「スウォーズマン 剣士列伝」
(ストーリー)
明の万暦年間、宮中書庫より武術の秘伝書「葵花宝典」が盗み出された。
(あれこれ)
この映画は、原作ないしTVドラマとはかなり違うようなのだが、私は原作(金庸の『笑傲江湖』)も読んでいないし、中央電視台版「笑傲江湖」のDVD(以下、「ドラマ」)なども観ていない。
よって、原作やドラマの部分については、リンクさせてもらってるさとうしんさんの「読書雑記」:金庸の武侠小説や、四川人さんの「金庸ロードショー」:笑傲江湖で及び非常に詳細な、宣和堂さんの目下旧聞:保管庫内の笑傲江湖登場人物紹介を参照させてもらった。
ちょっと思いついた程度なのだが、その違いについて整理してみる。ドラマも原作そのままではなかろうが、映画よりは忠実であるようだ。
左側で、だいたいこの映画でのストーリー進行順に事柄を並べ、右側にドラマで該当部分を載せた。
なにせ映画の方しか知らないので、違っていたらごめんなさい。(←なら、最初から両方も知らずに書くな)
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この映画 |
原作ないしドラマ |
『葵花宝典』 |
映画冒頭で、忍者のような装束の人物が宮中書庫から盗み出す。 |
日月神教が秘蔵している。 |
『辟邪剣譜』 |
登場しない。 |
福州福威鏢局という地方の用心棒集団が代々伝える武術の秘伝書。
ドラマでは、この秘伝書を狙って青城派という一派が福州福威鏢局を襲うところから話が始まるようだ。
ま、映画では巻物がいくつも出てきたらややこしいんで整理したんだろう。 |
東廠の長官 |
白い眉、かん高い声(←宦官だからか?)の不気味な老人だが、武術もやたら強い。
『葵花宝典』が盗み出されたことが東廠の失態として反対派から攻撃されてはまずい、取り返せ・・・ということで捜索を開始したようだが、途中からは完全にその秘伝書をわがものにしようとして動いている。
ラウ・シュン(劉洵)が演じる。 |
登場しない。 |
欧陽 |
長官の側近。悪知恵が働く。
ジャッキー・チュン(張學友)が演じる。 |
長官が出てこないのだから、多分出てこないと思う。 |
ヅォー |
五嶽派と名乗る。
完全に長官の武力的パシリ。
長官の「お気に入り」の地位をめぐって欧陽とにらみ合うなど幼稚な張り合い方をするので、ますます小者感が横溢する。
ユン・ワー(元華)が演じる。ちょっと堀内孝雄に似ている。 |
左冷禅。
五嶽(剣)派とは、武門のうち、いわゆる「正派」と呼ばれる嵩山派、華山派、恒山派、泰山派、衡山派の総称。
左冷禅は五嶽派の盟主たる嵩山派のトップだから堂々たる大物である。 |
ラム |
最近、「仇敵が上司になった」として退官した。
長官の襲撃に備え、屋敷で立て籠もっている。
リンに本物か疑われラム家秘伝の「鉄拳」を披露するが、たちまち息切れしてリンから同情される。
宝典を盗んだというのは濡れ衣かと思っていたら、実際に盗んでいた。なら、朝廷に捜索されるのは当たり前だ。
ヅォーにやられて絶命の際も「長年お上に仕えたのに、このざまか」と逆ギレ状態。 |
福威鏢局の親玉である林震南。
青城派という武門に襲われ息子を除き皆殺しにあう。 |
ラムの妻 |
ヅォーに捕まり人質となるは、目玉をくり抜かれ、舌を切られ、あげくに殺されるは、で全くいいところがない。 |
王夫人。実家はなかなかの名門。 |
リン |
崋山派の一番弟子。
ラムの屋敷に、師匠からのことづけ物を持参して、弟弟子とともに登場。
酒好きなのは原作通り。
ひょうひょうとした感じでよくしゃべり、よく歌い、よく闘う。
サミュエル・ホイ(許冠傑)が演じる。 |
令狐冲。通称大師兄。
孤児であったが岳総帥に引き取られ一番弟子となる。 |
弟弟子
(チビ) |
リンからはチビと呼ばれている。
師匠から預かった手紙を落としたり、灯し火を落として火薬の導火線に火をつけてしまい、ラムの屋敷を爆破するなど、シャレにならないドジを連発する。
男装しているが、実は崋山派岳総帥の娘。
イップ・トン(葉童)が演じる。 |
岳霊珊。通称小師妹。
総帥(掌門)の娘だけあってタカビー(←死語?)で、しかも浮気性(令狐冲から林平之に乗りかえる)なので宣和堂さんからは忌み嫌われている。 |
ラムの息子 |
平之。
ラム家皆殺しの中であっさり殺される。
以後、崋山派に潜入せよと命じられた欧陽が、平之になりすますのだが、岳総帥はコロリとだまされる。 |
林平之。通称小林子。
身寄りがなくなり路頭に迷っていたところ、華山派の岳総帥に入門を認めてもらう。
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日月神教 |
ラム家皆殺しをごまかすために、欧陽が、苗族の日月神教に罪を着せようと提案する。
これにより教徒は全国的に迫害を受けるようになる。 |
武門の中の一大勢力で、正派に対して「邪派」と呼ばれる。 |
順風堂堂主 |
リンとチビがヅォーら追っ手から逃亡している時、たまたま引退式を行なっていた人物。
リンらが堂主の船にもぐり込んだため知り合いとなり、船内で一大セッションを行なう。
笛も少し吹くが、主に、陶酔した表情でのボーカルが担当。
追ってきたヅォーの拳で命を落とす。
ウー・マ(午馬)が演じる。 |
劉正風。
衡山派のNo2でありながら、敵対する日月神教の曲洋と親しくなるという禁忌を犯し、一族皆殺しという制裁を受けながらも、曲洋との心中(?)の途を選ぶ。 |
曲老人 |
リンらがもぐり込んだ船に先に潜んでいたのが彼。
リンが「奴等が追ってるのは日月神教だけど俺達は違うから」と安心させようとしたら、老人が「わしがそうだ」と言うシーンはおもしろかった。親友の堂主にかくまってもらっていたのだ。
すばらしい指さばきで琴を奏でる。
ヅォーの拳で重傷を負い、堂主も死に、これ以上じたばたしても、と覚悟を決めたのか、琴と二人でつくった「笑傲江湖」の楽譜をリンらに託して下船させ、船に火をつけ、堂主とともに河水に沈む。
ラム・チェンイン(林正英)が演じる。 |
曲洋。
日月神教の長老。
敵対する立場の劉正風と共通する音楽の趣味で魅かれ合い、墓の盗掘までして過去の名曲を掘り当て、それを改作して「笑傲江湖」という曲をつくる。
宣和堂さんによると、なぜそれを令狐冲に託して劉正風とともに命を絶つかは、もひとつ理由がわかりにくいらしい。 |
フォン |
琴と楽譜を託され、なおも逃亡する途中で出会った謎の老人。
リンからまんじゅうを恵まれたのだが相当硬かったようで「食ってるというより、わしが食われてる」と折れた歯を見せるシーンはおもしろい。
追っ手が来たので「逃げろ」と言ったのに、「暗くて道がわからん」としゃがみこんでいる。 すっかりボ・・いや認知症老人かなと思われたが、リンが凄腕の刺客に苦戦するや独孤九剣という秘術で撃破する。
「フォンとは何者か、師匠に聞けばわかる。ただ、気をつけろ。師匠は腹黒い男だ」という謎めいた言葉と「技は教えたが弟子とは思わん。義兄弟となろう」というかっこいい台詞を残して闇に消える。 |
風清揚。
崋山派の長老格だが、忘れ去られたような存在。 |
壇主 |
日月神教の美しき壇主。
本作では教団内の勢力争いは描かれていない。
リンが曲老人の琴を持っていることを不審に思い、欧陽に毒を盛られ瀕死の状態にあるリンに猛毒の自白剤を服ませる。
ところがリンが曲老人の親友とわかり、急いで助けるため解毒剤を口移しで含ませる。このくちづけで思いもよらず男まさりの壇主の「おとめごころ」がときめいてしまったようだ。
ヅォーが追ってきた時には、リンをかついで必死に逃げるし、後には、リンのことが心配でラム家まで駆けつける。
チョン・マン(張敏)が演じる。 |
任盈盈。通称聖姑。
前教主である任我行の娘。
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ラン |
壇主の妹分。
毒蛇や毒蜂を使う術が得意。(後にヅォーも蜂まみれにして倒す)
男好きで、男装したチビを気絶させて連れ去り、押し倒すが「何だ、私と同じじゃない」とがっかり。
チビを助けに来たリンにも惚れてしまい、壇主からお仕置きを受ける。
ファニー・ユン(袁潔瑩)が演じる。 |
藍鳳鳳。
五仙教(正派からは五毒教と呼ばれる)の教主で任盈盈の親友。
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岳総帥 |
崋山派の総帥。
聖人君子と思われた岳総帥の正体が後半で明らかになるのが原作やドラマの見せ場の一つらしいのだが、本作ではフォンが「やつは腹黒い」と早々にネタばらしをしている。
君子っぽさはないが、「崋山派には333条の教条がある」とか堅苦しいことをいう辺でその片鱗がうかかがえる。 |
岳不羣。師父。
崋山派の掌門。彼の操る剣は「君子剣」と呼ばれるほど、礼に適った人物といわれている。 |
チビの告白と失恋 |
岳総帥は平之を取り込もうと、娘を嫁にやろうとするが、チビは反発し、「あなたの方がましよ」とリンに告(こく)る。
リンは「もう崋山に戻らない覚悟があるなら、逃げたらいい。朝、森で会おう」と言う。
翌朝、暗いうちからチビは森で待ちわびるがリンは来ない。
(平之に化けた欧陽が酒に毒を盛ったため、リンは倒れていた) |
岳霊珊(小師妹)に惚れているのは令狐冲の方で、小師妹が林平之に心変わりしたので失恋する。 |
岳総帥の変心 |
急に娘を林平之に嫁がせようとしたこと自体、ラム家に取り入り「葵花宝典」を横取りしようとしたもの。
盗賊に化け宝典を盗み出し、写しをとってロクという弟子に託す。
ところが、林平之の叔父を名乗っていた長官が身分を明らかにすると、たちまち服従。命令に従って千回の土下座をする。情けねぇ〜!
ロクが捕らえられ「どうする?」と長官に聞かれると「泥棒は腕を斬りおとす!」と処断しようとする。 ひでぇ〜!
弟子や娘すら犠牲にすることもいとわず、宝典を懐にして立ち去る。
(しかし、最初に盗み出した時も宝典と「笑傲江湖」の楽譜とが入れ替わったことに気付かないし、後で持ち去ろうとした時も懐から落としてしまったことに気付かないあたり、武術家として致命的な欠陥があるとしか言いようがない) |
かなり聖人君子っぽく最後の方までひっぱり、それからの悪への変貌ぶりが急転直下でなかなかの見せ場らしい。
陰の主人公などと評価する方多し。 |
欧陽の裏切り |
リンも欧陽を林平之だと思い込んでいたので宝典の在りかを教えていた。
長官のもとに戻ってきた後、「宝典は?」「まだつかんでいません」とウソをつく。
夜になって、こっそり忍び込み宝典を探し出すが、岳総帥や長官にいったんは奪われる。
後に、ランの鉄砲を奪い、長官を撃つ。その後長官とリンらで壮絶なバトルがあり、2階の廊下に転がった宝典を漁夫の利とばかりに拾い上げたのは欧陽であったが、リンらはあまり気にも留めていなかったようだ。どうやら欧陽がそのまま持ち去ったようなのだが、追いかけようとするどころか、話題にもしていなかった。
欧陽が東方不敗になるのか?? |
いないので活躍しようがない。 |
リンの恋のゆくえ |
チビはリン一筋。ラムの屋敷の水車を見て、ああ、あの水車伝いにリンと脱出したんだわと懐かしく思い出す。しかしリンは迎えにきてくれなかったため、こうして婚家に連れてこられたのだと唇をかむチビはいじらしい。
その後、遅ればせながらラム家にやって来たリンを見て一瞬すごく嬉しそうな顔をし、次に「森に来なかったのは誰よ!」とすねてみせるチビはかわいらしい。
一方、リンは壇主、ランからも慕われている。いったい誰を選ぶのか。
長官を倒し「さて、崋山に戻るか、壇主たちと放浪の旅に出るか」と考えていた時に、再び舞い戻り巻物を奪ったのは岳総帥。
ところが宝典は既に欧陽が持ち去っていたから、岳総帥が手にしたのはまたもや楽譜の方である。つくづく見る目のない親父だ。
堪忍袋の緒が切れたリンにまだ岳総帥は師匠風を吹かせようとするが「もう弟子じゃない。あんたの先輩であるフォンと俺は義兄弟だ」と訣別の辞。独孤九剣で葬り去ろうとした時、身を挺して父をかばったのはチビだった。
とどめをささずに壇主らと共に馬に乗って立ち去ってしまったリン。
うなだれるチビ。と、遠くからリンが馬を駆って戻ってきて、チビの手を取って後ろに乗せる。
映画「卒業」パターンというか、特に女性にはたまらんラストでは? |
令狐冲は岳霊珊にぞっこんだったが、小師妹の心は林平之に移ってしまった。
結局、令狐冲は任盈盈と結ばれてラスト。 |
(資料)
1990年 香港作品
監督:胡金銓(キン・フー)、徐克(ツィ・ハーク)、程小東(チン・シントウ)、李恵民(レイモンド・リー) ※ キン・フーは途中降板。
原題:笑傲江湖
SWORDSMAN
★★★★