると思う)するサル、岩穴に飛び込み前転するサル。
 手下のサルたちを従えて登場した孫悟空。

  斉天大聖
としての衣装(制度衣)を身にまとっている。
 頭のキジの尾羽根を使った演技を翎子功(リンズゴン)というと、「扈家荘」のとこで紹介したが、ここでも翎子功大活躍。
  手招きで手下を呼び、羽根の先でくすぐる。嬉しそうに「アヘアヘ」となってるサルがおもしろい。

 仙女たちと出会って、自分が宴会に招かれていないと知り、怒り心頭に発する悟空。
  身体を震わせながら退場。

 


6 閙天宮(2)

 次の場面、悟空の衣装が、水袖のついた蟒袍(マンパオ。帝王宰相などの衣装)から、猴衣という武技用の軽装に変わっている。頭の羽根もない。

 最初は觔斗雲に乗っている設定。宴会場である瑶池に着地して、見張りの童子を術で眠らせる。
 卓上の仙桃をかじる。次は酒だ。少し味見して、酒瓶の口をくわえ、横を向く。
 目をぎゅっ!とつぶり顔を「くしゃおじさん」(←誰も知らんか?昔、顔をぎゅっとしかめると顔の長さが半分くらいになるになるという特技を持ったおじさんがTVで評判になったのだ)のようにしかめる。そして目を見開き、顔を伸ばす。また、しかめる。
 その繰り返しで酒を飲んでいくさまを表現する。その演技が観客に見えやすいよう、横を向いたのだ。

 袋に桃を詰め込み、いったん退場。酔いがまわって千鳥足(酔歩=ヅェブー)になる悟空。 
軽装の悟空

 


7 閙天宮(3)

 酔って道に迷い、天の兜率宮に着く。
 赤い葫蘆の中の金丹を見つけ、炒り豆のようにむさぼり食う。
 葫蘆を口にしてあお向けになり、足をばたばたさせ、口の中に流しこみ、残らず食い尽くしてしまう。食ってしまえば、こんなとこに用はないとばかりに退場。


8 閙天宮(4)

 悟空軍を征伐すべく大集合した神将たち。
 総指揮は、李天王。左手に宝塔を持っている。「李靖は手に塔を持つのでふつう托塔天王といわれている〜托塔を護法の天神とし〜」(窪徳忠著『道教の神々』

 下っ端的な戦力としては六丁六甲青龍白虎羅猴
 「きれいどころ」としては、白服の月孛星君、赤服の紅鸞の女性コンビ。

 とにかくデカイのが巨霊神。顔の上の方に「顔」が描いてあるので、どこにほんものの目があるのかわからない。
 以前、北京京劇院奈良公演の「水淹七軍」で周倉が出た時、「周倉は腰を後ろに突き出した特殊な扮装をしており、独特のしぐさをする」とパンフレットにあった。この巨霊神も同じ。なにかというと、ケツを突き出し、ケツから進む
 昔、吉本新喜劇の座長で岡八郎(奥目のはっちゃん)という俳優がいて、ケンカになりそうになると「俺のこの構えにスキがあったtら・・・・・どっからでもかかってこんかい!」と言って、ケツを突き出した珍妙なファイティングポーズを取るというギャグがあった。(その体勢のまま、自分でお尻をぼりぼり掻き、その手を鼻のところに持っていって、「くっさ〜〜、えっげつなあ〜〜」というとこまでが定番ギャグだったが、それは本編と関わりがない)
 巨霊神も、その岡八郎的なアクションを・・・といっても余計わかりにくくなったかな?

 有名なエース級としては、二郎神那咤(なた。正しい漢字は「哪」と「口」+「托−扌」)。
 二郎神については、前記『道教の神々』では「その由来については〜その第一は、『朱子語類』などにみえている李冰かその二男とする説〜第二は、隋の隠士の趙c(U)だという説〜『封神演義』楊戩(ようせん)を二郎神とする説もある」とある。
 また、『中国の神さま』(著:二階堂善弘。平凡社新書)には「三ツ目であること、また先が三つに分かれた三尖刀を持っているのが特色です」とある。

天王軍の面々  「哪た」については、前記『道教の神々では、「托塔天王と哪た太子とを、親子に結びつけたのは『封神演義』である〜道教では神兵や神将の統帥と考えて中壇元帥という」とある。
 また、前記『中国の神さま』では、「現在でも広く人気を集めている少年の神が哪た太子です。また、「哪た三太子」、「中壇元帥」、「太子爺(タイズイエ)」などと呼ばれます〜その宝物は、『封神演義』での「混天綾(こんてんりょう)」という布、それから「乾坤圏(けんこんけん)」という輪っか〜「火尖槍(かせんそう)」という槍を持ちます」とある。


 さて、天王軍総出撃で、全員いったん退場。

 


9 閙天宮(5)

 
いよいよクライマックス。
 悟空を先頭に、登場したサル軍団。手下をヨシヨシしてやる悟空。なかなか部下への配慮を忘れない、いい上司といえよう。

 先鋒は、東方の守護神、青龍。さすが、青龍刀を持っている。
 
この辺から強い違和感を感じる。悟空の感じが今までと違うのだ。
 何か、妙に重心が高く、ひょろひょろしている。さっきまでより足が細く、ふらふらした感じを覚える。
 
青龍との立ち回り、如意棒を首にかけてくるりと回したりするのだが、立ち回りのスピードが明らかに遅い。遅すぎる

 棒を空中高く放り上げた。その棒を、背中に回した手で、すぱっ!とつかむ。見事な後ろ手キャッチ!・・・・・・・の筈が、落とした・・・・。場内に「あ〜〜あ〜・・・・」という失望とも落胆とも同情とも何ともいいようのない嘆声が広がる。

 西方の守護神、白虎登場。しかし、悟空は「相手にできん」といった感じで手をちゃっ!ちゃっ!と振る。しかし、白虎は気を取り直し、青龍と二人がかりで悟空に挑んでいく。
 棒の先で、トンボの前で指を回す要領で、青龍の目を回してしまう悟空。

 彗星神、月孛星君の登場。肩口や腰周りの飾りは水色だが、ボディの服は白色。その白服は少しダブッとした感じなので、失礼ながら、ドリフターズ(←古いな)のギャグとかで相撲取りの格好をする時に着込む「肉襦袢(にくじゅばん)」のようだった。
 悟空は、またも手をちゃっ!ちゃっ!と振り、まともに取り合わない。女性っぽい仕草をして、月孛をからかう。
 手下を呼んで、四匹の猿に戦わせる。その間、悟空は、後で座って見ているのだが、心底疲れて休憩しているように見える。

 吉運の星神、紅鸞が助っ人に現れる。おっとり刀で、悟空出陣。
 続いて、両刀の槍を携えた哪た登場。
 しかし、悟空は哪たを子ども扱い(実際、子どもなんだが)。
 哪たの槍を棒で押さえ込んで、涼しい顔。哪たは輪っかをたすき掛けにしているが、そいつをぐっと掛け直し、右手をぐるぐる回して気合を入れて、ぐ、ぐ、ぐぐっと持ち上げる。どんなもんだ、と得意顔の哪た。
 は、は、は。よくやったなとばかり、哪たの頭をなぜてやる悟空。
 ほっぺをぷ〜!っとふくらませ、地団太を踏む哪た。子どもっぽく、はつらつ、キビキビしていて、可愛い。

 突き出した槍を足で挟んで取り上げてしまう。哪たは今度は輪っかで挑みかかるが、悟空は槍を返して、輪っかを取り上げてしまう。
 その輪っかを空中高く放り上げ、足の先で受けとめる。冷や冷やしたが、これは無事成功した。そのまま、つま先に通した輪っかをグルグルグルと回す。
 ひとしきり、輪っかを使ったジャグラーのようなパフォーマンスを見せ、ぽ〜ん!と輪っかを哪たに返す。そして、棒を空中に跳ね上げて、すぱっ!とつかむ。そして両者で見得を切る・・・・・・・・筈が、棒を落とした・・・・・・・。あ〜〜〜〜、再び低い嘆声が場内をおおう。

 悟空は、四匹の猿を手招きした。そして逃げるように退場してしまった。哪たは、四匹の猿とともに退場。

 神将軍団である六丁六甲の一人と戦っている手下の猿。健闘していたが、六人とも出てきてしまった。足をプロペラのように回して旋回するパフォーマンスを見せる。

 さて、悟空が戻ってきた。あれ?やたら元気だぞ。まるで別人だ。腰がしゃんと据わっている。
 手下も、親分が帰ってきて元気づく。よし、よくやったぞ、とねぎらう悟空。

 今度の相手は羅猴。鼻を中心に白く塗る化粧は「小花臉(シャオホアリエン)」という。道化役の(チョウ)という役柄(=行当。ハンダン)の特徴である。猿と猿との戦いだが、悟空は気乗りしない。背を向けてしまったところ、羅猴は悟空の棒を後からぱ〜んと払って挑発する。日本刀で言うところの鞘当みたいなものだろうか。しかし、しょせん相手にはならない。

 続いて登場するのが河の神である巨霊神。武器は両手に持ったでっかいマラカスみたいな錘(すい)である。
 素手の勝負に持ち込む悟空。いったん取り押さえられたようにおとなしくする悟空。縄を取り出し、縛り上げ、「召し捕ったり〜〜!」と得意満面の巨霊神。しかし、悟空の縄はかかっておらず、逆に足首を縛られ、退散する巨霊神。

 二郎神が登場するが、二人のからみはすぐ終わる。両軍入り乱れての大立ち回り。旗を持ってのトンボ返りは見た目にも派手だ。
 天王軍が総がかりで悟空を取り押さえた!、と思ったら羅猴だったなんてお約束のギャグも織り交ぜながら、結局天王軍は退却する。
 悟空は快心の呵呵大笑。ジュラルミンの棒に持ち替えている。私は、北京の湖広会館で観た「借芭蕉扇」でもそうだったので、うん?あれかと思ったが、案の定、その棒をバトントワラーのようにブンブンと回し始めた。湖広会館で観た演技ほどのスピードはないが、残像が光を反射し、美しい。

 手下にかつぎ上げられ、勝利を寿ぐ悟空、で幕。 




 李光・李岩のダブルキャスト問題、そして会場での隣のお客さんとのエピソードについては次回にまわしたい。

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