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アジア映画れびゅう(28) 「心の香り」 
 
(ご注意)かなりネタばれです。まだ観てなくてストーリーを知りたくない人は、お気をつけください。
 
また、記憶違いなども多いでしょうが、ご容赦ください。


「心の香り」

(ストーリー)
  李漢亭(リー・ハンティン)は、かつては有名な京劇俳優だったが、今は引退して田舎で一人暮らしをしている。
 結婚して都会に住み、音信不通だった娘から突然電報が来て、しばらく息子(つまり、李漢亭にとっては孫)を預かってくれという。
 駅に迎えに行ったが、手掛かりは10年近く前に送られてきた赤ん坊当時の写真だけ。駅に突っ立っていたのは、メガネをかけた生意気そうな少年京京(ジンジン)だった。
 かくして、偏屈な老人と無愛想な少年のぎくしゃくした共同生活が始まる・・・

(あれこれ)
 冒頭、両親が不仲で、僕はほったらかされているという京京のモノローグで始まる。
 立派なホールで子どもたちが京劇のメイクをしている。京京はそっと、ある少女をのぞき見るのだが、別の少年がじゃまをする。
 子どもたちの練習が続くなか、舞台の袖で京京の母が監督に「夏休みが終わったら劇団に戻しますから、しばらく休ませてほしい」と頼んでいる。母が無理矢理通わせ始めた少年京劇団だったが、京京を田舎の祖父に預けようとしているのだ。
 夜の駅、京京は後ろも振り返らず「ママ、笑って離婚するんだ」とけなげに励ます。目頭を抑えて見送る母。

 李は、近くの学校に京京の転入を頼みにいく。先生は、彼が名優李漢亭と知って好意的な態度を示すが、在校生とけんかして組み伏せている京京を見て、手のひらを返したように「短期の転入は難しいんです。進度も違うし」と断ってしまう。
 学校に行きたくないからわざとトラブルを起こしたと思った李は、母親や父親を引き合いに出して彼を罵る。
 実は、生徒たちが先に京京にちょっかいをかけたのだが、京京は弁解しない。両親のことを悪く言われても何も言わない。自分が京劇をやっていることも話そうとしない。

 李は、地元、何家村京劇同好会の顧問のようなことをしている。
 同好会の世話役から、「先生のおかげで、私たちも同好会を続けてこられた。模範縁起を見せてほしいと皆が言っているが、先生のような名優は、うちのような舞台には立てないでしょうな」と_下手にでられて、「よし、”漁師の報復”をやろう」

 その夜、みんなに担がれて帰って来た李。演技自体は成功したようだが、その後で少し酒を飲みすぎたらしい。
心の香り

「片足飛びもやったぞ。老いたとは言わせん」と出迎えた京京に力こぶを誇示してみせる。
 確かに酒を過ごしているようだ。京京を見つめる目がすわっている。
「お前は何をしに来たんだ。わしが年取ったから、この家を取りに来たのか」
 感情がないようにみえた京京が、押し殺した声でこう言っって立ち去った。
「ママが行けと言うから来ただけだ。パパだって悪い人じゃない」

 シャワーを浴びながら、涙を流している京京。言い過ぎた、と思ってそばに来た李。
「パパとママは離婚して僕を捨てた。僕には行くところがない」「いい子だ。いい子だ」と、優しく彼の体を洗ってやる李。二人の心が通いあった瞬間だ。何度見ても(3回目かな)ジ〜ンと来る。

 李は、蓮という女性と永年親しくしていた。蓮は昔結婚していたが、夫は台湾に渡り離れ離れになっていた。共産党、国民党の内戦の関係なのであろう。
 いわば、置き去りにされた形で、40年もの間音信不通だったが、突然夫から手紙が来て蓮は激しく動揺していた。
 夫は、台湾で結婚し、孫までいる。ようやく一時帰国が許されそうなので、せめて故郷の土を持ち帰りたいというのだ。
 今まで孤閨を貫いてきた私の人生はいったい何だったのか。苦しむ彼女を、40年も操を守ったんだ、貞女の碑を立ててやりたいよ、と励ます李。

 ところが、蓮の元にやってきたのは、夫の弟。夫は帰国直前に病死したというのだ。ショックを受け、寝込んでしまう蓮。
 蓮は京京にとても優しく、彼も慕っていた。蓮は病床で京京の手を取り、私が死んだら、「超度」をしてくれるように李に頼んでちょうだいと後事を託した。蓮は熱心な仏教徒で、成仏するための法事を依頼したのだ。
 しかし、李には金がない。蓮の夫の弟は、法事の費用を預かってきていたが、蓮は受け取りを拒み、弟は代わって李に受け取ってくれるよう懇願したが、「蓮姑が受け取らないなら、それでいいのです」と、やはり受け取らなかったのだ。

 李は茶館に赴き、愛蔵の胡琴を売りに出そうとする。そんな彼を痛ましげに見つめる京京。気持ちを紛らすように、京京は路上で京劇の立ち回りを始めた。通行人に「なんだ、子どもの大道芸か」と言われ、むっとするが良いアイデアを思いつく。

 ふと聞こえた京劇のセリフが気になって、表に出た李。
 眼に入ったのは、「カンパに協力を」という看板を持って座っている珠珠と、その横で見事な演技を披露している京京だった。 
 穿き古したGパンと、赤いTシャツ姿の京京だったが、李には、師盔(シュアイクイ。玉のような飾りのついた元帥のかぶりもの)をかぶり、硬靠(インカオ。4本の三角の旗を差した武将用の「よろい」)を身に付け、槍を手にした立派な若武者に見えた。
 シャワーのシーンに並んで、印象深いシーンである。京京と連れ立って歩く珠珠も可愛い。
 隣家の少女珠珠は、クラシックバレーを習っている。京京との出会いのシーン(実は、京京が越してきた当日にもトイレで接近遭遇しているのだが)で、「僕は化粧がうまい。李紅雨(冒頭で京京が見つめていた京劇団の女の子だろう)という女の子にもいつもしてあげていた」といわれメークをしてもらう。京劇の男用の隈取りをされたと知らずに、喜んでバレーを踊ってみせる珠珠も捨て難い。

 京京は母のもとに帰ることになった。李は、京京に、麻姑の形見の観音像マスコットを渡し「親は選べんが、自分の道は自分で選べ」と声をかける。
 「わしと暮らすか」という言葉をのみこむ李。涙をこらえながら、「ここで暮らしたい」とは言わない京京。
 京京は、見送りの阿昆、珠珠とともに駅に向かった。

♪ わかっているなら 聞いてくれるな この無念 ♪ 
 再びひとりになり、京劇の一節を口ずさみながら、耐え切れぬように酒瓶を傾ける李。李の歌声が流れる。
♪ いつの日か 雲に乗り 飛び行かん ♪
 聞こえる筈はないが、京京の胸には、李の声が届いたのであろう。
 京京が、拳を突き出し、続きの一節を、胸も張り裂けよとばかりに朗じる。
♪ 雲も 湧け! ♪ 
 気持ちを必死に吹っ切るように走り去る京京。 
 
 淡々と描かれていく映画だが、心に深い感動が残る名作だと思う。これが心の香りなのであろうか。

(資料)
1992年中国作品
監督:スン・チョウ(孫周)
主演 李漢亭(リー・ハンティン):チュー・シュイ(朱旭)、
京京(ジンジン):フェイ・ヤン(費洋)、
蓮姑(蓮おばさん): ワン・ユイメイ(王玉梅)
珠珠(隣家の女の子):ハー・チェリン(何潔林)、
阿昆(珠珠の父)リー・クワンノン(黎広納)

    
原題:心香  The True Hearted

★★★☆



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