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仏画(17)平成17年度美術史ゼミナール 展示計画及び解説資料の基本的考え方

1 はじめに

 私の展示計画案。実際にどうなるかは他の受講生や講師の皆さんとの論議で決める予定。


2 展示に関する基本コンセプト

(1) 前提条件

 およそ美術を鑑賞する以上は、理屈や机上の知識、先入観などを抜きにして、ただ作品そのものを観て、何かが心に響いたらそれでよいのだ・・・・・という意見もある。

 つまり、予備知識や定説などは、自由な鑑賞にとってはむしろ邪魔ものだ、という意見である。そういった意見も、私は別に否定しない。

 ただ、私自身の経験では、一番楽しいのは気の合う友達と一緒に鑑賞し、かつ、その友人が美術に詳しくて適切な解説をしてくれた場合である。

 人間は何か美術品を観た場合、それを記録に留めたり、人に語ったりしたい願望があると思う。何も情報(資料)がないと、結局、何の記憶も残らないことが多い。(その点で言えば、出展作品の品名リストすら用意されていない展示会は、論外だと私は思っている)

 以上により、適切な「解説」(資料提供)のある展示会を目指したい。

(2) 具体的内容

 解説の付け方(資料提供のし方)としては、受講生によるギャラリートークのほか、「解説資料」の配布を行ないたい。
 具体的な解説資料の方針としては、次章で挙げ、さらに資料そのものの試案については、次回で発表する。

(3) 課題と解決策

 立派なカラー写真付きの分厚い「図録」のような解説資料では、時間的にも経費的にも負担が大きい。

 よって、ボリューム的には、A4サイズで20ページ前後、モノクロの両面コピーでホッチキス留めの製本とする。
 かつ、部数も、展示会場に置きっきり(展示会場に積んでおいて、自由に持ち帰ってもらう)ではなく、ギャラリートーク時に聞いておられる方に限定して配布することとする。

 


3 どのような解説資料にしたいか

(1) これまでの仏教絵画の展示方法に対する不満

ア 立体的な仏像なら造形だけを観ていてもそれなりに満足できるが、仏教絵画の場合、ある程度の基礎知識がないと、理解しにくい(以下、○が「課題」、●が「解決策」)

⇒  ○ 展示ケースの資料では作品名、時代、出典等しかわからない場合が多い
○ 『図録』があれば詳しい情報が得られるが、高価であるし、展示会場では持ち運びがしにくく、長文である=展示作品を観ながら読むということは難しい
○ そもそも通常展では『図録』は作られない
○ 『図録』は、展示会場の外で販売されていることが多く、そこに書かれている情報が事前に頭に入っておれば、この作品のここにもっと注意して鑑賞したのに・・・・・と後悔することがある
○ 会場据え置きのチラシ程度のボリュームで文章中心に作成されている場合、内容が理解しにくい=文章ばかりでは読む気が起こらない
⇒  ● 鑑賞時に持ち歩いて参照できるサイズで、ある程度まとまった情報が得られる「ミニ図録」を作成する

イ 難解な用語が多い。読み方すらもわからないことが多い。意味もわからない

⇒  ● 用語にはできるだけフリガナを付ける
● 用語の簡単な解説を付ける

ウ 照明が暗く、絵自体も鮮明でないものが多いので、そもそも、どこをどう見れば良いのかわからない

● ここが特徴である、ここが見どころといった「鑑賞のポイント」に関する資料を付ける
● 「この絵のどこかに〜が描かれていますが、わかりますか?」といったクイズを出す=全体を漫然と観るより、「探す」つもりで部分まで詳しく観ることができる(神戸市立博物館での経験)

 

(2) 予想される観客像

ア 「美術好き」は、「歴史好き」と重なるケースが多い

○ 美術史に関する基礎的知識はある=仏教絵画に関する系統的な知識まではなくても、仏教美術に関する断片的用語等はいくつか知っている
● いくつかの基本的用語をキーワードとして資料構成を展開する

イ 年齢層は高め

● 字はやや大きめにして、図や写真を多用するなど鑑賞の手引きとして見易い資料を作成する

ウ わざわざ展示会に足を運んでいる

○ 知識欲はある。系統的な知識の整理や新たな雑学を得ることのニーズはある
● 用語解説クイズコーナーを取り入れた資料を付ける 

  

(3) 館蔵品の特徴

ア 時代区分としては、鎌倉時代のものがわずかあるのみで、それ以前のものはない。特に、室町時代の作品が中心

○ 時代別の特色を出すことは難しい 
● 時代ごとの画風の違いを表現することはあきらめて、下記イの特徴を活かし、ジャンルごとの解説を狙う

イ (名品はないかもしれないが)ジャンルとしては、密教関係、顕教関係、垂迹画、浄土経関係、経絵、絵巻などほぼ全ジャンルをカバーしている

● 出展作品と解説資料によって、仏教絵画の全体像が概観できるような展示にする

 


4 展示する作品の選択とその理由

(1) 壁面ケース用12点

作品名 選択理由(※は解説資料内の備考)
(1) 両界種子繍髪曼荼羅図 (1) 「密教絵画」を解説できる
(2) 「曼荼羅」の概念を解説できる
(3) 「曼荼羅」の分類=「種子曼荼羅」の概念を解説できる
(4) 「曼荼羅」の分類=「両界曼荼羅」、「金剛界曼荼羅」、「胎蔵曼荼羅」の概念を解説できる
(5) 「繍髪」という技法を解説できる
※1 館蔵品「一字金輪曼荼羅」、「金輪仏頂」により、如来部(仏頂部)の別尊曼荼羅の概念が解説できる
(2) 金剛薩埵 (1) 「密教絵画」を解説できる
(2) 作品として美しい
(3) 「金剛薩埵」=金剛界曼荼羅の理趣会、胎蔵曼荼羅の金剛手院(金剛部院)の主尊の概念を解説できる
(4) 「菩薩」=菩提薩埵の概念が解説できる
(3) 不動明王ニ童子像(東楽寺伝来) (1) 「密教絵画」を解説できる
(2) 「明王部」の概念を解説できる
(3) 「不動明王」の概念を解説できる
(4) 「ニ童子」の概念を解説できる→(10)との比較
(5) 「倶利伽羅龍王」の概念を説明できる
※1 館蔵品「高野山伝来本」との比較→「違うところ探し」クイズ
※2 館蔵品「版画本」によって、儀軌(十九観)を解説
(4) 十二天像(毘沙門天像) (1) 「密教絵画」を解説できる
(2) 「天部」の概念を解説できる
(3) 「毘沙門天」、「多聞天」の概念を解説できる
(4) 「十ニ天」の概念を解説できる
※1 「”四天王”って何と何?」クイズ
※2 館蔵品「毘沙門天像」と比較→毘沙門天の平均的な持物について解説
(5) 真言八祖像(恵果) (1) 「密教絵画」を解説できる
(2) 「高僧画」の概念を解説できる
(3) 「真言八祖」の概念を解説できる
(4) 恵果と弘法大師の関係について解説できる
※1 館蔵品「弘法大師像」→「弘法大師の代表的ポーズは?」クイズ
(6) 大威徳明王像 (1) 「密教絵画」を解説できる
(2) 「明王部」の概念を解説できる
(3) 「大威徳明王」の概念を解説できる
(4) 「五大明王」の概念を解説できる
※1 館蔵品「愛染明王」により、他の明王を解説できる
(7) 釈迦十六善神像 (1) 「釈迦信仰など顕教絵画」を解説できる
(2) 「釈迦如来」ほか主要尊像の概念を解説できる
※1 館蔵品「騎獅文殊菩薩像」で主な騎獣を解説できる
(8) 仏伝図 (1) 「釈迦信仰など顕教絵画」を解説できる
(2) 「仏伝図」、「釈迦八相図」、「本生図」、「涅槃図」の概念を解説できる
※1 「降魔」、「出家踰城」、「涅槃」はどれ?クイズ
(9) 十六羅漢図(2幅) (1) 「釈迦信仰など顕教絵画」を解説できる
(2) 「羅漢」の概念を解説できる
(3) 「十六羅漢」、「十八羅漢」、「五百羅漢」の概念を解説できる
(4) 「五大明王」の概念を解説できる
(5) 「禅月様」、「李竜眠様」の概念を解説できる
※1 館蔵品「16幅本」、「1帖本」により似た人物を探す
(10) 地蔵菩薩ニ童子像 (1) 「浄土絵画」を解説できる
(2) 「地蔵菩薩」の概念を解説できる
(3) 「ニ童子」の概念を解説できる
(4) 上記「不動明王ニ童子像」と比較して、浄土教と密教の関係を解説できる
※1 館蔵品「勢至菩薩像」により、観音・勢至の区別を解説できる
(11) 春日社寺曼荼羅図 (1) 「垂迹絵画」を解説できる
(2) 「春日社寺曼荼羅」の概念を解説できる
※1 館蔵品「春日鹿曼荼羅」によって、春日社寺曼荼羅の概念を補足説明できる
(12) 荼吉尼天曼荼羅図 (1) 「垂迹絵画」を解説できる
(2) 作品として美しい

(2) 覗きケース用2点

作品名 選択理由(※は解説資料内の備考)
(1) 法華経絵 (1) 「経絵」を解説できる
(2) 作品として美しい
※1 「霊鷲山はどこ?」クイズ
(2) 犬寺縁起絵 (1) 「絵巻」を解説できる
(2) 作品として美しい

 


 

 それでは、皆さんごきげんよう♪

 

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