移動メニューにジャンプ

アジア映画れびゅう(50) 「きれいなおかあさん」  

(ご注意)思い切りネタばれです。まだ観てなくてストーリーを知りたくない人は、お気をつけください。
 
また、記憶違いなども多いでしょうが、ご容赦ください。


「きれいなおかあさん」

(ストーリー)
 舞台は現代の北京。

 孫麗英(スン・リーイン)は、息子の鄭大(ジョン・ダー)と暮らしている。タクシー運転手の夫は、息子が聴覚障害で生まれたせいか不仲になり、離婚した。わずかな養育費も滞りがちだ。

 息子を小学校に入れようと家で言葉を教える麗英。
 試験を受けたが「聾唖学校に入れたら・・・」と言われた。

 仕事が忙しくて、息子の面倒が見れなかったせいだと自分を責める麗英。
 昇進の話もあったが、もっと長い時間息子と一緒にいられるように、と退職して新たな仕事を探す麗英。

 そんな中、補聴器をからかわれてケンカをした鄭大は、大事な補聴器を壊してしまう・・・・・・・。


(あれこれ)

 重い映画である。鞏俐(コン・リー)がノーメイクで「母」を演じる。息子役の高忻(ガオ・シン)という子は、実際に聴覚障害者だそうだ。

 ダー・ホーという親友がいるのが救いだ。いろいろ愚痴を聞いてくれる。露店で本を売れというアドバイスもしてくれた。無許可だったので、警察の取締りにひっかかってしまったが。
 「あなたが男だったらよかったのに」と麗英は言っている。

 夫との関係も微妙だ。彼女は、別れた夫を責めない。養育料の遅延には文句を言うが。彼女は、別れたのは自分が聴覚障害の子供を生んだせいだと思っているのだ。

 入学試験の日、夫が様子を見に来る。息子のことを気にかけてくれていて、彼女は喜ぶ。久々に、父子の触れ合いの時間。

 夫はあっけなく事故で死ぬ。彼女は勤務先からの電話で知った。彼女はどう息子に伝えようか悩む。
 息子の好物のエビで例える。活けエビ。見てなさいよ、ともう一匹を茹でる。動かない。これが「死ぬ」ということ。
 でも、息子は「死ぬ」と(茹でエビの)「赤い」の区別がつかない。
「お父さんも死んだの」
「お父さん、赤い?」とはしゃぐ鄭大。

 彼女が珍しくお化粧をしている。同窓会なのだ。会場のトイレに入っていると、外に級友たちが来た。彼女らの話し声が聞こえる。彼女や息子の障害のことを陰口をたたいていた。いたたまれず、そっと会場を去る彼女。帰り道、一人でバスに乗り家路に向かう彼女。黙って酒瓶をラッパ飲みする彼女。
 家の近くでは、帰りを待ちわびた鄭大が道端に立っている。
 バスの中では、彼女は酔いつぶれて寝てしまっていた。息子と無事会えたのか心配だったのだが、映画では、もう二人は同じベッドで寝ていた。カットされた場面があるのかもしれない。

 試験を受けた小学校に方先生(ファン・ズピン)という人がいた。試験に落ちた母子を気にして様子を見にきてくれたのだ。
 ある日、彼女は息子とともに方先生の家に押しかけ、掃除を始める。純粋な感謝の気持ちのあらわれでもあるし、「校長先生に、もう一度試験を受けさせてもらえるよう頼んでもらえませんか」という打算も確かにあった。

 ある日、彼女は家政婦先でそこの主人に襲われる。
 彼女はその足で補聴器を売っている店に行き、5000元を叩きつけるようにして新たな補聴器を買う。
 鄭大は、その日も方先生の家で勉強を見てもらっていた。連れて帰ろうとしたが鄭大が、方先生に「お母さん、血を流している」と訴える。
 方先生は鄭大を落ち着かせて、寝かしつける。

 そして、彼女に暖かい言葉をかける。たまらなくなって、すがりつく彼女に「分かってる。全部子供のためなんだろう」と慰め、彼女は黙って何度もうなづく。
 「もう遅い。外は寒いし、風も強い。私は別の部屋で寝るから、このまま泊まっていきなさい」と言ってくれた。

 しかし、なかなか母子に、真のやすらぎは訪れない。

 また、悪がきどもに補聴器とともに、服装のことでもからかわれる鄭大。
 この赤い服は、鄭大にとって思い出の服。新聞配達をしている母の自転車かごから、新聞をくすねていった男がいた。鄭大は追いかけていって、何とかその新聞を取り返したのだ。
 なかなか覚えられなかった花(ホワー)という発音も覚えることができた。ある雑貨店で、赤いジャンパーに鄭大の視線が釘付けになっているのに気付いた彼女が、思い切って買ってくれたものなのだ。しかし、悪がきどもは、その服はニセモノだ、と散々笑いものにした。

 家に帰った鄭大は、頑として補聴器をつけようとしなかった。
 心配して方先生に相談し、来てもらった彼女。
 「もう少し居て下さい。父親がいてくれたら・・・・」と言ったが「もう遅いから失礼するよ」と先生は帰った。 

 もう勉強しない!学校にも行かない!補聴器も要らない!そんな鄭大に、彼女もキレてしまった。

「ママがいじめられたら、誰に言えばいいの!」
「ママはどこにも行けないの!あなたみたいな子がいるから!」

 道端に座り込んで、鄭大と視線を合わそうといない彼女。逆に鄭大が心配そうにのぞきこむ。そして、彼女を元気付けようとカラスの歌を歌う。
 彼女も強い母から弱い子供に返った。鄭大もわがままな子供から、かばう男に変わった。そして二人ともこれまでの自分を脱ぎ捨てた分素直になれた。

「なぜ、僕だけ補聴器をつけるの?」
「あなたは他の人と違うの。耳に障害があるから」

 これまで彼女は、うちの子は何も人と違わない。補聴器をかけるのは、メガネをかけるのと何も違わないと主張していた。それは確かにそのとおりなんだが、障害の存在に正面から向き合う点が欠けていたのかもしれない。
 
「ぼく、怖い」
「怖くない。ママが一緒だから」

 鄭大は、入学試験に再び挑むことになった。前回の時、彼女は教室のすぐ外で、必死に中をのぞきこんでいた。
 今回は、鄭大を一人で送り出した。
「落ちたらどうしよう」
「今年がだめなら、来年また受けたらいいのよ。もしだめなら、再来年。
ママがいるから大丈夫。勇気を出して行ってらっしゃい」
「・・・・ぼく頑張るよ」
「夕飯はエビよ」

 小学校の校門に児童達が入っていく。赤い制服を着ている。その中に紛れて入っていく鄭大。一人で試験に挑むのだ。母のエビという言葉に、振り返って嬉しそうな笑顔を見せる鄭大。 

 彼女のナレーションがかぶってラスト。「ずっと鄭大は私の失敗だと思っていた。でも、鄭大の方がずっと勇気があることがわかった」

 確かに前半の麗英は重かった。鄭大は優秀だ、他の子供に比べても何も劣ってないと主張しつつも、「私の責任だ」と罪悪感を持ち続ける自己矛盾。
 私がこの子のすべてを・・・という過剰な母性本能。それが最後に自然体になった。だからといって、二人がそのまま安定的な幸せをつかむかどうかはわからないのだが。

 それと、彼女が勤務先の男に乱暴されたのかどうかは気になっていた。押し倒されたシーンの後で、張り詰めた表情で必死で自転車をこぐシーンにつながる。
 慌てていて別の若い男と接触するトラブルになる。茫然自失としてわびることも忘れていた彼女だったが、男が彼女につかみかかるとアレルギー反応のように「触らないでよ!」と暴れだした。
 また、汚いものを投げ捨てるように札を店のカウンターに叩きつけた。
 てっきり、・・・・・・・と心配していた。息子を方先生の家まで迎えに行った時も、頬から血を流しひどい顔だったし。その代償で補聴器を買ったのか、と。
 しかしラスト近くの回想シーンで、ますます暴力的になった男に、最後、近くにあった包丁を振り上げ「これ以上やったら、殺してやる」としている場面が流れ、ああ、最後は守れたのかと安心できた。 


 


(資料)
1999年 中国作品
監督:孫周(スン・チョウ)
主演 役名 俳優
孫麗英(スン・リーイン) 鞏俐(コン・リー)
鄭大(ジョン・ダー) 高忻(ガオ・シン)
方先生(フォン・ズピン) 施京明(シー・ジンミン)
ジアオ校長 呂麗萍(リュイ・リーピン)
ダー・ホー(親友) ユエ・シウチン


★★★


 お疲れ様でした。

←前のページへ 次のページへ→
「アジア映画」メニューに戻る
トップページに戻る

inserted by FC2 system