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仏画(22)平成17年度美術史ゼミナール  番外編「釈迦八相」場面別解説 「試芸」編
                          〜象は投げられ、宙を飛ぶ〜 


1 はじめに

 釈迦八相とは前回でも説明したとおり、釈尊の生涯における主要な事蹟を挙げたものであるが、この八場面とする、といった明確な基準が定められているものではない。

  ここでは、主な場面について、大まかな特徴をあげていきたい・・・・・の3回目。


 

2−1 試芸

 太子、従兄弟の提婆達多(だいばだった)と力競べをして勝つ、などと解説される場面。
 成長した釈尊はそこそこ文武両道に長じていたようだ。(病弱だったという資料もある)

 後ほどにもいろいろ出てくるのだが、提婆達多という人物がいる。彼は、釈尊の父王である浄飯王の弟の子供である。よって釈尊とは従兄弟同士ということになる。

 この提婆達多といろいろ力比べ、武芸争いをするのが試芸の場面である。多いのは相撲をとったり、弓を引いている場面である。

釈迦八相成道図 三重 大福田寺本 <参考画像(22)−1>
釈迦八相成道図 三重 大福田寺本

 典型的な絵柄といえる。
 上半身裸で相撲をとっている場面、二人並んで弓をひいている場面。それと何故か、象と取っ組みあっている場面。

 弓の前の所には、何やら黒くて丸い、壷のようなものが並んでいる。どうやら、これは的(まと)らしい。この的の様子が非常によくわかるのが、京都国立博物館HPのここ。ここでは絵因果経(上品蓮台寺本)からの画像が2枚載せられているが、その上の写真をご覧いただきたい。
 金や銀で出来た太鼓のような的を七つ並べて弓の射競べをするのだが、太子は1本の矢で七つの的を射抜いたとのことである。

釈迦八相図 広島 持光寺本 <参考画像(22)−2>
釈迦八相図 山梨 久遠寺本

 弓と相撲の場面は、まあ上掲と似たりよったりだが、力比べで象と取っ組み合ったかと思ったら、本図では、えいやっ!とばかり天空高く投げ上げ、象が塀の上を飛んでいるのである。
(左図参照)

 そ、そんなアホな・・・、こんなんこの絵だけか・・・と思ったが、そうではない。

釈迦八相図 広島 持光寺本 <参考画像(22)−3>
釈迦八相図 広島 持光寺本

 この図なんかでは、象をむんずとひっつかまえて、腰の回転よろしきを得て、えいやっ!と投げ出せば、象は引っくり返ったまま宙を飛ぶシーンがより克明に描かれている。

 まったくハンマー投げの室伏を髣髴とさせる場面である。

 なお、右の「出城」とある場面は、後ほど「出家踰城」のページで解説する。

 絵因果経でも象は出てくる。提婆達多らが象を投げ飛ばしている場面だ。本の折り目でわかりにくいが、左下の画像で象をつかまえている人の所に矢印をつけた。

絵因果経 京都 上品蓮台寺本 <参考画像(22)−4>
絵因果経 京都 上品蓮台寺本

 絵因果経は良く言えば素朴、悪く言えば稚拙な絵柄が多いが、ここでも象が全くの無感情な目で引っくり返ってるのがおもしろい。

 気分が乗ってきたので、もう一つ、例をあげる。(「だいたひかる」みたいやな)

釈迦八相図 滋賀 常楽寺本 <参考画像(22)−5>
釈迦八相図 滋賀 常楽寺本

 ちょっとわかりにくいと思うが、第三幅の下方で試芸が描かれている。

 これまでの例と異なる点はお気付きだろうか。

 この図では、屋敷の外で力比べをして、塀の外から屋敷の中に象を投げ込んでいる格好になっている。
 屋敷の人は、さぞびっくりしたことだろう。

 その他の八相図でも、男が片手で象を持ち上げているものがある。

釈迦八相図 鹿児島 個人蔵 <参考画像(22)−6>
釈迦八相図 鹿児島 個人蔵

 仏伝の後半で「酔象調伏」という場面もあるのだが、多分「酔象〜」は釈尊の法力に畏れ入って、暴れ象がおとなしくなるという話なので、高々と差し上げる、といった勇ましい場面は「試芸」の方が相応しいと思う。

 あと「書算」などといって武道だけでなく、読書など教養面の修養が描かれている場合もあるようなのだが、はっきりした特徴はまだ把握していないので省略する。


 

 それでは、皆さんごきげんよう♪ 


 

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