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(No1) 仏像鑑賞のご案内(1) 仏像の基本知識(その1) 大阪市立美術館の「興福寺国宝展」を観て、あらためて仏像に興味を持った。
しかし、私は如来と菩薩がどう違うのやら、どう見分けるのやらさっぱり分からない。
そこで『仏像がよくわかる本』(著:瓜生中。PHP文庫)を買った。文庫本ながら、なかなか詳しい本なので、その内容を整理して、仏像鑑賞の参考にしてみたいと思った。
第1 仏像の種類
歴史部分は省略して、いきなり仏像の種別からいってみたい。
そして、個別の如来や菩薩などの特徴については、後ほど詳しく紹介することとしたい。
1.如来(にょらい)
仏像の起源。仏教の開祖、釈迦をモデルとした。よって、当初は「釈迦如来」のみであったが、後に、阿弥陀如来、薬師如来など様々なバリエーションが考案される。
2.菩薩(ぼさつ)
本来、釈迦が悟りをひらく前の修行時代の呼び名。後に、観音菩薩や文殊菩薩など様々なバリエーションが考案される。
3.明王(みょうおう)
密教の思想に基づき考案された。不動明王など、恐ろしい忿怒(ふんぬ)の相を示す。
4.天
天とは神を示し、もともとインドの神々であったものが多い。梵天、帝釈天など。
5.羅漢(らかん)
小乗仏教の悟りをひらいた修行者の像。五百羅漢など複数で作られるのが特徴。
6.神像
日本古来の神道の神や民間信仰の神々の像。七福神など。
7.十大弟子
釈迦の直弟子。(大)迦葉など。
8.高僧
徳を慕われ信仰の対象となっている僧侶。玄奘三蔵など。
第2 仏像のかたち
1.如来
(1) 眉間白毫相(みけんびゃくごうそう)
仏像の眉間にあるホクロのようなもの。長くて白い毛が渦を巻いて、普段は眉間におさまっているが、如来が人々を救済しようとするときは、この毛が伸びて光を放つ。
(2) 肉髻(にっけい)
如来の頭のてっぺんの盛り上がり。髷(まげ)ではなく頭頂の肉の盛り上がり。
2.明王
(1) 忿怒形(ふんぬぎょう)
恐ろしい表情で、牙を突き出す。瓔珞(ようらく。ネックレスなどのアクセサリー)は、宝飾品ではなく、髑髏の首飾りや虎皮の衣など。
(2) 火焔光背
光ではなく、燃え盛る火焔を光背とする。
3.天
(1) 神像形
甲冑を身につける。帝釈天、毘沙門天など。
(2) 天女形
一目で女性と分かる形。弁財天や吉祥天など。
4.眷属(けんぞく)
(1) 鬼形
鬼のような醜悪凶暴な表情。羅刹夜叉など。
(2) 畜形
鳥獣の姿。伽楼羅(かるら)など。
第3 仏像の姿勢
大分類 |
中分類 |
小分類 |
解説 |
立像(りゅうぞう) |
正立像(しょうりゅうぞう) |
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両足を揃えて直立 |
斜勢像(しゃせいぞう) |
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一方の足を少し前に出して軽い「休め」の姿勢 |
経立像(きんひんぞう) |
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座禅の後にごくゆっくりと歩くような姿勢 |
侍立像(じりつぞう) |
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少し前かがみになった姿勢 |
丁子立像(ちょうじりゅうぞう) |
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右足を高く振り上げて立つ。例:金剛童子像 |
舞勢(ぶせい) |
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踊りをおどる姿勢。例:蔵王権現 |
座像 |
結跏趺座(けっかふざ) |
降魔座(ごうまざ) |
右足を曲げて左腿の付け根に置き、次に左足を右腿の付け根に置く。 |
吉祥座(きっしょうざ) |
左足を曲げて右腿の付け根に置き、次に右足を左腿の付け根に置く。 |
半結跏趺座(はんけっかふざ) |
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結跏趺坐のように両足ではなく、片足だけを反対側の太腿につける。 |
輪王座(りんのうざ) |
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片膝を立てる。如意輪観音など。 |
跪座(きざ) |
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阿弥陀如来にしたがう菩薩のように尻を地に着けずに跪くかたち。 |
蹲踞座(そんきょざ) |
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上記のように、中腰になったかたち。 |
箕座(きざ) |
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横座りの姿勢。弁財天など。 |
倚座(いざ) |
善跏倚座(ぜんかいざ) |
台に座った座像で、両足を揃えて踏み下げたもの。 |
半跏倚座(はんかいざ) |
台に座った座像で、右足を曲げて左膝の上に乗せたもの。
菩薩のみにみられる。
右手指先を頬に軽く当てたものを半跏思惟形といい、弥勒菩薩に多い。 |
臥像 |
|
|
釈迦の涅槃(ねはん。死)の様子を示す。
右腹を下にし、左手を体側に沿って伸ばし、右手は自然に伸ばす。 |
※注 画像は、HP「仏像世界」の「姿勢」で。
第4 仏像の大きさ
大きさ |
解説 |
丈六 |
一丈は十尺。よって、丈六は十六尺。釈迦在世当時の一般人の身長が八尺で、釈迦はその倍と考えられたため。
一尺を30.3cmとすれば、5m弱。なお、丈六の座像は、立像の半分として座高八尺とする。 |
半丈六 |
立像で八尺(2.4m強)。 |
周丈六 |
中国古代の単位周尺(約23cm)による。よって、立像で約3.7m。
日本の尺や周尺については、Wikipediaで。 |
等身像 |
日本では昔の人の身長を基準として、五尺(150cm強)の像を等身像と呼ぶ。ただし、釈迦如来の等身像は、一丈六尺となる。 |
小像 |
等身像より小さいもの。 |
十六丈 |
大仏の大きさの基準。基本の「丈六」の10倍。座像であれば八丈(24m強)。
奈良(東大寺)の大仏(座像)は五丈三尺(約16m)なので、周尺の八丈(約18m)に近い。
鎌倉の大仏(座像)は、約11.5mなので、基準の半分の四丈に近い。 |
第5 印相
仏像の手の形や組み方。印契(いんげい)、印相(いんぞう)とも、略して印とも呼ぶ。
印相その1 |
印相その2 |
解 説 |
釈迦の五印 |
説法印 |
教えを説く時の身振り。転法輪印(てんぽうりんいん)とも呼ぶ。 |
施無畏印(せむいいん) |
右手(※ 『仏像が〜』では「左手」とあるが誤植だろう)を胸の前に上げ、掌を前に見せる。
「無畏」(恐れのないこと)を施すという意で、釈迦の説法を聴く人々の緊張を和らげ、安心させる身振り。 |
定印(じょういん) |
左手の上に右手を重ね(両手とも掌が上)、親指を合わせ、座った足の上、下腹の前に置く。
菩提樹の下で悟りを開いたときの姿をとらえたもので、心の安定を示す。
座禅の時は禅定印、阿弥陀如来の場合は阿弥陀定印、大日如来の場合は法界定印(ほっかいじょういん)と呼ぶ。 |
降魔印(ごうまいん) |
右手の人差指をまっすぐ下に伸ばす(甲が前)。触地印(そくちいん)とも呼ぶ。 |
与願印 |
左手を下に向け、掌を前に見せる。人々の願いを聞き入れ、望むものを与える形。 |
九品来迎印(くぼんらいごういん) |
上品上生(じょうぼんじょうしょう) |
九品来迎印は阿弥陀如来に特有の印。阿弥陀如来は人の臨終に際し極楽浄土から迎えに来るが、その時、これから亡くなる人を能力や信仰の程度によって、上品・中品・下品、そしてその三つをさらに上生・中生・下生に分け、その人に相応しい印をあらわす。
※ 注 異説あり。
上品:へその前で手を組むこと。
上生:親指と人差指を合わせて輪を作る。 |
上品中生(じょうぼんちゅうしょう) |
上品:へその前で手を組むこと。
中生:親指と中指を合わせて輪を作る。 |
上品下生(じょうぼんげしょう) |
上品:へその前で手を組むこと。
下生:親指と薬指を合わせて輪を作る。 |
中品上生(ちゅうぼんじょうしょう) |
中品:胸の前に両手を上げる。(掌が前)
上生:親指と人差指を合わせて輪を作る。 |
中品中生 |
中品:胸の前に両手を上げる。(掌が前)
中生:親指と中指を合わせて輪を作る。 |
中品下生 |
中品:胸の前に両手を上げる。(掌が前)
下生:親指と薬指を合わせて輪を作る。 |
下品上生(げぼんじょうしょう) |
下品:右手が上向き、左手が下向き。(掌が前)
上生:親指と人差指を合わせて輪を作る。 |
下品中生 |
下品:右手が上向き、左手が下向き。(掌が前)
中生:親指と中指を合わせて輪を作る。 |
下品下生 |
下品:右手が上向き、左手が下向き。(掌が前)
下生:親指と薬指を合わせて輪を作る。 |
密教の印 |
智拳印 |
両手とも親指を拳の中に握り、右手の人差指を立てて第一関節まで右手の拳で握り、胸の前に右拳を重ねる。
金剛界曼荼羅の大日如来の印。 |
法界定印 |
釈迦の五印の「定印」と同じ。胎蔵界曼荼羅の大日如来の印。 |
降三世明王(ごうさんぜみょうおう)の印 |
両手の小指を絡ませて胸の前で交差させる形。 |
軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)の印 |
両手を交差させて、それぞれ反対側の脇を抑えた形。 |
その他の印 |
安慰印(あんいいん) |
施無畏印のように右腕を曲げて掌を前に開いて、親指と人差指で輪を作って他の三本の指を上に向けて立てた形。 |
吉祥印 |
親指と薬指を併せて輪を作った形。 |
合掌印 |
金剛合掌 |
普通の合掌。 |
帰命(きみょう)合掌 |
両手を合わせて十本の指をそれぞれ交差させる合掌。 |
※注1 画像は、HP「仏像世界」の「印相」で。また、HP「仏教の勉強室」の「印相」及び「諸仏の印相」にて。
※注2 「品」と「生」の区分が逆の説もある。たとえば、HP「なるほど浄土宗」では、「品」の違いが親指に何指がくっつくかで決まる。そして「生」の違いが手の位置が下腹か、胸の前か、右上・左下かで決まるとしている。
ちなみに『仏像鑑賞の基本』(著:久野健。里文出版)も、『仏像案内』(編:佐和隆研。吉川弘文館)も「なるほど〜」と同意見。
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