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アジア映画れびゅう(51) 「白い風船」  

(ご注意)思い切りネタばれです。まだ観てなくてストーリーを知りたくない人は、お気をつけください。
 
また、記憶違いなども多いでしょうが、ご容赦ください。


「白い風船」

(ストーリー)
 現代のイラン、日本でいうなら大晦日。街では「新年まで○時間」という放送が流れる。

 ラジェという女の子が「お正月を迎えるのだから金魚を買いたい。あと3匹しかいないから、早く行かないと売れ切れちゃう」とお母さんにねだる。

 お兄ちゃんも味方につけて、根負けしたお母さんは、100トマーンの金魚を買いたいというラジェに500トマーン札を渡した。

 ラジェは喜び勇んで、金魚屋に向かったのだが・・・・。

 

 



(あれこれ)

 家の近所の広場では蛇使いが人を集めていた。

 ラジェはいつもその蛇使いを見物したがっていたのだが、お母さんに叱られ、その願いは叶わずにいた。

 ラジェは、見物人の大人をかき分け、最前列に出た。

 と、いきなり蛇使いの男が、ラジェが金魚鉢に入れていた500トマーン札をピンセットではさみ、「あなた方大人は誰も見物料を払ってくれないのに、このお嬢ちゃんは500トマーンも払ってくれたぞ」と宣言する。
 びっくりして、しばらく言葉も出ないラジェ。何とか気を取り直し、「お金を返して」と訴えるが、男は「蛇はお金が大好きなんだ。俺たちが受け取ったんじゃない。蛇が返してくれるかどうか、ここにはさむから、取り返してごらん」とうそぶいた。

 蛇のいる箱の入口に丸めて突っ込まれたラジェのお札。と、そのお札の真ん中から鎌首をもたげる蛇。

 何とかお金は、蛇使いのもう一人の男が「可愛そうに涙ぐんでるじゃないか。俺たちの芸は、みんなに笑ってもらうことなんだ。芸は終わりさ。お嬢ちゃん、笑ってくれたら、返してあげるよ」と、返してくれた。

 またも、元気に走り出すラジェ。

 金魚屋に着いて、あの太って白くてひれが長くて踊ってるみたいな金魚くださいと、店の親父に言う。

「あの大きいのは200トマーンだよ」
「ええ?100トマーンて言ってたわ」
「大きいのは200だ。小さくて可愛いのなら100でいいよ」

 しかし、ラジェはその時、金魚鉢の中にお札がないことに気付く。
 店の親父は無責任に「もと居た道をたどれば見つかるよ」と、厄介払いのように追い払う。ラジェは、持ってきた金魚鉢を店のカウンターに置いて、店を出た。

 ラジェは店のすぐ外で、呆然としていた。先ほどの金魚屋にいたお婆さんが、声をかけ、一緒に探してくれることになった。
 歩いてきた道をたどる二人。蛇使いがいた盛り場に戻った時、そのおばあさんは「こんなとこ、一人で来ちゃダメじゃない。女の子が一人で来るとこじゃないわ」とたしなめる。
 これに、ラジェが「前に、女の子がお父さんに肩車してもらって見物してたわ。お父さんにお願いしたけどだめだった。今日は、お母さんとお買い物した帰りに寄ろうと思ったんだけど、だめだって言われたの。いけないと言われるほど余計見たくなるのよ」とこまっしゃくれたことを言う。

 お婆さんは、とりなす様に「お母さんに、あなたは悪くないと言ってあげるわ」と声をかけた。
「じゃあ、誰が悪いの」
「・・・・・・本当はあなたよ」って会話がおもしろい。

 お婆さんとともに歩いた道をたどったラジェは、ある店の前の溝にはめられた金網にひっかかっている500トマーン札を見つける。「あった!」と喜ぶ間もなく、どこかのバイクがその溝の上を暴走し、目の前でお札は溝の中に消えた。
 お婆さんは、すぐ前の店は閉まっていたので、隣の店の主人に「この子が困っているの、手助けしてやって下さい」と頼んで帰った。お婆さんには愛想よく接していた親父だったが、来客とケンカを始めてラジェは「取ってください」と言い出すどころではなくなってしまった。

 ラジェはともかく金魚屋に行って、お金は見つかったから売らないでくれと頼みに行った。
 結局親父は、100トマーンにまけてくれたうえ、(レジェが置いていった金魚鉢はなくなってしまったので)鉢もサービスして「お金は後でいいよ」と渡そうとする。しかし、ラジェは「売らないでって頼みに来ただけなの」と言って受け取らず律儀なところを見せる。甘えないんだ。

 困っていたラジェのもとにやって来たのはお兄ちゃん。なぜか殴られたような顔をしている。(父親は、シャワー室から怒鳴り散らすような横暴親父なんで、その親父か?)

 隣の店主は、まだ先ほどの客とのトラブルで興奮していたが、最後は「私がやってみよう」と溝の中を棒でつついてくれた。

 閉まっている店の主人の住所を聞き、お兄ちゃんは訪ねていった。ラジェが一人で待っていると、少し前から様子をうかがっていた若い男が声をかけてきた。

 「お菓子食べる?妹いるんだ。君によく似てる。僕が怖いかい?僕はいいお兄さんだよ。力になってあげたくて。お金を取ったげるよ」
 警戒しながらも「妹に会いたいなら故郷に帰らなきゃ。バス代はいくらかかるの」
「兵隊の割引で300トマーン」
「お土産も買わなきゃね。400あれば帰れる?」
「お金くれるの?」と、きわどい話になる。

 と、そこへお兄ちゃんが帰ってきた。
「何で知らない奴としゃべるんだ。お母さんに言いつけるぞ」
「おい、言っておくぞ。俺が話しかけたんだ。彼女はしゃべってない」
「違うわ。私、話した」

 軍のジープがその男を迎えに来た。結局、この男は怪しかったのか、善意の男だったのか。走り去っていくジープにそっと手を振るラジェ。どこか「おんな」を感じさせるシーンだった。

 街角に風船売りの少年がやって来た。お兄ちゃんは、いきなりその少年から売り物の風船を付けている棒を奪い取りケンカになる。必死に止めに入るラジェ。
 
 棒の先につけるガムを買いに走ったお兄ちゃん。しかし、お金は持っていない。露店のガム売りの親父は目が不自由だった。横に座り込んで様子をうかがうお兄ちゃん。くすねるのか?いや、そこまではしなかった。
 と、先ほどトラブった風船売りの少年がガムまで買って戻ってきてくれた。
 3人でにこにこ笑いながらガムをかみ、棒の先につけ、競って溝の中の札に付けて引き出そうとする。

 そこの店の親父も、お兄ちゃんが残した「店まで来て下さい」という伝言を見てやって来た。と、その時、お兄ちゃんが、伸ばした棒がお札に届き、無事引っ張り出すことができた。
「さあ、早く帰るぞ」と妹を促し、さっさと立ち去るお兄ちゃん。
 店の親父も「何だ、自分で取れるなら何故呼んだ」と一瞬ぼやくも、風船売りの少年に「君もさっさと帰れ」と言い残して姿を消す。

 取り残され、呆然としている風船売りの少年。ただいま、イラン暦1374年の新年を迎えましたという放送でエンド。


 ラジェとお兄ちゃんは色は浅黒いが彫りの深い、いかにも中東って感じの子供だったが、風船売りの少年は、東アジアっぽいというかモンゴルっぽいというか、明らかに兄妹とは違っていた。

 金が戻ったとたん、兄妹はろくに礼も言わずに立ち去ってしまう。風船売りの少年は、あまりの豹変振りに固まっている。
 
 風船売りの少年は、お兄ちゃんよりは年かさのようだが、ここのサイトではこの少年はアフガン難民で、ラジェのお兄ちゃんが彼を無視するように立ち去ったのは差別しているのだという説が紹介されていた。実際にそうなんだろうか。

 「白い風船」というのも、なぜそんな題名がついたのかよくわからない。ラジェがお兄ちゃんを味方につけようとした時エサにしたのは青い風船だったし。
 白い風船といえば、戻ってきた風船売りの少年が持っていた棒に、最後一つだけ残っていた風船が白いそれだった。やはり、あの風船売りの少年が隠れメインキャラなのか。
 確かに、あの少年が感じたであろう「落差」には、観ている誰しもついつい深く感情移入してしまうのではないだろうか。 


 それと、街中に「あと何時間で新年を・・・」なんて放送が何度も流れてるのだが、少しも暗くない。ついつい日本で大晦日といえば、真っ暗い中での新年カウントダウンを連想してしまうのだが。

 どうもイラン暦の正月というと昼と夜が同じ時間の日、日本で言えば春分の日が元旦にあたるらしく、さらに、新年を迎えるのが午前0時ではなく、太陽が春分点を通過する瞬間なのだそうだ。
 まあ、それが具体的に何時なのかよくわからないんだが、それで新年を迎えた時が明るいことや、やたら細かく新年の時刻がアナウンスされること(逆に言うと、いつが新年の瞬間か、教えられないと分からない)が納得できた。 

 あと、100トマーンの金魚、500トマーン札の値打ちというのがピンと来ない。

 少し調べてみるとイランの通貨はリアルで、1円が約80リアル。で、トマーンというのはリアルだと桁が大きくなるので、通称的に10リアル=1トマーンと呼ぶらしい。
 それで、「500トマーン札」に数字が「5000」と書かれていたことに納得ができた。

 で、100トマーンの金魚は日本円なら13円かそこらということになる。
 が、映画の中でお兄ちゃんがラジェが欲しがっている金魚の値段を聞いて「100トマーンもするのか。映画が2本見られるじゃないか」というセリフがあった。日本で映画2本というと3000円から4000円くらいのイメージ。子供のセリフなんで子供料金と考えれば、大体1500円から2000円くらいのイメージだろうか。
 すると、映画の中でラジェに近寄ってきた兵隊が、遠い田舎に帰るのにバス代が割引で300トマーン、妹へのお土産代もあわせて400トマーンもあれば帰れると言っていたのともイメージが合う。

 すると、500トマーン札は、(単純な通貨レートでは100円玉相当だが)生活感覚としては5000円札か1万円札とみるべきで、こまかいお金がなかったのだろうが、7歳やそこらのラジェに持たせたのはどうか?って感じがする。
 となると金魚屋の親父が「だいたい、親がこんな子に500トマーン札を渡すのがいけないんだ」とぼやいてたのにもうなずける気がするのであった。


(資料)
1995年 イラン作品
監督:ジャファール・パナヒ
主演 役名 俳優
ラジェ アイーダ・モハマッドカーニ
アリ モーセン・カリフィ


★★★


 お疲れ様でした。

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