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アジア映画れびゅう(8) 「スケッチ・オブ・Peking」 
 

(ご注意)かなりネタばれです。まだ観てなくてストーリーを知りたくない人は、お気をつけください。
 
また、記憶違いなども多いでしょうが、ご容赦ください。


「スケッチ・オブ・Peking」

(ストーリー)
 楊国力は、入署7年目の中堅警察官。初めて王連貴という新人の指導にあたることになった。
スケッチ・オブ・Peking 
 自転車を連ねて、受け持ち地域の特徴を教えたり、住民委員会の役員への顔つなぎを行う。

 新人指導もさることながら、日々の業務も忙しい。所管地域で住民が野犬にかまれる事件が続いた。
「これは、住民の安全に関わる問題だ」
 署長の命令一下、警官総出で野犬刈りが始まる。

 時あたかも北京市では、飼い犬禁止条例が施行された。届出をして多額の「犬税」をおさめた市民以外は犬を飼えなくなったのである。

 昼夜兼行で市民が犬をこっそり飼っていないか、立ち入り調査を続ける。
 夜勤続きで、妻との仲もぎくしゃくしがちだ。

 そんな折り、王連貴が、ある家で犬を押収しようとしたところ、そこの主人から侮辱されたとの情報が入る。連行して事情聴取する楊国力であったが、王小二という名のその主人は、「侮辱したというなら証拠を見せろ」とつっぱね、なかなか容疑を認めようとはしない。

 連日の激務で疲れがたまっていたこともあり、だんだんイライラが募ってくる楊国力。事情聴取の途中で席を立ち、勝手に帰ろうとした王小二ともみあううちに、つい彼に暴力をふるってしまった・・・・・・

(ひとこと)
 楊国力は、ユースケサンタマリアとか、K−1の武蔵みたいな顔をしている。まあ、庶民的なお顔立ちだ。出演しているのは、現役警官をはじめ、ほとんどが素人らしい。

 受け持ち地域の住民委員会の役員はすべて女性。なにかぞっとするような密告組織というか、戦時中の「隣組」のようであった。
 中国では、いわゆる「一人っ子政策」をとっている。役員が、新顔の王連貴に苦労話をする中で「所管地域の出産可能女性130人の避妊状況カードを揃え、常に把握している」とか「妊娠した女性に中絶を勧めるのが大変なの。6ヶ月でも処置できるのよ」なんて言うのだ。

 北京で飼い犬の散歩姿をほとんど見かけず、ガイドさんに尋ねたら、高額の税金を払わないと犬は飼えないと聞いた・・・って話は「北京旅遊記」に書いた。その条例は、この映画によると1994年(偶然にも戌年!)に施行されたようだ。
 こっそり飼ってる市民を摘発するのも、さきの住民委員会が密告組織として機能する。あるアパートをガサ入れ(家宅捜索)する時、夫婦はとぼけるのだが、子どもに狙いをつけて尋問するシーンなどは見ていて、非常にいやな光景であった。

 映画の中では、あまり凶悪犯は出てこない。特別捜査官が賭博犯を捕えて連行したというので、どんなすごい奴かと思ったら、警察署の中庭で、貧相な男がしゃがんで、木の幹に手を回した状態で手錠をかけられている。
 楊国力が取り調べする時も、楊は机に座り、賭博犯はその前でしゃがまされている。
 「くにはどこだ?あ?山西か?陜西か?え?陜西?チャンイーモウ(張芸謀)『秋菊の物語』の、秋菊と同じ村か?」なんてのんびりした調子の取調べが続く。

 一方、王小二の件は、尋問の最初から力が入っていた。当然のことながら、日本でも外国でも同僚殺し(警官殺人事件)の捜査は一番力をいれる(入ってしまう)というが、その伝であろう。
 「明日の会議の準備の途中だ。早く帰してくれ」という王小二に対し、親の住所氏名本籍地、妻の年齢等々、直接関係ないようなことを延々と尋ねていく。
 妻の年齢を聞いては、顔をなめるように見て「ほお、ずいぶん年上だな」。
 親の職業を聞かれ、口ごもった王に何度も
臭豆腐屋です」「は?聞こえん」「臭豆腐屋です「もっと大きな声で」「臭豆腐屋です」とか言わせる。
 学歴を尋ね「小学校卒か。道理で、法規は知らんわけだ。新聞も読めないな」。
 「どこに証拠があるんだ」と屈しない王を挑発しているのだ。

 取調べの途中で中座し、上司に「一筋縄ではいかない。俺も夜勤続きで参っているし」と弱音を吐くが、「大切なのは、奴の鼻っ柱を折ることだ。まず、締め上げて、50元の罰金を取るんだ。何が何でも謝罪させろ。今後の連貴のためだ」と逆にはっぱをかけられる。
 「あいつ(王)は小卒のくせに大物気取りで腹が立つ」と毒づきながら取調室へ戻ると、連貴と王小二がもみあっている。
 「話にならん。俺はもう帰る」「何を!そんなことは許さんぞ」連貴が必死で止めようとするが、貫禄不足で旗色が悪い。あわてて、割って入る国力。いざこざの中で王が「クソ野郎」と口走った。
 「クソ野郎と言ったな。動かぬ証拠だぞ。お前達は俺たちのことをいつもクソ野郎だと思っているんだろう。あんまりなめるな!」
 激した国力は、王に往復ビンタを浴びせてしまった。

 場面は暗転して、「政府委員会からの処分内容を通告する」として文書を読み上げる署長が大写しになる。
 「暴行傷害事件を起こした楊国力は、賞与を3か月減額し、停職処分とする」
 政府委員会からの通告は続く。「警察官の暴行傷害に至るケースとしては、次の8つのケースがあげられる。1.確証がありながら、容疑者が否認するケース。2.・・・・・・・・」

 映画の画面は、この辺から字幕ばかりが延々と続く。次の「暴行傷害事件で被る8つの不利益」という内容がおもしろいので、紹介してみよう。
「   暴行傷害事件で被る8つの不利益
1.党と国家の体面に傷をつける。
2.警察と市民との協力関係に悪影響を与える。
3.冤罪を引き起こしやすい。
4.非行青少年の更生に逆効果である。
5.警察官自身が損害を被る。
6.警察官の個人的向上への影響。
7.一人の処分が、分署全体の評価を下げる。
8.警察官が規律違反で処分されると、家族の団らんにも影響がある。」

 この映画は、中で紹介されるエピソードすべてが実話に基づくものらしい。だとすると、当然演出はあるだろうが、この政府委員会の通告も似たようなものが実際にもあったのではないだろうか。
 8つの原因、8つの不利益といった具合にやたら数を並べようとするところ、暴行を受けた市民への謝罪は抜きにして、党と国家の体面や警察署の評価ばかり気にしてるところなど、いかにも「それっぽい」ではないか。
 
 映画は、署長ほか監督責任者の処分内容を告げて終わる。その内容が笑わせる。報奨金(←管理職手当てみたいなものだろうか)を減額するというのだが、その額はわずか50元。そう、上司が、王小二に払わせろといっていた罰金の額と同じなのだ。なんとも皮肉なラストである。

(資料)
1995年中国作品
監督:ニン・イン(寧瀛)
主演:楊国力→リー・チャンホー(李占河)、
    王連貴→ワン・リエンクイ(王連貴)、
    王小二→チャオ・チーミン(趙志明)
原題:民警故事 On The Beat
★★★



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