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(No03) 上方落語名人会鑑賞記(平成15年)

  1年前、家に送られてきたあるPR誌に上方落語名人会の優待券の案内が出ており、聴きに行った・・・というのは、「鑑賞記」(01)で書いた。今回も同じく案内が来た。
 前回は「当日3000円のところ、1800円」であったが、今回は「当日3300円が1500円」になるらしい。1年ぶりに大阪桜橋サンケイホールに足を運んだ。


(1) 桂 かい枝 「いらち俥」

 トップバッターをつとめるのは、かい枝。昨年は林家染雀だった。
 会場で「新進花形落語会」(6月28日)のチラシが置かれていたのだが、それは「新進落語家競演会」新人賞の歴代受賞者8名が出演するものだった。
 それによると、平成14年の受賞者が染雀で、かい枝は15年の受賞者だった。

 いきなり、「噛んで」しまう。やはり緊張しているのか。
 しかし、師匠文枝の物真似で会場がどっとわいてから、調子が出てきたようだ。

 「まくら」は、文枝の運転手をつとめた時の失敗談。やはり師匠の物真似がうける。
 本編が人力車の噺なんで、自動車の話題からスムーズに移行する。

 梅田の「すてんしょ」(=ステーション。駅)に行きたい客が人力車を拾うが、一人目は病人の車夫で、やたら遅い。
 乗り換えると、次の車夫はやたら元気がよくて・・・という噺。
桂かい枝

 噺の出来の割に、とにかく場内がわいていた。
 本人が冒頭にギャグで言っていたように「今日は、場内にたくさんの親戚が来てくれてる」のか、ベテランに囲まれた若手を盛りたててやろうという暖かい声援なのか。

(注) たしか、次の染丸師匠が言っていたのだが、「古典落語は用語がわからんというご意見をよう聞きます。とゆうて、一言ずつ解説してると噺が進みまへんのでねえ。そのうち、落語もイヤホンでガイド放送付きで聴くてな時代になるかもしれまへんなあ

 私は、ずっと関西人だし、落語も昔から好きだったので当たり前のようにわかる言葉も、これをお読みの皆さんにはわかりにくいかもしれない。それで、くどいかもしれないが、できるだけ用語の解説を加えたい。自己流の解釈ですけど。

「いらち」=せっかち。まどろっこしいことがあると、いらいらいら〜っとしてしまう性格。
「噛む」=言い間違う。セリフをとちる。
「まくら」=落語で、本編に入るまでの前置き。落語家自身の身辺雑記などを語ることも多い。
 三遊亭圓生には『噺のまくら』(朝日文庫)、柳家小三治には、『ま・く・ら』『もひとつ ま・く・ら』(講談社文庫)など、まくらの部分だけを収録した著作もある。



(2) 林家 染丸 「軒付け」

 軒付けとは、よその家の軒先で浄瑠璃などを語ること。
 この噺では、プロの芸人ではなく、素人衆が、技量向上のため町内をまわるのだが、病人がいるからと断られたり、いきなり怒鳴られたり、静かに聞き入ってると思いきや空家だったり、と散々な目にあうという噺。

林家染丸  いつもの三味線担当が忙しくて、代役で来た「紙屑屋のてんさん」は、「テンツテンテン」、「トテチン、トテチン」、「チリトテチン」の3種類しか弾けない。

 仲間に入れてくれと、今日から加わってきた男は、以前、浄瑠璃好きの家で軒付けをした時に、語らせてもらった後「うなぎのお茶漬け」を食べさせてもらったことがあると聞いて、うな茶目当てで参加している。

 次々に失敗しているというのに、てんさんはお構いなしに「テ〜ンツ テン テ〜ン!」と高らかにばちを弾きあげる。

 「もう よろしいねん。テンツテンテンは!」と早々にこの場を立ち去ろうとしているのに「うなぎのお茶漬けは・・・」と催促する男に「ありまっかいな、そないなもん!」と世話役がキレかかる、という繰りかえしのギャグが見せ場のひとつなのだが、もう少し「うなぎの〜」という所をテンポよく、たたみかけるように演じた方がおもろいねんけどな、と感じた。

 生意気なことを言ったが、さすが「日舞や邦楽の素養を生かして演じる『音曲噺』『芝居噺』の第一人者」とパンフにもあるように、三味線、浄瑠璃の描写もうまく、楽しめた。



 


(3) 笑福亭 仁鶴 「人形買い」

 仁鶴は、やはり「声」に独特の味わいがある。TVでおなじみの声を耳にすると「おお、仁鶴や」(←何のこっちゃ?)と感じてしまう。

 テンポも独特だなあ。
 ずっと昔、TV(「ヤングoh!oh!」とか。ふっる〜!)で「どんなんかな〜!」なんてギャグを飛ばしていた時はかなり早口だったが、最近はずいぶんゆっくりだ。

 NHKで、土曜の昼に、漫才師がコントで相談事例を演じ、芸能人(上沼恵美子とか赤井英和など)が回答し、弁護士が正解を解説する・・という「行列のできる法律相談所」のほのぼの版みたいな番組をやっている。
笑福亭仁鶴

 仁鶴は、その司会をやっているのだが、ゆっくりと、しかも、何か感情がこもっていないというか、本を棒読みしているような口調でしゃべる。

 貧乏長屋で、金を出し合い、五月人形を買ってお祝い返しにする・・・という噺なのだが、どうも、この棒読み口調が気になる。もう少し、活発にいけないもんやろか。
 人形屋の小僧さんが退屈まぎれに、店の裏話などをしゃべるとこなど、おもしろいとこはおもしろいのだがなあ。
 


(4) 桂 春団治 「いかけ屋」

 
春団治師匠、十八番のネタ。穴のあいた鍋・釜などの修理をするいかけ屋を、町内の悪がきどもが取り囲み、散々になぶる(からかう、悪ふざけをする)噺。

 前回も書きましたが、春団治師匠は、羽織を脱ぐ瞬間、期待してじっと見つめてしまいますねえ。で、期待に違(たが)わず、両袖同時にしゅっ!と滑らせて羽織がはらり!と肩から落ちて床へ。思わず拍手がしたくなる。
 春団治師匠は、これができなくなったら引退するんとちゃうやろか
桂春団治  会場に「桂春団治一門新聞」というのが置いてあった。一門の落語会の案内等が載っている。新聞のタイトルがいい。
 「とらとやな」というのだ。タイガースの「虎」とかと関係がないとしたら、おそらく、この「いかけ屋」からとったものだろう。

 いかけ屋に、何度も「とらとやなあ、おったん」と声をかける子どもが出てくるのだ。

「ぷっ!舌もまわらんくせに、いっちょまえになぶってけつかる(一人前に、からかってやがる)。何や。何が、そらそうやなあ、やねん?」

 またまた生意気を言うと、特にまくらの部分で「舌打ち」がやや耳にさわる。喋り終わったとこで、ちょっ!と舌が鳴って、つぎの喋りになるのだが、気になりだすと、どうも段々気になって・・・。
 それと、子どもらがからかおうとする時、いかけ屋が下を向いてぶっ!と少し吹き出して、苦笑いしながら問い返すという演出が続くので、もうちょい変化がつかないもんか、と思う。




(5) 露の五郎 「蛸坊主」

 私にとっては、露の五郎といえば、「すけべえのごろやん」なのだが、「ええ具合に枯れてきた」と前回の箸休めで書いた。

 しかし、今回は少し枯れ過ぎかな。
 高座ののぼりおりに、ちょっともたついていた。足とかの調子がお悪いのかもしれない。
露の五郎  源平池ほとりの有名な茶店にやってきた4人の僧侶。「戒律がきびしいのでなまぐさものは困る」と言い置いて、まず吸い物を注文した。

 吸い物を味わってから、主人を呼びつけ、製法を尋ねる。
 鰹節で「出汁(だし)」を取ったと聞くや、「なまぐさものはいかんと最初に断っていたのに。汚れてしまって、長年の修行がふいになった。これでは高野山に帰れない。かくなるうえは、この店で養ってもらわざるをえない」とけつをまくる。

 僧侶だというのに、ずいぶん武張った、さむらいのような口調だな、と思っていたのだが、要は「ゆすり、たかり」の類だったのだ。

 ところが、たまたまその店に居合わせた、ほんものの高野山の高僧が、連中がいんちき坊主ということを見抜きこらしめる、という噺。

 もともと笑いの少ない噺である。淡々と終わってしまった。

 なお、タイトルの蛸坊主とは、高僧に「このなまぐさ坊主、蛸坊主どもめ!」と一喝され、「蛸坊主とは何だ!」と激昂する4人組。
「わずか老僧ひとり」とあなどって、つかみかかろうとするところ、次々に池に頭から放り込まれ、水面には4人の足だけが出て「ほ〜れ、蛸坊主」という「落ち」に由来する。



(6) 桂 文枝 「口入屋」

 口入屋とは、今でいう職業紹介所である。

 求職側で集まった女性たちに口入屋が「どんな店で働きたい?」と尋ねる。

「月に二へんはお芝居に連れて行ってもろて、仕事が楽で、お給金のええところ」

「遊びに行くんやないで。あんたは?」

「ごりょんさん(=ご寮人さん。主人の奥さん)が病気のお店(たな)が」

「感心やな。病気のごりょんさんの手伝いをしようゆうのやな」

「いや、そうゆうお店やったら、だんはん(旦那さん。店の主人)がおなごし(=女子衆。女中さん)に手え、つけなはる。
 そのうち、ごりょんさんがお亡くなりあそばすよって、後添え(後妻)に直って、おなごしの二人も置いて、遊んで暮らせるようなお店がよろしい」

「お家横領を企てとるんやなあ」
 古着屋の小僧が、求人側でやってくる。
 いつもは「一番不細工な、おなごしを」という注文であるのに、今日は別嬪さん(べっぴんさん。美人)がいいと言う。

 なぜ、不細工という注文をごりょんさんがつけるか、と言うと、一番番頭はじめ、いい年をしてひとりものばかりなので別嬪のおなごしが来ると夜中じゅうやかましくて困るからだった。

 今回は、その番頭が、小僧に「十銭やるから」と買収し、美人を連れてこさせた。
桂文枝

 案の定、番頭以下、仕事がろくに手につかない。
 普段は散々こきつかう番頭が今日に限って日の高いうちから店を閉めさせ、丁稚連中には、めしも食べないうちに「やれ寝ろ、それイビキをかけ」と寝かしつけようとする。

 夜中になって、二番番頭のもくべどん(=杢兵衛どん)が夜這いをかけようと、おなごしのいる二階にあがろうとするが、鍵がかかっているのであがれない。

 ならば別ルートで、と膳棚(ぜんだな。食器棚)を足がかりにして薪山(きやま。二階へつながっている袋戸棚)から二階へあがろうと作戦を立てる。
 しかし、膳棚の腕木にぐっとつかまった瞬間、腕木が腐っていたのか、がらっと傾く。あわてて肩を差し入れる杢兵衛。

 一番番頭も目をさまし、同じく膳棚を足がかりにしようと、杢兵衛が支えているとは知らずに、反対側の腕木に手をかける。
 やはり、腕木が外れて棚が傾き、あわてて肩を。
 暗闇の中で、二人して両側から「ぜんだな かたげる」(膳棚をかつぐ)ことになった。

 そこへ、三番番頭のきゅうしっどん(久七どん)が。
 彼は、天窓から下がった縄につかまって、と目論んだが、折悪しく天窓が閉め忘れられていた。支えを失い、はずみでするするする〜っと井戸の中へ。

「ああ、そこにいてはるのは番頭はんともくべどんでっか?たのんます!助けとくんなはれ〜!」

「あほ、わてらかて動けるかい」

「こら、もくべどん。動きな!膳棚が傾くがな。
あっ、中でなんぞこけた(何かが倒れた)。醤油の瓶やな。
流れてきたがな。あっ、あっ、背中につとて(伝わって)きた。
わて、やいと(お灸)すえたとこやねん。ああ、しみる〜!
 
「そないなこと、言わんと!
番頭はんらと違(ちご)うて、わたいの場合は命に関わりまんねから。
もう腕がしんどうて、おいど(尻)、もう水に漬かってまんのんで。
もう、あかん。誰ぞ、助けて〜!!」

 こらえきれずに大声をだしたので、ごりょんさんが店の様子を見に来る。明かりをかざして、井戸の中をのぞいてびっくり。

 「えらいこっちゃ。誰ぞ、いてまへんか。誰ぞ・・・」と店の中をうかがって、またもびっくり。

「あらま、お店のもん、総出やがな。これ!番頭はん。もくべどん。膳棚かたげて、いびきかいて、いったい何してなはんねん?」

「へい、宿替え(やどがえ。引越し)の夢、見てまんねん」

 名人会のとりを飾るに相応しい、大爆笑編であった。
 しかし、確かに、若い世代には「かたげる」とか「おなごし」とかの言葉はわからんやろうなあ。
 「きやま」は、私も意味がわからず、『桂枝雀のらくご案内』(ちくま文庫)を参考にした。

 


6時開場、6時半開演。4席語って、10分間の仲入りで、全部終わったら9時半近かった。
 また、機会があれば行ってみたい。

 

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