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アジア映画れびゅう(2) 「あの子を探して」

「あの子を探して」

(ご注意)完全なネタばれです。まだ観てなくてストーリーを知りたくない人は、お気をつけください。
 
また、せりふなどは正確ではありませんし、記憶違いも多いと思いますが、ご容赦ください。


<代用教員来る>
 村長に連れられて、田舎の水泉小学校にやって来た少女。
 ウェイ・ミンジはまだ13歳。小学校の担任(ただし、全学年を1人で教えている)カオ先生は、母が危篤で1か月の休暇を取ることになり、村長がその間の代用教員として連れてきたのだ。
 先生は村長に「あんな子どもでどうする。」と抗議するが、「ここは僻地なので誰も来たがらない。わずか1か月のことだから、どうとでもなる。いやなら休暇を取り消すのか」と言われ、やむなく受け入れ、授業の段取りなどを説明する。

 「村長がくれると言った50元、もらってないんだけど」とミンジがカオ先生に訴える。
 「村長が言ったことなら村長に聞け」「村長は先生に聞けって」「私も、ここ半年給料をもらっていない」
 生徒のうち何名かは、学校で寝泊まりしている寄宿生。ミンジもこれから1ヶ月学校で自炊しながら寝泊まりする。

  翌朝、村長が先生を車で迎えに来る。ミンジは走り去る車を追いかけ、村長に50元を要求する。カオ先生は「生徒を頼む。戻るまでに生徒を1人も減らさなかったら私から別に10元やる。50元だって、村長にちゃんと払わせる」と約束する。

(ひとこと)
 ミンジの荷物は肩に担いだ布団くらいのもの。ほっぺたは赤く、目はひとえで口をとんがらせて、いつもふてくされたような顔。
 「何ができる?」と先生に聞かれ、「歌が歌えます」といって始めたものの歌詞はうろおぼえ。口を開けば50元、50元でいかにも前途多難な幕開けである。
 村長が迎えに来た朝、浮かない顔のカオ先生、「どうした」と聞く村長に「心配なんだ」と答えるが、無理もない。それでなくても、貧乏な村で、生徒が半分ほどに減ってしまって悩んでいるのに。



<授業開始>
 校庭で遊びまわる生徒たち。座ってぼんやりしているミンジ。村長が来て、「もう昼近いじゃないか」と叱り付ける。
 「特にお前はおとなしくしろ」と村長はホエクーという子供を名指しして叱り、教室を去る。
 ミンジが教室で授業を始める。黒板いっぱいにテキストの文章を書いて写すように命じるのみ。子ども達は「習っていないから書けない」と抗議するが「いいから、写しなさい。外に出ちゃだめよ」と言うだけで、自分は教室の外で座っている。
 学習委員のミンシュンが「ホエクーが暴れているから注意して」と言うが「あんたがしなさい。私にはそんなことは無理」と取り合わない。

授業風景  後でたまりかねてホエクーを叱るが、教壇前でもみ合い、チョークを踏み潰してしまう。

(ひとこと)
村長の顔は間延びした堺正章のようでもあり、間寛平にも似ている。ホエクーに「このパカタレが!」と叱るところなんざ、口調まで「かんぺーちゃん」そっくりである。

 



<ひとり減った>
 足の速い女の子がいるらしいと聞いて、町の学校からスカウトに来る。寝る前に毎日走っていた寄宿生のひとり、シンホンである。試しに走らせてみる。タイムもなかなかだし、本人も「町の学校に行きたい」と言った。
 あらためて迎えの車が来たが、シンホンがいない。ミンジは「知らない」ととぼける。
 町の先生が、「カオ先生にどう言おうか心配なのだろうが、私は先生とは友人なので何も心配はない」と説得している間、村長はホエクーを買収して、ミンジがシンホンを隠した場所を聞き出し、連れていってしまう。


(ひとこと)
 相変わらず村長、絶好調。
 ホエクーから情報を引き出すが「長いボールペンの芯がほしい」「わかった」「この前もそう言ってたのに、くれなかった。金が先だよ」「騙すなよ」と金を渡す。
 このおっさん、いっつもこんなええかげんなことばっかり言って、ごまかしてるんやなとわかる。
 町の先生に「この子はどうだ」「あの子も速いよ」と勧める。おまけに、シンホンを乗せた車を必死で追いかけるミンジを見ながら「車は止めなくていい。出発できなくなる。それより、どうだ。ミンジも足が速いよ」
 まるで娼家に売り込む女衒、人買い商人のようである。


<二人減った>
 ホエクーが、ミンシュンと日記帳を奪いあっている。ホエクーが「先生の悪口を書いている」と言ったので、「私の日記よ」と抗議しているのを無視してホエクーに読み上げるよう命じる。

 「私は悲しい。ホエクーとウェイ先生がチョークをふみつぶした。カオ先生はとてもチョークを大事にする。最後まで指の先につけたりして、たとえ1文字でも書こうとする。白い、長いチョークが汚れて、折れてしまった。私は悲しい」
 ばつが悪そうに日記を返すホエクー。ミンシュンは日記をかかえ、涙を流す。
 
 夜、寝ているホエクーをたたき起こし、ミンションにあやまれと強いるが、ホエクーは拒否し「弁償すればいいだろ」と村長からもらったワイロを渡す。
 
 翌日、ホエクーがいない。親の借金を返すため、町に出稼ぎに行ったと聞き、親の家に行くが、既に隣村の子と一緒に車で行ってしまったと聞く。
 
 村長の所に行く。「ホエクーを連れ戻してほしい」「父親が死んで母親は病気なんだから、借金を返すために仕方ないじゃないか。シンホンは村の名誉になることだが、ホエクーは村ではどうしようもない」「町へホエクーを迎えに行くので交通費をちょうだい。」「行ってどうする。金もないのに」「じゃあ、50元を払って」「後で渡すよ」のらりくらりごまかしてらちがあかない。


(ひとこと)
 ミンシュンの日記ではミンジもばつが悪そうだったが、ホエクーにはあやまれと強制するくせに、自分はあやまらない。

 前日の夜、ミンシュンがミンジに出席名簿を作るように命じられてもなかなか従おうとしなかったのは、これがしこりとなっていたんだろうな、とわかった。


<金策>
 教室で「ホエクーがいなくなったので、町まで連れ戻しに行く。バス代がいくらか、知っている人は?」と聞くミンジ。
 3元だという子がいた。町に行き、ホエクーを連れて戻るのに計9元いる。
 生徒に持っているお金を出しなさいと命じて強制的に徴収するが全然足りない。 「家から5角ずつ持ってきなさい」と提案するが、貧乏な村ではどだい無理。すると、ある子が「前にレンガ運んで、お金もらった。10個運んで1角5分」「1000個運べば足りるわね。じゃあ、みんなで行きましょう」

 教室総出でレンガ工場に向かう。しかし、工場は休みで、工場長もいない。「どうする?帰る?」と子ども達が聞くが「先に運んじゃいましょう」めいめいで工場内に運び、雑然と積上げる。工場の者が見かけて、あわてて制止する。
 「1000個運んだからお金ちょうだい!」と迫るミンジ。生徒も口々に要求する。 カオ先生の教え子のために使うのだと聞き、渋っていたが、やむなく15元渡す。

 目標額を手に入れ、嬉しそうな一行。「のどがかわいた」と訴えるので「6元余るから、これで何か飲もうか」
 コカコーラの値段が3元と聞き、足りないのであきらめようとするが、子ども達は「一口ずつでもいいから、どんな味か飲んでみたい」と言うので、2缶買って、回しのみする子ども達。
 「先生も飲んだら」と言われ、嬉しそうに飲むミンジ。


(ひとこと)
 生徒たちから金を集める時は「ほらっ!さっさとお出し!」という感じで、まるでカツアゲ(恐喝)である。筆箱に入ってる分もよ!とやりくちも本格的だ。

 レンガ工場。きれいに工場内の空き地に積んで布を掛けてあるレンガを、室内に雑然と運び入れて、「運んだんだから、お金払ってよ!」と強要するのだが、あれって工場内のかまどで焼いたレンガを、出荷するために空き地に積んでいたのではないだろうか?
 工場の人の「元に戻さにゃならん」という台詞もあったので、おそらくそうだろう。
 とすれば、「俺は1万個以上運んでも40元ほどなのに。まるで慈善事業だ」という台詞もあったが、それどころの騒ぎではなく、追いはぎにあったようなものだ。工場長ではなさそうだし。カオ先生に恩義を感じてるので、ポケットマネーを寄付したのだろうか?

 コーラは、棚に並べているのをそのまま渡していた。冷やしていた様子はない。田舎だから冷蔵庫も普及していないだろうが、もともとあまり「飲み物を冷やす」という習慣が中国にはないそうだ。
 よく中国人が日本に来て、キリキリに冷やされた缶入りウーロン茶を見て目を丸くするというのはよく聞く話だし、中国でビールを頼んだがぬるかったというのもよく聞く。




<作戦変更>
 バス停に着くが、バス代は20元5角の間違いだった。
 教室で作戦を練り直す。この前1000個運ぶのに2時間くらいかかったから、1日8時間運ぶとして3日間も働けば・・・いろいろ複雑な計算をしている様子を外から覗いた村長、「大したものだ。算数まで教えている」と感心する。
 
 すぐにも働きに行こうと誘うが、子ども達に「疲れちゃう。そんなに働けないよ」と反対され、(←ごもっとも)「じゃあ、どうすんのよ!」と逆ぎれ。レンガ運びを提案した子が、また「ただ乗りすればいい」と提案。
 
 バス停で子ども達が、バスの入り口に群がり我れ先に無理矢理乗り込もうとする。女性車掌が必死に制止する。
 「後で払うから」「だめ!降りなさい!まったく、どんな教育してるのよ!」
 一騒動終え、子ども達はにやにやしている。どさくさに紛れて首尾よくこっそり乗り込んだミンジだが、見つかって、山の中で降ろされる。
 今更戻ることもできず、町に向かって歩き出すミンジ。ホエクーの母親に聞いていた出稼ぎ先の住所を訪ね歩く。安アパートの2階に出稼ぎの少年少女が共同生活しているらしい。しかし、ホエクーは、ここには着いていなかった。

(ひとこと)
 先日北京に旅行に行った時のガイドの李さんの話では「中国のバスの乗務員は、客に乗車案内をすることは仕事ではなくて、不正乗車がないか、ちゃんと料金を払っているかをチェックすることが仕事だと考えている」とのことだった。こわそうな女性車掌の姿も誇張ではないのだろう。

 



<ひとり目のてがかり>
 ホエクーと同じ車で町に来た少女ジメイを紹介され、「いなくなった時ちゃんと探したのか。無責任だ」となじる。
 探すからつきあえ、と命令するが、ジメイは、1日分の日当をもらうのが条件という。彼女を連れて、ホエクーがいなくなった駅に着く。うろうろ歩き回るミンジにジメイが迷子呼び出しの放送をしてもらうことを提案する。

 一方、町をさまようホエクーの姿。シャツはすっかり汚れている。空腹で屋台の食べ物をじっと見つめていると、店員がマンジュウをひとつ差し出してくれ、飛びつくように口にする。

 放送はしたが、ホエクーは現れない。家路につく放送担当のアナウンサーを見つけ、「もう一度放送して」と頼むが、行方不明になったのは2、3日前と聞き、別の方法を考えなさいと断られる。

 「尋ね人」の張り紙を見て、文房具屋に入り、筆と墨汁と紙100枚を買う。駅の待合室の椅子を机代わりにして貼り紙の文章を書く。途中で墨汁がなくなり、水を入れて書き足すミンジ。


(ひとこと)
 ジメイも、なかなか気の強そうな女の子である。ホエクー探しにつきあう代償も、最初2元と言っていたが、ミンジが後払いを主張すると「後払いなら5角増し」とふっかけるしたたかさ。
 「放送したから、すぐ現れる。約束の金を」と要求するジメイに、ミンジは、「顔を見てから」と支払いを渋る。ひったくってでもと手を伸ばすジメイ。体でかばい、絶対に金を見せようとしないミンジ。割り増しの5角もなかなか渡さない。どっちもどっちか。
 
 ともあれ、ジメイは1人目の手がかりで、「放送」という手段も提案した。アナウンサーに別の手段と言われ、ミンジは2番目のメディア「貼り紙」を思い付く。



<二人目の手がかり>
 翌朝、同じく駅のベンチで寝ていたある男が尋ね人の紙を手に取り、しげしげと眺める。見つけたところで連絡先の電話番号も、住所も書いてない。おまけにこんなに字が薄くては読めやしない。無駄骨だったなと言って立ち去る男。
 歯を磨いているその男を見つけ、服を引っ張り「じゃあ、どうすればいいの」と聞くミンジ。「そんなこと知るか」と突き放していた男だが、あまりにミンジがしつこいので「TVがいちばん効果的だろう」とアドバイスする。

 TV局は遠いが、金もないので人に道を聞きながら、歩いて尋ねていき、開門を待つミンジ。

(ひとこと)
 一晩かかった貼り紙にケチがついたが、ミンジはその男から、第3のメディア「TV」というアイディアを引き出してしまう。

 



<3人目の手がかり>
 TV局の受付は、意地悪そうな中年女性。ミンジが何も身分証明書を持っておらず、CMを頼むお金もないとわかり、仕事の邪魔だと追い立てる。
 「じゃあ、どうしたらいいの」
 「そんなこと知るもんですか。局長の親戚ででもない限り、どうしようもないわ」
 「じゃあ、局長さんに会わせてください」
 「局長の部屋は3階だけど、守衛にお聞きなさい」
 「守衛さんは、受付に聞けと言うのよ。ねえ、局長さんに電話してよ」
 「私が?まっぴらだわ、そんなこと。ともかく、近くで待たないで。人を呼ぶわよ。外で局長さんが出てくるまで待ちなさい、いつになるかわからないけど。局長さんはメガネをかけてるわ」

 ミンジはTV局から出てくる人全員に「局長さん?」と聞く。うっかり聞きそびれた人は、大通りまで追いかけ袖を引っ張って無理矢理道路の端まで呼び寄せ、尋ねる。違うとわかって謝りもしないので、聞かれた方は怒っている。

 一方、町をさまようホエクーの姿。屋台の食べ物をじいっと見つめる。テーブルの客をじろじろ見る。店員が店の中に呼び寄せ、店内に座っている女主人がうどんを食べさせる。立ったまま必死にすすりこむホエクー。
「客をじろじろ見るのはやめなさい。商売の邪魔だわ。食事はあげるから、皿を洗いなさい」うなずくホエクー。

 町角の蛇口をひねり水を飲むミンジ。

 夜、屋台の間をうろつくホエクー。ヤキトリを一串差し出される。

 夜、野外レストランの処をさまよっているミンジ。店員の姿はない。テーブルの上には、帰った客の食べ残しの食器が並んでいる。あたりをうかがい、丼をかかえこみ、食べ残しのうどんをすすりこむミンジ。

 駅のベンチで寝るホエクー。

 疲れて道端に座り込み寝てしまうミンジ。
 朝、寝ている側で掃除のおばさんが道路を掃いているが、眼を覚まさない。横に置いていた尋ね人のチラシは風でばらばらに散ってしまっていて、おばさんに掃き取られてしまう。
 通りかかった男性が「こんな所で寝ていると体をこわすぞ」と声をかける。眼を覚ましたミンジはチラシがないことに気付き、周りをさがすがどこにもない。

(ひとこと)
 残飯をあさるミンジの姿は観ていて胸が痛む。生徒たちにコーラを買った残りの9元。ジホンに払った日当が2元5角。尋ね人広告用に買った文房具が6元5角で、ミンジは一文なしなのだ。
 昨日ジメイと一緒に探している時にかじっていたパンのようなものは買ったのではなく、村から持ってきたものだったのだろう。


<ついに、門が開く>
 TV局の局長室に、ある男性職員が報告に来る。
 「門のところで局長のことを尋ねている女の子がいます。昨日からずっとです」
 窓から外を見ると、門のところで声をかけているミンジの姿が見える。

 局長が女性受付に事情を聞く。「何てひどいことを・・・」と怒る局長。「じゃあ、呼んできましょうか」と言う受付に「いや、いい。私が行く」
 ミンジの所に歩み寄り「どうしたの?」と声を掛ける局長。

 TV局の一室で食事をだしてもらい、必死で食べているミンジ。プロデューサー風の男が「CMのお金もないということだから、学校の事情を紹介するという形で番組を作って、その中で呼びかけよう」と提案。

 番組収録。女性アナウンサーが軽やかにしゃべる。
 「我が国では教育に力を入れめざましい成果を上げているが、一方、地方では厳しい状況も残っています」
 ミンジに水を向けるがTVカメラに緊張して何もしゃべれない。弱り果てたアナウンサーが「カメラの向こうにホエクーがいると思って呼びかけてみて。彼も会いたがっているわよ」
 じっとカメラを見つめるミンジ。唇をかみしめるが、涙があふれ、ほほを伝う。
 「ホエクー、どこにいるの。三日も探しているのよ。心配しているのに・・・」心をうたれ、黙り込むアナウンサー。

 TV局に問い合わせの電話がひっきりなしにかかる。すごい反響に希望を感じるミンジ。

 食堂の女主人がホエクーを店内に引き込み「これ、あんたのことじゃない」とTVを見せる。画面の向こうで呼びかけるミンジ。じっとTVを見つめ、涙をぼろぼろと流すホエクー。


(ひとこと)
 直前まで、ミンジはこのまま都会の喧騒の中に埋もれて死んでしまうのでは?とまで心配だったが、急転直下、道が開ける。

 思えば、あの意地悪受付も「局長に会え」というヒントをくれていたのだ。わらしべ長者の話を連想させるような感じで、みんな親切心からではないのに、あまりミンジが強引でしつこいものだから、持て余すようにして次々に手がかりを与えてくれる。

 カメラの前のミンジ。涙を流すミンジは「きれい」に見えた。目の錯覚だろうか。

 食堂で、突っ立ったまま、ホエクーは「すごい顔」で泣く。オスマン・サンコンの笑い顔的な泣き顔というと、少しはイメージが湧くだろうか。

 



<凱旋>
 ミンジとホエクーはTV局の車で村に帰る。その後ろには、赤いリボンをかけたトラック。車内では、ふたりに撮影とインタビューが続く。
 「ひもじい時に食べ物を恵んでもらったことは忘れられない」、「先生にきれいなものを買ってあげて、探してくれた恩返しをしたい」と語るホエクー。

 村人総出で二人を迎える。村長がインタビューを受ける。
 「ホエクーはほっておけ」、とミンジが町に行くことに反対していたことはおくびにも出さず、「ホエクーのことは心配していた。ミンジは私に無断で探しに行ったんです」と答える村長。

 教壇の上には色とりどりのチョークが山のように積まれている。ひとり1文字ずつ黒板に書いていくことを提案し、ミンジがまず「天」と書く。
 順番に書いていって、皆で大きな声で読む。最年少の女の子(いつも手はあげるのだが、「わかるの?」と聞くとにっこり笑って首をふる)も手をあげる。みんな心配して見守るなか、絵を描いてもいい?と聞いて認められ、丸と棒を描く。みんな、「花!」と読む。
 ホエクーは3文字でもいいかと聞き、「魏老師(ウェイ先生)」と書く。
 次々に書いていき、黒板が色とりどりの文字で彩られる。

 スカウトされたシンホンは、大会で優勝した。ホエクーは学校に戻った。ミンジは、それからも時々学校に遊びに来た。
 中国では、経済的事情で中途退学する子供が年間100万名に及ぶ。そして、その15%は復学に成功している、というテロップがかぶって、(完)。


(ひとこと)
 村長が、学用品は生徒に配る、寄付金は校舎の建替えに使うと言っているのを「ほんまかいな。私腹肥やすんちゃうか」と疑ったのは私ひとりではないだろう。
 次のシーン、チョークが教室に来ていたし、「ホエクーは寄付金で借金を返し・・・」というテロップで安心した。

生徒に囲まれるミンジ   ミンジの顔が別人のように優しくなっている。一つ目の小さな転換はミンシュンの日記だろう。
  二つ目の大きな転換は、カメラの前の呼びかけではないか。町まで探しに行くきっかけは、「減らさなければボーナスがもらえる」という欲得ずくだったろうし、探しつづけたのも半ば意地と言うか、ひっこみがつかなくなったという面があるだろう。
 しかし、レンズの向こうにホエクーが見えて、本当に弟を心配する姉のような気持ちになったのではないだろうか。いや、あの瞬間、ミンジは慈母になっていたのかもしれない。



 この映画の本格的な紹介記事がお読みになりたい方はここから。

 監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
 主演:ウェイ・ミンジ
 原題:一個都不能少 Not One Less
 1999年/米中合作/106分
 ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)
   

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